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建築構造学事始

切れるのはどっち?

今回は構造力学というより力学のクイズを紹介しよう。

問題: 下図のように、おもりを糸で吊るし、おもりの下にも同じ素材の糸を付けて引張ったとすると、上の糸と下の糸のどちらが切れるだろうか?

但し、おもりは手でちょっと押したくらいではフラフラ動かない程度に重く、糸はおもりの重さだけで切れることはないが、人がある程度の力で引張れば切れるくらいの強さであるとする。

art199_fig.jpg


答えは.....

どちらとも言えない。つまり、どちらも起り得る。ゆっくり引っぱれば上の糸が切れるが、急に引っぱれば下の糸が切れる。

ただし、急に引っぱるといっても、おもりが軽すぎたり勢いが足りなかったりすると、下の糸は切れないかもしれない。おもりはある程度重いとしたのはそういう理由からである。

これは、文献 1 の「ひもはどこで切れるか?」という話(p.45)を殆どそのまま引用したものである(文献 1 には図が載っているが、それを模写するのが大変なので、図が作り易いように上記のように変更した)。

その部分を以下に示そう。おもりには重い本が使われ、下のひもの端には水平な定規が結ばれていてそこを引張るという設定となっている。

 ここにあげた絵のような段取りをしてください。たとえば、開いた扉の上に棒をわたし、それに、重い本の中央部をとりつけたひもを結びつけて下さい。さて、もしも、本の下にさがっているひもにつけた定規で、このひもをぐっと引っぱったとしたら、ひもはどこで切れるでしょうか - 本の上側でしょうか、それとも下側でしょうか?

 ひもは、引っぱりようによっては、本の上側でも下側でも切れます。で、もしも用心ぶかくゆっくり引っぱると、上側で切れ、威勢よく引っぱると下側で切れるのです。

 どういう理由でそうなるのでしょうか?ゆっくりと引っぱった場合に本の上側のひもが切れるというのは、本の重量がかかっているひもに、さらに引っぱる手の力が加わるためです。本の下側のひもには、手の力しか作用しません(ただし、定規やひも自身の重量は、それらが軽いので省略します)。

 急に引っぱった場合には、ちょっと様子が違ってきます。引っぱる動作が瞬間的であるため、本は目立った動きをする余裕がありません。そのため、本の上側のひもが伸びないうちに、下側のひもに全部の力がかかり、そこだけが切れるのです。

簡単すぎると思われたかもしれない。だが、静力学ばかりやっていると、設問中の"どちらが"という誘導尋問に引っかかって上の糸を選んでしまうかも知れない。

今回唐突にこのクイズを紹介したのは、前回の記事と関係がある。前回示した、質量に作用する力 P と系の抵抗力 R のことである。その話に入っていくつもりだったが、ここまでで長くなったのでまた後日。。。


参考文献

  1. ペレリマン(藤川健治 訳編):続続 おもしろい物理学 社会思想社 1974年




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ニューマークの論文を遅読する(その5 解析モデル)

どの論文でも大抵そうだが、ニューマークの論文(文献 1)も"要約"の次が"イントロダクション"である。そこでは、解析対象となる構造物のモデル化の概要やニューマーク法の適用範囲について説明されている。内容の一部は"要約"ともかぶっているので、読んでいてくどい感じがしないでもない。

"イントロダクション"にはあまり特筆すべきようなことは書かれていない。例えば、部材が節点で繋がる骨組モデルを考え、部材に作用する荷重や部材重量は節点に集中させるとか、ニューマーク法は弾塑性問題にも使用できるといった今日的観点からはお馴染みの内容である。

その次の節の"解析法(Method of Analysis)"からいよいよニューマーク法の詳細な説明が展開される。この節は、以下の5つの小節から構成されている。

 段階的積分法(Step-by-Step Integration Procedure)
 数値計算の安定性と誤差(Stability and Errors in Numerical Computation)
 パラメータ β の解釈(Interpretation of Parameter b
 減衰の扱い(Treatment of Damping)
 推奨する時間刻みと β の選択(Recommended Time Interval and Choice of b

