断面の慣性楕円 (その3)
2023-02-26
前回は、断面の図心を通る任意軸についての断面二次半径を図式的に求める2つの方法を示した。1つは原点から慣性楕円の接線までの距離として断面二次半径を求める方法で、もう一つは慣性楕円の動径の長さとして求める方法である。
この流れは、主に文献 2 に従ったものである。ティモシェンコの本(文献 1)には1つ目の方法だけが示されているので、どちらが主な方法かと言えば、1つ目の方法ということになるのだろう。
だが、素直に考えれば、まず思い浮かぶのは2つ目の方法ではないだろうか。例えば、数学で楕円について学んだばかりの高校生なら、前回示した式 (2)(以下に再掲)を見れば、「パラメータ表示した楕円:(iucos θ, ivsin θ)の動径の長さが ix になっている」と思うだろう。

前回は説明の都合上、円や楕円を描いたが、断面二次半径を線分の長さとして得られさえすればよいのであれば、2つ目の方法を使えば、円や楕円をわざわざ描く必要はないし、sin θ、cos θ を計算する必要もない。
以下にその流れを示しておこう。
強軸、弱軸についての断面二次半径 iu、iv の値および問題となる軸の方向(主軸から θ 傾いた方向)が与えられるものとする。
① この軸上に原点 O から iu の位置に点 R をとり、iv の位置に点 T をとる。
② 点 R を通り縦軸に平行な線、点 T を通り横軸に平行な線を引き、それらの交点を S とする。
③ 原点 O から S まで線を引けば、線分 OS の長さが ix となる。

点 S は楕円上の点である。楕円を点線で描いているのは、答を得るのに楕円自体を描く必要はないことを表すためである。
前回示した図や説明と合わせるなら、ivcos(θ+π/2) = - ivsin θ、iusin (θ+π/2) = iucos θ であるから、楕円としては、(ivcos θ', iusin θ')(θ' = θ+π/2 とする)を考えるべきだが、今は単に ix を表す線分だけが知りたいので、"素直に"(iucos θ, ivsin θ)の楕円を用いている。
これなら定規が1つあれば十分である。(平行線を引くには2つある方がいいかも知れないが。。)文献 2 でも2つ目の方法の方は1つ目の方法よりも a rather more convenient construction と書かれている(文献 2、p.171)。
だが、軸の向きによって断面二次半径(断面二次モーメントも)がどのように変化するかを視覚的に判断するには、断面に対して楕円を描いて確認する方が良いので、やはり1つ目の方法についても理解しておく必要があるだろう。
参考文献
この流れは、主に文献 2 に従ったものである。ティモシェンコの本(文献 1)には1つ目の方法だけが示されているので、どちらが主な方法かと言えば、1つ目の方法ということになるのだろう。
だが、素直に考えれば、まず思い浮かぶのは2つ目の方法ではないだろうか。例えば、数学で楕円について学んだばかりの高校生なら、前回示した式 (2)(以下に再掲)を見れば、「パラメータ表示した楕円:(iucos θ, ivsin θ)の動径の長さが ix になっている」と思うだろう。

前回は説明の都合上、円や楕円を描いたが、断面二次半径を線分の長さとして得られさえすればよいのであれば、2つ目の方法を使えば、円や楕円をわざわざ描く必要はないし、sin θ、cos θ を計算する必要もない。
以下にその流れを示しておこう。
強軸、弱軸についての断面二次半径 iu、iv の値および問題となる軸の方向(主軸から θ 傾いた方向)が与えられるものとする。
① この軸上に原点 O から iu の位置に点 R をとり、iv の位置に点 T をとる。
② 点 R を通り縦軸に平行な線、点 T を通り横軸に平行な線を引き、それらの交点を S とする。
③ 原点 O から S まで線を引けば、線分 OS の長さが ix となる。

