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建築構造学事始

多スパンラーメンの問題(はりのせん断力を一定にできる?)

久しぶりに「たわみ角法」界隈の資料を見直していたら、以前採り上げようと思っていた構造力学の問題が出て来たので、以下にそれを示そう。

但し、この問題は筆者が自作したものではなく、「趣味の構造力学」に出ているものである(文献 1、p.186)。昭和11年(1936年)11月の「建築世界」に掲載された懸賞問題だそうだ(下に示す図は、いずれも文献 1 に出ているものを筆者が模写したもの)。

下のごときラーメンの梁の剪断力を一定ならしむことは可能なりや否や。

art220_fig1.jpg

とてもシンプルな設問である。注釈を付けたくなるが、余計なことはやめておこう。以下に解答を示しているので、腕試しをしたい方はここで一旦読むのをやめて問題にトライされたい。

解答(文献 1 に示される小野薰氏の「講評」)は以下の通り。

◇ 講 評  小野 薰

 本問の要求するところは各材の剛比を調節することによって梁の剪断力を互いに等しくすることができるかどうかを調べなさいというのであるから、少なくとも一つの場合さえ見出すことができれば、「可能なり」という解答を得るわけである。

ただしようやく見付けた唯一つの場合、または数種の場合のみに梁の剪断力は等しくなり、これらの場合以外には梁の剪断力が等しくならないと断じてしまうのは早計である。なぜならこれ以外にはないという証明は別にしなければならない性質のものであって、また本問はそこまで要求していないのである。

(範 解)
(本解は島崎君の答案を参考にしたものである)

 梁の剪断力に変化を与える原因は中間柱の軸方向力であるから、この中間柱の軸方向力が零になるような場合があるかどうかを考えてみよう。

 今右図(筆者注 ここでは下図に示す)のごとき3個のラーメンを想像してみるにその変形および応力状態は互いに等しいから、これを合成して考えれば、中間柱の軸方向力が存在しない3スパンのラーメンを得る。

art220_fig2.jpg

 すなわち、内柱の剛比が外柱の剛比の2倍で、各梁の剛比が相等しい時は、梁の剪断力は一定となる。

 もちろん、この場合ばかりでなく、一般には梁の剪断力を一定ならしむる場合は無数に存在するのであるが、少なくとも上の場合には梁の剪断力は一定になるのであるから、本問の解答は「可能なり」ということになる。

文中の"島崎君"とは、この懸賞問題で1等賞3円也を獲得した島崎栄蔵氏(誰?)のことである。実にシンプルで無駄のない解答であり、1等に入賞したのも頷ける。

「講評」は以上で終わりである。この問題には歴史的な背景がある、と筆者には思えるのだが、それについてのコメントは特に無いのである。それで、差し出がましくも後日そのことについて書いてみたい。。


参考文献

  1. 武藤 清/二見秀雄:趣味の構造力学 市ケ谷出版社 1983年7月




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「はね出しはり」の支持点の最適な位置

またまた必要ないとは思うが、前回の記事の補足。「はね出しはり」の支持点をどこに取るのが良いか?の導出を示しておこう。

左右対称な場合を考えているので、左半分で議論することにする。はりの長さを L で表し、左端を原点として右向きに x 軸を取り、支持点の x を a( 0 ≦ a ≦ L/2 )とする。

art216_fig1.jpg

支持点より左側( x < a )で曲げモーメントの絶対値が最大になることは無いので、支持点から中央までの範囲( a ≦ x ≦ L/2 )に着目すると、曲げモーメントの式は以下で与えられる。

art216_eq1.jpg

曲げモーメントは下端引張の場合を正とすることが多いと思うが、後で曲げモーメント図を Excel で作る都合から上端引張の場合を正としている。

a を 0 から 0.5 まで 0.1 刻みで変化させた時の曲げモーメント分布を以下に示す。

art216_fig2.jpg

縦軸は、M(x) を qL2/8 で除して無次元化しているので、本来は 8M/(qL2) と書くべきである。だが、分かりにくいかと思ったので、図には (* qL2/8) を付ける表記としたが、これは縦軸のすぐ横にでも配置しておく方がいいものである。

