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建築構造学事始

みんな知ってる数値積分法

先日、毎月届くとある雑誌(文献 1)を読んでいると、建築構造史の年表(1945年~)が出ていたのでつくづくと眺め入ってしまった。筆者も以前からコツコツと構造史の年表を自作しているので、他人の作成した年表には興味をそそられるのである。

筆者の自作年表は、何か調べた折などに備忘録代わりに書き込まれることが多いため、滅多やたらと多くの事柄が書き込まれている年もあれば、全く空白の年もある偏った代物となっている。

こちらの年表は、歴史上の出来事がバランスよく挙げられているものの、あまり密度は濃くない。もっと言えば、かなりスカスカである。記載の出来事は厳選されたものと言ってよさそうだ。

表は「建築関連の出来事」、「計算機・解析技術」、「自然災害」、「設計・工法」、「材料・施工」、「構造規基準等」という6つの内容に分類されている。

「建築関連の出来事」の一番目に1945年の"タコマ橋落橋"がエントリーしていて、「それって土木では?」とつっこみたくなるが、それはまあ置いておこう。

「規基準」や「自然災害」などのカテゴリは至極尤もなものが選ばれているようだ。特異な感じを受けるのは「計算機・解析技術」部門である。

FORTRAN に異論は無いものの、Python が選ばれているのは少し早すぎるようにも思えるし、Shopbot や Rhinoceros なんてものはメジャーなんだろうか?筆者は Shopbot が何なのか寡聞にして知らないのだが。。。

そういった中にあって "Newmark-β法"が選ばれているのは順当と言ってよいだろう。 "Newmark-β法"は、構造分野で最もメジャーな数値積分法であるし、構造系の人であればニューマークの名を知らない者はないだろうから。筆者自作の年表にももちろん1959年の欄に"Newmark法"が記入されている。

筆者はかなり前にこの有名な数値積分法についてちょっと調べたことがある。それは実務上の必要性からというよりは、「なんで a じゃなくて β なの?」というどうでもいい疑問に対する答えを見つけてスッキリしておきたかったというのがある。「β と γ が登場するのに a はどこへ行ったんだー」と悩んだのは筆者だけだろうか?

ニューマークの論文を読んだ時のメモが残っているので、かなり内容を忘れてしまっているが後日それについて書いてみよう。


参考文献

  1. 日本建築学会:建築雑誌・第133集・1712号 2018年6月


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エレガントな別解

カスチリアーノの定理には二つあるが、今回の話題は変位を求める方のカスチリアーノの定理に端を発するものである。

この定理をかなり大雑把に説明すると、外力の関数として表現された構造物のひずみエネルギを着目する外力で偏微分するとその外力の作用点の変位が求まる、ということになる。

このことを、下図に示すような一本のフツーの棒を引張るという簡単な例で確認してみよう("フツー"とは均質で等断面 etc.といったこと)。この棒はフックの法則に従う材料で出来ているとすると、外力 P とたわみ y の関係も下右図に示すような線形である。

Engesser_fig1.jpg

比例定数を k とすれば、

Engesser_fig2.jpg

と書ける(軸剛性を EA、棒の長さを L とするなら k = EA/L)。たわみ y として表現すれば、

Engesser_fig3.jpg

である。外力がゼロから P まで増えた時にこの棒に蓄えられるひずみエネルギは、上右図の縦縞で示した部分の面積であるから、

Engesser_fig4.jpg

となる。これを P で微分すると、

Engesser_fig5.jpg

となり、たわみ y が求まることが確認できる。

例題として意図的に簡単なものを選んだが、実際上のもっと複雑な問題にカスチリアーノの定理を使う時には気を付けないといけないことが幾つかある。例えば、ティモシェンコの本(文献 1)の "61. Strain Energy and Castigliano's Theorem" の脚注(p.290)には以下のような記述がある。

カスチリアーノは、Pi は独立な力であると述べている。 ...

Castigliano remarks that Pi are the independent forces. ...

