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建築構造学事始

サルバドリーの略算式(等価モーメント係数)

前回の記事では、サルバドリー(M. G. Salvadori)と内藤多仲といった構造の名人達が、緻密な計算よりも略算に重きを置いていたことについて書いた。ただ、そこで採り上げた二人の"略算"は、同じ略算でもニュアンスの違いがあるので補足しておきたい。

内藤多仲から引用したものは、構造計画の大切さであったり構造計算で桁を間違えるような致命的なミスを犯さないことが肝要であるといったりしたやや抽象的、一般的なレベルでの話であるのに対して、サルバドリーの方はもっと具体的、実務的なレベルでの話である。

サルバドリーの提案した略算式と言えば、差分法なんかよりも以下の式が構造設計者の間でお馴染みのものではないだろうか。

Salvadori_eq1.jpg

これは、はりの横座屈のところで出てくる式であり、鋼構造の教科書には大抵載っているものである。とは言っても、教科書ではこの式の出所までは示していないものが大半である。規準や指針だと、該当箇所に文献番号が示されていて、その番号を辿るとサルバドリーに行き着くことになる。

本文中にサルバドリーの名前まではっきり書いているのは、鋼構造塑性設計指針(最近改定されたものではなく古い方の本)の柱の章(6 章)くらいだろうか(はりの章(5 章)では脚注のみ)。但し、ここ(6 章)では柱を対象に上記の式の逆数の形が与えられている(文献 1 p.121)。

 等価曲げモーメント係数 CM は、軸圧縮力と強軸曲げをうける H 形断面柱の弾性曲げねじれ座屈の理論解として M.G. Salvadori, C. Massonnet により (6.39)、(6.40)式が示されている。

Salvadori_eq2.jpg

Salvadori_eq3_2.jpg

 図 6.13 はこれらを図示したものであるが、計算の便宜さを考えて、図6.13 中に示されるように線形近似式

Salvadori_eq4.jpg

を用いてよいであろう。上記の等価曲げモーメント係数は、弾性曲げねじり座屈の理論として得られたものであるが、弾塑性域にもこれを拡張適用したものであり、H 形断面はり材の横座屈強度算定に用いる等価曲げモーメント係数 5 章(5.14)式と同じである。

(6.39)式の第二項の符号がマイナスになっているのは、単曲率と複曲率のどちらを正とするかの違いによる。

教科書的な本でも英語で書かれたものにはサルバドリーの名前を挙げているものが結構ある。例えば、筆者が大好きなチェン(W. F. Chen)による文献 2 の 5.5.1 Unequal End Moments には以下の記述がある(拙訳と原文)。

はり端のモーメントの大きさが異なる場合(Fig. 5.13)のはり中間でのモーメントは z の関数となるので、支配微分方程式は各種の係数を有することになる。このため、級数または特殊関数を使用するなどの数値的な手法によって解を求める必要がある。

これは明らかに面倒である。幸い、設計では等価モーメント係数 Cb を用いれば、横座屈強度に及ぼすモーメント勾配の影響を容易に考慮できることがサルバドリーによって示されている。

If a beam is subjected to end moments that are unequal in magnitude (Fig. 5.13), the moment in the beam will be a function of z. Consequently, the resulting governing differential equation will have variable coefficients. Therefore, a numerical procedure, involving the use of series or special functions, is necessary to obtain solutions.

The procedure is, evidently, quite cumbersome. Fortunately, for the purpose of design, it has been demonstrated by Salvadori that the effect of moment gradient on the critical moment can easily be accounted for by the use of an equivalent moment factor Cb.

なお、上記文中の z は材軸方向にとった座標を表している。

以上では、記号や符号の意味や定義の説明を省略して書いたので、鋼構造設計の本を覗いてみたことのない人には何のことやらさっぱり分からないかも知れない。

この"略算式"は似たようなものが幾つか提案されていたり、上にも書いたように、本によって(人によって)符号の定義の違いがあったり、逆数なのに同じような呼び名だったり、AISC LRFD 規準をはじめとっくに使用されなくなっていたりとなかなか興味惹かれるものなので、機会があれば改めて採り上げてみたい。


参考文献

  1. 日本建築学会 : 鋼構造塑性設計指針 1975年11月

  2. W. F. Chen, E. M. Lui : Stractural Stability : Theory And Implementation, Elsevier, 1987.




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横座屈で見落とされがちなこと

今回は柱ではなくて、鋼はりの横座屈の話である。

話を簡単にするために、以下では荷重は鉛直下向きに作用するものとし、部材は均質で断面の図心と重心は同じ位置にあるものとする。

圧延のH形鋼やI形鋼のような二軸対称断面では、図心もせん断中心も断面の中央に来るが、溝形鋼(チャンネル材)では断面の図心とせん断中心の位置が異なるので、(断面をカタカナの コ の字のように置いて)強軸曲げで荷重を受ける場合は、図心位置に荷重をかけると、はりにはねじりが生じてしまう。