点 S は楕円上の点である。楕円を点線で描いているのは、答を得るのに楕円自体を描く必要はないことを表すためである。
前回示した図や説明と合わせるなら、ivcos(θ+π/2) = - ivsin θ、iusin (θ+π/2) = iucos θ であるから、楕円としては、(ivcos θ', iusin θ')(θ' = θ+π/2 とする)を考えるべきだが、今は単に ix を表す線分だけが知りたいので、"素直に"(iucos θ, ivsin θ)の楕円を用いている。
これなら定規が1つあれば十分である。(平行線を引くには2つある方がいいかも知れないが。。)文献 2 でも2つ目の方法の方は1つ目の方法よりも a rather more convenient construction と書かれている(文献 2、p.171)。
だが、軸の向きによって断面二次半径(断面二次モーメントも)がどのように変化するかを視覚的に判断するには、断面に対して楕円を描いて確認する方が良いので、やはり1つ目の方法についても理解しておく必要があるだろう。
参考文献
- チモシェンコ著 鵜戸口英善、国尾 武訳:材料力学 上巻 東京図書 1957年4月
- Ewart S. Andrews : The Strength of Materials; A Text-Book for Engineers and Architects, D. Van Nostrand Company, 1916.
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断面の慣性楕円 (その2)
2023-02-14
前回からの続き。。
まずは楕円の持つ一つの特性について。材料力学とは関係の無いただの数学の話である。
以下のように、原点を中心とした楕円を描き、x 軸から θ 傾いた方向に z 軸をとる。z 軸と平行に楕円と接する線(接点を P とする)を引き、原点 O からこの接線に下した垂線の足を Q、垂線の長さを l とする。

この時、l と a、b と θ はどのような関係にあるかを求めてみよう。
点 Q の座標は (- l sin θ, l cos θ) なので、点 Q から接線上の点 (x, y) に至るベクトルは、(x + l sin θ, y - l cos θ) と表せる。接線は線分 OQ と直交するので、このベクトルとベクトル OQ (- l sinθ, l cosθ) の内積はゼロとなる。式にすると以下の通り。

一方、点 P (xp, yp) で楕円に接する直線の式は以下で与えられる。

これら2つの直線が等しいとすると、

この xp と yp を楕円の式に代入して、

以上により、原点 O から接線までの距離 l(の2乗)は、a、b と θ を用いて式 (1) のように表されることがわかる。
数学の話は以上。ここからは材料力学の話である。
以下に示す内容は断面二次モーメントの基準軸の変換についてなので、大抵の教科書には出ているはずである。先日 こちらの記事 では詳細を省略したが、今回は話の成り行き上導出過程から示すことにする。
先日の記事と異なり、今回は主軸の方を基準とし、下図のように横軸、縦軸をそれぞれ u 軸、v 軸とする。断面の図心を原点とするのは同じである。

(u, v) 座標系と (x, y) 座標系とを関係付ける方向余弦を表に纏めると以下となる。

これより、

Ix を x 軸に関する断面二次モーメントとすると、上記の y の式を用いて、

u 軸、v 軸は主軸であるから、この式の第三項の積分(断面相乗モーメント)はゼロになる。従って、

ここに、Iu、Iv は、それぞれ u 軸、v 軸に関する断面二次モーメントである。この式の両辺を断面積 A で割って、iu2 = Iu / A、iv2 = Iv / A とすると、

式(1)と式(2)を見比べると、同じ形になっているのが分かる。なので、a → iv、b → iu、l → ix として上記の楕円の時と同じように楕円を描いて接線を引けば、原点から接線までの距離が ix(この断面の x 軸についての断面二次半径)を与えることになる。

ティモシェンコの材料力学の本では、この辺りの説明はあっさりとしていて、導出過程は示されていない。以下がその部分(文献 1、p.416)。
... 慣性楕円を描いておけば、任意の軸 z に関する断面二次半径 k z は、z 軸に平行な楕円の接線を引くことによつて図式的に求められる。すなわち、原点 O からこの接線にいたる距離が k z の値を与えるのである。
従つて慣性楕円によれば、z 軸が断面内で O 点のまわりに回転するとき、z 軸に関する断面二次モーメントがいかに変化するかが一目でわかり、また最大および最小の断面二次モーメントが主断面二次モーメントに一致することもわかる。
かなり古い図式解法の本なども見てみると、この辺りのことはかなり詳しく書かれている。例えば、以下は文献 2 の"54. Central Circle or Ellipse of Inertia"(p.79 - 80)に示される説明の一部である。
Parallel to the given axis draw a line tangent to the central circle or ellipse of inertia and measure the perpendicular distance between the axis and this tangent. Then the square of this distance times the area gives the desired moment of inertia.
When the curve is a circle, I about every axis is the same, when the curve is an ellipse, an axis normal to the major axis of the ellipse is the axis giving the maximum moment of inertia. The axis normal to the minor axis of the ellipse gives the minimum momenl of inertia.
When the area has an axis of symmetry its central ellipse of inertia will have either the minor or major axis coinciding with the axis of symmetry.
JIS 規格(JIS G 3192)の等辺山形鋼の断面表に付記されている図を以下に改めて示す。