念のため M(x) を x で微分して M(x) の増減を確認してみる。

art216_eq2.jpg

これより、a ≦ x < L/2 において dM(x)/dx < 0 であるから M(x) は単調減少となり、|M(x)|( M(x) の絶対値)は、x = a または L/2 で最大となる。つまり、x = a と L/2 のみの |M(x)| を押さえておけばよい。

M(a) は以下となる。

art216_eq3.jpg

これより、a が 0 から L/2 へと変化する過程で |M(a)| は単調に増加する。

M(L/2) は以下となる。

art216_eq4.jpg

これより、a が 0 から L/4 へと変化する過程で |M(L/2)| は単調に減少する。a = L/4 以降では、|M(L/2)| は単調増加となるが、先に見たように |M(a)| を超えることは無い。

以上のことをグラフに描いたのが以下。

art216_fig3.jpg

縦軸は、上記と同様、|M| を qL2/8 で除して無次元化しているので、本来であれば 8M/(qL2) と書くべきものである。

グラフから分かるように、|M(x)| の最大値が最小となる(最も安全となる)のは、2つの曲線の交点(|M(a)| = |M(L/2)|)においてである。

式にすると以下。

art216_eq5.jpg

整理して、

art216_eq5_2.jpg

これを解いて2つの根を得るが、0 ≦ a ≦ L/2 の条件を満たす以下が求める解である。

art216_eq6.jpg

この時の曲げモーメントの大きさは、

art216_eq7.jpg

前回の記事でこれらの式を √ を含む形のままにしていたのは、値のイメージが掴めないのでよろしくなかった。。。なので、今回はズボラをせずに小数で表した式も示すことにした(ティモシェンコの本(文献 1 )では小数で記述されている)。

曲げモーメント分布の図も若干修正して以下に示す。黒い曲線が「はね出しはり」、赤い曲線が「両端支持はり」なのは前回と同じである。

art216_fig4.jpg


参考文献

  1. チモシェンコ著 鵜戸口英善、国尾 武訳:材料力学 上巻 東京図書 1957年4月




両端支持はり vs. はね出しはり

先日の石柱保管問題では支持点のレベルが問題であったが、今回は支持点の水平位置が主題である。

ガリレオのおかげで支持点は3つよりも2つの方が良いことが分かった。では、2つの支持点をどこに取るのが良いのか、あるいはどこに取っても大差ないのかを確認してみよう。

以下では"石柱"と呼ぶ代わりに、材料力学のモデルである"はり"という言葉を使うことにする。両端単純支持の場合を「両端支持はり」、支持点が両端より内側にあり、いわゆるはね出し部を持つ場合を「はね出しはり」と呼ぶことにする。尚、問題を簡単にするため、2つの支持点は左右対称な位置にあるものとする。


fig_beam_with_overhangs.jpg

はりのどこかで曲げモーメントの絶対値が最大になるが、この最大値( M max で表す)が小さいほどはりは安全であり、石柱なら折れにくいと言える。逆に M max が大きくなれば危険となる(絶対値と断っているのは、下側引張か上側引張かの区別は今は問題ではないからである)。

両端支持はりとはね出しはりは、M max の観点から大差ないのか、あるいは大きく異なるのか?あなたは計算をしないでイメージできるだろうか?