節の始めには、解析対象となる構造物として、下図のような荷重を受ける平面骨組が示されている(論文の Fig. 1. General Type of Structure and Loading を模写したもの)。


Nwmk_fig1_a.jpg

図中の丸印は質量(mass)を表している。部材要素は変形可能なので、これらの質量は水平、鉛直へと動くことができる。いわゆる集中質量モデルであり、部材は変形するが重量(質量)を持たず、部材自体の質量は節点に割り振られる。

また、A, B で代表される支持点も水平、鉛直に移動可能である。つまり、基礎上の支持点が相対変形を生じて部材に応力が発生するような状況にも対応しており、支持点上にある質量による慣性力の任意方向への作用が考慮される。

図中の M における質量を抜き出したものを以下に示す(論文の Fig. 2. Detail of Mass as Free Body を模写したもの)。

Nwmk_fig1_b.jpg

左側の図は、質量を取り除いて骨組構造物だけを描いたもの、右側は抜き出した質量のみを描いたものである。構造物の抵抗力(resisting force)を R で表している。矢印は R の正の方向と対応いている。また、x は変位を表している。この例では、水平方向成分しか描かれていないが、一般的には鉛直成分も存在する。

この抜き出した質量の運動方程式を立てるわけだが、それについてはまた後日。。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.




コンピュータで解けた問題、解けなかった問題

東野圭吾の「容疑者Xの献身」という話には、高校の数学教師を務める傍ら自宅で「四色問題」の証明に取り組んでいる男が登場する。四色問題については、一般向けに書かれた数学書でもよく採り上げられているので、「容疑者」を読んでいなくても(映画を見ていなくても)この問題についてご存知の人は多いだろう。

問題の概要自体はとてもシンプルである。即ち、どんな地図でも隣り合う国が異なる色となるように塗り分けるには四色あればよいことを証明する問題である。内容はシンプルだが、この問題は 20 世紀の難問の一つだったそうで、問題の提起から証明されるまでに 100 年以上もの時間を要している。

時間がかかったとはいえ、この四色問題は証明されて「四色定理」となった。上記の数学教師がそれでも四色問題を研究していたのは、「あの証明は美しくない」と思っていたからである。美しくない理由は、証明にコンピュータが使用されたことにある。コンピュータの力を借りて1976年にこの定理の証明に漕ぎ着けたのは、イリノイ大学のアッペル(K. Appel)とハーケン(W. Haken)である。

ニューマーク法のニューマーク(N. M. Newmark)がこの数学史上の出来事に直接関係しているわけではもちろんないが、ニューマークのキーワードでもある「イリノイ大学」、「コンピュータ」というと、この四色問題のことをついつい思い出してしまう。それで、今回は余談ながら数学寄りの話を書いている次第である。

筆者の手近にある一般向け数学本でも四色問題について書いてあるものは多い。例えば、文献 1 だと、「隣組、地図の塗り別け」という章に出ているし、文献 2 だと「コンピューターと数学」に出ている(文献 1 では、四色問題を提起したのはケーレー(Cayley)ということになっているが、文献 2 ではフレデリック・ガスリーの名が挙げられている。ケーレーとは、ケイリー・ハミルトンの定理でお馴染のあのケイリーである)。

文献 3 でも四色問題が採り上げられていて、著者である秋山仁氏自身がこの問題を研究していたのだそうだ(下記)。

実は私自身、この4色問題が未解決の状態だった頃、何とかこの難問を解決して世界の数学界に華麗なデビューを果たそうと夢見ていた時期があった。ところが青春を賭けた奮闘にもかかわらず、残念ながら他の研究者に先を越されてしまい、夢破れて侘しい毎日を送っているというわけだ。

この文献 3 には、四色問題解決への足掛かりになったという「ヒーウッドの公式」が示されている(下記)。[ ] はガウス記号である。

Heawood_eq.jpg

この式は、「n 個の穴があいた球面に描かれた地図は、f(n) 色以下で塗り分けられる(n は正の整数)」ことを意味しているそうで、この式に n = 0 を代入すると、f(n) = 4 となって四色問題は解決するのだが、残念ながらこの式が成り立つのは、n > 0 の条件付きだそうである。

