2014
04.29

金井清よりも前に「発見」されていた?(末広恭二のアメリカ講演より)

Category: 地震工学史
比較的最近の研究で、ある地点の地盤の卓越周期は、震源が異なると(つまり違う地震だと)1秒くらいも違ってくることもある、というある意味深刻な報告がされているのを目にしたが、今回取り上げる内容は、卓越周期という概念がおぼろげに形成され始めた、まだ牧歌的な(?)頃の話である。

卓越周期といえば常時微動、常時微動といえば金井清、という図式が筆者の頭の中に形成されてしまっているが、これは大崎順彦著「地震と建築」を読んだことに負うところが大きい。同書の「素晴らしい発見・常時微動」と題した節では、ある地点の地盤の卓越周期と地震動の周期特性を簡単に知る方法として微動計測が有効なことや、そのことを発見した金井清について書かれている。

そして、その節は以下のような文で結ばれている。

「大地の雑音である常時微動、その雑音の中に真珠があり、しかもそれが地震動のミニチュアなのだという素晴らしい発見は、すべて地震工学者金井清の業績であって、国際的にも名高い。」

金井による常時微動の研究成果として海外の研究者にも引用される文献は、"On Microtremors VIII"というタイトルの論文であることが多いようである。この論文は、1961年に出版されていて、"On Microtremors"という一連の研究報告の総括のような内容となっている。今回調べてみるまで、金井清が微動研究を行っていた時期を、漠然と1950年くらいかと思っていたのだが、その考えは当たらずとも遠からずであった。

しかし、「地震と建築」に書かれている "すべて地震工学者金井清の業績であって" の部分は、どうやら言い過ぎのようである。というのも、末広恭二のアメリカ講演の記事には、すでに常時微動と地震動の周期特性の類似性に言及している部分が見られるからである。

それは、(本ブログの「名前のない地震」という稿で取り上げた)4つの地震記録を検討しながら、加速度計の必要性を強調する文脈において述べられている。変位を記録する地震計から読み取った周期が広い範囲に分散するのに対し、加速度記録の周期は非常に狭い範囲(本郷では0.3秒から0.4秒の間)に限定されるという事実を示した後で、末広は以下のように常時微動と地震動の周期特性について述べている。

"With respect to this important fact, it is worthy of note that Hongo is habitually subjected to micro-tremors at ordinary times, and during earthquakes to habitual motions with a period 0.3 sec., or so, and it is this period that prominently appears in the accelerations."

"Habitual"には、“常習的な、常時の、いつもの、普段の、不断の”といった意味があるが、micro-tremors(microtremors)という語は、habitually を付けなくても、今では常時微動という言葉がそのまま対応する。Habitual motion は、同じように訳せば“常時動”であろうが、“普段の動き”と平たく言ったほうが分かりやすいかもしれない。

要するに、地震時に加速度の周期として現れるのは、“普段の動き”の周期であり、本郷の場合はそれが0.3秒くらいであると言っているのである。この後に、控えめであるが、一般化した結論として、以下のように述べている。

「このため、積極的に述べることはできないものの、卓越する加速度を生じる地震動は、その地域に生来の常時動によるものと思われる。」
(Therefore, although I cannot say positively, the motions of an earthquake that cause the predominant accelerations seem to be due to the habitual motions inherent in the district.)

さらに続けて、同じことが低地(low ground)でも成立するかについて言及しているのだが、今回はここまでにしておきたい。



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2014
04.21

弘法も筆の誤り?

Category: 構造解析
今回は、"バグ"で思い出した、ある本の内容について書いてみたい。前回は、前振りで時間境界について述べたのに、実際に問題としたのは力学的境界であったが、今回こそは時間境界(初期条件)が主題である。

"Dynamics of Structures"という本は、耐震構造解析の定番のテキストとして、アメリカだけでなく、恐らく世界中の学生、研究者、エンジニアの間で読まれているものだと思う。

"Dynamics of Structures"と言えば、CloughとPenzienのものが有名だが、今回取り上げるのは、この後継本とも言えそうな、カリフォルニア大学バークレー校のチョプラ(Anil K. Chopra)によるものである(副題は、Theory and Applications to Earthquake Engineering)。700ページもある大著で、例題が豊富なので、筆者もちょくちょく参考にさせてもらっている。

大分前のことである。この本を読んでいて「えっ?」と思われる内容に出くわしたのだが、それは時刻歴解析で使用する数値積分法の特性を確認する例題について読んでいる時であった。この例題自体は、非常にシンプルなもので、単に1質点ばねを自由振動させて、その変位の時刻歴を求めるだけのものである。

減衰はゼロなので、高校の物理の教科書で出てくる単振動と同じである。振動方程式は、以下のように書かれる。

ma + kd = 0

m:質量、k:ばね定数、a:加速度、v:速度、d:変位、である。vはdを時間に関して1回微分、aはdを時間に関して2回微分したものであることは言うまでもない。減衰はゼロなのでvの項は書いていない。

この質点を単位長さだけ引張ってから自由振動させるのだが、その場合の初期条件として以下のように書かれている。

d = 1、v = 0

この初期条件が???なのである。これを先の振動方程式の左辺に代入してもゼロにならないのは明らかだ。ゼロとするには、

a = -k/m

も初期条件に加えないといけないと思うのだが、この記述が見当たらないのである。

数値積分法には、初期条件として加速度を指定するものもあれば指定しないものもあるが、本の中に描画されている結果のグラフには加速度を指定するものが出ていたので、筆者が自作プログラムで試してみたところ、a = 0 とすると、そのグラフとぴったり一致したのである。なので、どうやら式を書き忘れただけではないようなのである。

それにしても、単振動のような高校レベルの問題を大先生が間違えるだろうか?この考えは今も拭えないので、筆者が何か勘違いをしているのかも知れない。興味のある人は、"5.5.2 Computational Error"を確認して頂きたい。

もし筆者の勘違いでないとしたら、以下のようなことであろうか?

