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建築構造学事始

ニューマークの論文を遅読する(その7 変位と速度の表現)

ニューマークの論文(文献 1)の続き。前回の記事はこちら。門口から玄関までが随分遠くて読む方もうんざりしているかもしれないが、今回は漸くニューマークの示した具体的な式に踏み込むので、玄関まではたどり着く予定である。

ニューマーク法では、(他の数値積分法でも同様だが)荷重および応答の時刻歴が小さな時間間隔に分割され、それらの時間間隔ごとに順次応答を求めていく、といった方法が採られる(下記、拙訳と原文)。

ここまでに定義された量は、通常どれも構造物上の位置と時間の関数である。ある時間 tn について考え、その時間における変位や力などのパラメータ全てに Rn のように下添え字 n を付すことにすれば、我々の問題は tn と時間差が h の時間 tn+1 での速度 vn+1 と加速度 an+1 および変位 xn+1 と力 Rn+1 を定義することとなる。

In general all of the quantities so far defined are funcitons both of position on the structure and of time. If we consider a time tn and designate the values of all of the various parameters including displacements and forces at that time with a subscript n, such as Rn, our problem becomes that of defining the displacements xn+1 and forces Rn+1 as well as the velocities vn+1 and accelerations an+1 at a time tn+1, which fifferes from tn by the time interval h.

時間 tn での変位、速度、加速度は既知だが、時間 tn+1 での各値は未知である。ニューマークは、tn+1 における変位と速度をパラメータ β と γ を使って下式のように与えている。

Nmk_art7_eq_1_a.jpg
Nmk_art7_eq_1_b.jpg

原文では、vn+1 が式(2)、xn+1 が式(3)であるが、ここでは説明の都合上順番を入れ替えて、式番号も異なるものを使用している。

β と γ とは、それぞれ xn+1、vn+1 に占める an+1 の割合いを示すために導入されたパラメータなのである。ニューマークは以下のように書いている。

Two parameters, γ and β, are introduced to indicate how much of the acceleration at the end of the interval enters into the relations for velocity and displacement at the end of the interval.

そう言われても、ここを読んだだけでは変位と速度が式(1.a, b)のような形になることがピンと来る人は少ないのではないだろうか。ニューマークはどのような考えに基づいてこのような式としたのか?学術論文の例に漏れず、そういったことまでは書かれていない。

だが、幸いウィルソン(E. L. Wilson)がニューマークの考えを解説してくれているので 以下にそれを示そう(文献 2、p.20-2)。

まず、時間 tn+1 での変位と速度にテイラー展開を適用すると以下のようになる。

Nmk_art7_eq_2_a.jpg
Nmk_art7_eq_2_b.jpg

テイラー展開しただけなので、近似がどうのといった話はここには入っていない。ニューマークはこれらの式を以下のように切り捨てるようにしたのである。

Nmk_art7_eq_3_a.jpg
Nmk_art7_eq_3_b.jpg

つまり、変位、速度とも4階微係数(時間間隔 h について4次の項)以降を切り捨てて、3階微係数の係数をそれぞれ 1/6、1/2 とする代わりに β と γ としているのである。

精度の観点からすると、β を 1/6、γ を 1/2 としておけばいい話だが、後で出てくるように計算の安定性を重視したり、敢えて精度を落とす方が都合の良いこともあったりするので、これらのパラメータを必要に応じて調整するのである。

そして、加速度については下式のように時間間隔内で線形に変化すると仮定するのである。

Nmk_art7_eq_4.jpg

式(4)を式(3.a)に代入すると、

Nmk_art7_eq_5.jpg

表記をニューマークの論文と同じにすれば

Nmk_art7_eq_6.jpg

となり、式(1.a)が出てくるわけである。

同様に、式(4)を式(3.b)に代入すると、

Nmk_art7_eq_7.jpg

表記をニューマークの論文と同じにすれば

Nmk_art7_eq_8.jpg

となり、式(1.b)となる。

式(1.a,b)とも右辺には未知量である an+1 が含まれているのでどうにかする必要があるわけだが、その辺はよく知られているので説明は不要かもしれない(それについては後日)。

以下は余談。

ニューマーク法の導出で上に示したウィルソンのような説明を採用している文献をあまり見かけない。筆者が知っている範囲では、書籍ではないが、OpenSees(バークレーから出ているフリーの構造解析ソフト)のマニュアルはこれと同様な説明である(ウィルソンのいるバークレーだから当然?)

ただ、そのマニュアルには、Newmark とすべきところを Newton と誤記している箇所がある。このことに筆者が気付いたのは5年かそれ以上も昔のことで、いつ修正されるのかと時々覗いてみるのだが未だに修正されていないようである。

Newmark と Newton は綴りが似ているし、非線形問題を解く数値計算法の一つにニュ ートン法という有名な手法もあるので、このような誤記が生まれたのかもしれない。二 ューマークとニュートンとでは生きた時代があまりに違うのだけれど。。。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.

  2. Edward. L. Wilson : Three-Dimensional Static and Dynamic Analysis of Structures - A Physical Approach With Emphasis on Earthquake Engineering, Third Edition, Computers and Structures, Inc. Berkeley, California, USA, Reprint January 2002.



