2017
11.05

強度と耐力

Category: 用語
「強度」と「耐力」という言葉は、なんだか似たようなかんじの言葉である。それぞれどういう意味で何が違うのだろうか?

正確な定義は指針などに出ているが、字面だけを見ても「その心」は分かりにくい。「その心」を知るには、規準や指針を作った人たちが書いたものを読んでみるのが参考になる。

例えば、「強度」については、小野薫、田中尚共著「建築物のリミットデザイン」に以下のような記述がある(第 3 章 材料安全率の追放)。

 我々が力学を知らない原始人である場合を想像した時、一本の橋についての強度の知識は「嘗て二人一緒に渡って折れた事があるから一人づつ渡ろう」とか「前に二人で渡った時折れたからもう少し太い橋をかけよう」とかいう経験であろう。その場合橋の強度は「二人乗ったら折れるが一人なら大丈夫」という荷重の大きさで認識し、応力の大きさについての知識は全然持っていない。

このように構造物の強さを乗せうる荷重によって計るという極めて素朴な考え方は材料力学や弾性学の絢爛たる力学体系の発展の陰にかくれて現在殆んど忘れ去られている。

 然しながら構造物の強度を支持しうる荷重の大きさで計るという考え方は、素朴なだけに明快に材料安全率による現行設計法の不合理さを曝露すると共に、終局荷重設計法(ultimate load design)の合理性を主張するだろう。

材料安全率に基づく許容応力度設計というモノサシを使うなら、材料の引張試験や圧縮試験を行ってその試験結果に基づいて強度を決めればよい。だが、「材料強度=建物の強度」であるかというと、そうではないだろうというのが上記の部分の言わんとするところである。

建物の強さとは材料レベルの話ではなくて、部材レベル以上の話であるはずだ。現在、終局強度型の設計指針などでは、応力度ではなく部材や断面力に基づいて強度を考えるようになっているのをご存知かと思う。

次に「耐力」であるが、こちらも材料レベルの話ではなくて建物の耐力の話である。

強度と何が違うのかについては、梅村魁著「震害に教えられて」にある以下の記述が参考になる(p.47 "アメリカの情報に刺激され")。

 一九五〇年当時にかえって、私は鉄筋コンクリート骨組の終局耐力の問題に日夜取り組むことになった。終局強度という言葉を、終局耐力という言葉に変えたのは、強度の最高値だけでなく、それに伴う変形の問題を合わせて考える意味からである。

これは、耐爆設計を考えた場合に構造物の抵抗力と変形能力を合わせて考える、すなわち、吸収エネルギーを考えることで解決がついた経験により、耐震構造設計でも変形を考えに入れることが必要だと思ったからである。

「耐力」には、力というよりエネルギーのニュアンスがあるのである。同書には以下の記述もある(p.20の(注))。

 文中で使う用語で、少し専門的であるが、世の中ではあまりはっきり区別されていないように思う「終局強度」と「終局耐力」について、私なりに区別して使っていることにご注意頂きたい。

 終局強度は、建物や部材の外力に対する最大抵抗力(降伏点)を意味し、一般に建物はその最大抵抗力を発揮した後塑性変形を起こし、いわゆる粘り現象を呈し、抵抗力は低下しないまま、エネルギー吸収の大きな部分を占める。さらに変形が大きくなると、この抵抗力は低下する。このような塑性変形の部分も含め終局耐力と呼ぶことにしている。

 終局強度といっても、必ずしも最高抵抗力がはっきり認められない場合も多いし、終局耐力といっても、その粘りの形はさまざまであるが、概観的に差のあるところをご了解頂きたい。そして耐震構造の設計で、一九八一年の新耐震設計法までは、終局強度が計算の対象であり、新耐震設計法で具体的に終局耐力が取り入れられている。

上記の説明を読むと、荷重-変形関係における"背の高い三角形"は、"背の低い三角形+四角形"とイコールであるという耐震設計で当たり前のように出てくる話もかなり時間をかけてたどり着いた認識であることが分かる。



参考文献

  1. 小野薫、田中尚:建築物のリミットデザイン 改訂増補版 理工図書 1958年(昭和33年)4月

  2. 梅村魁:震害に教えられて 耐震構造との日月 技報堂出版 1994年4月




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2017
05.24

ヒンジの回転能力とは?

Category: 用語
前回の記事で部材の破断について書いた序に鋼構造物の塑性ヒンジの「回転能力」について触れておこう。

部材の破断を免れてもヒンジが安定的に回転してくれなければ想定通りの崩壊形にはならない。回転能力とは読んで字の如くヒンジが安定的に回転する能力のことである。

構造物が崩壊機構を形成するまでヒンジが順次形成されるわけだから、一番初めにできたヒンジは最後のヒンジができるまで頑張らなくてはならない。一番初めに生まれたヒンジは大変である。

橋梁のように比較的不静定次数が低い構造物とビルのように不静定次数が大きな構造物のヒンジでは要求される回転能力も異なると言えそうである。ヒンジは自分が生まれ落ちたコミュニティー(?)に応じて、時に理不尽さに耐えつつ役割を果たさなくてはならないのである。

余談はこのくらいにして AISC LRFD(文献 1)に示される回転能力の説明部分を以下に示そう(拙訳と原文)。

回転能力: 与えられた断面形が局部破壊するまでに受容可能な増分回転角であり、R = (θup) - 1 で定義される。ここに、θu は係数倍荷重到達時までに得られる総回転であり、θp は M = Mp に弾性論を適用して得られる回転である。

Rotation capacity: The incremental angular rotation that a given shape prior to local failure defined as R = (θup) - 1 where θu is the overall rotation attained at the factored load state and θp is the idealized rotation corresponding to elastic theory applied to the case of M = Mp.