大先生は、大先生であるが故に忙しいはずだ。その割には、この本は豊富な例題を備えていて、尚且つ実に丁寧に書かれている。記載されている例題を著者一人で全部解いたというよりは、何人かの協力者がいると思う方が自然だし、そういうことはよくあることだろう。

研究室にいる学生は優秀に違いなく、問題は高校レベルである。動的解析プログラムも研究室にあまたある。任せても問題はないだろう。。。かくして実作業は協力者へと委ねられたのではないだろうか。

一方、解析を任された学生(多分)は、これは自分の仕事じゃないよな、などと内心思いながら、記載された初期条件に特に注意を払うこともなく、ただ入力して出てきた結果をそのまま提出したのではないだろうか。

などなど、色々と空想を膨らませてみたが、この本にケチを付ける気は毛頭ないことを断っておきたい。ただ、高校の教科書で出てくる問題と大先生というコントラストがちょっと面白く思われたので書いてみたまでである。

この本は、既に書いたように、筆者も折に触れて開いてみては勉強させてもらっている。アメリカは、日本の建築、土木という分け方と違って、Civil Engineeringという括りになっているからだと思うが、日本の建築振動論の教科書では扱わないような例も取り上げられていて、そういった例題が重宝する時もある。

例えば、土木で扱う長大橋などの解析では、ある橋脚と別の橋脚では入力される地震波が異なるということが考えられるが、そういった場合の定式化や例題についても出ている。日本の建築系の教科書では、そのような例を扱っている本は殆どないのではなかろうか。


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2014
04.13

境界と不連続

Category: 構造解析
童話作家のあまんきみこ氏の作品に、タクシー運転手の松井さんが主人公の「車のいろは空のいろ」というシリーズがある。あまんきみこ氏の作品は、小学校の教科書にしばしば取り上げられるようなので、御存知の人も多いかと思う。筆者は、このシリーズを(いまだに)こよなく愛する者の一人である。

この本の中に収録されている「まよなかのお客さん」という話は、以下のような書き出しで始まる。車を運転しているのは、もちろん松井さんである。

「月夜の道です。車は、青くそまったイチョウ並木の下を、ぐんぐん走っていました。とけいを見ると、ちょうど十二時。まよなかです。(きのうときょうの、いや、きょうとあしたのあいだだな。)」

"ちょうど十二時"の松井さんはどちらの日に属すと考えるべきなのだろうか?

こんなことを思い出したのは、とある構造解析ソフトの計算にちょっとしたバグを見つけたからであった。

実際はもう少し複雑な話になるのだが、"マズい部分"の要点だけを抜き出すと、集中荷重を受けるはり断面の最大せん断力を求める問題に帰着する。

大学一年生くらいで勉強する材料力学の問題として、はりの断面に生じる最大せん断力を求めることを考える。集中荷重を受けるはりのせん断力分布は、荷重点で不連続となる。例えば、中央に集中荷重Pを受ける単純支持はりの荷重点におけるせん断力は、左を向けばP/2、右を向けば-P/2である。P/2は、両端の反力でもある。荷重が中央からずれた場合として、せん断力分布V(x)を以下のように書いてある本もある。

V(x) = R1 ( x < a )、-R2 ( a ≦ x )

はりの端部を原点として x 座標を取り、荷重点の位置を a、反力をR1、R2で表している。

上記のソフトは、プログラミングする際にこの式をそのまま用いているらしいのであった。しかし、この表現では、不連続点では片方の値しか見ていないので、R1 > R2 の場合は、大きい方のせん断力が見落とされてしまうのである。

はり全体での最大せん断力を求めるのであれば、別の断面でR1を拾うので問題ないのだが、問題のソフトでは組合せの最大せん断応力(度)を求めることをやっていて、そうすると、荷重点における最大せん断力を見落とす訳にはいかないのである。

このような見落としをしているソフトはそうそうあるとは思えないが、同じ理由によってポスト処理が不格好となっているソフトなら他にもお目にかかったことがある。つまり、上記の数式でせん断力分布を描画すると、不連続点でせん断力図が斜めに表示されて、手描きのような"垂直な絶壁"とならないのである。

であるから、プログラミングの際には、荷重点で両方の値を参照するようにちょっと手を加えないといけない。

ちなみに、数学で出てくる「ヘビサイド(Heaviside)関数」は、不連続点を定義域に含まないが、「ステップ関数」は、上記の式と同様、一方の値がどちらかの領域に属す。不連続点で二値を持つような関数は、一価関数ではないという理由からだと思うが、特に名前はないようである。

最後に再びあまんきみこ氏について。「車のいろは空のいろ」では、タクシーのお客として山猫や狐が乗ってきたり、通りを曲がると過去の世界に紛れ込んだりと、人間と動物の境界や時空の境界を越える装置として松井さんのタクシーが重要な役割を果たす。

あまんきみこ氏が"境界"というものに思いを巡らせて作品を構成していたのかどうかは、ご本人に聞いてみる以外に確かめようがないが、上記に取り上げたような部分を読むと、あるいはそういうこともあるのかもしれないと一ファンとしての妄想が膨らむのである。


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