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ニューマークの論文を遅読する(その6 外力、慣性力、抵抗力)

ニューマークの論文(文献 1)の続き。

先日の記事では、この論文に示されている骨組構造物の集中質量モデルを採り上げた。質量(質点と書く方がよいかも知れない)を骨組から分離した図を以下に再掲する(論文の Fig. 2. Detail of Mass as Free Body を模写したもの)。

Nwmk_fig1_b.jpg

左側は質量を取り去った構造物(Structure with Mass Removed)であり、右側は構造物から取り出した質量(Mass Removed from Structure)である。P は外力、R は構造物の抵抗力である。

この図は、外力 P が質量 M によって修正(modify or filter)されて R という形で構造物に作用する様を示している。P の作用の仕方によって P と R に差が生じることは、前回の記事のクイズで見た通りである。論文中の説明箇所を以下に示す(拙訳と原文)。

力 P が非常にゆっくりと作用するなら、小さな加速度を生じるだけで R は P にほぼ等しい。力が急に作用する場合は、R と P の差が非常に大きくなることもある。

If the forces P are applied very slowly there is only a small acceleration and R is approximately equal to P. If the forces are applied quickly the difference between R and P can very large.

構造物内に発生する内力や応力は R によって引き起こされる。R に対する構造物の応答は、静的解析によって求めることができる。一般的には P がゼロになっても R が暫くゼロにならないこともあるし、P が作用していなくても支持部の変位などで R が生じることもある。

いずれにせよ、ニュートンの第二法則で知られるように、質量 M の加速度 a は以下の式で与えられる(文献 1 の式(1))。

Nwmk_6_fig.jpg

なお、ここでは減衰はとりあえず無視されていて、後で減衰力を考慮するための修正が加えられる。

以下は余談。

ニュートン力学では質量というのはなんとなく分かったことにして先に進み、建築構造における動力学でも通常はそれ以上のことは求められないので、筆者の質量についての理解はかなり怪しいものである。

アインシュタインが一般向けに書いた文献 2 を学生の頃に読み、「物体が地球に引かれる力は重力質量によるものであり、一方でそこにとどまろうとする力は慣性質量によるものである。これら2つの質量の値が同じになるのは偶然ではない」といったくだり(うろ覚えなので表現は不正確かも)を読んで頭がクラクラした。

数年前に文献 3 を読んだ時にもこれと同じようなことが書かれていたが、分かったような分からないような、スッキリとした理解には至っていない(たとえ納得したとしても素人的理解の範囲を出ないが)。

これは誰かが書いていたのを読んだのであって自分で思い付いたのではないが、「質量」という日本語は不思議である。質と量というしばしば対立する概念を表す二つの言葉を一つにしてしまっているのだ。英語だと、質は quality、量は quantity という言葉が相当すると思うが、mass の訳語としてなぜ"質量"なんて言葉を持ってきたのだろう?知っている人がいたら教えて下さい。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.

  2. アインシュタイン インフェルト著 石原純訳 : 物理学はいかに創られたか 岩波新書 1939年10月

  3. 大栗博司 : 重力とは何か 幻冬舎新書 2012年5月



ニューマークの論文を遅読する(その5 解析モデル)

どの論文でも大抵そうだが、ニューマークの論文(文献 1)も"要約"の次が"イントロダクション"である。そこでは、解析対象となる構造物のモデル化の概要やニューマーク法の適用範囲について説明されている。内容の一部は"要約"ともかぶっているので、読んでいてくどい感じがしないでもない。

"イントロダクション"にはあまり特筆すべきようなことは書かれていない。例えば、部材が節点で繋がる骨組モデルを考え、部材に作用する荷重や部材重量は節点に集中させるとか、ニューマーク法は弾塑性問題にも使用できるといった今日的観点からはお馴染みの内容である。

その次の節の"解析法(Method of Analysis)"からいよいよニューマーク法の詳細な説明が展開される。この節は、以下の5つの小節から構成されている。

 段階的積分法(Step-by-Step Integration Procedure)
 数値計算の安定性と誤差(Stability and Errors in Numerical Computation)
 パラメータ β の解釈(Interpretation of Parameter b
 減衰の扱い(Treatment of Damping)
 推奨する時間刻みと β の選択(Recommended Time Interval and Choice of b

節の始めには、解析対象となる構造物として、下図のような荷重を受ける平面骨組が示されている(論文の Fig. 1. General Type of Structure and Loading を模写したもの)。


Nwmk_fig1_a.jpg

図中の丸印は質量(mass)を表している。部材要素は変形可能なので、これらの質量は水平、鉛直へと動くことができる。いわゆる集中質量モデルであり、部材は変形するが重量(質量)を持たず、部材自体の質量は節点に割り振られる。

また、A, B で代表される支持点も水平、鉛直に移動可能である。つまり、基礎上の支持点が相対変形を生じて部材に応力が発生するような状況にも対応しており、支持点上にある質量による慣性力の任意方向への作用が考慮される。

図中の M における質量を抜き出したものを以下に示す(論文の Fig. 2. Detail of Mass as Free Body を模写したもの)。

Nwmk_fig1_b.jpg

左側の図は、質量を取り除いて骨組構造物だけを描いたもの、右側は抜き出した質量のみを描いたものである。構造物の抵抗力(resisting force)を R で表している。矢印は R の正の方向と対応いている。また、x は変位を表している。この例では、水平方向成分しか描かれていないが、一般的には鉛直成分も存在する。

この抜き出した質量の運動方程式を立てるわけだが、それについてはまた後日。。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.




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