FC2ブログ

建築構造学事始

フレミングの連続ポータルメソッド

「高層架構の近似解法(風荷重を受ける場合)」の続き。以前の記事はこちら

今回は4つの近似解法の一つであるフレミング(R. Fleming)の連続ポータルメソッド(Continuous Portal Method)について。これでこのシリーズの記事は終了である。

内藤多仲の「架構建築耐震構造論 (II)」での該当部分(文献 1、p. 448)を、模写した説明図と共に以下に再掲する(図中の白丸は反曲点の位置を示している)。

art232_fig1.jpg

III. Continuous Portal Method.

1. 架構は相連續せる「ポータル」として作用する事
2. 柱の虚點はその中央にありとす。
3. 柱に於ける直應力は架構の中軸よりの距離に比例するものとす。
4. 柱に於ける剪力は均一なりとす。

また、元ネタの「ウィルソンとマネー」での連続ポータルメソッドの言及部分は以下(文献 2、p.7)。

Assumptions in Method III.

1. A bent of a frame acts as a continuous portal.
2. The point of contra-flexure of each column is at mid-height of the story.
3. The direct stress in a column is directly proportional to the distance from the column to the neutral axis of the bent.
4. The shear is the same on all columns of a story.

現在、一般的に「ポータルメソッド」と言えば、以前の記事に示した"単なる"ポータルメソッドを指すようである。今回の連続ポータルメソッドとの違いについては、上記の仮定と図を以前の記事のものと見比べて欲しい。

「見比べて欲しい」と書きながら自分で見比べていたら、以前の記事に間違いと思われる個所を発見してしまった。"単なる"ポータルメソッドの仮定では、内柱のせん断力は外柱のせん断力の2倍であるのに、図では全て同じような書き方をしてしまっていた。

だが、これは文献 1 に掲載されている図(第四十七図)をそのまま書き写したものなので、悪いのは筆者ではなく内藤多仲である(笑)。遅まきながら、以前の記事を修正しておいた(図中の柱のせん断力に関する注意書きを加筆)。

話を戻して、連続ポータルメソッドに対する内藤多仲の講評を以下に示そう(文献 1、p. 452)。

・結果に對する批判

 柱に於ける剪力の分布を均一とせる為め柱の曲能率は皆 Sn h/10 となるも梁に於ては非常に不均一となり、外側の梁間に於てはその一端は h (Sn + Sn-1) / 10 となるも他端に於ては0となる、その次の梁間に於ても同様一端の曲能率は他端のものの二倍となる。かく不均一の分布を来すことは實際有り得べからざる所第一章の諸種の例に徴しても明かなり。

 抑も剪力の分布均一なりと云ふことと直應力が中軸よりの距離に比例すと云ふこととは一般の梁に於ては兩立せざる事項なりとす。
 この法に依る時は外側の張間に於ける梁の虚點は5張間以上の架構にあつてはその張間の内に来らざる如き矛盾を生ず。

 かくの如くこの方法に依つて得たる結果は理論上信頼するに足らざるものと稱することを得べし。

と、この方法も他の方法と同様"ダメ認定"されている。そういう流れで文献 1 を含めた一連の論文において「内藤の D 値法」が登場するのである。

だが、以前も書いたように、真島健三郎は「内藤の D 値法」は煩雑すぎて実用的でないとの考えから、簡便さを優先する近似解法の方を推している。この辺は価値観にも依ると思えるが、文献 3 や 4 で真島健三郎は執拗ともとれる内藤多仲への攻撃を展開している。興味のある方は参照されたい。


参考文献

  1. 内藤多仲 : 架構建築耐震構造論 (二) 建築雑誌 No.437 p.441-467 大正11年(1922年)11月

  2. W. M. Wilson and G. A. Maney : Wind stresses in the steel frames of office buildings, University of Illinois Engineering Experiment Station, Bulletin 80, June, 1915

  3. 真島健三郎:重層架構建築耐震構造論 土木学会誌 第十二巻 第二号 大正十五年四月(1926年4月)