この図の ix と iy の見方であるが、X-X 軸と平行に楕円に接するように引かれた線と X-X 軸との間の距離が ix であり、Y-Y 軸と平行に楕円に接するように引かれた線と Y-Y 軸との間の距離が iy ということになる。
さて、断面表の図の i の意味を理解するには以上で十分だが、図式解法によって断面二次半径や断面二次モーメントを求めるのに「楕円に接する線を引いて、それに垂線を下して...」とやるのは結構面倒である。
そこで、図式解法の場合は以下に示すアプローチを採る方がよい。こちらの方がずっと簡単に断面二次半径や断面二次モーメントを図式的に求めることができる。
即ち、下図のように、楕円だけでなく原点を中心とした半径 iu の円(円 iu)と半径 iv の円(円 iv)も描く。原点 O から x 軸と直交する方向に直線を引いて、円 iu、円 iv との交点を、それぞれ R、T とする。

点 R から u 軸に平行な線を引き、楕円と交わる点を S とすれば、点 R と点 S の v 座標の値は同じである。また、点 T と点 S の u 座標の値が同じであるから、点 S の (u, v) 座標値は (-iv sin θ, iu cos θ) である。
このことから OS2 を求めると、

これは式 (2) と同じであるから、つまり、図中に赤線で示す OS の長さが ix(x 軸に関する断面二次半径)を与えることがわかる。
面白いのは、x 軸に関する断面二次半径 ix は、x 軸が主軸である場合を除いて、x 軸と直交する方向から少しずれた方向の楕円の動径として表されることである。
この辺りのことは、文献 3 の "RADIUS OF GYRATION"(p.168)という節内の "* The Momental Ellipse or Ellipse of Inertia."(p.169 - 171)に詳しく説明されているので、興味のある人は参照されたい。。
参考文献
まずは楕円の持つ一つの特性について。材料力学とは関係の無いただの数学の話である。
以下のように、原点を中心とした楕円を描き、x 軸から θ 傾いた方向に z 軸をとる。z 軸と平行に楕円と接する線(接点を P とする)を引き、原点 O からこの接線に下した垂線の足を Q、垂線の長さを l とする。

この時、l と a、b と θ はどのような関係にあるかを求めてみよう。
点 Q の座標は (- l sin θ, l cos θ) なので、点 Q から接線上の点 (x, y) に至るベクトルは、(x + l sin θ, y - l cos θ) と表せる。接線は線分 OQ と直交するので、このベクトルとベクトル OQ (- l sinθ, l cosθ) の内積はゼロとなる。式にすると以下の通り。

一方、点 P (xp, yp) で楕円に接する直線の式は以下で与えられる。

これら2つの直線が等しいとすると、

この xp と yp を楕円の式に代入して、

以上により、原点 O から接線までの距離 l(の2乗)は、a、b と θ を用いて式 (1) のように表されることがわかる。
数学の話は以上。ここからは材料力学の話である。
以下に示す内容は断面二次モーメントの基準軸の変換についてなので、大抵の教科書には出ているはずである。先日 こちらの記事 では詳細を省略したが、今回は話の成り行き上導出過程から示すことにする。
先日の記事と異なり、今回は主軸の方を基準とし、下図のように横軸、縦軸をそれぞれ u 軸、v 軸とする。断面の図心を原点とするのは同じである。

(u, v) 座標系と (x, y) 座標系とを関係付ける方向余弦を表に纏めると以下となる。

これより、

Ix を x 軸に関する断面二次モーメントとすると、上記の y の式を用いて、

u 軸、v 軸は主軸であるから、この式の第三項の積分(断面相乗モーメント)はゼロになる。従って、

ここに、Iu、Iv は、それぞれ u 軸、v 軸に関する断面二次モーメントである。この式の両辺を断面積 A で割って、iu2 = Iu / A、iv2 = Iv / A とすると、

式(1)と式(2)を見比べると、同じ形になっているのが分かる。なので、a → iv、b → iu、l → ix として上記の楕円の時と同じように楕円を描いて接線を引けば、原点から接線までの距離が ix(この断面の x 軸についての断面二次半径)を与えることになる。