荷重が複数ある場合は、それらは独立であるという条件が付いているのである。

また、外力と変位の関係が線形でない場合にもカスチリアーノの定理は適用できないことにも注意しよう。これについて見るために、上記の一本棒の問題を少し拡張してみよう。どのように拡張するかというと、外力 P が以下のようにたわみ y の指数関数で表されるとするのである(これは、文献 2 の Chapter 5 "Energy methods" に示されているもの)。

Engesser_fig6.jpg

式中の k と n は定数である。先に見た例は、n = 1 として本ケースに含まれる。ひずみエネルギを P の関数として表す準備として先に dy を dP で表しておくと、

Engesser_fig7.jpg

である。これを用いてひずみエネルギは、

Engesser_fig8.jpg

となる。これを P で微分すると、

Engesser_fig9.jpg

が得られる。これは、指数 n が 1 の時は y と一致するが、n = 1 以外では y とは異なることが分かる。外力と変位の関係が非線形な場合にカスチリアーノの定理は使えないのである。

では、非線形な場合はどうすればよいのだろうか?それに答えたのが、前回引用したエンゲッサー(F. Engesser)である。そしてそのアプローチは意外なほどシンプルでエレガントである。

カスチリアーノの定理では、ひずみエネルギが使用される。これに対してエンゲッサーが着目したのはコンプリメンタリエネルギである。

下図の「縦の短冊」を積分したのがひずみエネルギだが、「横の短冊」を縦軸に沿って積分した量に当たるのがコンプリメンタリエネルギ(コンプリメンタリひずみエネルギ、補ひずみエネルギ、補足エネルギ、など呼び方は色々ある)である。

Engesser_fig10.jpg

一本棒の例におけるひずみエネルギ U とコンプリメンタリエネルギ V を式で表すと以下のようになる。

Engesser_fig11.jpg

物理的な意味を考えるとひずみエネルギに着目してしまう。だが、物理的な意味などに頓着しない数学星人に変位を求めて下さいと尋ねれば、以下のように迷わずコンプリメンタリエネルギを微分するだろう。

Engesser_fig12.jpg

実に簡単に変位が求まってしまった。ここに P と y が線形であるとかないとかの条件は何も入っていない。つまり非線形にも適用できるということになる。

「横の短冊」に着目するのは簡単なように思えるが、常人にはなかなか思いつくものではないのではないか。よく気が付いたなエンゲッサー、と感心してしまうが、この成果は発表当時(そしてその後ずっと)殆ど誰からも相手にされなかったようだ。

その理由はウエスタガード(H. M. Westergaard)によると、まだ線形問題が中心で非線形問題を扱うまでに至っていなかったからだそうである。文献 3 には以下のような記述がある(拙訳と原文)。

エンゲッサーの理論は、フックの法則を超える領域にも適用される。カスチリアーノの方法を含むだけでなく、特殊な応用として温度応力に関するミュラーブレズローの手法をも含んでいる。

1912 年に Gruening がこの分野のレビューでエンゲッサーの仕事を引用して論じているが、それ以外は殆ど注目されていない。

これについての尤もらしい説明は、これまでの構造解析の主たる関心は比例限以下の応力にあるのであり、座屈や振動への応用は認識されていなかったからである。

Engesser's theory applies beyond the range of Hooke's law; it includes not only Castigliano's method but also Mueller-Breslau's procedure for tempeature stresses as special applications.

In his review of the field in 1912 Gruening quoted and discussed Engesser's contribution, but otherwise it had received little attention.

A plausible explanation is that structural analysis has been concerned mainly with stresses below the propotional limit, and the applicability to buckling and vibrations had not been realized.

エンゲッサーが彼の理論を発表したのが 1889 年。ウエスタガードがその埋もれた功績に光を当てたのが 1942 年。実に 50 年以上の時間が流れている。ウエスタガードの論文にはエンゲッサー理論のちゃんとした説明(本記事のように大雑把なものではない)が出ているので、興味のある方は参照されたい。応用例としてトラスの問題と柱の座屈問題が示されている。ティモシェンコは文献 1 でウエスタガードを引用しているが、例題としては、下図のようなピンで結合された2本の棒の変位を求める問題を挙げている。


Engesser_fig13.jpg


参考文献

  1. S. P. Timoshenko : History of Strength of Materials, 1953

  2. T. H. G. Megson : Aircraft Structures for Engineering Students, 6th edition.

  3. H. M. Westergaard : On the method of complementary energy and its application to structures stressed beyond its proportional limit, to buckling and vibrations, and to suspension bridges, Proccedings of the American Society of Civil Engineers, Vol. 68, No. 2, Transaction No. 107, p. 765-793, 1942.





