2014
05.29

はり、柱およびはり柱

Category: 用語
日本の住宅は今でも木造軸組み構造が主流なので、はり(梁)や柱という言葉は一般の人にも馴染みがあるようである。建築が専門でない人が相手でも、これらの用語を使う際に特に説明はいらないだろう。

だが、専門的にはこれらの用語はどのように定義されるのであろうか?岩波の建築学用語辞典を見てみると、以下のような説明が載っている。

梁: 二つ以上の支点の上に架けられた構造部材、あるいは一端が固定された片持ち形式の水平な構造部材。
柱: 屋根、床、梁などの荷重を支え、下部の構造に伝える垂直部材。

これらに対応する英語は一つでは無いだろうが、beam と column が最も代表的なものと思われる。構造の専門用語としての意味について見るため、AISC 360-10 の glossary を参照すると、beam と column には以下のような説明がある。

Beam : Nominally horizontal structural member that has the primary function of resisting bending moments.
Column : Nominally vertical structural member that has the primary function of resisting axial compressive force.

名目上、はりは曲げ、柱は軸力に抵抗する部材であることが分かる。

これらのほかに、構造の専門用語には、はり柱(beam-column)というのもある。AISC 360-10 の説明は以下。

Beam-column : Structural member that resists both axial force and bending moment.

構造力学や構造解析では、軸力がゼロの部材をはりと呼ぶことも多いようである。だが、"名目上"であるから、そうでない場合もある。例えば、ブレース付きラーメンのはりなどのように、大きな軸力が作用するものもある。軸力が大きいからといって、水平部材を柱とは言わないであろう。同様に、柱と言っても大きな曲げが作用する場合だってある。

この辺は定義があいまいなので、全て"はり柱"と言っておけば無難なのであろうが、はり柱という用語は、構造が専門の人にも日常ではあまり使用されないようである。W F Chen, E M Lui 著 "Structural Stability" の Chapter 3 Beam-columns には以下の説明がある。

A beam-column is a structural member that is subjected to both bending and compression. In reality, all members in a frame are beam-columns.

序に言うと、鋼構造座屈設計指針の柱の章では、柱と書いているが、対応する英語として beam-column が当てられている。

はりのことをビームと呼ぶと、一般人には急に通じなくなる。これは、"ビーム光線"のビームの方を連想してしまうからのようだ。あるテレビ番組で「ガードレールの端の丸く折り曲げられた部分を何と呼ぶか?」というクイズが出されていて、答えは"袖ビーム"(端以外は単なるビームと呼ぶ)なのだが、回答者は、答えを聞いても何故ビームと呼ぶのか最後まで納得いかないようであった。


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2014
05.16

金井清よりも前に「発見」されていた?(3) (参考文献など)

Category: 地震工学史
今回、末広恭二の講演の内容をきっかけとして、金井清の業績を中心とした微動に関する文献のいくつかに目を通してみたので、それらの中から主なものを以下に示しておきたい(2と3は、東京工業大学都市地震工学センターのウェブサイトで公開されていた資料である)。微動について今回新たに興味を持たれた方はご一読を。

1. Kiyoshi Kanai, Teiji Tanaka : On Microtremors. VIII. Bulletin of Earthquake Research Institute, Vol. 39(1961)
2. 小林啓美 : 金井清の“On Microtremors VIII”について
3. 瀬尾 和大 : 金井微動とマイクロゾーニング - 小林啓美先生のご足跡を振り返りながら -
4. 鏡味洋史 : 微動観測とその工学的利用、地学雑誌 97-5 (1988)

筆者が読んでみて一番面白かったのは 3 である。それは、微動研究の発展過程の裏話的な話題が書かれていたことや、研究や観測の様子を示す写真が多く掲載されていたことによる。

ある写真には、腰を折り曲げて、突っ伏すように微動計を操作する小林啓美氏の姿がある。眼鏡をずらしていることからも、既にご高齢の時のものと見受けられる。小林氏は、なんと退職金で "マイ微動計" を購入されたそうである。真の研究者とはこういう人のことを言うのかとその写真をまじまじと見入ってしまった。。。

1は、国内外の研究者に多く引用される歴史に残る論文と言えるようである。"ようである"としか書けないのは、筆者がこの分野は全くの門外漢のせいで、自分では評価できないからである。門外漢ゆえに、以下では論文の要点には関係ない、いわばどうでもよいことについてちょっとだけ書いておきたい。

1を読むと、国内外の微動計測点として実に色々な場所が選ばれているのが分かる。読む前までは、なんとなく関東近辺でやっていたのだろうくらいに思っていたのだが、計測点には東京の複数の場所や東京湾もあれば、伊勢湾もあり、洞海湾などもある。計測するだけでも大変だが、パソコンなど無い時代であるから、採れたデータの処理も相当に骨の折れる作業であったろうと思う。

洞海湾では、若松市(現在の福岡県北九州市若松区)に観測点が取られているが、これは工場地帯の近くで人為的な振動源が多くあるから選ばれたのであろうか?また、これとは逆に、かなり田舎の山形県酒田市でも計測が行われている。人為的な振動源が少ない場所を、多い場所との比較用に選んだのであろうか?

