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建築構造学事始

ビルの揺れ幅はどれくらい?

東北地方太平洋沖地震の時、震源から遠く離れた大阪にある大阪府咲洲庁舎は、震度3にも拘わらず大揺れし、天井や壁に損傷を生じたりエレベータの閉じ込めが発生したりした。

地震後に何かのテレビ番組(ニュースだったかな?)を見ていたら、このビルの展望台にちょうど居合わせた人のインタビューが流れていた。窓から外を見ているとあまりに揺れが大きいので、今にも地面に落下するのではないかと恐怖を感じたとその人は語っていた。

地震時に建物はどのくらい揺れる(変位を生じる)のだろうか? 1 次モードの揺れを仮定して、設計で想定する層間変形角を使用すれば、大雑把だが簡単に推定値を出すことができる。

例えば、層間変形角 1/200 を階高 4 m の 10 階建てビルに当てはめれば、4 / 200 * 10 = 0.2(m) であるから、頂部は片振幅で 20(cm)ほど変位することになる。

咲洲庁舎は、設計者が数値計算オタクだったのかどうか知らないが、高さは 256(m) である。層間変形角 1/200 で頂部の変位を求めてみると、256 / 200 = 1.28(m) となる。

最上階近くの階に設置されていた地震計によって実際に計測された最大片振幅は 1.5(m)弱だったそうなので、この略算は悪くない推定になっている。

この庁舎ビルの周期は、地盤の周期とほぼ同じだそうで、東北地方太平洋沖地震の時は基盤レベルの揺れが 1000 倍にも増幅された「超共振」だったそうである。だが、変位だけみれば、そんなに非常識な応答でもないことが上の略算から分かるのである。

被害は軽微と言えるものではなかったので、層間変形角の方は小さくなかったのかも知れない。ただ、層間変形角 1/200 から出てくるような変位でも、超高層ビルの中にいる人にはかなりの恐怖感を与え得るということは言えそうである。


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ハンブリーのパラドックス(3)

「ハンブリーのパラドックス」の続き。

引き続き文献 1 の内容を見ていくことにする。今度は(単純)塑性設計についてである。文献 1 の "10.3 Simple plastic design" の導入部では、以下のように塑性設計において重要だが忘れられがちなことについて触れられている(拙訳と原文)。

'塑性'および'靭性'という言葉で最も大切なのは、限定的な安定挙動を暗黙のうちに仮定していることである。

The essence of the words 'plastic' and 'ductile' is that a limiting stable behaviour is implied.

中間部に荷重を受ける鋼はりを例にとると、じわじわ増える荷重によって塑性ヒンジが形成され、このヒンジ部の回転によってはりは大きくたわむが、その過程は荷重が一定のまま準静的に推移するのである。

通常の構造物の変形の範囲では、鉄筋コンクリートもこれと同じような挙動を示す。アルミニウム合金や木といった実際の設計で使用される材料も同様である。これは、ガラスや鋳鉄などの脆性的な材料が過度なひずみに起因するクラックを生じて壊滅的な崩壊へと至るのとは対照的である。

そこで、スツールに塑性解析を用いるには、スツールが壊れる時に脚が最後まで粘り強さを保つことを確認しておかねばならない。これは、どの脚もがっしりしていて、不安定な挙動を起こすことなく、押し潰そうとする荷重に耐えられるということである。そのようなスツールであれば、中央に掛ける荷重をゆっくり増す時の載荷履歴を追いかけることができる。

各脚に掛かる力を P とすると、通常初めは2本脚だけで荷重を支え、荷重が 2P になった時に2本の脚が降伏し、安定的に縮むことになる。降伏した脚が縮むと、荷重の掛かっていない脚が床に着くため、荷重は 2P を超えて 4P まで増えることになる。この最終的な段階では、どの脚も最大の荷重を支持しており、スツールの座面は大きな変位を伴うことになる。

このように、体重 60 kgf の人を支えるスツールの塑性設計で要求される P として 15 kgf が求まる。この力に適当な係数を掛けたものを設計上各脚が負担するものと考えなくてはならない。

上記で示したものと異なる載荷履歴も考えられるが、単純塑性設計で構造物がどれだけの荷重を支え得るかを求める際に履歴は問題にならな。文献1には以下のように書かれている。

単純塑性設計は、終局荷重を計算するにおいて、載荷履歴、初期不整、熱ひずみおよび自己応力の初期状態とは無関係である。

Simple plastic design, directed to the calculation of ultimate loads, is independent of the loading path, of initial imperfections, of temperature strains and of initial states of self-stress.

