2017
10.04

シンプルでもなかなかのモデル

Category: 構造解析
以前、ある材料力学の公式が必要になったが思い出せないので、手っ取り早くウェブで調べていたら、某大学の材料力学の講義資料に行き当たった。その資料にはあいにく知りたい公式は出ていなかったが、読んでみるとなかなか面白いことが書かれていた。

そこでは、プラスチックの定規を構造部材にみたてて「この定規を手で破壊するにはどうしますか?」との問いが投げかけられ、その答えとして「もちろん引っぱったりしませんよね。曲げて折ろうとするはずです」といったことが書かれていた。この話はトラス構造の説明へと入っていく際の前座となっていた。

なるほど、確かに我々はこういったことを経験として体得している。このような説明があって初めて経験知と力学とが結びつく人も多いのではないだろうか。

先日採り上げたはりの"塑性ヒンジ"も同様なことが言えそうである。曲げのみを考慮したヒンジは、扱いが簡単だしそれなりの解析結果も得られるので普通に使用されるヒンジモデルである。一見いい加減とも見えるが使用に耐えうるのは、はりの曲げ剛性が軸剛性と比較して大幅に小さいというのがその理由として挙げられる。板やシェルも曲げ剛性に比べると膜剛性が圧倒的に大きいので同様なモデル化が有効である。

先日某大学の鋼構造の先生から、解析でなかなか実験結果をうまくシミュレートできなくて苦労した話を聞かされた。その実験では試験体に組込まれた板要素が荷重を受けて塑性化するのであるが、その部分の挙動がその先生の馴染みのモデルではなかなか合わなかったのだそうである。

困っていると、別の先生がはりの曲げヒンジに相当するごくシンプルなモデルを使うように助言してくれたのでそれを試してみると、あにはからんや、うまく実験結果を再現する解析結果が得られたのだそうである。

この詳細は筆者の知る所ではないが、問題が複雑化した時には初歩的で単純なものに立ち返ってみるとうまく本質を捉えることができる例と言えそうである。



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2016
09.10

非実用的 Excel 活用法

Category: 構造解析
以下は、筆者がお役所勤めの知人から聞いた実話である。

その知人の部署では、物品の何をいくらでいくつ購入したといった管理表を excel で作成しており、毎月末にその表を更新して集計を取るそうである。

作業は二人(AさんとBさんとしておく)で行われ、Aさんがパソコンのモニターに向かって excel に記入されている数値を読み上げ、Bさんが電卓にその数値を打ち込んで計算を行い、計算結果をAさんに伝えると、Aさんがキーを叩いて excel に結果を入力するとのことである。

また、二つの表を見比べる必要もあるとかで、モニターにもう一つ別のモニターをぴったりくっつけて二つ目の表は別モニターの方に表示させるため、隣席(知人の席)のパソコンとモニターも駆り出されるとのこと。

知人はその作業中自席を離れることを余儀なくされるので、「ほんとエクセルには迷惑してるのよね」とぼやいていた(悪いのは excel ではないぞー)。

税金の無駄遣いだ怪しからん!などと思ってはいけない。このようなスローライフな世界があるという話題を提供して我々を癒してくれているのだと思う(たぶん)。

Excel は"表ソフト"ではなく"表計算ソフト"である。その計算機能はなかなか豊富である。その中のソルバー機能を使って前回の例題の固有値を検算してみたので、以下にその手順を示しておこう。

art135_fig1_1.jpg

まず質量マトリックスと剛性マトリックスをセル B6:D8 と B10:D12 に入力する。f = a √(k/m) のaにあたる係数を求めるのが目的なので、マトリックス成分の m と k は 1 としている。

これらのマトリックスを使って特性方程式のグラフを描くと以下のようになる。横軸に固有値 p2、縦軸に行列式 |K - p2 M| を取っている。グラフは、p2 を 0.1 刻みで増やして 3.5 まで描いたものである。 p は、系の固有円振動数である。

art135_fig1_2.jpg

グラフから縦軸の値がゼロとなる点が3つあることが確認できる。これらのゼロ点を与える p2 が求める固有値である。それぞれ 0.2、1.5、3.2 に近いことが読み取れる。

これらの値を固有値探索の初期値とするために、セル D17, D18, D19 に入力する。セル D17, D18, D19 は入力セルであるが、後述するようにソルバーによって値を変更されるセルでもある。

セル C17, C18, C19 には、各 p2 に対応する行列式 |K - p2 M| を求める式を入力し、C20 には、それらのセルの絶対値和を求める式を入力する。C20 は配列数式なので、Shift + Ctrl + Enter キーで確定する。

