--
--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2014
01.26

絶対なんてものは絶対にない!(θ法の奇妙な振る舞い)

Category: 建築構造史
たわみ角法のウィルソンは、当然のことながら故人であるが、θ法のウィルソンの方はまだご存命のようである。生まれた年から計算すると今年で83歳である。

既に歴史上の人物のような感があるから少し驚きだが、もっと驚くのは、彼の指導教官でもあり、有限要素法の創始者でもあるクラフ(R. W. Clough)も94歳でどうやらご存命なことだ。アメリカ西海岸で有限要素法を研究していると長命となるのであろうか?

それはさておき、前回からの小難しい話の続き。

θ法では θ = 1.4 が推奨されていると書いたが、積分の時間間隔の方はというと、検討する最高次モードの周期の1/10が経験的によく用いられる。ウィルソンの論文では、非減衰系で検討した結果として、1/100で十分に正確、1/5より大きくすると誤差が非常に大きくなることが示されている。

周期の1/10まで時間間隔を小さくしても低次モードの精度は十分とは言い切れないところが、θ法が淘汰されてしまった一因であると思われる。

もう一つθ法には大きな欠点といえるものがある。線形問題だと、θ≧1.37で無条件安定であると書いたが、これで安心してはいけない。θ法は条件によってはオーバーシュート(overshoot)という奇妙な挙動を示すことが知られている。

この現象は、1972年にGoudreauとTaylorによって見つけられたものであるが、オーバーシュートとは、時刻歴解析の初めの数ステップで明らかにおかしい非常に大きな応答値が得られる現象のことである。無条件安定だからといって、“絶対に安定”な訳ではないのだ。

ウィルソン自身によって書かれた有限要素法の教科書的な本などに、オーバーシュートの例を扱ったものがあるが、その分析について詳しく書かれている本は、筆者の知る範囲では見当たらない。なので、以下に簡単ではあるが概要を書いておきたい。

数値積分手法の安定性は、ある時間での状態量(変位、速度、加速度のこと)とその次の時間ステップでの状態量を関係づけるマトリックス(amplification matrix = Aマトリックス)のスペクトル半径で議論される。安定性は、スペクトル半径の大きさで判定できる。ウィルソンの論文でもそのようにして安定性が検討されている。

だが、この検討結果が無条件安定であってもオーバーシュートは起き得るのである。オーバーシュートの検討は、スペクトル半径ではなく、Aマトリックスのノルムを調べる必要のあることが、HilberとHughesの論文に示されており、分かりやすい簡単な例も示してあるので、詳細に興味のある方はそちらを参照されたい。

尚、本稿のタイトルは、阿川佐和子氏が父親の阿川弘之氏から聞かされた言葉として、ずっと以前に新聞か何かに書いておられたものである。さすがは作家うまいことを言う、と感心してしまったと同時に、プログラミングで出てくる“再帰的呼び出し”を思い出してしまった。。。

参考文献:
E. L. Wilson : Three Dimensional Static and Dynamic Analysis of Structures, 1995.
E. L. Wilson, I. Farhoomand and K. J. Bathe : Nonlinear Dynamic Analysis of Complex Structures, 1973.
G.L. Goudreau, R.L. Taylor : Evaluation of numerical integration methods in elastodynamics, 1972.
H. M. Hilber, T. J. R. Hughes : Collocation dissipation and 'overshoot' for time integration schemes in structural dynamics, 1978.


スポンサーサイト
Comment:0  Trackback:0
2014
01.22

シータの由来は?(ウィルソンのθ法について)

Category: 建築構造史
建築構造の分野でウィルソンと言えば二人の人物を思い浮かべる。

一人はイリノイ大学の Wilbur M. Wilson である。この名を知らなくても、構造系の人ならたわみ角法を必ず勉強しているはずだ。こちらのウィルソンは、たわみ角法の発案者である。

1881年の生まれだから、今から100年以上も前の人である。彼の生きた時代は、日本では佐野利器、内藤多仲などが活躍していた頃で、佐野利器の文献などに見られる "ウィルソン法" というのは、たわみ角法のことである。

もう一人は SAP の稿でも取り上げた、カリフォルニア大学バークレー校の Edward L. Wilson である。W. M. ウィルソンのちょうど50年後の1931年の生まれである。数値積分法の一つである "ウィルソンのθ法" が有名なので、ウィルソンと言えばまずこちらを思い浮かべる人も多いかと思う。

先日 SAP とう構造解析プログラムについて書いたが、内容については何も触れていなかったことに気が付いた。これでは、SAP を知らない人には何の事だかさっぱり分からないと思われる。なので、本稿では二人目のウィルソンについて書くことでこれを補いたい。たわみ角法やW. M. ウィルソンについても興味深いものがあるので、これは後日書いてみたい。

去年(2013年)の年末くらいだったと思うが、計算工学会から出ている雑誌「計算工学 Vol.18 No.4」に載っていた石井惠三氏の「国産 CAE ソフトウェアの開発に携わって40年」という記事を興味深く読んだ。

SAP の後継バージョンである SAP IV のことや当時の日本の CAE 業界の状況が書かれていて、筆者は世代的にも SAP について語る資格は無いのだが、ちょっと書いてみたくなったのはこの記事がきっかけである。

その記事には、SAP に盛り込まれた当時最新の技術として、ウィルソンのθ法(以下θ法)、サブスペース法(固有値計算法の一手法)、非適合要素のことなどが挙げられていた。

