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2018
12.15

ニューマークの論文を遅読する(その3 7年のブランクは?)

Category: 構造解析
ニューマーク法の原論文として示されるのは、大抵の場合、1959年に出た文献 1 である。この序文には以下のようなことが書かれている(ASCE とはアメリカ土木学会、IABSE とは国際構造工学会議のこと)。

1958 年 10 月にニューヨークで開かれた ASCE-IABSE 合同会議での口頭発表の内容は、本論文を含む一連の論文を下敷きにしている。これらの論文の全てを、CIVIL ENGINEERING に発表済みのものも含めて、改めて一巻に纏めて出版する予定である。

This paper is one of the group of papers which were the bases for oral presentations at the Joint ASCE-IABSE Meeting, New York, October 1958. The entire group, including those published in CIVIL ENGINEERING, will be reprinted in one volume.

つまり、前年には口頭ながら既に発表済みなのである。さらに、先日も書いたように、遡ること 7 年のイリノイ大学の紀要には既にニューマーク法について示されている。特に手法の骨格の部分については、文献 2 に示される内容と殆ど同じである(この内容はまた、同年のカリフォルニア大学でのシンポジウムで発表されたものである)。

この 6 年から 7 年の経過は何を意味しているのだろうか?

一つ考えられるのは、慎重には慎重を期したということである。実際、文献 2 と比べると、文献 1 にはニューマーク法の適用事例が多く示されている。6、7 年のブランクは、実績を積むのに必要だったのだろうか。

慎重を期すといっても 7 年は長すぎるようにも思える。もう一つ思いつくのは、シンポジウムのタイトルに Blast Effects とあることからも伺えるように、この研究が軍事研究へ応用できると見なされて簡単には公開できなかったのかもしれない。本文中にも、ニューマーク法が対応できる外荷重として、原子爆弾の爆風(blast from a nuclear weapon)による荷重なんていう物騒なことが書いてある。

以上は的外れな推論かもしれない。ただ、7 年間のタイムラグはニューマーク法の信頼性を高めるのに貢献したのは間違いなさそうだ。文献 1 に追加されている適用例は、基本的というよりやや特殊なもの(曲線部材とか時間変動境界など)までカバーするものとなっているのである。

以下は余談。

研究論文の信頼性といって思い出すのは、数年前の STAP 騒動である。「STAP ていうと、我々にとっては STractural Analysis Program だよね」「いやいや、バーテの本に出てる STatic Analysis Program でしょ」といった構造系の人々の間で交わされた和やかな会話など寄せ付けない凄まじい嵐のようなあの騒動のことである。

筆者はこの騒動を通して、専門雑誌というのは掲載論文の信頼性を何ら保証も補償もしないのだという、考えてみれば当たり前のことに気付かされた次第である。それまでは、漠然とであるが、Nature なら Nature が「黄表紙」なら建築学会が掲載論文の質について何らかの責任を負っているかのように思っていたのである。だが、これは大いなる勘違いであった。

査読者についても同じことが言えるだろう。査読の段階で追試を行うわけではないので、判断材料といえば、「まぁ、あそこの研究室ならそういい加減なことはやってないだろう」というそれまでの評判やイメージといったものくらいしかないのである。保証しろという方が無理である。

もう一つ気付かされたのは、特に先端技術や先端医療といった分野で言えることだが、有力な仮説を検証する研究は、拙速を尊ぶ方が得をするということである。仮説を実証したと主張する最初の論文で、実際は杜撰な実験のせいで結果が再現されていなくても、丁寧に時間をかけた追試者が再現に成功してくれれば、最初に論文を出した者がその研究の成果の殆どを手中に収めることができるのである。

もちろんこれでいいはずがない。当時誰かが「科学には作法がある」というようなことを言っていたが全くその通りだと思う。まぁ、建築業界ではこれとは質の違ったことの方が問題となっているようなのであまり参考にならないのだけれど。。


注 文献 3 の"12.4 EXAMPLE PROGRAM STAP"に掲載されている構造解析(FEM)プログラム。FORTRAN のソースコードを収録。Python のコードはもちろん無し!


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.

  2. N. M. Newmark : Computation of dynamic structural response in the range approaching failure, A reprint of a paper published in Proceedings of the Symposium on Earthquake and Blast Effects on Structures, June, 1952, University of California, Los Angeles, California, December, 1952.

  3. K. J. Bathe : Finite Element Procedures in Engineering Analysis 2nd Edition





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2018
12.08

片持ちはりから分かること(はりが曲げ変形しやすいのは?)

Category: 構造解析
今回も片持ちはりに絡めた話。。。

以前の記事でも触れたように、はりは軸変形やせん断変形に比べると曲げ変形を生じやすい。

曲げは上半分と下半分の引張と圧縮に置き換えられるし、せん断は互いに直交する引張と圧縮に等しいのだから、軸も曲げもせん断も同じようなものだと言ってもよさそうだ。なのに曲げ変形を生じやすいのである。

そのことを、はり理論に基づく片持ちはりを例に見てみよう。荷重は端部集中荷重の場合を考える。

まず準備として、ばねを引張る(または圧縮する)時の力と伸びの関係(フックの法則)の式: F = kδ を思い出すことにする。F が力、δ が伸び(または縮み)、k がばね定数である。軸、曲げ、せん断の各ケースでこの"ばね定数"に当たるものを求めてみる。

