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建築構造学事始

「鉄筋混凝土にかけた生涯 - 阿部美樹志と阿部事務所」という本の紹介


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数年前に古本屋の書棚で"発見"して購入したものである。こんな本が出ているなんてそれまで知らなかった(ちなみに、混凝土とは、コンクリートのことである。土のようなものを混ぜ合わせるので"混凝土"。誰だか知らないが、この漢字をよく思い付いたなぁ)。

この本のことを紹介しようかと思ったことがこれまで何度かあったが、その度に結局は見送ってきた。阿部美樹志に興味のある人なんてそうそういないだろうと思ったからである。

だが、阿部美樹志は、建築と土木という二つの世界で稀に見るほど多くの業績を残した人で、殆ど知られていないという現況の方が不思議なくらいなのである。

なので、「夏休みの読書感想文」の宿題に何の本を読んだらいいか悩んでいる建築、土木系の学生諸君への推薦もかねて、今回はこの本を紹介してみよう。

本の概要は帯に端的に纏められている。書き写したものが以下:

明治 44 年(1911)、米・イリノイ大学に留学し、鉄筋コンクリート工学を専攻。のちに遠藤於菟と組み、RC 造建築をつくり続けた阿部美樹志。また竹中土木の初代社長、戦後は戦災復興院総裁に就任。他方で、大正 9 年(1920)阿部事務所を創設するなど、わが国での鉄筋コンクリート分野で先駆的な役割を果たした建築家の新資料による本格的な伝記。

筆者はこの本を読み始めてすぐに、著者の資料収集力の高さに驚かされた。

「どうやってこんな資料を発掘してきたんだ?この著者は何者?」

と思ったわけだが、著者である江藤静児氏の略歴を読んで納得。江藤氏は、阿部事務所の社長を務められた方だったのである。それなら阿部美樹志の卒業証書や鉄道局の辞令書の類を入手できても不思議ではない。

以下ではこの本の本筋からはやや外れているが、筆者が気になった二、三の内容について書き留めておこう。

一つ目は、阿部美樹志の札幌農学校での後輩である斉藤幸三氏が「阿部美樹志先生をしのんで」という文の中で述べていることである。アメリカ帰りの阿部の設計が、当時の日本の建築界の常識からは外れたものであったことが書かれている(p.71 「II 阿部事務所草創のころ 2 関東大震災」)

確か三井二号館であったと思うが(三井合名会社三号館・遠藤於菟と共同)、三井の幹部が先生に設計を依頼し、当時の建築界の大御所に意見を求めたところ、これは酷い - とても自分たちの常識では大丈夫といって保証できないといって問題になったが、先生は設計計算書を示し、すべて合理的な計算にもとづき決定したもので、少しも不安のないことを力説し譲らなかったので、さすがに大先生も理論の前に屈服し、本人がそれほど自信があり責任を持つというならやらして見るがよい - という裁断が下され、日本橋室町の一角に建設された。

 それが関東大震災の洗礼を受けて微動もせず、いまなお当時のままそびえている。

 先生はイリノイ大学の実験室でだくさんのテストピース(フレーム)をつくり破壊試験を行った。その結果得た実験式を使用して設計するから、合理的であり不安がない。

 大正十二年九月、関東大震災で幾多の建築物が倒壊し大きな被害を蒙ったが、先生の設計された建築には一つも被害がなく、これが動機で先生の声価が一段と上がった。

この"建築界の大御所"が誰なのか気になる。。。佐野利器?それとも内藤多仲だろうか?

二つ目は、阿部がイリノイ大学で行った実験において、本ブログの以前の記事で採り上げた"ビルトイン応力"と似た状況に遭遇していることである(p.118 「II 阿部事務所草創のころ 5 施工教育者」)

○架構の形状の微細なる相違が構応力を不平均ならしむること

1 門型対称架構に対称荷重をかけて実験したときに、左右の応力に大きな差が出た。精査するとコンクリート架構全体が一インチほど傾いていた。このことから水平垂直がわずかに変形しても、予期しない異常な力が一局部にかかることがあるから、施工は十分注意を要する

人間の目は垂直からのずれには敏感だが、水平からのずれには鈍感である、とどこかで聞いたことがある。実際の建物で上記のような軽微な施工ミスが見逃されることはままあることだろう。

こちらは鋼構造での話がメインになるが、イギリスの設計法が 1930 年代という早い時期に弾性解析に基づく許容応力度設計から塑性設計に移行したのも、構造物内に実際に生じる応力を弾性計算では求め得ないという知見によっていることは、以前の記事に書いた通りである。

