2017
05.24

ヒンジの回転能力とは?

Category: 用語
前回の記事で部材の破断について書いた序に鋼構造物の塑性ヒンジの「回転能力」について触れておこう。

部材の破断を免れてもヒンジが安定的に回転してくれなければ想定通りの崩壊形にはならない。回転能力とは読んで字の如くヒンジが安定的に回転する能力のことである。

構造物が崩壊機構を形成するまでヒンジが順次形成されるわけだから、一番初めにできたヒンジは最後のヒンジができるまで頑張らなくてはならない。一番初めに生まれたヒンジは大変である。

橋梁のように比較的不静定次数が低い構造物とビルのように不静定次数が大きな構造物のヒンジでは要求される回転能力も異なると言えそうである。ヒンジは自分が生まれ落ちたコミュニティー(?)に応じて、時に理不尽さに耐えつつ役割を果たさなくてはならないのである。

余談はこのくらいにして AISC LRFD(文献 1)に示される回転能力の説明部分を以下に示そう(拙訳と原文)。

回転能力: 与えられた断面形が局部破壊するまでに受容可能な増分回転角であり、R = (θup) - 1 で定義される。ここに、θu は係数倍荷重到達時までに得られる総回転であり、θp は M = Mp に弾性論を適用して得られる回転である。

Rotation capacity: The incremental angular rotation that a given shape prior to local failure defined as R = (θup) - 1 where θu is the overall rotation attained at the factored load state and θp is the idealized rotation corresponding to elastic theory applied to the case of M = Mp.

AISC LRFD では、圧縮材と曲げ材の断面は、フランジやウェブの幅厚比に基づいてコンパクト断面、ノンコンパクト断面、スレンダー要素断面といった断面にランク分けされる。コンパクト断面とノンコンパクト断面の境界は回転能力が 3 に相当するものとして規定されている。

はりであれば横補剛間隔もヒンジの回転能力に影響する因子である。鋼構造塑性設計指針(初版)の"5.2 横方向補剛材の間隔"には以下のような記述がある(文献2、p.90)。

曲げモーメントが低下しはじめるときの回転角を θmax とし、R = (θmaxp) - 1 を回転能力を表す係数とし、....

「回転能力」という用語はこちらに倣ったものだが、この言葉は現在では使われない方向にあるようである。最近改定されたばかりの鋼構造塑性設計指針(第3版)(文献 3)の上記の部分は書き換わっており、回転能力という言葉は出てこない。また、"1.8 用語"に出ている関連用語を示すと以下の通り。

塑性率:外力により塑性化した部材の変形(回転角)を全塑性耐力時の弾性変形(回転角)で除した値。

塑性変形倍率:部材の塑性率から弾性成分を減じた値であり、本指針では、完全弾塑性部材を考慮して弾性成分は 1.0 とする。


第1章の"1.5 塑性設計の耐震設計への適用"では、鋼構造塑性設計指針に従うと塑性変形倍率は3以上が確保されることが謳われている。

本指針の2版においては、各制限値を満足することで単調載荷時の塑性変形倍率 R がおおむね3以上となることが確認できており、3版においても基本的にその制限値を示している。

"2014 年度 鋼構造塑性設計小委員会 第2回 議事録(案)"には以下のような推敲についての記述がある。

「変形性能」と「変形能力」の表現については、「変形性能」に用語を統一する。

これは、同じ意味で言い回しが異なっていて混乱するというコメントに答えたものである。

こちらは座屈指針の方だが(2015 年度 第4回 鋼構造座屈設計小委員会 議事録)、委員の間でこれらの用語について認識の統一が図られたことが記されている(5章についてのコメント)。

p.25, 16行目の「塑性変形能力を塑性率と呼ぶこともあるが,・・・」は塑性変形能力 = R, 塑性率 = μ で, 同じではないと思います。また、R は塑性変形倍率ではないでしょうか? → 塑性率は μ, 塑性変形倍率 R = μ - 1, 塑性変形能力は広義の表現。

議事録を読むと、指針の記述がどのような議論を経て定まってきたかが分かってなかなか面白い。


参考文献

  1. AISC Manual of Steel Construction: Load and Resistance Factor Design, Second Edition, LRFD, 2nd Edition, Volume I Structural Members, Specifications, and Codes, 1994

  2. 日本建築学会 : 鋼構造塑性設計指針 1975

  3. 日本建築学会 : 鋼構造塑性設計指針 第3版 2017





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2017
04.06

単純塑性設計とは?

Category: 用語
前回の記事に出てきた「単純塑性設計」という言葉について、手近な資料に出ている説明を示しておこう。

文献 1 の Chapter 2 "The Plastic Hinge" のサマリー(2.11 Summary)に以下のような文がある(拙訳と原文)。

塑性ヒンジモデルは、骨組構造物の塑性解析を大幅に単純化し、準静的な過程としての崩壊荷重を決定する。それは単純塑性論の基礎をなす。

The plastic hinge idealization drastically simplifies the plastic analysis of framed structures and makes the full collapse load determination as a quasistatic process. It forms the basis of the simple plastic theory.