「ヒーウッドの公式」は、「容疑者」の数学教師も文句の付けようがないくらいシンプルでスッキリしている。工学系の人間からすると、1 以上で成り立つのなら 0 もおまけしてよと言いたくなるが、そうはいかないのが数学である。

尚、ハーケン(W. Haken)と言えば、ポアンカレ予想の証明にはまり込んで人生を棒に振りかけていたところを、四色問題に救われたことが文献 4(この本の主題はポアンカレ予想。主役はフィールズ賞を辞退してキノコ狩りに勤しむペレリマンである)の第 4 章に詳しく出ているので興味のある人は参照されたい。

以上は、コンピュータで解けた問題の話。ここからは、コンピュータでも解けなかった問題の話である。といっても、筆者自身が経験したものなので、レベルはガクッと落ちることをご了承頂きたい。

学生の時分、某ミステリー作家のファンである友人が「面白いので是非読むように」と薦めてくれた(というか無理やり読まされた)本は、大学建築学科の男性教師とその教え子の女性が難事件解決に活躍するという教育上あまりよろしからぬ設定ではあったものの、読んでみると建築家や数学者が登場して建築系&理系人間の心をくすぐるなかなか面白い話であった。

この中にビリヤードの玉を使った算数の問題が出てくるのだが、天才数学者からの謎かけとして出題され、その答えは最後まで明かされないので、読者としてはどうしてもその問題を解きたくなるのである。

その問題とは、「番号が振られたビリヤードの玉五つを数珠のように輪に通して、隣り合う連続する玉の番号の和で1から21までの数を作るにはどの球を選んでどのように並べるとよいか」というものであった。

筆者も少し考えて、割とすぐに土俵際まで追い詰めた気がした。だが、そこから頭の中であれやこれやと並べ替えてもうまくいかない。友人も「絞り込めるんだけど、そこから先が分からないね」と筆者と同じような感想であった。

埒が明かないことに業を煮やした筆者は、プログラムを組むことを決意した。これ以上時間を無駄使いできないとか、分からないままにしておくのは精神衛生上良くないとか自分に色々言い訳をしながら。。。

作ったプログラムは今はもう残っていないが、C++で書いた十数行くらいの短いものだったと記憶している。完成後、早速実行して結果を見て驚いた。つい先ほど不要な部分と思いながらコーディングした「解が見つかりません」というメッセージが表示されたのである。

総当たりなので間違いようがない。念のためコードを見直してみたが、やはりおかしな所は見つからなかった。もう降参するしか道は残っていなかった。

某ミステリー作家に対して敗北感を覚えながら、ウェブで答えを探すことにした。そして、答えを解説したページを読んで思わず椅子からずり落ちそうになった。なんと筆者は問題の前提を間違えていたのである。ビリヤードというと玉の番号は 1 から 9 までだと思い込んでいたのだが、10 番以降の玉が存在するビリヤードも存在するのであった。

これではコンピュータを動員しても解が見つからなくて当然である。自分がビリヤードに不案内ということが原因であるが、友人も同じように騙されたので、今考えると、これは常識的思考のスキを突くミステリー作家特有の作問なのかもしれない。

このマヌケな経験から無理やり教訓を引き出すとすれば、計算能力が高くてロジックが無謬でも「そもそも」がなっていないとナンセンスな結果しか得られないということである。筆者に限らず「そもそも」を問うこともしないでロジックばかりが議論されることが結構あると見受けられるのだが、どうだろうか。


参考文献

  1. 高木貞治 : 数学小景 岩波現代文庫 2002年4月

  2. 広中平祐 : 広中平祐の数学教室(上) サンケイ出版 昭和60年10月

  3. 秋山仁 : 誰かに解かせたくなる算数・数学の本 幻冬舎文庫 平成11年8月

  4. 春日真人 : 100年の難問はなぜ解けたのか 新潮文庫 平成23年6月




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