昨今の論文などでθ法を使って解析を行ったというものはまず見かけない。その意味では、既に淘汰されてしまった手法と言えるのだと思う。だが、市販ソフトなどでは、この手法をオプションとして備えているものは少なく無いようで、実務解析では今でも使われることがあるようである。

θ法の元ともいえるものは、Newmark 法の安定性を改良した方法として1968年に提案されている。θ法の骨子は、係数θを1以上の値として、積分の時間間隔をθ分だけ広げることにある。つまり、加速度が線形変化する区間を Δt から θΔt までに広げておいて、t+θΔt での釣合いを考えるのだが、応答を評価するのは、あくまで t+Δt においてである。

こうすると安定性が増すという着想はどこから来たのか?これについて、ウィルソンは以下のようにタネ明かしをしている。

「不安定な解が真の解の回りに振動する傾向を示すことから、係数θを導入してみようという考えが浮かぶ。そのようにして、時間増分の途中で解を評価してやれば、不要な振動は最小限に抑えられることになる。」

筆者の拙い日本語訳よりも以下の原文を見られたい。

"The introduction of the θ factor is motivated by the observation that an unstable solution tends to oscillate about the true solution. Therefore, if the numerical solution is evaluated within the time increment, the spurious oscillations are minimized."

線形問題では、θを1.37以上となるまで広げると無条件安定となることが示される。あまり広げすぎると精度が悪くなるので、ウィルソンは、1.4 という値を推奨している。

モードの固有周期に対して積分の時間刻みが大きいと誤差が大きくなる。この誤差は、応答の周期の伸び、振幅の低下という形で出てくる。振幅が低下するので数値減衰などと呼ばれる。高次モードは固有周期が短いので、この数値減衰の効果を大きく受け、条件によっては応答がすぐに消えてしまうことになる。

高次モードが不要な場合は、この効果は好ましい。このような積分法が要求される背景として、自由度数の大きな構造物の非線形解析がある(SAP 自体は線形解析プログラムであるが、1973年には非線形解析が主題の論文が出ている)。自由度数は非常に大きいが、知りたいモード数はそれほど大きくない、でも低次モードの精度は確保したい、というのは実際問題としてよくあることだろう。

ちなみに、数学でθといえば角度を表す記号であるが、もう一つθが使われる場面がある。それは、高校の数学で習う平均値の定理である。θ法の式の形を見ると、平均値の定理で定義域内の値を表す式とよく似ていることが分かる。だからウィルソンはθという記号を使ったのだと思うが、このことは何かで読んだわけではなく、あくまで筆者の推測である。ただ、平均値の定理では、θは0と1の間にある(内挿式)が、θ法では外挿式なので、θは1以上の値をとる点が違っている。


Comment:0  Trackback:0
2014
01.17

有限要素法誕生時の予言?

Category: 建築構造史
前回は、SAPというネーミングに込められたウィルソン(Edward L. Wilson)の考えについて書いた。本稿もこれに関連した内容であるが、SAPの初期バージョンがリリースされた1970年から15年ほど時間は遡ることになる。

1956年という年は、構造工学の分野だけでなく、広くCAEに携わる人には重要な意味を持つ年であろう。というのも、工学分野における有限要素法の始まりと言われる論文 "Stiffness and deflection analysis of complex structures" が Journal of Aeronautical Science に掲載されたのがこの年の9月だからである。著者は、ターナー(M. J. Turner)、クラフ(R. W. Clough)、マーチン(H. C. Martin)、トップ(L. J. Topp)の4人である。

この論文の概要や背景については、多くの本やウェブサイトでも取り上げられているので、ここで改めて書くことはしないが、論文の主題は、飛行機の翼(後退翼)の剛性を計算する新しい解析法についてである。

論文の前半では、簡単なトラスの例題を使って有限要素法(変位法)の計算手順(6ステップある)が説明されている。この方法は、当時としては斬新で画期的であったに違いないが、現代の我々からすると“お馴染み”のものである。

つまり、各ステップを要約すれば、(1)構造物をモデル化、(2)要素剛性マトリックスを作成、(3)要素剛性マトリックスをアセンブルして全体剛性マトリックスを作成、(4)境界条件を設定して全体剛性マトリックスを縮約、(5)荷重条件を設定、(6)全体剛性方程式を解いて変位を求め、内力を計算となる。

問題は、この後に続く以下の文である。

Steps (3) through (6) can be performed by nonengineering trained personnel.

ステップ(3)から(6)は、工学経験を積んでいない人にまかせても OK と言っているのである。

この真意は、おそらくステップ(3)から(6)はプログラミングなどによって自動化できるということなのだと思う。モデル化や解析結果の吟味はこれに含まれていないので、ウィルソンの言っていること(モデル化や解析結果の検討については、ユーザに責任がある)と同じと考えていいのだろう。

ただ、この文はうっかりしていると、工学経験がなくても有限要素法を使うことができる、と解釈しそうになる。そして、現代のCAEの状況は、この誤った解釈の方に近いように思えるのである。

立派なプリポスト機能がついたソフトウェアが容易に手に入り、入力さえすれば計算はやってくれるし、結果も見栄えよく表示してくれる。解析だけでなく設計も然り。設計式の背景や適用範囲を知らなくとも、とりあえず設計結果は得られるのだ。

もちろん、中身がブラックボックスのままでいいはずがない。エンジニアは自分で意識して中身を知る努力をする必要がある。そういった意味では、現代のエンジニアの方が厳しい環境にいるのかもしれない。


Comment:0  Trackback:0
back-to-top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。