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2015
01.04

冷遇されてきた木造伝統構法

Category: 木造
前回は、佐野利器が江州地震などの被害調査から木造建築の構造に対して下した一つのジャッジについて書いた。それは、土台は基礎に固定して、それに見合うだけの強度を建物に持たせるのが良いというものであった。このジャッジは、その後の建築基準法に反映されることになり、結果として"緊結"ではない伝統構法は基準法から締め出されてしまった。

筆者は木造建築については全くの門外漢だが、木造建築について少し調べた感じでは、基準法制定以来、伝統構法はかなりひどい扱いを受けてきたようである。2011年9月の建築雑誌に掲載されていた鈴木祥之氏らが木造建築の現況について語った座談会の記事にもこの辺りのことが出ていた。

座談会の司会者の「建築学会は伝統構法を置き去りにしているのではないかという意見についてどう思うか」という問い掛けに鈴木氏は以下のようにコメントされている。

伝統構法を置き去りにしていたのは学会ではなくて、建築基準法です。在来構法に関しては仕様規定の枠組みがつくられていますが、伝統構法については明確な規定がないことが一番の問題です。

鈴木氏はこのような状況を変えようと、限界耐力計算を用いたアプローチに取り組み始めたそうだ。

2000年の建築基準法改正時に、限界耐力計算が従来の仕様規定型ではなくて性能規定型の流れのなかで導入されました。限界耐力計算を使えば、木造にかかってきた仕様規定を外すことが可能になったのです。それで、私は積極的に限界耐力計算を使えるように努力し、伝統構法の確認申請も下りるようになりました。

だが、不幸な事件をきっかけに再び伝統構法は"官"側の無策の犠牲になるのである。

ところが耐震偽装問題を受けて、2007年に建築基準法改正があり、限界耐力計算で設計された4号建築物相当の伝統構法も大規模なビルと同じ基準で厳しい扱いを受けることになりました。そして、構造計算適合性判定が導入されるとともに構造安全性を確認する項目が非常に増え、設計図書が非常に膨大になりました。

普通の設計事務所や工務店が設計図書を作成する、あるいは建築確認を通すことが非常に難しくなり、2007年以降、建築基準法に適合した伝統構法の建築が減少し、危機的な状況にあるわけです。国土交通省は、大規模なビルを対象にしていた限界耐力計算が伝統構法にも使われていたということをあまり把握していなかったようです。つまり2007年の建築基準法改正で一番ダメージを受けたのが伝統構法なのです。


「国土交通省は.....あまり把握していなかった」とは。。。

このような状況が、伝統構法を愛する人たちの"官"への不信感や嫌悪感を増長する結果を招いているようだ。その怒りの矛先が、"緊結"を提唱した佐野利器にも向けられることもしばしばのようである。だが、佐野は一つのジャッジを示しただけであって、基準法の草案作成に直接関わったのではないのだから批判の対象とするのはどうなのだろう。。。

前回見たように、"緊結"の背景は、地震時に柱が沓石を踏み外したり、土台が落下したりするのが当時の木造建築の大勢であると佐野が判断したことだ。現在はこのような状況にないことが一般的であると認められるなら、"緊結"で木造建築を縛り続ける必要はないのではないだろうか。


参考文献
鈴木祥之ほか:展望 日本の木と建築 第三部 木造建築の課題と近年の取組み、建築雑誌、2011年9月


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2014
12.30

家屋耐震構造論 第六章の木造建築への影響

Category: 木造
日本の住宅は現在でも木造が主流である。この木造住宅を構法によって分類すると、軸組構法と壁構法(ツーバイフォー)に分けられる。軸組構法は、さらに伝統構法と在来構法に分けられる。伝統工法では貫(ぬき)が地震などの水平力に抵抗し、在来工法では筋違い(すじかい)がその役割を担う。前者は柔構造、後者は剛構造という見方もできる。

貫と筋違いの他にも両者には大きな違いがある。それは上部構造が地面に繋ぎ止められているか否かという点である。在来構法では基礎の上に木土台をはわせ、その上に柱を立てる。その時柱は木土台に緊結される。一方、伝統構法では、「石場立て」と呼ばれるように、柱脚は礎石の上に置かれる場合が多い。なので、伝統構法による場合は地震の際に地面に対して移動するということも起こり得る。

現在の建築基準法の条文を見てみると、基本的に石場立てのようなものを対象としていないことが分かる(施行令42条など)。柱は土台に、土台は基礎に繋がっていることが前提である。つまり、伝統構法は基準法では想定されていないに等しい。

この辺りのことは建築関係者には改めて書くまでも無いことなのかも知れない。また、佐野利器の「家屋耐震構造論」にこの状況に関連する内容が書かれていることをご存知の人も多いかと思う。ただ、このいわゆる"緊結"の根拠について復習しておくのも意義あることではないかと思われる。

というのも、筆者が実際に見聞きした「緊結する方が耐震的だと思っていたけど、Eディフェンスの伝統構法の加震実験の結果からはそうとも言えないようだ」といったコメントと、「家屋耐震構造論」の見解とにはズレを感じるからである。

「家屋耐震構造論」のなかで本件に関係するのは、"第六章 第二節 第五項 第三、土台"である。第六章下の見出しをこの部分に至るまで書きだしたものを以下に示す(第一節の詳細は省略している)。

第六章 木造家屋
  第一節 木造家屋の震害一般
  第二節 木造家屋耐震上の諸問題
    第一項 木造家屋の弾性
    第二項 平屋建矩形架構
    第三項 筋違
    第四項 二階建に就て
    第五項 雑件
      第一、屋根
      第二、小屋組
      第三、土台

