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建築構造学事始

ニューマークの論文を遅読する(その6 外力、慣性力、抵抗力)

ニューマークの論文(文献 1)の続き。

先日の記事では、この論文に示されている骨組構造物の集中質量モデルを採り上げた。質量(質点と書く方がよいかも知れない)を骨組から分離した図を以下に再掲する(論文の Fig. 2. Detail of Mass as Free Body を模写したもの)。

Nwmk_fig1_b.jpg

左側は質量を取り去った構造物(Structure with Mass Removed)であり、右側は構造物から取り出した質量(Mass Removed from Structure)である。P は外力、R は構造物の抵抗力である。

この図は、外力 P が質量 M によって修正(modify or filter)されて R という形で構造物に作用する様を示している。P の作用の仕方によって P と R に差が生じることは、前回の記事のクイズで見た通りである。論文中の説明箇所を以下に示す(拙訳と原文)。

力 P が非常にゆっくりと作用するなら、小さな加速度を生じるだけで R は P にほぼ等しい。力が急に作用する場合は、R と P の差が非常に大きくなることもある。

If the forces P are applied very slowly there is only a small acceleration and R is approximately equal to P. If the forces are applied quickly the difference between R and P can very large.

構造物内に発生する内力や応力は R によって引き起こされる。R に対する構造物の応答は、静的解析によって求めることができる。一般的には P がゼロになっても R が暫くゼロにならないこともあるし、P が作用していなくても支持部の変位などで R が生じることもある。

いずれにせよ、ニュートンの第二法則で知られるように、質量 M の加速度 a は以下の式で与えられる(文献 1 の式(1))。

Nwmk_6_fig.jpg

なお、ここでは減衰はとりあえず無視されていて、後で減衰力を考慮するための修正が加えられる。

以下は余談。

ニュートン力学では質量というのはなんとなく分かったことにして先に進み、建築構造における動力学でも通常はそれ以上のことは求められないので、筆者の質量についての理解はかなり怪しいものである。

アインシュタインが一般向けに書いた文献 2 を学生の頃に読み、「物体が地球に引かれる力は重力質量によるものであり、一方でそこにとどまろうとする力は慣性質量によるものである。これら2つの質量の値が同じになるのは偶然ではない」といったくだり(うろ覚えなので表現は不正確かも)を読んで頭がクラクラした。

数年前に文献 3 を読んだ時にもこれと同じようなことが書かれていたが、分かったような分からないような、スッキリとした理解には至っていない(たとえ納得したとしても素人的理解の範囲を出ないが)。

これは誰かが書いていたのを読んだのであって自分で思い付いたのではないが、「質量」という日本語は不思議である。質と量というしばしば対立する概念を表す二つの言葉を一つにしてしまっているのだ。英語だと、質は quality、量は quantity という言葉が相当すると思うが、mass の訳語としてなぜ"質量"なんて言葉を持ってきたのだろう?知っている人がいたら教えて下さい。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.

  2. アインシュタイン インフェルト著 石原純訳 : 物理学はいかに創られたか 岩波新書 1939年10月

  3. 大栗博司 : 重力とは何か 幻冬舎新書 2012年5月



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ニューマークの論文を遅読する(その5 解析モデル)

どの論文でも大抵そうだが、ニューマークの論文(文献 1)も"要約"の次が"イントロダクション"である。そこでは、解析対象となる構造物のモデル化の概要やニューマーク法の適用範囲について説明されている。内容の一部は"要約"ともかぶっているので、読んでいてくどい感じがしないでもない。

"イントロダクション"にはあまり特筆すべきようなことは書かれていない。例えば、部材が節点で繋がる骨組モデルを考え、部材に作用する荷重や部材重量は節点に集中させるとか、ニューマーク法は弾塑性問題にも使用できるといった今日的観点からはお馴染みの内容である。

その次の節の"解析法(Method of Analysis)"からいよいよニューマーク法の詳細な説明が展開される。この節は、以下の5つの小節から構成されている。

 段階的積分法(Step-by-Step Integration Procedure)
 数値計算の安定性と誤差(Stability and Errors in Numerical Computation)
 パラメータ β の解釈(Interpretation of Parameter b
 減衰の扱い(Treatment of Damping)
 推奨する時間刻みと β の選択(Recommended Time Interval and Choice of b