三つ目は、、、、また次回。。。


参考文献

  1. 江藤 静児:鉄筋混凝土にかけた生涯 - 阿部美樹志と阿部事務所 日刊建設通信新聞社 1993年5月




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地震と地震動

前回の記事では、減衰の"定義"には2パターンある(ように見受けられる)ことについて書いた。唐突に栄養学の用語を出したりしたが、もっと近い分野に似ていると言えなくもない例があるのを思い出したので、今回はそれについて書いてみよう。

それは「地震」と「地震動」という言葉である。

この違いについての説明を初めて目にしたのは文献 1 (p.19 「地震と地震動」)だったと思う(下記)。

 「地震」という言葉は読んで字の如しで、地面が震える現象を指している。つまり揺れることである。しかし、いつの頃からか揺れの原因となる地下で起こる現象、つまり震源での断層破壊のことも地震と呼ぶようになった。たとえば、こんなテレビの放送によく行きあたる。

「今日午後二時三八分頃、関東地方の広い範囲で地震がありました。東京での震度は三。気象庁の観測によると、震源地は茨城県南西部で、震源の深さは八〇km、地震の規模を示すマグニチュード(M)は四.五と推定されています」

 この中には「地震」という言葉が二回登場する。最初に出てくる「地震」は単に地面が揺れたということを指しており、もともとの意味での地震(地面の振動)である。これに対して、二番目の「地震」は震源(の断層破壊)のことを指している。

関東地震や兵庫県南部地震などというときの「地震」も、命名者はたぶん震源の意味で使っているのだが、受け取る方は、関東や兵庫県南部地方を襲った強い揺れという意味も含めて「地震」と認識しているかもしれない。

また、東京大学には地震研究所というのがあるが、この研究所では昔から、震源の研究だけでなく揺れの研究も行われており、研究所名の「地震」はたぶん両方の意味を表しているものと思われる。

 このように「地震」という言葉は、一般社会では二つの意味で用いられている。しかし、そのままでは学問上も混乱が避けられないため、地震学の専門家の間では、「地震」という言葉は震源での断層破壊の意味で用い、揺れについては「地震動」として区別するのが一般的になりつつある。

本書でも、これらを区別する必要がさまざまな場面で生じるため、これに従って、以下、震源での断層破壊の意味では「地震」、揺れの意味では「地震動」という言葉を使うことにする。

上記の部分は文献 1 の第一章にある。文献 1 は複数の人によって分担して書かれており、第一章の執筆者は、文献 2 の著者でもある武村雅之氏である。

そのため、文献 2 にも上記と同様な内容の部分(下記)があるが、その主張は若干異なっている。時間の経過が著者に何らかの影響を与えたのだろうか?

... 右の震源・震度速報で、地震という言葉が二つの意味で使われていることにお気付きだろうか。

 震源・震度速報には「地震」という言葉が二回登場する。最初に出てくる「地震」は単に地面が揺れたということを指しており、もともとの意味での地震(地面の振動)である。これに対して、二番目の「地震」は震源のことを指している。

関東地震や兵庫県南部地震などというときの「地震」も、命名者はたぶん震源の意味で使っているのだが、受け取る方は、関東や兵庫県南部地方を襲った強い揺れという意味も含めて「地震」と認識しているかもしれない。その証拠に、関東地震の位置といわず、関東地震の震源の位置という方が普通である。

 このような通常の使われ方に対して、地震学の専門家のなかには、最初の「地震」という使い方はまちがっていると指摘する人もいる。そのような人は、「地震」という言葉が震源を指す意味だけで使われることを望んでいるし、揺れについては「地震動」という耳慣れない言葉で呼ぶようにと指導する。

でも、それにはちょっと納得できない気がする。なぜなら、もともと「地震」という言葉は地面の揺れを表し、一般の人たちは大昔からその意味で使っていたのに、おそらく地震(揺れ)の原因である震源を研究する地震学者が「地震」という言葉を、震源の意味で使ったのが、そもそも混乱の始まりだからである。

 このような背景があるので、私としては、「地震」という言葉を無理やり震源の意味で使えと、一般の人に押し付けることには賛成できない。そんなに簡単に言葉の文化が変わるとは思えないからである。

たとえば東京大学に地震研究所というのがあるが、この研究所では昔から、震源の研究だけでなく揺れの研究も行われている。それにもかかわらず地震・地震動研究所とせず、地震研究所という名前になっているのは、研究者も含め皆が違和感をもたないためであろう。まさに文化的な背景があるからである。