ソルバーダイアログを開いて、下図のように設定して

art135_fig2.jpg

実行ボタンを押すと、C20 が目標値(ゼロ)となるように C17, C18, C19 が決まり、固有値 p2 と f が以下のように求まる。表示桁はデフォルトのままとしている。

art135_fig3.jpg

グプタの本に出ている"正解"は有効数字3桁で書かれていて(文献1、p.9、Fig.1.7)、1次、2次、3次の a の値はそれぞれ 0.0708、0.198、0.287 となっているから上記の値と一致していることが分かる。

実務の世界で構造物の固有周期を求めるのにこんな方法を使うかというと、まず使うことはないだろう。使い慣れたソフトを利用したり、自作でやるなら数値計算ライブラリ(フリーでも強力なものがある)を利用するのが普通ではないだろうか。

ひょっとすると上記の方法ももっと汎用性を持たせることできるのかも知れないが、筆者はそこまで調査できていない。ちょっと遊びでやってみたまでである。こんなことして遊んでる方がよっぽどスローライフかも知れない。。。


参考文献

  1. A. K. Gupta : Response Spectrum Method In Seismic Analysis and Design of Structures, CRC. Press, 1992




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2016
08.30

末広恭二によるレイリー法の解説

Category: 構造解析
1924年(大正13年)の末広恭二の講演の記録:「構造物振動の理論及其測定法」には、末広がレイリー法について解説した部分がある((2)の(ホ)「レレー」の近似式)。

建物固有周期を求める例題が出ていたり、当時の斯界のレイリー法の認識に対する批判が述べられていたりでなかなか興味深いので、以下に概要を示しておこう。

末広は、建物固有周期だけを求めるのであれば、レイリーの近似式で簡単に求めることが出来ると述べた後に、レイリー法の基になる原理を以下のように説明している(旧漢字など一部の表記を変更している。以下同様)。

この近似式の基づく所は、弾性体が振動をする時震動がその最大振幅に到達した(即ち振動の速度が零)瞬間における弾性仕事は、中立位置を通過する(即ち歪が零)瞬間の顕勢力に等しいという原理を応用したものであります。

「顕勢力」とは運動エネルギーのことである。つまり、これは(外力や減衰のない孤立系での)エネルギー保存則のことを指している。

続いて、レイリー法の"ミソ"について説明している。

しかしこの弾性仕事も顕勢力もその振動する弾性体の振動による変形(normal function)が分からなければ正確に計算することは出来ません。然るに「レレー」はこの変形が多少実際と違っても周期に大なる影響が無いこと(数学的にいえば形の小変化に対し周期の値は stationary であること)を証明しましたから、変形は正確なる理論を辿らなければ分からぬものであるに関わらず、それにかまわずに変形を合理的に仮定して計算をすれば良いのであります。

レイリー法では、仮定する固有ベクトルの誤差のオーダーを ε とすると、求まる固有値の誤差のオーダーは ε2 となることが示される。固有ベクトルをややいい加減に仮定しても、それなりの精度の固有値が得られるというわけである。

例題として示してあるのは、下図のような三層建物のせん断振動の周期を求める問題である。各階高を l、各床の自重と積載荷重を W、壁の単位高さあたりの重さを w としている。


3-story model

末広の言う"最大弾性仕事"、"最大顕勢力"は、それぞれ弾性ポテンシャルエネルギーの最大値、運動エネルギーの最大値と言い換えてもいいかと思うが、それらを Vmax、 Tmax と書くことにすると、

Ray_eq1.jpg

Ray_eq2.jpg

式中の p は、円振動数(=2π/T)である。Vmax = Tmax と置いて p2 について解けば以下が得られる(式(39))。

Ray_eq5.jpg

たわみ y(一次のモード形状)は、横に重力を受けた時のせん断たわみに等しいと仮定し、せん断応力(原文はせん断内力)は断面に一様に分布しているとすると、

Ray_eq6.jpg

ここに、Fx はせん断力、A は壁の断面積(一様とする)、μ は剛性率(筆者に馴染みのある呼び方と記号で書くなら、せん断弾性係数 G )である。

材料力学で学ぶように、せん断応力は断面に一様分布していない。だが、今はそんなことは気にしなくてよいのである。末広は以下のように書いている。

正確にいえばせん断内力(せん断応力のこと)は断面積(原文は截面積)に一様に分布されはせぬからこれに 6/5 なる係数を乗ぜねばならぬが、近似式を用ゆる際にはそんな細かな校正はいらぬことであります。目が一尺もある網を用いてその一部だけへ白魚の網を張ったところが白魚は獲れはしませぬ。

y を求めると、

0より1までの間
Ray_eq7.jpg

1より2までの間
Ray_eq8.jpg

2より3までの間
Ray_eq9.jpg

これらの式とこれらの式から求まる y 1、y 2、y 3 を式(39)に代入して計算すると、以下が得られる(式(40))。

eq10.jpg

式中の A については以下のようにすると良いとある。

この式において A は建物の壁の如何なる部分を取るべきかが問題でありますが、梁のせん断内力は web だけに集中していると考えてよろしいのでありますから、振動の方向により web に当たる部分の壁、即ち振動をなす方向に平行な壁だけの面積を取ればよろしかろうと思われます。