AISC LRFD では、圧縮材と曲げ材の断面は、フランジやウェブの幅厚比に基づいてコンパクト断面、ノンコンパクト断面、スレンダー要素断面といった断面にランク分けされる。コンパクト断面とノンコンパクト断面の境界は回転能力が 3 に相当するものとして規定されている。

はりであれば横補剛間隔もヒンジの回転能力に影響する因子である。鋼構造塑性設計指針(初版)の"5.2 横方向補剛材の間隔"には以下のような記述がある(文献2、p.90)。

曲げモーメントが低下しはじめるときの回転角を θmax とし、R = (θmaxp) - 1 を回転能力を表す係数とし、....

「回転能力」という用語はこちらに倣ったものだが、この言葉は現在では使われない方向にあるようである。最近改定されたばかりの鋼構造塑性設計指針(第3版)(文献 3)の上記の部分は書き換わっており、回転能力という言葉は出てこない。また、"1.8 用語"に出ている関連用語を示すと以下の通り。

塑性率:外力により塑性化した部材の変形(回転角)を全塑性耐力時の弾性変形(回転角)で除した値。

塑性変形倍率:部材の塑性率から弾性成分を減じた値であり、本指針では、完全弾塑性部材を考慮して弾性成分は 1.0 とする。


第1章の"1.5 塑性設計の耐震設計への適用"では、鋼構造塑性設計指針に従うと塑性変形倍率は3以上が確保されることが謳われている。

本指針の2版においては、各制限値を満足することで単調載荷時の塑性変形倍率 R がおおむね3以上となることが確認できており、3版においても基本的にその制限値を示している。

"2014 年度 鋼構造塑性設計小委員会 第2回 議事録(案)"には以下のような推敲についての記述がある。

「変形性能」と「変形能力」の表現については、「変形性能」に用語を統一する。

これは、同じ意味で言い回しが異なっていて混乱するというコメントに答えたものである。

こちらは座屈指針の方だが(2015 年度 第4回 鋼構造座屈設計小委員会 議事録)、委員の間でこれらの用語について認識の統一が図られたことが記されている(5章についてのコメント)。

p.25, 16行目の「塑性変形能力を塑性率と呼ぶこともあるが,・・・」は塑性変形能力 = R, 塑性率 = μ で, 同じではないと思います。また、R は塑性変形倍率ではないでしょうか? → 塑性率は μ, 塑性変形倍率 R = μ - 1, 塑性変形能力は広義の表現。

議事録を読むと、指針の記述がどのような議論を経て定まってきたかが分かってなかなか面白い。


参考文献

  1. AISC Manual of Steel Construction: Load and Resistance Factor Design, Second Edition, LRFD, 2nd Edition, Volume I Structural Members, Specifications, and Codes, 1994

  2. 日本建築学会 : 鋼構造塑性設計指針 1975

  3. 日本建築学会 : 鋼構造塑性設計指針 第3版 2017





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2017
04.06

単純塑性設計とは?

Category: 用語
前回の記事に出てきた「単純塑性設計」という言葉について、手近な資料に出ている説明を示しておこう。

文献 1 の Chapter 2 "The Plastic Hinge" のサマリー(2.11 Summary)に以下のような文がある(拙訳と原文)。

塑性ヒンジモデルは、骨組構造物の塑性解析を大幅に単純化し、準静的な過程としての崩壊荷重を決定する。それは単純塑性論の基礎をなす。

The plastic hinge idealization drastically simplifies the plastic analysis of framed structures and makes the full collapse load determination as a quasistatic process. It forms the basis of the simple plastic theory.

Chapter 2 ではそのような塑性ヒンジに基づいた手法を説明した、との後に以下のように書かれている。

しかし、重要度としては二次的な因子の中には、部材が全塑性モーメントに達することを妨げるものがある。軸力、せん断力、座屈および接合部の詳細といったものがそうである。これらの因子は、"単純"塑性論には含まれないが、実際の設計では考慮する必要がある。

本章では、以下の因子の影響と特性について議論し、適切な設計手順によって元の単純塑性設計と適合しているかを確認した。

・塑性モーメントを低減させる軸力とせん断力
・薄肉断面の局部座屈を生じ得る不安定性
・塑性モーメントを適切に伝達する部材の接合

However, several factors of secondary importance will prevent the member from reaching the full plastic moment. These factors include such things as axial load, shear, buckling, and connection details. These factors are not included in the "simple" plastic theory, but we must take them into account in practical design.

In this chapter, the effects and characteristics of the following factors were discussed and appropriate design procedures provided for checking the suitability of the original simple plastic design:

・ axial load and shear force that will reduce plastic moment.
・ instability that may cause local buckling of thin-walled sections.
・ connections that are properly proportioned to transmit plastic moment from one member to the other.

文献 2 の "4.2.1 鉄骨造骨組解析用の部材モデル" の (b) では以下のように「単純塑性ヒンジ」を説明している。

... 部材端部に回転の自由度だけを持つ長さがゼロのヒンジを設定し、部材軸部を弾性棒または剛棒にモデル化する。曲げに伴う塑性挙動はヒンジのモーメント-回転角関係で規定される。この関係を工夫すれば、局部座屈に伴う劣化などの複雑な挙動を、便法であるが少ない計算負荷で表現可能である。

こちらでは、軸力やせん断力を省いているという点で上記の"単純"と同様だが、局部座屈に伴う劣化までも含めている点では上記のものとニュアンスを異にするようだ。


参考文献

  1. W. F. Chen and I. Sohal : Plastic Design and Second-Order Analysis of Steel Frames, Springer-Verlag, 1995

  2. 日本建築学会 : 応用力学シリーズ 4 構造物の崩壊解析 基礎編 1997





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