前回の記事では筆者も用語の使い方にかなりこだわってみたが、一般社会に広く浸透している言葉にまで修正を求めるのは行き過ぎと感じる。専門家なら大抵の場合は文脈で判断できるので、どうしても厳密さが必要な時にはこだわることにして、普段は"ゆるい"使用法でいいのではないだかろうか。


参考文献

  1. 山中浩明編著 : 地震の揺れを科学する みえてきた地震動の姿 東京大学出版会 2006年7月

  2. 武村雅之 : 地震と防災 中公新書 2008年8月




減衰は減衰?

減衰の扱いは難しい。ノウハウ的なこともあるが、それ以前に減衰についての知見が昔からあまり進んでいないということがある。そのためなのかは知らないが、「減衰」という言葉からしてどうもちゃんと定義されていないようである。

以前、減衰についてちょっと頭を整理しておこうと思って調べた際に分かったのは、本によって(人によって)2パターンの「減衰」の"定義"が存在するということである。

一つ目の"定義"の例としてチョプラ(A. K. Chopra)の本の該当部分を示すと以下の通り(文献 1、p.7)(拙訳と原文)。

振動の振幅が徐々に小さくなっていく過程を減衰 と呼ぶ。

The process by which vibration steadily diminishes in amplitude is called damping.

減衰とは「振動が小さくなっていく過程」なのである。振動が小さくなっていく現象そのものと言い換えてもよさそうだ(これを第一の定義と呼ぶことにする)。

では、もう一方の"定義"はどうかというと、現象ではなく作用となっているのである。その一例としてメイトク先生の本の説明箇所を以下に示そう(文献 2、p.4)。

... また、実際の構造物の振動では、質量および剛性のほかに、振動エネルギーを消費して振動を減少させる減衰(damping)の作用を考慮する必要がある。

こちらは、振動が小さくなるという現象を引き起こす何かのことを言っているので、要因やその度合い(性能)と言い換えてもよさそうだ(これを第二の定義と呼ぶことにする)。

日本建築学会から出ている荷重指針(文献 3、p.447)では、意識的か無意識にかは分からないが、2つの"定義"を包含したような説明がされている。

 振動が時間の経過とともに小さくなる現象を「減衰」と称し、その度合いは一般に「減衰定数」によって表される。減衰が大きい構造物ほど、地震動のような外乱を受けたときの応答は小さくなる傾向がある。

最初の文では、減衰とは振動が小さくなっていく現象であると説明されている。それをそのまま次の文に適用すると、"減衰が大きい構造物" とは、"振動がすぐに小さくなる構造物" であるから、「振動がすぐに小さくなる構造物ほど応答は小さくなる」となる。

これではトートロジーである。なので2つ目の文にある"減衰"は、第二の定義の"減衰"と読むべきなのだろう。

自宅にある栄養学の本を読んでいたら、一般的には同じような意味で使われる栄養と栄養素という言葉を栄養学ではきちんと区別して使用するということが書いてあった(栄養とは、生きていくために必要な物質を摂取して活用する営み全体のことであり、栄養素とは摂取する物質のことなのだそうである)。

現状二つの定義がある(と筆者には思える)減衰という言葉は、栄養学で言う"栄養"に相当し、第二の定義である性能や要因としての減衰が"栄養素"に相当する.... と言えるかもしれない。

第二の定義を"減衰能"や"減衰因"といった減衰とは別の言葉で呼び、減衰の方はもっと広範な意味を持つ言葉であるとする方が混乱しなくて良いように思える。

あるいは、第一、第二の定義を明確に違う言葉で呼ぶという方法も考えられる。北村センセイの本はこのような意識を持って書かれているようである(文献 3、p.111)。

 地震動などの動的外乱を受けた建物は、外乱がおさまれば建物の揺れも徐々に小さくなり、最終的には静止する。このように振動振幅が時間とともに減少していくことを減衰現象と言い、建物も何らかの減衰性能をもっている。...


参考文献

  1. Anil K. Chopra : Dynamics of structures, Theory and Applications to Earthquake Engineering. Prentice Hall, Englewood Cliffs, NJ, 1995.

  2. 柴田明徳 : 最新 耐震構造解析 森北出版 1981年

  3. 日本建築学会 : 建築物荷重指針・同解説 2004年

  4. 北村春行 : 性能設計のための建築振動解析入門 彰国社 2002年




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