式(39)から式(40)を求めるのは面倒であるが、末広は以下のように書いている。

上式より求めて(39)の式に入れれば手数だけはかなり面倒でありますが、単に機械的に運算をするだけで次の式(式(40)のこと)に到着することが出来ます。

この式(40)をチェックするくらいの計算は、数学者や理論物理学者には朝飯前かも知れないが、お盆休み中で気の緩んでいる工学系の人間には荷が重い。ここはズボラをするに如くはなしということで、式(40)の串団子バージョンを考えることにする。

w = 0 として、

eq11.jpg

W/g = m(床質量)、Aμ/l = k(層剛性)と置くと、

eq12.jpg

逆数を取って振動数 f を求めると、

eq13.jpg

この結果を正解と比べてみよう。

3 自由度せん断質点系で m1 = m2 = m3、k1 = k2 = k3 の場合の固有振動数、固有ベクトルがどこかに出てないかと文献を探すと、、、ありました。応答スペクトル法の Gupta Method で知られるグプタ(A. K. Gupta)の本にちゃんと出ているのを見つけた。

1次モードの振動数は(文献1、p.9、Fig.1.7)、

eq14.jpg

であるから、レイリー法の結果はそれなりのものであることが分かる。尚、レイリー法で得られる振動数は正解よりも必ず大きくなることが示される。

1次のモード形を"横に重力を受けた時のせん断たわみ"と仮定して固有値を求めたが、文献1 に示される"正解"を書き写すと以下の通り。

mode1.jpg


冒頭にも書いたが、斯界のレイリー法の解釈に対して末広恭二は一言しておきたかったらしい(下記)。

ついでにちょっと申し述べておきたいことは、近頃この方法が実際上に応用され来ったため、ままこれに関する議論を耳にしますから、一二私の聴き込んだ説に対し批評を試みておくのも全く無用のことでもなかろうと思われます。

第一は「レレー」の法を応用するに当たって、変形に対し仮定をするよりも加速度の分布を仮定する方が正確であるという説であります。これは全然誤った説であります。


単振動の場合は、加速度の分布を仮定しても同じである。これを拡大解釈するような傾向が当時あったということであろうか。内容は異なるが、疑似加速度応答の適用について連想してしまった。

次なる批判は以下の通り。

第二には正確に計算し得る場合に対してある変形を仮定しそれから得た答えが理論的に得たものと極めてよく合致するから、一般にそのような仮定が正しいという断定でありまする。

これはちょうど近似積分をするときに、正確な積分値と「シンプソン」法による近似値が、ある一つの場合に極めて正確に例えば1%まで合って、「チェビチェフ」法によったらその場合2%違ったからいつでも「シンプソン」法に依るべしという様な議論で、元来の「レレー」法の主旨を没却した説であります。

この説の提唱者の根拠とする専門的な内容が不明なので詳細は分からないが、後半の「シンプソン」の例から推すと、目黒のさんまの殿様の主張のようなものに過ぎなかったのかも知れない。

さらに材料力学の本への言及もある。

尚今一言添えておきたいことは、ドイツの材料力学の本においてはまま(例えば H. Lorenz Technische Elastizitaetslehre の六六九ページ)Rayleigh が例題として示した場合のみを「レレー」近似法であるが如く書いてあるため、そう誤解している人がある様ですが、それは間違いで「レレー」は周期の値が stationary であることを一般的に説明したので、適当に変形を仮定して近似的に周期を算出するのはいずれも「レレー」法であります。ここらに「レレー」の偉大さが現れているのであります。

この「ドイツの材料力学の本」の記述が誤っていたのか、紛らわしい書き方がされていただけなのか筆者は確認していない。ただ、このような専門を共有する人の解釈違いというのはたまに目にすることである。「○○の本に書いてある。」「いや、○○はそんなことは言っていない。」といった専門誌上での討論がそれである。

以上、レイリー法で固有値を求めることについて長々と書いてしまった。レイリー自身の示している例題に話を繋げるつもりであったが力尽きてしまった。それはまたの機会に。。。



参考文献

  1. A. K. Gupta : Response Spectrum Method In Seismic Analysis and Design of Structures, CRC. Press, 1992




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