2016
07.27

真島健三郎のアプローチ その4

Category: 建築構造史
前々回までの記事では、「地震と建築」に示されている「感応率時相曲線」の附図二までを Excel のグラフ機能を使って追いかけてみた。

残りの附図三(Tr/T = 1.5、1.75、2)、附図四(Tr/T = 2.25、2.5)、附図五(Tr/T = 2.75、3)についてトレースした結果は、ここには示さないが、附図二までと同様、ぴったり同じではないものの概ね一致した。

附図六は「最大感応率」のグラフである。以下にそれを示す。

majima2_fig1.jpg

附図六「最大感応率」の本文中の説明は以下の通り(p.47、旧漢字などを一部変更)。

体系の自由振期と地震の強制振期の種々な比を取って、それの y に対する影響量を算出しこれに刻々の地動を加えて縦距とし、時を横距として曲線を書くと、附図第一から第五の如きものが得られる。又その最大影響量を縦距とし振期比を横距として現わすと附図第六の如き割合となる。

(中略)

著者は上述の刻々の変位量を感応率 s 又その最大変位量を最大感応率 S と称しておく。

附図六は、現代で言うところの変位応答倍率を描いたもので、共振曲線などと呼ばれるものに相当すると言ってよさそうだ。柴田明徳著「最新 耐震構造解析」なら、p.20 - p.22 の辺りに導出過程も含めて出ているものである。だが、よく見ると曲線の縦軸の値は異なるので、全く同じものではないことが分かる。

真島健三郎は、この図をどのようにして描いたのであろうか?これについて筆者は明確なことは分からないのだが、以下のような方法によると、かなり近いものが得られる。

相対変位 y の式(記号は「最新 耐震構造解析」のもの)を再掲すると、

eq2.jpg

この式に特定の Tr/T(横軸)の値を適用する。例えば Tr/T = 0.5 とすると、ω/p = 2 であるから、これを代入して ω を消去して整理すると、

eq3.jpg

が得られる(振幅 a0 は 1 としている)。

これより、 dy/dt = 0 となるときの pt を与える式は以下のようになる。

eq4.jpg

この二次方程式を解くと、以下の二つの実数解が求まる。

majima2_eq5.jpg

マイナス符号を採る方が y の絶対値は大きくなる。この cos pt を(および対応する sin pt も)上記の y の式に代入すると、

eq6.jpg

が得られる。これをもとにグラフ上の(0.5, 0.912)に点を打つ。同様のことをいくつかの Tr/T に対して行って、それらの点を繋いだ曲線を描くのである。これは手計算でやるとかなり面倒な作業である(というか、手で簡単に求められるケースは限られている)。

なので筆者は Excel で変位応答の最大値を次々に求める 5 行ほどのマクロを書いて曲線を描いてみた。以下にそれを示す。

majima2_fig2.jpg


そもそもこの図の基になる附図一~附図五からして筆者が求めたものと一致していないのであるから、上図と附図六もぴったりと一致しないのは当然であるが、概ね近いものにはなっている。ただ、この図の詳細を見ると怪しい部分もあって、本来は公表しない方がよいような代物であることを断っておきたい(図をやや小さめにキャプチャしているのはそのためである)。

なんだかスッキリしないが、マクロを組んでみて良かったこともある。「最大感応率」は横軸(Tr/T)の値が 2 を超える辺りから曲線の傾きは緩やかになる。これは変位応答の最大値があまり変化しないことを意味するが、最大値だけでなく変位応答の時刻歴曲線そのものもあまり変化しなくなることをはっきりと目で確認できたのである(系の周期が伸びるのだから当然ではあるが)。

「最大感応率」の曲線を描く際には、Tr/T を 0.01 刻みで 6 まで求めている(つまりデータ数は 600)。筆者の所有する非力な PC では、求め終わるまで 30 秒くらいかかる。マクロボタンを押すと、「感応率時相曲線」が目まぐるしく変化し始める。それが Tr/T が 2 を超える頃から目に見えて曲線形状の変化が緩慢になっていくのである。

さて、ダヌッソも似たような曲線を描いているのは先日書いた通りである。だが、ダヌッソは設計に用いる慣性力に興味があったため、(相対)変位ではなく(絶対)加速度について議論している。また、地動を基準にするという意味合いからだと思うが、縦軸の規準化では地面を分母に、系を分子に持ってきている点も異なる。なので、両者は似て非なるものと言わなければならない。



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2016
07.14

柔構造論者が見ていたもの?

Category: 建築構造史
「軟弱地盤で地震の揺れが増幅されるのはなぜですか?」

難しい話はさておき、この問いに対する答えとして、以下のような説明を目にしたことがある。

即ち、建物でも剛体なら地面と同じ動きをするだけであるが、実際の建物は柔らかいので、建物自身の変形によって上階の方が応答加速度が大きくなる。柔らかい地盤もこれと同じ理屈である、と。

一見尤もな説明に思えるが、剛体という現実には存在しない究極に硬いものと比較するなら、実際の建物や地盤はどれも柔らかいことになりはしないだろうか。究極に硬いものと比較するのであれば、究極に柔らかいものとも比較しないと不公平である。

建物(地盤も)が柔らかくなるとどうなるか?地震による慣性力が作用する(地震力が上階まで伝わる)のに余計に時間がかかることになる。建物がさらに柔らかくなれば、作用するまでの時間はさらに伸びる。建物をどんどん柔らかくしていけば、慣性力が作用するまでの時間もさらに伸びていき、究極に柔かい状態では、無限に時間がかかることになる。つまり、力は作用しなくなり、建物は全く揺れないことになる。

究極に柔かい建物と比較すれば、実際の建物はどれも硬いわけだから、建物は硬いがために揺れが大きくなるという結論が導かれる。これは先に示したのとは正反対の(最近の言葉でなら"真逆の")結論である。

このところずっと振動論(の初歩)について見てきたが、振動論の解(建物の応答)は、自己振動(余関数)の部分と強制振動(特解)の部分で構成されている。柔構造を良しとする人たちは、このうちの強制振動(特解)の方に着目し、剛構造支持派は自己振動(余関数)の方を重要視しているという見方もできるのかもしれない。

自己振動においては硬く、強制振動に対しては柔らかく対処できれば都合がいいだろうが、そんな建物は存在しない。

いや、それに近いものが免震構造と言えるのかも知れない。周知の通り、免震建築は、柔かい層によって地震力をやり過ごすが、上部構造はなるべく変形しないように硬く作られるのであるから。

真島健三郎よりもダヌッソ(Arturo Danusso)やビオ(Maurice A. Biot)にこのような指向が見出せるように思うのだが、これについてはまた後日。。。



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