  4. 真島健三郎:地震と建築 丸善 1930年6月




スポンサーサイト



スミスそれともフレミング?のポータルメソッド

前回からの続き。

今回はポータルメソッド(Portal Method)について。4つの解法の中で比較的知られているとしたらこの方法ではないだろうか。

ただ、以前も書いたように、文献 2 ではこの手法の発案者はスミス(Albert Smith)ということになっているが、文献 1 も含めて他の文献ではスミスの名はスルーされている。どういう事情があったのか気になったので少し調べてみたが、確たる情報には辿りつけなかった。。。

アメリカで出版されている本だとポータルメソッドを解説しているものが結構あるので、アメリカの大学では今でも普通に教えられているのかも知れない。現在の日本の大学でポータルメソッドを教えている所はおそらく稀有だろう。筆者自身も名前を聞いた程度でちゃんと学んだ記憶は無い。

内藤多仲の「架構建築耐震構造論 (II)」での本手法に該当する部分(文献 1、p. 447)を、模写した説明図と共に以下に再掲する(図中の白丸は反曲点の位置を示している)。

art231_fig1.jpg

II-A. Portal Method

この法に於ける假定は次の如し。

1. 柱の虚點はその中央にありとす。
2. 梁の虚點もその中央にありとす。
3. 柱の剪力は外部のものを内部のものの半分なりとす、而して内部のものは皆相等しとするを以て内部柱の剪力は全外剪力を張間の數にて除したるものとなり、外部のものはその半分となる。
4. 柱の直應力は内部のものに於て0. 外部の柱のみ直應力を起すものとす。

注意: 上記の図は文献 1 の図を模写したものである。図中の柱のせん断力は、どれも Sn /2 となっており、仮定 3 の「柱の剪力は外部のものを内部のものの半分なりとす」と合っていない。これは図の誤りと思われる。内柱については Sn とするのが正しいと思われる。

仮定 3 と仮定 4 の条件については、こちらに示した「趣味の構造力学」の解答が似たようなものとして挙げられる。

この記事から読み始めた人用に文献 1 と文献 2 の用語の対応を再度以下に示しておこう。

 虚點 →  point of contra-flexure
 剪力、應剪力 → shear
 直應力 → direct stress
 曲能率 → bending moment

内藤のソースに当たるウィルソンとマネーの該当部分を以下に示す(文献 2、p.7)。

(b) Smith's Methods. Professor Albert Smith, in a paper before the Western Society of Engineers, describes a method which he has used in his classes in Structural Engineering at Purdue University.: This method is here designated as Method IV.

Assumptions in Method IV.

1. The point of contra-flexure of each column is at mid-height of the story.
2. The point of contra-flexure of each girder is at its mid-length.
3. The shears on the internal columns are equal and the shear on each external column is equal to one-half of the shear on an interior column.

* Wind Bracing without Diagonals for Steel-Frame Office Buildings, Engineering News, March 13, 1913.

こちらは仮定 3 までしなかく、内藤の方は仮定 4 まであるが、仮定 3 と仮定 4 は従属関係にあるので、内藤は条件をより明確にするために項目を分けたのではないかと思われる。

この手法に対する内藤の講評は以下の通り(文献 1、p. 450)。

結果に對する批判

(1) 柱に於ける剪力の分布は外側のものを内部のものの半分とせるは最下階を除き實際に良く適合するものの如し Equal shear method に比し遙に勝りて合理的なりと云ふを得べし。

(2) 柱に於ける曲能率は内部に於ては皆相等しく外側のものは其半分なり、從って梁に於ては總てを通じて同一階のものは同一の曲能率を受くることとなる。これ最下階を除き第一章に得たる所と能く一致す、最下階に於ては實際柱の虚點は中央より上昇し剪力も亦外側のものは幾分大となるを以てこの方法に依る假定は相當大なる誤差を生ずることとなる、この方法の缺點はここに存在す。

と、この方法にも大きな欠点があるとの結論だが、前回のイコール・シア・メソッドよりはかなり有用性があると認めているように読める。

そういえば、大学の講義で内藤はポータルメソッドを教えていたことを、竹山謙三郎が「内藤先生と計算尺」と題した記事の中で書いていたのだった(こちらの記事を参照)。


参考文献

  1. 内藤多仲 : 架構建築耐震構造論 (二) 建築雑誌 No.437 p.441-467 大正11年(1922年)11月

  2. W. M. Wilson and G. A. Maney : Wind stresses in the steel frames of office buildings, University of Illinois Engineering Experiment Station, Bulletin 80, June, 1915




