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2016
05.06

20世紀初めの建築振動論(ダヌッソのアプローチ)

Category: 建築構造史
L. Sorrentino は、ダヌッソ(Arturo Danusso)をもって地震工学、耐震工学分野における動的解析の嚆矢としている。以下は、文献 1 の CONCLUSIONS 中の一文である(拙訳と原文を併記)。

水平力を静的に作用させる解析法ではなく、動的な解析法を提示してモーダルアナリシスを適用したのは、おそらくダヌッソが初めてであった。

Danusso was probably the first to propose a dynamic analysis method rather than static lateral force analysis method and to apply modal analysis.

ダヌッソは、1 層建物を1自由度系で、2 層建物を 2 自由度系でモデル化して、震動論的にそれらの挙動を検討している。これは今日で言うところの"串団子モデル"による解析に含まれる。文献 1 には以下のように書かれている。

建物全体のうち、ダヌッソは、引張、圧縮ともに抵抗する材料で構成される、柱と水平床でできた構造だけを考えている。柱は質量を持たず、その質量は床高さに集中するとしている。鉛直成分は別に扱うことができる。ダヌッソによれば、鉛直成分は対処が容易な上下動の効果のみを生じるからである。建物基部の水平動によって、床高さに慣性力が作用することになる。

Of the whole edifice, he considers only the structure made up by columns and horizontal floors, constituted by materials reacting to both tension and compression. The columns have no mass, and this is concentrated at floor levels. The vertical component can be separately addressed because, according to Danusso, it induces only a pounding effect that is easy to tackle. The horizontal motion at the base of the building will generate inertia forces at the floor levels.

串団子モデルは、現代でもよく使用される。一見大雑把とも思えるモデル化であるが、このモデルによって得られた知見を振り返ると、このモデルの発案者は余程の慧眼の持ち主であったと言ってよさそうである。

それがダヌッソであったのかどうかは筆者にはよく分からない。ダヌッソ以前に集中質量のモデルは既に提案されているが、上記のような形で建物に適用した点が画期的と思われる。文献 1 には、ダヌッソが参考にしたかもしれない研究として、レビ・チビタのものが挙げられている。

... 3 自由度系の研究が既にイタリア語の文献において参照可能であった(レビ・チビタ、1896)。

... the study of a three-degree-of-freedom system was already available in the Italian literature (Levi-Civita, 1896).

同時代の日本の論文には、筆者の調べた範囲では、串団子モデルはまだ登場していない。想像だが、日本で倒立振り子モデルや串団子モデルが頻繁に使用され始めたのは、応答スペクトルの概念がアメリカから"逆輸入"された頃からではないだろうか。

ダヌッソは、非減衰 1 自由度系の運動方程式を以下のように与えている(文献 1 の式(3))。


eq1_2.jpg


t は時間、m は質量、x は地面の変位である。ずっと以前にも書いたが、紛らわしいことに k は剛性ではなく、その逆数のたわみ性である。そして s は、空間に固定された座標系から見た質点の絶対変位(total displacement)である。

現代では上記のような絶対変位の式ではなく、地面を基準とした相対変位で運動方程式を書くのが一般的である。今回の内容とは主旨が異なるが、筆者が現代の教科書で絶対変位が使用されているのを見たことがあるのは、構造物の異なる支持部に異なる地震波を入力する解析での定式化においてくらいである(チョプラ(A. K. Chopra)の Dynamics of Structures だと、"9.7 Multiple Support Excitation"、Clough and Penzien の同名本だと、"26-2 Response to Rigid-Soil Excitations"内の"Lumped MDOF Elastic Systems, Multiple Excitation")。

上記の式の記号を、柴田明徳著「最新 耐震構造解析」の記号で書き直してみる。つまり、x → y0、s → y + y0、k → 1/k と書いて若干変形すると以下の馴染み深い式となる。


eq2_2.jpg


文献 1 には、ダヌッソが絶対量を用いた定式化を行ったのは、彼が慣性力に着目していたためであると書かれている。

運動方程式を相対変位と相対加速度で書き下す方が今日では一般的であるが、ダヌッソは別の機会でも絶対パラメータを好んで用いている。そのような選択の動機は、ダヌッソが構造物の静的な設計用荷重を見出そうとする事実と深く関係している。そのため、相対加速度ではなく絶対加速度と結びつく慣性力にダヌッソは関心を抱いているのである。

Whereas today it is more common to write the equation of motion using relative displacements and accelerations, a chance that Danusso suggested elsewhere (Danusso, 1928), he preferred to make reference to total (absolute) parameters. The reason for such a choice lies in the fact that Danusso is looking for a force to be used in a static design of the structure. Therefore, inertia force, related to total and not relative accelerations, is what he is interested in.

磁力なり空気圧なり飛行石なりの作用で地面から浮上している究極の免震建築を考えてみよう。地面がいくら揺れても(相対加速度がいくらであっても)、絶対加速度はゼロで慣性力もゼロ(空気には粘性があるので厳密にはゼロでは無いかも知れないが)ということで、この建物の中にいる人は地震が来ても平穏無事である。

今日一般的な"相対パラメータ"での定式化の場合は、このように絶対量が問題になる場面では、あえて絶対量を持ち出して議論する必要がある。構造系の人なら、大崎順彦著「新 地震動のスペクトル解析入門」などで加速度応答スペクトルは絶対量で描くように説明されているのを読んだことがあるはずだ。

さて、ダヌッソは絶対パラメータを使った上記の式で調和地動について検討している。それについて書くことで前回の記事の内容に繋げるつもりだったのだが、長くなったので続きは後日。。。


参考文献

  1. Luigi Sorrentino : THE EARLY ENTRANCE OF DYNAMICS IN EARTHQUAKE ENGINEERING: ARTURO DANUSSO’S CONTRIBUTION, ISET Journal of Earthquake Technology, Paper No. 474, Vol. 44, No. 1, March 2007



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コメント
記事とは直接関係ないですが、最近発刊された「メディアとしてのコンクリート」にわずかにコンクリート信奉者であるアルトゥーロ・ダヌッソとして、わずかに触れられていました。日本語での紹介としては、近年の中でも極めて珍しいのではないかと思われます。
whitefoxdot 2016.05.08 21:21 | 編集
「メディアとしてのコンクリート」、さっそく見てみようかと思います。仰る通り、新しい本で紹介されるのは珍しいのではないでしょうか。情報ありがとうございます!

新しくない英語の本で、ダヌッソがコンクリートスラブを交差はりで置換して解析したというのを読んだことがありますが、それがRC規準などでお馴染の方法の起源なのかは未確認です。
神田霞dot 2016.05.09 23:39 | 編集
高等建築学26巻(S10年)をパラパラ見てますが、多質点系応答の時にやはり慣性力に着目してますね。
不静定モノは変位を出すのがクソ面倒なので、変位には冷淡で力に着目しているのではないかと勝手に思っています。
whitefoxdot 2016.05.11 19:05 | 編集
文献1(L. Sorrentino)には、以下のような記述もあります。

By the way, the advantage of using total quantities has been highlighted also more recently (Uang and Bertero, 1990).

この文献として以下が示されています。

Uang, C.M. and Bertero, V.V. (1990). "Evaluation of Seismic Energy in Structures", Earthquake Engineering & Structural Dynamics, Vol. 19, No. 1, pp. 77 90.

絶対量を使うメリットが出ているようですが、内容は未確認です。。。
神田霞dot 2016.05.12 23:21 | 編集
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