ビルトイン応力をどう考える?(その2)

最近よく聞く言葉に「一周まわって○○」というのがある。オフィシャルな場でこの言葉を聞かされた時には面食らってしまったが、なかなか言い得て妙な表現だと感心してしまった。というのもそういった現象をよく見かけるからである。

例えば、建物のデザインもその例と言えそうである。はじめは簡素な意匠からスタートするが、だんだん装飾が付き始め、その装飾が過度になり、明らかに不要なものまで付くに及んでこれではあんまりだと再び簡素に回帰するといったサイクルがあるように思える。

コンピュータ関連用語としての"クラウド"も最近頻繁に耳にする言葉である。データや機能の多くをサーバー側が受け持つ構成である。これも二昔前くらいの、端末から大型コンピューターにアクセスする形態に少なくとも概念上は戻ったと言えそうだ。個々のクライアントで管理するよりセキュリティ上も安全と思われているようだが、そのうち大規模な情報漏洩などの事故が起きるかもしれない。そうするとまたクライアント主体に戻そうなんてことになるのかも知れない。

前置きが長くなったが、何の話かというと塑性設計についてである。塑性設計も"一周まわった"のかも知れない。というのも最近は地震時に建物を塑性化させないように設計すべきとの意見をよく聞くようになったからである。

「弾性設計」が叫ばれるようになった背景には、人命は助かっても地震後に建物が使えないのでは困るという社会的な要請があるようである。また、社会全体のコストとして考えるなら、地震で壊れた建物や街を修復するよりも始めから壊さないように作っておくほうが安上がりということもあるようだ。この現実的な選択肢は、耐震より免震であろうか。

「建築物のリミットデザイン」は、まだ牧歌的(?)な時代のものであり、塑性設計がこれから広まろうとする時点で書かれたものである。弾性計算に基づく許容応力度設計の不合理さや矛盾点がこれでもかというほど挙げられていて、本の内容を一言で要約するな"塑性設計のすすめ"であろうか。

前回からの続きを見ていこう。

 温度応力のような現象を正面からとらえて設計して行こうという立場をとりながら、長期許容応力度はそのまま固執しようという人達の中にも次の様な二つの考えがある様である。

第一は塑性を容認して行こうという塑性許容型の人達である。この人達は起り得る応力をできるだけ忠実に計算して行くが、許容応力度で抑えると断面が太くなって困るので塑性を考慮に入れようとしている。

即ち「弾性計算にせよ、塑性計算にせよ、いずれも構造設計の武器であるから、弾性計算のみに縛られる必要はなく、適当に塑性計算を取り入れればよい。これを使いこなすことは設計者の自由である」(竹山謙三郎:再び構造計算法と建築物の安全性について、建築雑誌、昭和 30 年 6 月)という考え方である。

非常に自由な考え方でよい様に思えるが、長期許容応力度が存在する限り、この応力を超える応力が生じてはいけないから、どうしても許容応力度の大きさで塑性域が生ずると考えなければ工合が悪くなる。

塑性域が全然生じない低い応力で、塑性を認めるのであるからこの様な考え方は現象に忠実ならんとする立場から見ると、大分無理な考え方になっているわけである。事実をゆがめて見ることになっている。弾性計算や塑性計算を自由に使いこなす為には、応力は降伏点まで上り得るように低い許容応力を撤廃しなければ塑性計算は使いこなすことはできない。

竹山謙三郎は、"守旧派"の代表である。それでこの本では何度も攻撃対象(と言っては言い過ぎだが)として登場する。

 次の型は、長期許容応力度を超えることが起るのは時と場合によっては仕方がないが、超えた時には建築主事を説得するか、建築主事にあやまればよいという建築主事陳謝型である。この考え方は大変素直である。
 
 が、建築主事というものは建築基準法を守るのがその役目であるから、法規が犯されているのを許すわけにはいくまいし、設計者の側から云えば、施工順序とか、工作上の歪みとか、温度応力とか、現象をこまかに取り上げる優れた技術者程、謝る回数が多いのでは、長期許容応力度は良心的技術者を謝らす為に存在するようなものであると云えないだろうか。

 こう考えて来ると「できるだけ真実に近い応力を計算して、それを許容応力度以内におさめる」という現行設計法の立場の中で、「真実に近い応力を計算すること」と「応力を許容応力度以内に収めること」とは衝突するものであることが明らかになった。