さて、このような認識の下に十分な靭性を持たせて建物を設計したつもりが、実際はそのように挙動しなかったという例が多数ある。その辺りについて、ある大御所がなかなかユニークな考察を与えているので、後日それについて紹介したい。


参考文献

  1. Jacques Heyman : Structural Analysis: A Historical Approach, Cambridge University Press, Cambridge 1998.




ハンブリーのパラドックス(その2)

「ハンブリーのパラドックス」の続き。

文献 1 の"10.2 The elastic design process"を見ながら、スツールの設計を通して弾性設計の手順について確認してみよう。

4本脚のスツールの釣合い式は 3 つだけだが、未知数は各脚に生じる内力 4 つである。各内力は、各脚が床から受ける反力 R1、R2、R3、R4 に等しい。また、これらの和は腰かける人の体重 60 kgf(原文では 600 N)に等しい。

モーメントの釣合いから、対角上に位置する脚が負担する力は等しいことが分かる。式で書くと、R1 = R3 と R2 = R4 である。このことから、R1 + R2 = 30 kgf となる。R1、R2 とも正の値を取るので、0 ≦ R1, R2 ≦ 30 が求まる。

この問題を解くためには、スツールの弾性特性を考慮する必要がある。座面のたわみまで考えると、四隅を支持された平板の解析というかなりやっかいな問題になるので、座面は剛体と見なし、脚の軸方向の伸び(ここでは縮み)だけを考慮する。そうすると、結果は容易に求まって、脚のヤング率の値がいくらであろうと、どの脚も 15 kgf を負担することが分かる。

この結果はもちろん一様な境界条件を暗黙の内に仮定して得られたものである。一様な境界条件とは、床は剛で平坦、またどの脚も初めの長さは同じで、同じように床に着いているということである。前々回の記事で見たように、実際の世界ではこのようなことはあり得ない。実際の境界条件は、未知であり不可知なのである。

この程度のちょっとした不整は、実際にはさしたる影響もないと結論付けたくなるが、弾性解析はこの常識的な見解を支持しないのである。文献 1 には以下のように書かれている(拙訳)。

1本の脚が床から浮いたスツールを解析してみると、床と脚との隙間が 0.01 mm、0.1 mm、1 mm のように異なれば、脚に掛かる弾性的な力もひどく異なった値となることが見出される。

このように異なる値を取ることは実験でも確認される。脚にゲージを貼って実験を行うと、1本の脚に掛かる力は、0 と 30 kgf の間の任意の値を取ることが認められ、数多くの実験で 0 または 30 kgf ちょうどの力がかかることが示される。

忠実な訳では無いかも知れないので、以下の原文も確認されたい(300 N を 30 kgf としたのは、前々回の記事に合わせたため)。

If the stool is analysed with one leg clear of the floor, then profoundly different values for the elastic leg forces will be found for clearances of say 0.01, 0.1 and 1 mm.

These different values will be confirmed by experiment; if tests are carried out, with gauges attached to the legs, then the load in a leg may be found to have any value lying between 0 and 300 N, and a fair of experiments will record the load as exactly 0 or 300 N.

拙訳では、文中の will を推量の意味とせずにもう少し強めの意味があるように訳してみた。というのも、この後に続く部分でこういったことが1930 年代にイギリスの SSRC(Steel Structures Research Committee) によって確認されたと書かれているからである。

その部分も以下に示そう。

1930年代に SSRC によってまさにこういった見解が示されたのである。彼らが下した結論とは、構造物に内在する少なからぬ不整のために、弾性解析は誤った設計手法となるということであった。

こういった見解や Kazinczy、Maier-Leibnitz らによって行われた実験も相まって、鋼構造物を対象として(実際にはあらゆる靭性的材料で作られる構造物の設計法に)塑性設計法が導入されるに至ったのである。


以下は原文。

It was precisely observation of this sort that were made by the Steel Structures Research Committee in the 1930s, and their conclusion was that the host of geometrical imperfections in structures made elastic analysis the wrong tool for design.

It was these observations, coupled with the experimental work of Kazinczy, Maier-Leibnitz and others, that led to the plastic method of structural design for steel structures (or indeed of a structure made of any ductile material).

こういったこともあって、イギリスの設計規準は大変早い段階に許容応力度設計におさらばしている。このことを説明している日本語の資料として文献2がある。末尾に載っているコラム「アメリカとイギリスにおける限界状態設計法の現状」のイギリスに関する部分を以下に示そう。

... イギリスにおいては限界状態設計法の普及はかなり進んでいる。鉄筋コンクリート造の代表的な設計規準であった BS CP 114(許容応力度設計法)は、1972 年に BS CP 110(限界状態設計法)に改められ、さらに、 1985 年には BS 8110 として改訂された。現在は、ほとんどの鉄筋コンクリート造の建物は限界状態設計法に基づく BS8110 によって設計されている。

鋼構造の設計規準としては BS 449(許容応力度設計法)が広く用いられていたが、1977 年に限界状態設計法試案が示され、1985年に BS 5950(限界状態設計法)として発行された。

現在は法的には BS 449、BS 5950 の両方の設計法が認められているが、実務においては限界状態設計法に基づく BS 5950 の使用比率が 80~90% を占め、大手設計事務所では 95% 以上にもなる。ただし、BS コードは耐震設計をカバーしていない(イギリスには地震はほとんどない)ことを注記しておく。

文献2はかなり古い本だが、BS 8110とBS 5950は現在でもイギリスの主要な設計規準である。ちなみに、このコラムにはアメリカはここまで早く(LRFDに)移行していないことも書かれている。さすがパイオニアの国イギリスは、独立独歩で我が道を歩んでいるのである。


参考文献

  1. Jacques Heyman : Structural Analysis: A Historical Approach, Cambridge University Press, Cambridge 1998.

  2. 神田 順 編 : 限界状態設計法のすすめ - その魅力と可能性を探る 建築技術 1993年




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