縦軸が frequency で横軸が period のグラフが多く載っている。筆者などは、frequency といえば振動数(または周波数)と反射的に訳してしまいそうになるが、微動の分野では frequency は「頻度」である。幸いこのことを大崎順彦著「新・地震動のスペクトル解析入門」を通して知っていたので混乱せずに済んだ。以前にも書いたが、末広恭二の講演記事では、頻度は frequency of occurence と書かれていて、こちらだと勘違いしなくてすむ。

微動は、気象条件などにも影響を受けるが、それよりも人為的なものが支配的だそうである。であるから、微動の振幅は昼の方が夜よりも大きくなる。これに関して成り立つ経験式として、以下のようなものが載っている。

(midnight) = 0.3 × (daytime)^1.5

Midnight と言えば、「きのうときょうの、いや、きょうとあしたのあいだだな」の午前0時(夜の12時)である。Longman Dictionary of Contemporary English には、midnight の説明として以下のように書かれている。

12 o'clock at night

Do not say 'in the midnight'. If you mean 'at 12 o'clock at night' say 'at midnight' and if you mean 'very late at night' say 'in the middle of the night.'

だが、どうも文脈からは"夜間"といったニュアンスで使われていることが伺える。微動振幅の1日の時間変化のグラフが出ているが、最も振幅が小さくなっているのは午前3時から4時くらいであることからも、午前0時の値を取る必然性は無いように思うのだが、どうであろうか?実際、鏡味洋史氏の文献でも"深夜の振幅"という訳語が与えてあるが、これは意訳なのか誤訳なのか。。。

これについては、筆者では判断が付かないので、微動に詳しい方のご意見が伺えれば幸いである。この件は、筆者の頭の中の「よく分からないのでとりあえず判断は先送りしておこうスタック」に積んでおくことにしたい。


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2014
05.09

金井清よりも前に「発見」されていた?(2)

Category: 地震工学史
Microtremor という語を地盤に対して用いたのは、大森房吉が最初であるらしい。用いただけでなく、その周期と地震時周期の関係についても既に着目していたようである。鏡味洋史氏の「微動観測とその工学的利用」という論文の"II. 短周期微動"を見ると、以下のように書かれている。

「1908年 OMORI(1908)は周期1秒以下の地盤の振動を計測しこれを microtremor と名づけ、この周期が地震時の際の周期と一致することを指摘している。」

この文の後には、石本巳四雄の論文についても書かれている。

「その後ISHIMOTO(1931)の加速度計による東京・横浜の各地での地震観測にもとづく地盤の卓越周期の存在の指摘以来、地盤の卓越周期と微動との関係についての研究が多く進められた。」

この石本の論文(ドイツ語)の内容が、末広恭二の講演で紹介されている加速度計の調査報告に対応するものと思われる。残念ながら筆者はこの論文を(大森の論文も)入手できていないので、推測にすぎないことを断っておくが、発表年からもほぼ間違いないと思われる。

前回は、本郷での調査結果の辺りまでを書いたが、低地(low ground)での調査にも、石本式加速度計を使用して同様な結果が得られている。調査は丸の内で行われており、本郷と同じく常時動と地震動に関係のあることが以下のように書かれていて(拙訳)、断言は避けているものの、結論については確信していたことが伺える。

「この地域にはまだ十分な数の加速度計を設置していないため、それらより肯定的な結論を導くのは早計であるが、台地(high ground)での調査から得られた結果に反することは何も出てこないことはほぼ間違いない。」

"High ground"は、直訳すれば"高地"であるが、筆者の感覚では、高地と言うと(かなり海抜が高いといった)違ったニュアンスを受けるので、"本郷台地"という地形の名称もあることから台地と訳してみた。

このように、地震研究所では、微動と地震動の関係について、既に1930年前後に結論めいた見解を持つに至っていたと言ってよいようである。

金井清の"On Microtremors VIII"(1961年)を見てみると、微動研究について、石本の書いた論文が引用されてはいるが、ごく僅かに触れられているにすぎない。末広の講演記事にあるような1930年前後の成果は特に引用されてはいない。

お蔵入りしていた研究を30年ぶりに持ち出してきたという感じを受けるが、長期のブランクがある点は、強震計の開発が20年ほど止まっていたのと似ているのかもしれない。そうだとすると、やはり戦争というものの影響が非常に大きかったということになるのであろうか。

以上は、金井清以前についてであるが、瀬尾和大氏の「金井微動とマイクロゾーニング」という記事は、金井清以後について詳しい。微動研究が世界的に知られるようになった過程について書かれているのだが、これを読むと、たとえ"結論"が先にあったとしても、それを裏付ける観測結果を地道に積み上げることが極めて大変な作業であったと想像される。

また、普及においては、小林啓美氏が"伝道師"として非常に重要な役割を果たしたことが分かる。あえて「金井微動」と名付けたのは戦略なのだろう。



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