この"第三、土台"には、現代の在来構法の"緊結"の背景ともいえる内容が書かれている。以下にこれを見きたい。用語に分かりにくいと思われるものに説明を付けているが、それは筆者にとって耳慣れないものであり、日本建築や木造建築に詳しい人には余計なものかもしれない。

書き出し部分は以下の通り(例によって原文はカタカナ文だが、読み易いように平仮名などに書き換えている。また、句読点なども一部変更している)。

土台木は、木造家屋に殆ど絶対に必要なる条件なり。少くも足搦みを用いて全ての柱を充分に結束すべく、隅々には筋違を用うべし。要するに出来得る限り全家屋の柱底を結束して単一体に近からしむべし。柱を個々に独立せしむること甚だ不可なり。柱が個々に独立する時は、加力の不均一を来して柱の或るものが特に破壊を速にするの結果、他も誘導せられて容易に破壊することあり。

足搦み(あしがらみ)とは、柱や束などの下の方を繋いで固定する横木のことである。根搦みとも呼ばれる。

在来構法でお馴染の土台木についてまず書かれている。そして、柱は全て一体とするようにと説いている。そうしないとどこかの柱が不利な条件となって破壊し、それに引きずられて他の柱もやられてしまう。

佐野は、1909年8月に起きた江州地震の調査を行い、1910年に震災予防調査会報告第七十号として「江州地震調査報告」を著しているのだが、その際に得た知見が家屋耐震構造論の第六章に色濃く反映されている。江州とは現在の滋賀県北部地域の呼称である。江州地震は江濃地震または姉川地震とも呼ばれる。

以下、続ける。

又は柱の或るものは沓石より外るることあり。柱が沓石より外るる時、激しき衝動起こり、全家屋の破壊甚だ容易なるに至るべし。その好例を江州震災となす。江州地方の家屋が上部の構造に於いて実に優秀なるものありし割合に、劇しき災害を被りたるの理由を、余は土台の欠けたるに帰したり。遺憾に堪えず(震災予防調査会報告第七十号)。

沓石(くついし)とは、その名の通り柱または束柱の下の基礎になる(靴のような)石のことである。このように柱が礎石を踏み外して倒壊する被害形態は、最近の地震、例えば東日本大震災の時の社寺の被害報告にも見られるものである。江州地方の構造的に優秀な家屋もこの形態でやられてしまった。その対応策が以下の様に示されている。

柱の種類によっては、沓石上に直に置かるるのやむを得ざる場合なきにあらず。かかる場合には、特に沓石を地中に深く埋め、柱に柄を付して移動を容易ならざらしむべきなり。

これに続いて以下のような記述がある。

地が振動せる時、家屋が全体として一様に滑動する時は、家屋に作用する震度はこれに応じて減ぜらるべし。かくの如くなさんが為に、家屋を回転し易き玉石のうえに載する如き構造を可とすと言うものあり。又は移動し易からしめんが為に土台と基礎との間を滑らかならしむべしとなすものあり。

前者の如きは、空論にして実施し得べきにあらず。家屋は耐震を目的として築造せらるるにあらずして、家屋たるの必要より起こさるべきものなればなり。後者は、自ら理なきにあらずといえども、家屋が極めて単純ならざる限りは、実効を収め難し。複雑なる家屋が移動し易き場合には、却ってその移動が一様なり難し。一様ならざる移動は却って害あり。

又土台は地に接触せしめ得べきにあらずして、その台として必ず壺石、布石、又は腰積を要す故に、もし移動が容易なる時は、土台はその台より墜落することなきを保せず。これなからしめんが為には、台は少なくも二尺以上の幅を有せずんば、安んずる能はず。もし墜落することある時は、破壊は却って甚だ容易なるべきは言を待たず。要するに、後者もまた一つの空論に近し。


緊結されていない上部構造が理想的に滑ってくれるならば、作用する地震水平力は、高校(中学?)の物理で習ったように自重に動摩擦係数を掛けたもの(正確には礎石から柱への抗力に動摩擦係数を掛けたものの総和というべきだろうが)で頭打ちとなる。これは好都合だ。

だから玉石のうえに家を置けばよいという者がいるが、家屋は耐震だけのために建てるのではないのだから、それは空論だと佐野は言っている。

また、土台と基礎を分離移動できるようにするのも極めて単純な家を除けば却って危険になるし、土台も台からはみ出して墜落する恐れがあると言っている。「江州地震調査報告」の方も見てみると、そのようにして倒壊した例が挙げられている。

以上のような理由から"緊結"という結論を出すに至っている。以下がその部分。

故に、余輩は寧ろ、移動し難き構造を採りて、而して家屋はこれに相当する強度にこれを設計するをもって策の得たるものとなさんと欲す。安んじて工を起こすを得べきなり。

先に書いたEディフェンスでの伝統構法家屋の加震実験では、"柱が沓石を踏み外し"たり、"土台がその台から墜落し"たりしないように配慮されている。つまり、かなり理想的に滑らせた場合の結果であるから、この実験結果は何ら"緊結"の根拠に抵触しないことになりはしないだろうか。上記の佐野の文を素直に受け取るなら、佐野が"緊結"を良しとしたのは、実際の家屋では理想的に滑らない状況の方が一般的だと判断したからだと思われる。

理想的に滑る条件で地震応答解析をやって応答加速度が下がる結果を示して「だから佐野の主張する緊結よりも滑らせる方が良い」という論調の記事を目にしこともあるが、これもEディフェンスの実験結果と"緊結"を結び付けるのと同様に論点がズレているように感じられる。理想的に滑る条件を解析モデルに与えれば、応答加速度または地震水平力が頭打ちになるのは当然であるから、わざわざ解析をやってみるまでもないだろうと思われるのだが。。。


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