フレミングのイコール・シア・メソッド

「高層架構の近似解法(風荷重を受ける場合)」の続き。以前の記事はこちら

今回は4つの近似解法の一つであるフレミング(R. Fleming)のイコール・シア・メソッド(Equal Shear Method)について。

直訳すると「等せん断法」である。以前の記事で Cantilever Method をカンチレバーメソッドと書いてしまったので、カタカナ語が好きなわけではないのだが今回もその流れを踏襲してカタカナ名を使用する。

内藤多仲の「架構建築耐震構造論 (II)」での該当部分(文献 1、p. 447)を模写した説明図と共に以下に再掲する(図中の白丸は反曲点の位置を示している)。

Equal_shear_fig1.jpg

II. Equal shear method.

次の如き假定を為す。

1. 架構は連續せるポータルとして働くものとす
2. 柱の虚點はその中央部にありとす。
3. 同一階の柱の應剪力は皆均一なりとす。
4. 連續せるポータルの柱は一方壓力を受くると同時に張力を受くると考へらるるを以て内部の柱の直應力は0とし、外部のみ作用するものとす。


古語(?)の対訳を書いておくと、「虚點」 → 変曲点、「應剪力」 → せん断力、「壓力」 → 圧縮軸力である。

このソースであるウィルソンとマネーの該当部分を以下に示す(文献 2、p.6)。

Assumptions in Method II.

1. A bent of a frame acts as a series of portals.
2. The point of contra-flexure of each column is at mid-height of the story.
3. The shear is the same on all columns of a story.
4. Each pair of adjacent columns of a bent acts as a portal, and each interior column is a member of two adjacent portals. The direct stress in an interior column, when the column is considered as a member of the portal on one side, is of opposite sign from the direct stress in the same column when considered as a member of the portal on the opposite side and the resultant direct stress is equal to zero.


内藤多仲は、この手法を例題に適用して得られた結果に対して以下のような批判を行っている(文献 1、p. 449)。尚、文中の「曲能率」とは、曲げモーメントのことである。

・結果に對する批判

 (1) 柱に於ける剪力の分布を均一とせることは第一章に得たる種々の結果に照し其の不當なるを知るべし、梁が非常に剛なる場合即 β=∞ の如き時は然るべきも普通の場合即 β=1 附近に於ては外側柱の剪力は常に内側のものより小なり。

 (2) 柱に於ける曲能率 全部同一即 Sn h/10 にして簡単なるも實際は内部柱の M が大にして外部のものが小なるべきなり、この點に於ても相當の誤差は免れ難し。

 (3) 梁に於ける曲率 は外側の梁間に於けるもの著しく大となる、これ剪力の分布を均一となしたる爲にして、その結果曲能率の分布非常に不均一となり第一章に説ける數種の場合に照合し相當の誤差あるを知るべし(第五十三圖參照)。


イコール・シア・メソッドを含めた4つの近似解法は、どれも手計算前提の方法である。現代から見ると、精度に問題があるとはいえ、簡便に計算を行うために様々な工夫を凝らしていることが興味深い。


参考文献

  1. 内藤多仲 : 架構建築耐震構造論 (二) 建築雑誌 No.437 p.441-467 大正11年(1922年)11月

  2. W. M. Wilson and G. A. Maney : Wind stresses in the steel frames of office buildings, University of Illinois Engineering Experiment Station, Bulletin 80, June, 1915





 | HOME |  古い記事へ »

文字サイズの変更

プロフィール

かすみ

Author:かすみ
建築構造を生業とする者です。

このブログでは、建築構造の歴史にまつわる話を書いてみようかと思っています。

メール:kasumi.kanda16@gmail.com

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (2)
建築構造史 (51)
用語 (25)
耐震工学 (6)
その他 (20)
構造解析 (36)
地震工学史 (37)
構造設計 (10)
鋼構造 (7)
木造 (2)
材力、構力 (25)
本 (9)
科学者伝 (3)
構造物探訪 (4)
構造一般 (1)
防災 (1)
建築一般 (1)
数学 (1)

カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

Template by たけやん