2015
06.29

材料力学的なぞなぞ?

Category: 材力、構力
今回は、カンチレバーつながりのコーヒーブレイク的な内容である。

数学者の矢野健太郎の書いた「クイッキー・トリッキー・フォルシー」というエッセーの「トリッキー」の下りに地球物理学者の坪井忠二が登場する(坪井忠二については、本ブログでも何度か取り上げたことがある。例えば、これなど)。そこでは、矢野健太郎自身が坪井忠二に算数の問題でまんまと一杯食わされた話が披露されている。

東大の坪井忠二先生は、いつも気のきいた問題を出題されるので有名であるが、あるとき、わたくしに、つぎのような問題を出された。「都市代表として、二十の野球チームが出場して、トーナメント戦で優勝を争う。引き分けはないとして、優勝チームがきまるまでに、何試合が行われるか。」

これは小学生の問題だし、わりと有名な問題である。矢野健太郎ともあろう人が、この程度の問題を間違えるのだろうか?だが、実際に間違えたのである(下記)。

そこでわたくしはそくざに、坪井先生に、二十から一を引いた十九が答えであると答えた。ところが坪井先生は、「そらちがった」と、ニヤニヤしておられる。(中略)坪井先生は、どこがちがったといわれるのだろうと、いくら考えてもわからない。とうとう降参したわたくしに、「君は、三位決定戦というものがあるのを知らないな」といって行ってしまわれた。これもりっぱなトリッキーであろう。

頭が柔らかくないと、落とし穴にハマるのである。というわけで(?)、筆者も材料力学の問題でトリッキーなものを作ってみたので、以下にそれを書いてみようかと思う。ティモシェンコの本と首っ引きで材料力学の勉強に疲れている人には、ちょっとした気分転換になるかも知れない。

問題: A 君は、先日受けた材料力学の試験の結果が思わしくなくて、このままでは必須科目である材料力学の単位を落としてしまいそうである。そこで、担当の B 教授は A 君に一度だけチャンスを与えることにした。問題を書いたプリントを渡すので、それを解いて期日内に提出すれば単位を与えようというのだ。プリントを受け取った A 君は欣喜雀躍した。自分にも解ける問題だったからである。だが、提出前に念のため、解答を記したプリントを構造系のエースである C 先輩に見せることにした。プリントを一読した C 先輩は、A 君が驚いたことに、「これは間違っているよ。」と言ったのである。一体、どこが間違っているというのだろうか?

以下がそのプリントの中身(問とその解答)である。A 君の手による部分を赤色で示している。

問: 先端に鉛直下向きの集中荷重 P を受ける長さ L の片持ち梁のモーメント図を描け。

cantilever.jpg


かえって材料力学ビギナーには簡単すぎるかな?


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2015
06.24

意外なところにカンチレバー

Category: 建築構造史
わが国最初の超高層である霞が関ビルの姿を何も見ずに描いてみて下さいと言われたら、大方の人は以下のような絵を描くのではないだろうか。

fig1.jpg

だが、実物はちょっと違っていて、下図のようになっている。

fig2.jpg

何が違うかというと、一階部分の短辺に沿って柱が存在しないのである。つまり、カンチレバーになっているのである。よりによって超高層ビルの第一歩を踏み出したと言える霞が関ビルがなぜこんな素人目には(?)不安定に見える構造になっているのだろうか?

勿体ぶっても仕方ないので答えを先に書いてしまうと、柱を抜いたのは、このまま地下まで柱を通すと、地下駐車場の斜路に柱の一部が張り出してしまい、柱の出っ張りが駐車場に出入りする車のスムーズな走行を妨げてしまう。そういことのないように配慮したのである。

この"妙案"は、多くの超高層ビルの計画に携わったことで知られる郭茂林氏の提言によるのだそうだ。以前「霞が関ビルについて語る夕べ」とでもいう集まりに運良くもぐり込むことができた際にこの面白い話を聞くことができた。

その会には霞が関ビルの設計や建設に実際に関わった人が複数みえていたのだが、誰も「カンチレバー」のいわれについてはハテナ顔をされていた。その中で、やはり会に参加されていた郭茂林氏の息子さんがやおら席を立つやこの逸話を披露してくれた。

ここでも建築は「構造を目的に作るにあらずして」なのである。それにしても、地震国であるわが国初の一大プロジェクトでもあるのだから、「車のバンパーくらいこすっても我慢してね」とならないところが意外でもあるし、感心もしてしまう。もちろん、カンチレバーでも全然問題ないことを確認した上での決断なのだろうけれど。

念のため最後に付け加えておくと、長辺に沿ってはカンチになっていなのでご安心を。


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2015
06.20

これもグリーンの定理

Category: 材力、構力
今回は材料力学で出てくるはりのたわみ計算の復習といった内容である。といっても、最近の教科書にはあまり出ていないかも知れない。

greene_fig1.png

曲げをうけるはり(の中立軸)を曲線 AB で表す。この曲線 AB 上の点 P に鉛直線を立てておく。そして、AB 上にあって点 P からの水平距離が x の点 a およびそのすぐ近くの点 b において AB に接線を引く。

「すぐ近くの点」などと書くと、数学星に住む数学星人からクレームが来そうなので、数学書からそれなりの表現を引用すれば、点 a と点 b は、"two consecutive infinitely close points" である。

上図に示すように、曲線要素 ab を円弧とする円の中心角を dθ とすると、dθ は二つの接線の傾きの差でもあるから、二つの接線が点 P に立てた鉛直線から切り取る線分の長さは x・dθ で表される。

以上を踏まえて、点 Q における接線を基準とする点 P のたわみ(下図の d )を求めてみよう。

greene_fig2.png

これは、点 a を Q から P まで連続的に動かしながら上記の"切り取る線分の長さ"を足し合わせたものであるから、下式のように書かれる。

greene_eq1.png

随分とたわんだはりを描いているが、例によって「はりの変形は微小である」という仮定を導入して、材料力学の初めの方で習う曲げを受けるはりの曲率の式(曲率は曲げモーメントに比例、曲げ剛性に反比例)を思い出すと、

greene_eq2.png

これを先の式に代入すると以下の式が得られる。

greene_eq3.png

この式の右辺は、ちょうど Q から P までの M/EI 分布の P 点回りのモーメントを求めていることになる。この式はグリーンの定理(第二定理)と呼ばれる。

実はウィルソン(W. M. Wilson)の 1915 年の論文に示されるたわみ角法はこの定理を基礎に定式化されているのである。論文中にはこの定理を言葉で記述した箇所("V. Fundamental Equation."の冒頭)があるのでそれを書くと、

部材が曲げを受ける時、中立軸内の任意点のたわみを、別の任意点において引いた弾性曲線の接線を基準に測ったものは、たわみを求める点回りの、それら二点間の部材の M/EI 図の面積モーメントに等しい。

分かりにくい日本語になってしまうので、以下の原文を見られたい。

When a member is subjected to flexure, the deflection of any point in the neutral axis from the tangent to the elastic curve at any other point is equal to the moment of the area of the M/EI diagram for the portion of the member between the two points, about the point where the deflection is measured.

ところで、「これってグリーンの定理だっけ?」とか「グリーンとは、あのグリーンのこと?」と思う人もいるかもしれないので、後日これについて補足したい。

参考文献:
W M Wilson, G A Maney : Wind stresses in the steel frames of office buildings, University of Illinois Engineering Experiment Station, Bulletin 80, June, 1915



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