ティモシェンコの材料力学の本では、この辺りの説明はあっさりとしていて、導出過程は示されていない。以下がその部分(文献 1、p.416)。
... 慣性楕円を描いておけば、任意の軸 z に関する断面二次半径 k z は、z 軸に平行な楕円の接線を引くことによつて図式的に求められる。すなわち、原点 O からこの接線にいたる距離が k z の値を与えるのである。
従つて慣性楕円によれば、z 軸が断面内で O 点のまわりに回転するとき、z 軸に関する断面二次モーメントがいかに変化するかが一目でわかり、また最大および最小の断面二次モーメントが主断面二次モーメントに一致することもわかる。
かなり古い図式解法の本なども見てみると、この辺りのことはかなり詳しく書かれている。例えば、以下は文献 2 の"54. Central Circle or Ellipse of Inertia"(p.79 - 80)に示される説明の一部である。
Parallel to the given axis draw a line tangent to the central circle or ellipse of inertia and measure the perpendicular distance between the axis and this tangent. Then the square of this distance times the area gives the desired moment of inertia.
When the curve is a circle, I about every axis is the same, when the curve is an ellipse, an axis normal to the major axis of the ellipse is the axis giving the maximum moment of inertia. The axis normal to the minor axis of the ellipse gives the minimum momenl of inertia.
When the area has an axis of symmetry its central ellipse of inertia will have either the minor or major axis coinciding with the axis of symmetry.
JIS 規格(JIS G 3192)の等辺山形鋼の断面表に付記されている図を以下に改めて示す。

この図の ix と iy の見方であるが、X-X 軸と平行に楕円に接するように引かれた線と X-X 軸との間の距離が ix であり、Y-Y 軸と平行に楕円に接するように引かれた線と Y-Y 軸との間の距離が iy ということになる。
さて、断面表の図の i の意味を理解するには以上で十分だが、図式解法によって断面二次半径や断面二次モーメントを求めるのに「楕円に接する線を引いて、それに垂線を下して...」とやるのは結構面倒である。
そこで、図式解法の場合は以下に示すアプローチを採る方がよい。こちらの方がずっと簡単に断面二次半径や断面二次モーメントを図式的に求めることができる。
即ち、下図のように、楕円だけでなく原点を中心とした半径 iu の円(円 iu)と半径 iv の円(円 iv)も描く。原点 O から x 軸と直交する方向に直線を引いて、円 iu、円 iv との交点を、それぞれ R、T とする。

点 R から u 軸に平行な線を引き、楕円と交わる点を S とすれば、点 R と点 S の v 座標の値は同じである。また、点 T と点 S の u 座標の値が同じであるから、点 S の (u, v) 座標値は (-iv sin θ, iu cos θ) である。
このことから OS2 を求めると、

これは式 (2) と同じであるから、つまり、図中に赤線で示す OS の長さが ix(x 軸に関する断面二次半径)を与えることがわかる。
面白いのは、x 軸に関する断面二次半径 ix は、x 軸が主軸である場合を除いて、x 軸と直交する方向から少しずれた方向の楕円の動径として表されることである。
この辺りのことは、文献 3 の "RADIUS OF GYRATION"(p.168)という節内の "* The Momental Ellipse or Ellipse of Inertia."(p.169 - 171)に詳しく説明されているので、興味のある人は参照されたい。。
参考文献
- チモシェンコ著 鵜戸口英善、国尾 武訳:材料力学 上巻 東京図書 1957年4月
- William S. Wolfe : Graphical Analysis; a Text Book on Graphic Statics, First Edition, McGraw-Hill Book Company, Inc. 1921.
- Ewart S. Andrews : The Strength of Materials; A Text-Book for Engineers and Architects, D. Van Nostrand Company, 1916.
断面の慣性楕円 (その1)
2023-02-07
前回からの流れで、今回は部材断面の慣性楕円(ellipse of inertia)について。。
材料力学で学ぶ項目の中で慣性楕円はかなりマイナーな部類に属すものではないだろうか。昨今の大学の材料力学の講義などでも、慣性楕円については全くとりあげないか、とりあげるにしても少し触れる程度ではないかと想像する。
筆者自身もいわゆる"はりの非対称曲げ"のところで初めて慣性楕円を学んだ記憶があるが、その後特に慣性楕円が必要となるような機会はなかったように思う。慣性楕円のようなものが必須知識と見なされたのは、図式解法が華やかなりし頃だったのではないだろうか。
一方で、日常的に目にすることも多い形鋼の断面表にこの慣性楕円の図が特に説明もなく記載されている、ということについては以前からなんとなく気になっていた。
例えば、以下の図は「鋼構造設計規準 許容応力度設計法」の付録に示される等辺山形鋼のもので、点線で示されるのが慣性楕円であるが、それについての説明は書かれていない。

