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建築構造学事始

ニューマークの論文を遅読する(その5 解析モデル)

どの論文でも大抵そうだが、ニューマークの論文(文献 1)も"要約"の次が"イントロダクション"である。そこでは、解析対象となる構造物のモデル化の概要やニューマーク法の適用範囲について説明されている。内容の一部は"要約"ともかぶっているので、読んでいてくどい感じがしないでもない。

"イントロダクション"にはあまり特筆すべきようなことは書かれていない。例えば、部材が節点で繋がる骨組モデルを考え、部材に作用する荷重や部材重量は節点に集中させるとか、ニューマーク法は弾塑性問題にも使用できるといった今日的観点からはお馴染みの内容である。

その次の節の"解析法(Method of Analysis)"からいよいよニューマーク法の詳細な説明が展開される。この節は、以下の5つの小節から構成されている。

 段階的積分法(Step-by-Step Integration Procedure)
 数値計算の安定性と誤差(Stability and Errors in Numerical Computation)
 パラメータ β の解釈(Interpretation of Parameter b
 減衰の扱い(Treatment of Damping)
 推奨する時間刻みと β の選択(Recommended Time Interval and Choice of b

節の始めには、解析対象となる構造物として、下図のような荷重を受ける平面骨組が示されている(論文の Fig. 1. General Type of Structure and Loading を模写したもの)。


Nwmk_fig1_a.jpg

図中の丸印は質量(mass)を表している。部材要素は変形可能なので、これらの質量は水平、鉛直へと動くことができる。いわゆる集中質量モデルであり、部材は変形するが重量(質量)を持たず、部材自体の質量は節点に割り振られる。

また、A, B で代表される支持点も水平、鉛直に移動可能である。つまり、基礎上の支持点が相対変形を生じて部材に応力が発生するような状況にも対応しており、支持点上にある質量による慣性力の任意方向への作用が考慮される。

図中の M における質量を抜き出したものを以下に示す(論文の Fig. 2. Detail of Mass as Free Body を模写したもの)。

Nwmk_fig1_b.jpg

左側の図は、質量を取り除いて骨組構造物だけを描いたもの、右側は抜き出した質量のみを描いたものである。構造物の抵抗力(resting force)を R で表している。矢印は R の正の方向と対応いている。また、x は変位を表している。この例では、水平方向成分しか描かれていないが、一般的には鉛直成分も存在する。

この抜き出した質量の運動方程式を立てるわけだが、それについてはまた後日。。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.




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ニューマークの論文を遅読する(その4 軍事研究だった?)

ニューマークの論文(文献 1)の"要約(SUMMARY) "では、ニューマーク法の応用範囲がいかに広いかについて力説されている(ように感じる)。対象とする荷重が色々と示されているが、主なものとしては地震と爆風(爆圧?)のようである。

要約は以下のような書き出しとなっている(拙訳と原文)。

 本論文では構造物の動的解析を行う一般的な手法について述べる。対象とする構造物の自由度に制限は無く、線形弾性挙動から各種の非弾性挙動(塑性応答)を経て崩壊に至るまでの任意の力-変位関係に適用可能である。衝撃や衝突、振動、地震動、核兵器の爆風といったあらゆるタイプの動的載荷にも対応している。

This paper describes a general procedure for the solution of problems in structural dynamics. The method is capable of application to structures of any degree of complication, with any relationship between force and displacement ranging from linear elastic behavior through various degrees of inelastic behavior or plastic response, up to failure. Any type of dynamic loading such as that due to shock or impact, vibration, earthquake motion, or blast from a nuclear weapon, can be considered.

日本でも戦前や戦中であれば、武藤清の研究室などで爆弾の爆発を想定した耐爆設計の研究が行われていたようである。だが、戦後はそのような研究は少なくとも一般の大学では無縁のものだろう。

日本建築学会から出ている「建築物荷重指針・同解説」では、2015 年版になってようやく衝撃荷重の章が新たに追加されたくらいだから、衝突や爆発といった荷重は一般には馴染みの薄いものである。尚、荷重指針で想定しているのは、偶発的な衝突事故や爆発などであって戦争やテロではない。

アメリカはこのあたりの事情が我が国とは大分異なることは想像に難くない。アメリカでは、1950年代当時も今も軍事関連の研究はわりと身近なものではないだろうか。

この論文の出版年は 1959 年である。その 5 年前の 1954 年には第五福竜丸がビキニ環礁の水爆実験で被爆しているし、核戦争の一歩手前まで行ったといわれるキューバ危機が起きたのは 3 年後の 1962 年である。

ニューマークの論文も想定荷重として地震よりも爆風の方にウェイトがあったと思われる。というのも、イリノイ大学のある辺りは地震の多発地帯ではないので切迫した動機にはなりにくいと思われるからである。また、この研究の資金の出所が海軍研究所の力学部門となっていることもある。

"要約"の最後には以下の一文がある。

本論文の基になっている研究は、イリノイ大学において海軍研究所力学部門からの補助を受けたものである。

The work on which this paper is based was supported at the University of Illinois by the Mechanics Branch of the Office of Naval Research.