横座屈は、強軸回りに曲げを受けるはりがねじれ変形を伴いながら曲げ面外方向にはらみだす座屈であるから、元からねじれを生じているようなはりは、横座屈に対して注意する必要がある。実際、鋼構造設計規準の第五章の解説などには、このようなケースの曲げ許容応力度の扱いについて検討されている。例として挙げられているのは、溝形断面部材などである。

これは荷重の作用点とせん断中心の水平位置の違いに着目した場合の話である。もう一方の違い、つまり両者の高さの違いについては同箇所には明確には書かれていないが、こちらも横座屈の挙動に少なからず影響を与える。これは、図心とせん断中心が一致するH形やI形の断面についても言えることである。

荷重が自重の場合は、重心(今はイコールせん断中心)に作用するので、横座屈を生じた状態でも自重によるねじりは発生しない。以下がその場合の図であるが、薄い色の断面は横座屈する前の位置を表しており、黒丸はせん断中心である。


LTB selfweight


一方、上フランジに荷重の作用点がある場合は、断面が回転しながら横にはらみ出すと下図のようになり、荷重の水平位置がせん断中心から離れるので、作用荷重によってはりはねじりを受けることになり、一層はらみ出すことになる。


LTB top flange load


下フランジに荷重の作用点があるなら、荷重は横座屈を抑える働きをして都合がいいのだが、そのような状況は実際には稀であろう。

このように、荷重作用点とせん断中心の水平位置のずれだけでなく、高さ位置のずれも横座屈に影響することが分かる。では、実際問題としてどちらが重要かというと、後者の高さ位置のずれの方が重要だと言えそうである。

それは以下のような理由による。

上記の鋼構造設計規準で取り上げられている溝形断面部材などは、構造的にはあまり重要な役割を担わないのが通常である。そのためだと思うが、規準の本文ではなく解説の中で取り上げられており、その対処については設計者の判断に任されている。

一方、高さのずれはH形鋼などの主要なはり部材にも影響することから、この要因を考慮した対処法を条文中にはっきりと規定している設計コードもあるのである。

カナダのCSA(Candian Standards Association)から出ている鋼構造物の設計コードCSA-S16(2009年版)の"13.6 Bending - Laterally unsupported members"には、荷重の作用点がせん断中心よりも高い位置にあるはりについては、安全側の評価を与えるように配慮されている。

下記にその部分を示そう(拙訳)。文中のω2は曲げモーメント勾配の影響を考慮した補正係数(日本の鋼構造設計規準ではC)、Lは支点間距離、Muは弾性横座屈モーメントである。

支点間でせん断中心よりも上に荷重を受けるはり部分については、その部材に横方向拘束も回転拘束も与えない部材を介して荷重が伝達される時は、これに伴う不安定効果を合理的な方法を用いて考慮するものとする。

上フランジのレベルに作用する荷重に対しては、より正確な解析の代わりに、ω2を1とし、且つピン支持のはりについては座屈長さを1.2L、それ以外については1.4LとしてMuを決定することができる。


原文は以下。

For unbraced beam segments loaded above the shear centre between brace points, where the method of load delivery to the member provides neither lateral nor rotational restraint to the member, the associated destabilizing effect shall be taken into account using a rational method.

For loads applied at the level of the top flange, in lieu of a more accurate analysis, Mu may be determined using ω2 = 1.0 and using an effective length, for pinned-ended beams, equal to 1.2L and, for all other cases, 1.4L.

尚、この規定はCSA-S16の2009年の改訂で盛り込まれたものである。

参考文献
CAN/CSA-S16-09 Limit States Design of Steel Structures

解析?それとも設計?

Direct Analysis Method という語にはanalysisという単語が含まれているので、この言葉だけ見ると、解析方法の一つなのかと思ってしまいそうになる。だが、前回示したAISC 360のglossaryには、これは設計法(design method)であると書かれている。

この辺りはアメリカのエンジニアにもまだ馴染みが薄いようで、AISCから出ているModern Steel Construction(2013年12月号)の"steel interchange"という読者の質問に答えるコーナーに以下のようなものが出ていた。

Direct analysis methodとPデルタ(P-Δ/δ)を用いた解析はどのように違うのですか?

これに対する回答が以下。

(P-ΔおよびP-δ効果を対象とした)二次解析は、安定設計における要求事項の一部に過ぎません。また、二次解析がdirect analysis methodの一部であるのは、それがeffective length methodの一部であるのと同様です。

原文は以下の通り。

Question 1
How is the direct analysis method different than analyzing using the P-Δ/δ analysis?

Second-order analysis (for P-Δ and P-δ effects) is only one part of what is required for stability design. And, it is one part of the direct analysis method, just as it is one part of the effective length method.


Direct Analysis Methodは、初めDAMと略されていたのだが、いつの頃からかDMと略されるようになった。AnalysisのAを省いた理由は何だろう?DAMというのが既に別のものを表わす略語として使われていたのかもしれないが、もしかしたら解析ではないということを示すためなのかもしれない。(違うかな?)

参考文献

AISC : Modern Steel Construction, December 2013

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