実は両者の M max は"劇的"と言ってもよいくらい異なるのである。はね出しはりで最も安全となる条件の支持点の位置は両端部から少しずれるだけなのに、M max は、両端支持はりの M max の僅か 17% くらいとなるのである。

Excel のグラフ機能を使って作成した両者の曲げモーメント分布を以下に示す。黒い曲線が「はね出しはり」、赤い曲線が「両端支持はり」に対応している。


fig_bend_mom.jpg


この導出は、静定問題なので特に難しいものではない。以下には答えだけ書いておこう。

まず、両端支持はりの中央の曲げモーメントの値(M c で表す)は、記憶している人も多いと思うが以下である。

art215_eq1.jpg

はね出しはりのはね出し部の長さを a とすると、曲げモーメントの大きさが最も小さくなる時の a は以下となる。

art215_eq2.jpg

その時の曲げモーメントの大きさ M は以下となる。

art215_eq3.jpg

以上は筆者によるオリジナル問題では無くて、ちゃんと元ネタが存在する。それはティモシェンコの材料力学の本(文献 1、p.164)に出ている演習問題である("38. 突出部を持つ梁の撓み"の問題 6)。問題文(の一部)は以下に示す通り。

全長に等分布荷重 q を受ける長さ l の対称支持梁がある(第 150 図)。この梁に生ずる最大曲げモーメントの絶対値をできるだけ小さくするためには、突出部の長さをいくらにすればよいか。...

ティモシェンコの本では、はね出し部の長さ(a)を求めるのに主眼があるようである。これは非常に簡単な最適設計の問題と言ってよいだろう。

だが、実際に構造物を作るという立場からは、支点の位置の僅かな違いで最大曲げモーメントがこの様に大幅に変わることもあり得るということを理解することの方が重要ではないだろうか。

というのも、このような認識が欠如していたために無残な崩壊事故を招いてしまったと思われる構造物があるからである。それは以前の記事でも採り上げたのことのある朱鷺メッセの連絡デッキである。

この連絡デッキの建設では、5スパンの連続はりとして設計されていたものを予算の関係で然るべき処置も行わずに4スパンで施工してまうという驚くべきミスが起きている(下記は文献 2 に載っている設計者である渡辺邦夫氏の言葉からの抜粋)。

渡辺●1回目のジャッキダウンのときです。僕は5スパン連続の構造を県に提出しているんです。でも、県の予算がなく、最後のスパンは次年度ということで4スパンだけ工事発注して、工事が始まりました。

「それは困る、そうしたら最後のスパンは応力が変わるから、それでは全然成り立たない」という話をして、「仮設の柱を朱鷺メッセ側の最後の柱から1列内側に1本追加してください。これは1年間仮設で建てていればいい。そうすれば、この仮設支柱の直上で曲げモーメントが上がってくるので、元設計に近い状態になる」と言ったのですが、それをやらないでジャッキダウンを始めてしまったのです。

当然、朱鷺メッセ側の支柱頂部で回転を起こして、デッキ全体が下がって、床のPC版にクラックが入って、鉄骨も傾いてしまったので、ジャッキダウンをストップしたと言うのです。

それで僕が現場に呼び出されて、「だから、ここに仮設柱を1本建てないとだめだ」という話をしたのです。その後、今度はジャッキアップして、元の位置にデッキのレベルを戻したのです。

4スパンで切って工事を発注した人、現場で工事を監督した人は構造の専門家ではなかったのだろうか?

これは根拠の無い筆者の勝手な推測であるが、仕事内容からしてこれらの人は構造の知識はあったのではないかと思う。両端支持はりもはね出しはりも曲げモーメント図を描けと言われれば、描けたのかもしれない。ただ、それらの違いを実感として認識するまでは至っていなかったのではないだろうか。

上記のような単純な問題でも計算のやり方ではなく内容をきちんと認識しているなら、構造物を途中で切っても同じだというような誤った認識に落ち着くはずはないと思うのである。


参考文献

  1. チモシェンコ著 鵜戸口英善、国尾 武訳:材料力学 上巻 東京図書 1957年4月

  2. 建築技術 No.664 朱鷺メッセ連絡デッキ落下事故「何故、落ちたのか」 最終回 対談 落下原因は「そんなことなの」 川口 衛+渡辺邦夫 2005年5月




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