そこで「真実に近い応力を計算すること」と「応力を許容応力度以内に収めること」との、どちらかに軍配を上げなければおさまらないわけであるが、科学技術者の立場として「真実」に退場願うわけにはいかない。どうしても「許容応力度」に引きさがって貰う以外に手がないように思う。

この辺りは"現場"を経験する人と意見の分かれるところだろうか。これまで問題ないのであればなるべくは変えたくないという心理が現場にはあるように思える。

この後に塑性崩壊荷重は元応力や元歪の影響を受けないことを示す簡単な例題が示されている。引用しようとすると図を作ったりと大変なのでこれは省略して先に進もう。

 このような遊戯じみた簡単な例題一つから、崩壊荷重は温度応力や基礎沈下に無関係に一定であることを結論づけるのは早計であると考えられる心配性の方の為に、再びここに梅村魁博士の論文(塑性ラーメンの自己歪応力と終局強度、建築学会研究報告、第 31 号、昭和 30 年 5 月) から引用さして頂こう。『完全塑性をもつラーメンの崩壊荷重は自己歪応力の有無に無関係である

 更に権威をそえる為に limit design の総本山である Brown 大学の Prager 教授一派の論文から、次の定理を引用しておこう。

Initial stress or deformations have no effect on collapse providing the geometry is essentially unaltered.』 (D. C. Drucker, W. Prager, H. J. Greenberg, : Extended limit theorems for continuous media, Q. Appl. Math. Vol. IX, No. 4, 1952)

 温度応力や基礎沈下による応力などは構造物が崩壊する荷重 - 終局荷重 - には関係がないわけであるから、構造物の強さを確保するという立場からは、取り上げる必要はない。

応力の大きさに重きを置く現行の設計法の考え方では、応力が許容応力度を超えて困ることが屡々起るが、構造物が荷重を支える能力を基準にして考える設計法 - 終局荷重設計法 - では、温度変化や基礎沈下によって起る応力の大きさは取り上げる必要がないわけである。


LRFDや限界状態設計と呼ばれる設計法では、荷重と耐力(または抵抗)とを比較することで構造物の設計が行われる。許容応力度設計法とは設計思想が異なっているわけだが、許容応力度設計法も特殊な条件での LRFD と言えるので、LRFD のカテゴリーに含めることもできる。

引用が長くなってしまうが、あと少しなので最後まで書き写してしまおう。

 それでは、温度変化や基礎沈下は全然問題にする必要はないか - というと、そういうわけにはゆかない。構造物は常時に於て大変形を起しては困るからである。従って、温度変化や基礎沈下の問題は変形の面から取り上げるべきである。

問題は応力の大きさが許容応力を超えるかどうかにあるのではなくて、温度変化や基礎沈下などによって、変形が使用上の障害になる程大きいかどうかにある。変形の大きさがどの位で障害になるかという事について、現在ハッキリ定った規準もないし、又どう計算にのせるかという事も今後の研究問題であるが、何れは解決されていかねばならない問題である。

 ともあれ、温度変化や基礎沈下の問題を構造計算にのせていこうとするとき、計算が強度確保を目的とするものであれ、使用上の障害防止を目標とするものであれ、許容応力度を用いて、応力の大きさをチェックすることは無意味である。

強度計算は終局荷重で行い、変形計算は変形計算で別に計算するような設計法を確立しなければならない。低い許容応力で強さも変形もカバーしようというのでは、少々慾が深すぎるようである。(「建築界」昭和 30 年 12 月 田中)

温度変化や基礎沈下が崩壊荷重に影響しないというのは教科書的には正しいことだろうが、先日書いたようにハウスナーはビルトイン応力の影響によって想定していない崩壊が起きる可能性があるとしてこれに異論を唱えている。

鉄筋コンクリートの授業で鉄筋とコンクリートの熱膨張率がほぼ同じというのを教わったときは「へぇー、なんともありがたい偶然の一致」とえらく感心した記憶があるが、よくよく考えると事はそんなに単純ではないのかも知れない。

RCのはりや柱の内部の温度勾配の存在や鉄筋とコンクリートの比熱の違いなどを考慮すると、鉄筋とコンクリートが仲良く同じ温度の状態にあるのか疑問に思えるのである(誰かその辺に詳しい方がいたら教えて下さい)。



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