「数値計算するのにそんなにお金がかかるの?」と思われるかもしれないが、当時のコンピュータの状況は今とは大違いなのである。これについても後日。。。

参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.



ニューマークの論文を遅読する(その3 7年のブランクは?)

ニューマーク法の原論文として示されるのは、大抵の場合、1959年に出た文献 1 である。この序文には以下のようなことが書かれている(ASCE とはアメリカ土木学会、IABSE とは国際構造工学会議のこと)。

1958 年 10 月にニューヨークで開かれた ASCE-IABSE 合同会議での口頭発表の内容は、本論文を含む一連の論文を下敷きにしている。これらの論文の全てを、CIVIL ENGINEERING に発表済みのものも含めて、改めて一巻に纏めて出版する予定である。

This paper is one of the group of papers which were the bases for oral presentations at the Joint ASCE-IABSE Meeting, New York, October 1958. The entire group, including those published in CIVIL ENGINEERING, will be reprinted in one volume.

つまり、前年には口頭ながら既に発表済みなのである。さらに、先日も書いたように、遡ること 7 年のイリノイ大学の紀要には既にニューマーク法について示されている。特に手法の骨格の部分については、文献 2 に示される内容と殆ど同じである(この内容はまた、同年のカリフォルニア大学でのシンポジウムで発表されたものである)。

この 6 年から 7 年の経過は何を意味しているのだろうか?

一つ考えられるのは、慎重には慎重を期したということである。実際、文献 2 と比べると、文献 1 にはニューマーク法の適用事例が多く示されている。6、7 年のブランクは、実績を積むのに必要だったのだろうか。

慎重を期すといっても 7 年は長すぎるようにも思える。もう一つ思いつくのは、シンポジウムのタイトルに Blast Effects とあることからも伺えるように、この研究が軍事研究へ応用できると見なされて簡単には公開できなかったのかもしれない。本文中にも、ニューマーク法が対応できる外荷重として、原子爆弾の爆風(blast from a nuclear weapon)による荷重なんていう物騒なことが書いてある。

以上は的外れな推論かもしれない。ただ、7 年間のタイムラグはニューマーク法の信頼性を高めるのに貢献したのは間違いなさそうだ。文献 1 に追加されている適用例は、基本的というよりやや特殊なもの(曲線部材とか時間変動境界など)までカバーするものとなっているのである。

以下は余談。

研究論文の信頼性といって思い出すのは、数年前の STAP 騒動である。「STAP ていうと、我々にとっては STractural Analysis Program だよね」「いやいや、バーテの本に出てる STatic Analysis Program でしょ」といった構造系の人々の間で交わされた和やかな会話など寄せ付けない凄まじい嵐のようなあの騒動のことである。

筆者はこの騒動を通して、専門雑誌というのは掲載論文の信頼性を何ら保証も補償もしないのだという、考えてみれば当たり前のことに気付かされた次第である。それまでは、漠然とであるが、Nature なら Nature が「黄表紙」なら建築学会が掲載論文の質について何らかの責任を負っているかのように思っていたのである。だが、これは大いなる勘違いであった。

査読者についても同じことが言えるだろう。査読の段階で追試を行うわけではないので、判断材料といえば、「まぁ、あそこの研究室ならそういい加減なことはやってないだろう」というそれまでの評判やイメージといったものくらいしかないのである。保証しろという方が無理である。

もう一つ気付かされたのは、特に先端技術や先端医療といった分野で言えることだが、有力な仮説を検証する研究は、拙速を尊ぶ方が得をするということである。仮説を実証したと主張する最初の論文で、実際は杜撰な実験のせいで結果が再現されていなくても、丁寧に時間をかけた追試者が再現に成功してくれれば、最初に論文を出した者がその研究の成果の殆どを手中に収めることができるのである。

もちろんこれでいいはずがない。当時誰かが「科学には作法がある」というようなことを言っていたが全くその通りだと思う。まぁ、建築業界ではこれとは質の違ったことの方が問題となっているようなのであまり参考にならないのだけれど。。


注 文献 3 の"12.4 EXAMPLE PROGRAM STAP"に掲載されている構造解析(FEM)プログラム。FORTRAN のソースコードを収録。Python のコードはもちろん無し!


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.

  2. N. M. Newmark : Computation of dynamic structural response in the range approaching failure, A reprint of a paper published in Proceedings of the Symposium on Earthquake and Blast Effects on Structures, June, 1952, University of California, Los Angeles, California, December, 1952.

  3. K. J. Bathe : Finite Element Procedures in Engineering Analysis 2nd Edition




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