Chapter 2 ではそのような塑性ヒンジに基づいた手法を説明した、との後に以下のように書かれている。

しかし、重要度としては二次的な因子の中には、部材が全塑性モーメントに達することを妨げるものがある。軸力、せん断力、座屈および接合部の詳細といったものがそうである。これらの因子は、"単純"塑性論には含まれないが、実際の設計では考慮する必要がある。

本章では、以下の因子の影響と特性について議論し、適切な設計手順によって元の単純塑性設計と適合しているかを確認した。

・塑性モーメントを低減させる軸力とせん断力
・薄肉断面の局部座屈を生じ得る不安定性
・塑性モーメントを適切に伝達する部材の接合

However, several factors of secondary importance will prevent the member from reaching the full plastic moment. These factors include such things as axial load, shear, buckling, and connection details. These factors are not included in the "simple" plastic theory, but we must take them into account in practical design.

In this chapter, the effects and characteristics of the following factors were discussed and appropriate design procedures provided for checking the suitability of the original simple plastic design:

・ axial load and shear force that will reduce plastic moment.
・ instability that may cause local buckling of thin-walled sections.
・ connections that are properly proportioned to transmit plastic moment from one member to the other.

文献 2 の "4.2.1 鉄骨造骨組解析用の部材モデル" の (b) では以下のように「単純塑性ヒンジ」を説明している。

... 部材端部に回転の自由度だけを持つ長さがゼロのヒンジを設定し、部材軸部を弾性棒または剛棒にモデル化する。曲げに伴う塑性挙動はヒンジのモーメント-回転角関係で規定される。この関係を工夫すれば、局部座屈に伴う劣化などの複雑な挙動を、便法であるが少ない計算負荷で表現可能である。

こちらでは、軸力やせん断力を省いているという点で上記の"単純"と同様だが、局部座屈に伴う劣化までも含めている点では上記のものとニュアンスを異にするようだ。


参考文献

  1. W. F. Chen and I. Sohal : Plastic Design and Second-Order Analysis of Steel Frames, Springer-Verlag, 1995

  2. 日本建築学会 : 応用力学シリーズ 4 構造物の崩壊解析 基礎編 1997





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2016
01.16

ラーメンとは?

Category: 用語
内藤多仲の「日本の耐震建築とともに」の中の"ラーメン"の記述箇所には、括弧付きで以下のような注釈が書かれている。

支那料理ではない。柱と梁と四角に堅く組合せた架構のこと

一般向けの本なのでこのような説明をわざわざ付けたと思われるが、支那料理とはなんだか高級そうなイメージだ。食べる方のラーメンは、まだ大衆化していなかったのだろうか?

専門用語としてのラーメンは、建築学用語辞典では以下のように説明されている。

(独)Rahmen, (英)frame; moment resisting frame
各節点で部材どうしが剛に接合された骨組。外力に対して曲げモーメント、せん断力、圧縮軸力および引張軸力により抵抗する。(=剛接骨組)

英語として、frame と moment resisting frame が挙げられ、日本語として"剛接骨組"が挙げられている。剛接骨組を英語にすれば、rigid frame または rigid-jointed frame である。

Frame という語には、建築学用語辞典に示されるように"骨組"という語が対応するが、一般用語としては、"枠"や"縁"が使われることの方が多いのではないだろうか。"フレーム"とそのまま呼ぶ場合も多い。

たわみ角法の生みの親アクセル・ベンディクセンの本 "Die Methode der Alpha-Gleichungen zur Berechnung von Rahmenkonstruktionen" の中でラーメンと付いた言葉を探してみると、以下のようなものが見つかる。

Rahmen(22箇所)
Rahmenwerk(5箇所)
Rahmenkonstruktion(7箇所)
Stockwerkrahmen(1箇所)
Gelenkrahmen(2箇所)

上記二番目の Rahmenwerk であるが、werk とは、英語の work のことであり、rahmenwerk は英語だと framework ということになる。("フレームワーク"も最近は普通に使われているのをよく目にするなぁ。。。)

骨と骨組の違いは明瞭だが、枠と枠組の違いをちゃんと説明するのは難しい。だが、両者の意味や使われ方に違いのあることはなんとなく分かる。フレームとフレームワーク(面倒なのでカタカタで書いている)の違いも似たようなものかもしれない。そうすると、ラーメンとラーメンベルクにも同様なニュアンスの違いがあると考えてよさそうだ。

ラーメンとセットで出てくるものと言えば、トラスである。ドイツ語だと fachwerk と呼ばれる。こちらも werk が付いている。では、werk を省略して fach だけでもトラスを意味するかというとそうではない。この場合は werk を付けないとトラスを意味しないので注意が必要だ。この言葉を使うことがある人がそうそういるとは思えないけれど。。。



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