軸力と軸変形については、

Art185_eq1.jpg

なので、ばね定数は、

Art185_eq2.jpg

である。記号の意味は、ご想像の通りだろうから説明は省略する。

曲げによるたわみについては、前回の記事にも示したたわみの公式を荷重 F について解けば、

Art185_eq3.jpg

なので、ばね定数は、

Art185_eq4.jpg

である。

ベルヌーイ・オイラーのはりでは、せん断変形は出てこない。ティモシェンコはりでは、「断面は変形後も平面を保持するが、法線はもはや保持しない」といったせん断変形を考えるので、荷重 F とせん断変形との関係は、

Art185_eq5.jpg

となり、ばね定数は、

Art185_eq6.jpg

となる。AS はせん断断面積である。

以上より、軸とせん断のばね定数の分母には L があるのに対し、曲げの場合の分母には L3 があることから、はりの長さが長くなると、曲げのばね定数だけが大幅に小さくなることが見て取れる。

正方形断面の場合に、はりの長さを変えて各ばね定数の値がどのように変わるかを Excel で計算したものを以下に示す。


Art185_fig1_2.jpg

各ケースのばね定数の比を求めるのが目的なので、ヤング率 E や断面のせい( = 幅) D の値を 1 としている。

材料のポアソン比 n は、単にヤング率 E からせん断弾性係数 G を求めるために使用しているだけで、はりのたわみの計算に使用しているわけではない。n = 0.3 とでもする方が良いのかも知れないが、今はどうでもいいことなので、キリのいい数値となるようにゼロとしている。

せん断断面積 AS の値をどうするかは興味深い問題であるが、これも今はどうでもいいことなので、ここでは簡単に断面積そのものと同じとしている。

(断面のせい)/(はりの長さ): D/L を 0.1 とした場合の軸のばね定数は、曲げのばね定数の 400 倍もあるが、はりとは言い難い D/L = 1 の場合は、4 倍となって両者の値は接近してくる。さらに、D/L = 10 という非現実的なケースでは、軸のばね定数の方が曲げのばね定数の 1/25(= 0.04)になってしまうことが分かる("①/③"の行を参照)。

はりのせん断変形の影響を無視してよいかを確認したければ、せん断と曲げのばね定数を比較することになる。D/L が 0.1 の場合は、せん断のばね定数は曲げのばね定数の 200 倍もあるので、せん断変形については無視しても問題なさそうなことが分かる。D/L = 1 の場合の 2 倍という値は、はりの長さに対してせいが大きくなってくると、最早せん断変形を無視することは出来ないことを教えてくれる。



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2018
11.27

ニューマークの論文を遅読する(その2 ネーミングについての補足)

Category: 構造解析
"Newmark β法"という呼び名には実は二つの定義があるのをご存知だろうか?

一つ目の定義は、1959 年の論文(文献 1)で発表された手法を Newmark 法と呼び、そのうちの γ = 1/2 のケースに限って Newmark β法と呼ぶ(γ は、数値減衰に関係するパラメータ)。文献 2 では、この定義を採用している(下記)。

Newmark により提案された Newmark 法は、time = t における加速度、速度、変位が既知であるとき、微少時間(⊿t)後の速度と変位をパラメータ γ, β を用いた次式により近似する。...

... Newmark 法はパラメータ β と γ の設定によりさまざまな直接時間積分法になるが、その例を表3に示す。解の安定性や精度もこれらパラメータにより支配される。γ = 1/2 に設定するとパラメータは β だけになるが、これは、特に Newmark β 法と呼ばれている。

上記文中の「表3」を書き写したものを以下に示す。

newmark2_fig1_3.jpg

これに対して、もう一つの定義では、γ の値が何であれ、常に Newmark β法と呼ぶ。筆者は文献 2 を早くに読んでいたこともあって、第一の定義を当然のように思っていたが、世の中はそんなに統一されていないことをその後知るに至った。先日の雑誌もそうであるが、第二の定義を採用している文献も結構あるようである。

ところで、1959 年の論文に「本手法を β 法と呼ぶ」とか、ましてや「本手法をニューマーク法と呼ぶ」なんてことは書かれていない。通常、こういった人名を冠した手法の名前は、発表後に他人によって命名されるのが普通である。ニューマーク法もそうだろうと長らく思っていたのだが、どうもそうでもないようなのである。

実は、この論文が出る 7 年も前の 1952 年のイリノイ大学紀要には、既にこの手法について一連の論文(文献 3 など)が発表されていて、その中に「ニューマークの方法(Newmark's method)」や「ニューマークの β 法(Newmark's β method)」という記述が見られるのである。

文献 3 では、他の多くの既往の手法との比較を示すという目的から Newmark's method のように自分の名前を付けた呼称としたようであり、後年対外的にこの手法を発表した後でもその呼び方がそのまま流通したようである。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.

  2. 日本機械学会:計算力学ハンドブック(I 有限要素法 構造編) 丸善 1998年7月

  3. S. P Chan and N. M. Newmark : CONMPARISON OF NUMERICAL METHODS FOR ANALYSING THE DYNAMIC RESPONSE OF STRUCTURES, A Technical Report of A Cooperative Research Project Sponsored by THE OFFICE OF NAVAL RESEARCH DEPARTMENT OF THE NAVY and THE DEPARTMENT OF CIVIL ENGINEERING UNIVERSITY OF ILLINOIS, Octorber, 1952




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