節の始めには、解析対象となる構造物として、下図のような荷重を受ける平面骨組が示されている(論文の Fig. 1. General Type of Structure and Loading を模写したもの)。


Nwmk_fig1_a.jpg

図中の丸印は質量(mass)を表している。部材要素は変形可能なので、これらの質量は水平、鉛直へと動くことができる。いわゆる集中質量モデルであり、部材は変形するが重量(質量)を持たず、部材自体の質量は節点に割り振られる。

また、A, B で代表される支持点も水平、鉛直に移動可能である。つまり、基礎上の支持点が相対変形を生じて部材に応力が発生するような状況にも対応しており、支持点上にある質量による慣性力の任意方向への作用が考慮される。

図中の M における質量を抜き出したものを以下に示す(論文の Fig. 2. Detail of Mass as Free Body を模写したもの)。

Nwmk_fig1_b.jpg

左側の図は、質量を取り除いて骨組構造物だけを描いたもの、右側は抜き出した質量のみを描いたものである。構造物の抵抗力(resisting force)を R で表している。矢印は R の正の方向と対応いている。また、x は変位を表している。この例では、水平方向成分しか描かれていないが、一般的には鉛直成分も存在する。

この抜き出した質量の運動方程式を立てるわけだが、それについてはまた後日。。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.




ニューマークの論文を遅読する(その4 軍事研究だった?)

ニューマークの論文(文献 1)の"要約(SUMMARY) "では、ニューマーク法の応用範囲がいかに広いかについて力説されている(ように感じる)。対象とする荷重が色々と示されているが、主なものとしては地震と爆風(爆圧?)のようである。

要約は以下のような書き出しとなっている(拙訳と原文)。

 本論文では構造物の動的解析を行う一般的な手法について述べる。対象とする構造物の自由度に制限は無く、線形弾性挙動から各種の非弾性挙動(塑性応答)を経て崩壊に至るまでの任意の力-変位関係に適用可能である。衝撃や衝突、振動、地震動、核兵器の爆風といったあらゆるタイプの動的載荷にも対応している。

This paper describes a general procedure for the solution of problems in structural dynamics. The method is capable of application to structures of any degree of complication, with any relationship between force and displacement ranging from linear elastic behavior through various degrees of inelastic behavior or plastic response, up to failure. Any type of dynamic loading such as that due to shock or impact, vibration, earthquake motion, or blast from a nuclear weapon, can be considered.

日本でも戦前や戦中であれば、武藤清の研究室などで爆弾の爆発を想定した耐爆設計の研究が行われていたようである。だが、戦後はそのような研究は少なくとも一般の大学では無縁のものだろう。

日本建築学会から出ている「建築物荷重指針・同解説」では、2015 年版になってようやく衝撃荷重の章が新たに追加されたくらいだから、衝突や爆発といった荷重は一般には馴染みの薄いものである。尚、荷重指針で想定しているのは、偶発的な衝突事故や爆発などであって戦争やテロではない。

アメリカはこのあたりの事情が我が国とは大分異なることは想像に難くない。アメリカでは、1950年代当時も今も軍事関連の研究はわりと身近なものではないだろうか。

この論文の出版年は 1959 年である。その 5 年前の 1954 年には第五福竜丸がビキニ環礁の水爆実験で被爆しているし、核戦争の一歩手前まで行ったといわれるキューバ危機が起きたのは 3 年後の 1962 年である。

ニューマークの論文も想定荷重として地震よりも爆風の方にウェイトがあったと思われる。というのも、イリノイ大学のある辺りは地震の多発地帯ではないので切迫した動機にはなりにくいと思われるからである。また、この研究の資金の出所が海軍研究所の力学部門となっていることもある。

"要約"の最後には以下の一文がある。

本論文の基になっている研究は、イリノイ大学において海軍研究所力学部門からの補助を受けたものである。

The work on which this paper is based was supported at the University of Illinois by the Mechanics Branch of the Office of Naval Research.

「数値計算するのにそんなにお金がかかるの?」と思われるかもしれないが、当時のコンピュータの状況は今とは大違いなのである。これについても後日。。。

参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.



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