こちら の JIS のサイトから JIS 規格を確認できるが(閲覧にはユーザ登録が必要)、こちらの断面表の前書きなどにも慣性楕円の説明は出ていない。
なお、上記の等辺山形鋼の断面表を見たい場合は、規格番号は「JIS G 3192」で検索する。規格名称は「熱間圧延形鋼の形状,寸法,質量及びその許容差」である。
前知識がなくても、図中に iu、iv といったものが示されているので、この楕円が断面二次半径に関係しそうなことは推測できるかもしれないが、こういう状況なので、見方や使用法はよく分からない、ということにならないだろうか。
推測するに、この楕円は詳細な検討用に用意されているというよりは、強軸と弱軸をぱっと見ただけで識別したり、 ix、iy が iu、iv と比べて大体どの位になるかを判断したりできるようにとの配慮で載せてあるのかも知れない。
ティモシェンコの材料力学の本(文献 1)の付録には若干説明が出ているが、あまり詳しいものではないし、断面図とともに使用するという観点から書かれているわけでもない。
このように、少なくとも筆者の知る範囲では、慣性楕円についてちゃんと説明してあるものは、余程古い本などを除いて無いようである(筆者が知らないだけでどこかにばっちり説明されているかも知れない。。もし知っている人がいたら教えて下さい)。
次回は図式解法や材料力学の古い本を引用しながらこの慣性楕円について書いてみたいと思う。
参考文献
材料力学で学ぶ項目の中で慣性楕円はかなりマイナーな部類に属すものではないだろうか。昨今の大学の材料力学の講義などでも、慣性楕円については全くとりあげないか、とりあげるにしても少し触れる程度ではないかと想像する。
筆者自身もいわゆる"はりの非対称曲げ"のところで初めて慣性楕円を学んだ記憶があるが、その後特に慣性楕円が必要となるような機会はなかったように思う。慣性楕円のようなものが必須知識と見なされたのは、図式解法が華やかなりし頃だったのではないだろうか。
一方で、日常的に目にすることも多い形鋼の断面表にこの慣性楕円の図が特に説明もなく記載されている、ということについては以前からなんとなく気になっていた。
例えば、以下の図は「鋼構造設計規準 許容応力度設計法」の付録に示される等辺山形鋼のもので、点線で示されるのが慣性楕円であるが、それについての説明は書かれていない。

こちら の JIS のサイトから JIS 規格を確認できるが(閲覧にはユーザ登録が必要)、こちらの断面表の前書きなどにも慣性楕円の説明は出ていない。
なお、上記の等辺山形鋼の断面表を見たい場合は、規格番号は「JIS G 3192」で検索する。規格名称は「熱間圧延形鋼の形状,寸法,質量及びその許容差」である。
前知識がなくても、図中に iu、iv といったものが示されているので、この楕円が断面二次半径に関係しそうなことは推測できるかもしれないが、こういう状況なので、見方や使用法はよく分からない、ということにならないだろうか。
推測するに、この楕円は詳細な検討用に用意されているというよりは、強軸と弱軸をぱっと見ただけで識別したり、 ix、iy が iu、iv と比べて大体どの位になるかを判断したりできるようにとの配慮で載せてあるのかも知れない。
ティモシェンコの材料力学の本(文献 1)の付録には若干説明が出ているが、あまり詳しいものではないし、断面図とともに使用するという観点から書かれているわけでもない。
このように、少なくとも筆者の知る範囲では、慣性楕円についてちゃんと説明してあるものは、余程古い本などを除いて無いようである(筆者が知らないだけでどこかにばっちり説明されているかも知れない。。もし知っている人がいたら教えて下さい)。
次回は図式解法や材料力学の古い本を引用しながらこの慣性楕円について書いてみたいと思う。
参考文献
- チモシェンコ著 鵜戸口英善、国尾 武訳:材料力学 上巻 東京図書 1957年4月