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2016
08.30

末広恭二によるレイリー法の解説

Category: 構造解析
1924年(大正13年)の末広恭二の講演の記録:「構造物振動の理論及其測定法」には、末広がレイリー法について解説した部分がある((2)の(ホ)「レレー」の近似式)。

建物固有周期を求める例題が出ていたり、当時の斯界のレイリー法の認識に対する批判が述べられていたりでなかなか興味深いので、以下に概要を示しておこう。

末広は、建物固有周期だけを求めるのであれば、レイリーの近似式で簡単に求めることが出来ると述べた後に、レイリー法の基になる原理を以下のように説明している(旧漢字など一部の表記を変更している。以下同様)。

この近似式の基づく所は、弾性体が振動をする時震動がその最大振幅に到達した(即ち振動の速度が零)瞬間における弾性仕事は、中立位置を通過する(即ち歪が零)瞬間の顕勢力に等しいという原理を応用したものであります。

「顕勢力」とは運動エネルギーのことである。つまり、これは(外力や減衰のない孤立系での)エネルギー保存則のことを指している。

続いて、レイリー法の"ミソ"について説明している。

しかしこの弾性仕事も顕勢力もその振動する弾性体の振動による変形(normal function)が分からなければ正確に計算することは出来ません。然るに「レレー」はこの変形が多少実際と違っても周期に大なる影響が無いこと(数学的にいえば形の小変化に対し周期の値は stationary であること)を証明しましたから、変形は正確なる理論を辿らなければ分からぬものであるに関わらず、それにかまわずに変形を合理的に仮定して計算をすれば良いのであります。

レイリー法では、仮定する固有ベクトルの誤差のオーダーを ε とすると、求まる固有値の誤差のオーダーは ε2 となることが示される。固有ベクトルをややいい加減に仮定しても、それなりの精度の固有値が得られるというわけである。

例題として示してあるのは、下図のような三層建物のせん断振動の周期を求める問題である。各階高を l、各床の自重と積載荷重を W、壁の単位高さあたりの重さを w としている。


3-story model

末広の言う"最大弾性仕事"、"最大顕勢力"は、それぞれ弾性ポテンシャルエネルギーの最大値、運動エネルギーの最大値と言い換えてもいいかと思うが、それらを Vmax、 Tmax と書くことにすると、

Ray_eq1.jpg

Ray_eq2.jpg

式中の p は、円振動数(=2π/T)である。Vmax = Tmax と置いて p2 について解けば以下が得られる(式(39))。

Ray_eq5.jpg

たわみ y(一次のモード形状)は、横に重力を受けた時のせん断たわみに等しいと仮定し、せん断応力(原文はせん断内力)は断面に一様に分布しているとすると、

Ray_eq6.jpg

ここに、Fx はせん断力、A は壁の断面積(一様とする)、μ は剛性率(筆者に馴染みのある呼び方と記号で書くなら、せん断弾性係数 G )である。

材料力学で学ぶように、せん断応力は断面に一様分布していない。だが、今はそんなことは気にしなくてよいのである。末広は以下のように書いている。

正確にいえばせん断内力(せん断応力のこと)は断面積(原文は截面積)に一様に分布されはせぬからこれに 6/5 なる係数を乗ぜねばならぬが、近似式を用ゆる際にはそんな細かな校正はいらぬことであります。目が一尺もある網を用いてその一部だけへ白魚の網を張ったところが白魚は獲れはしませぬ。

y を求めると、

0より1までの間
Ray_eq7.jpg

1より2までの間
Ray_eq8.jpg

2より3までの間
Ray_eq9.jpg

これらの式とこれらの式から求まる y 1、y 2、y 3 を式(39)に代入して計算すると、以下が得られる(式(40))。

eq10.jpg

式中の A については以下のようにすると良いとある。

この式において A は建物の壁の如何なる部分を取るべきかが問題でありますが、梁のせん断内力は web だけに集中していると考えてよろしいのでありますから、振動の方向により web に当たる部分の壁、即ち振動をなす方向に平行な壁だけの面積を取ればよろしかろうと思われます。

式(39)から式(40)を求めるのは面倒であるが、末広は以下のように書いている。

上式より求めて(39)の式に入れれば手数だけはかなり面倒でありますが、単に機械的に運算をするだけで次の式(式(40)のこと)に到着することが出来ます。

この式(40)をチェックするくらいの計算は、数学者や理論物理学者には朝飯前かも知れないが、お盆休み中で気の緩んでいる工学系の人間には荷が重い。ここはズボラをするに如くはなしということで、式(40)の串団子バージョンを考えることにする。

w = 0 として、

eq11.jpg

W/g = m(床質量)、Aμ/l = k(層剛性)と置くと、

eq12.jpg

逆数を取って振動数 f を求めると、

eq13.jpg

この結果を正解と比べてみよう。

3 自由度せん断質点系で m1 = m2 = m3、k1 = k2 = k3 の場合の固有振動数、固有ベクトルがどこかに出てないかと文献を探すと、、、ありました。応答スペクトル法の Gupta Method で知られるグプタ(A. K. Gupta)の本にちゃんと出ているのを見つけた。

1次モードの振動数は(文献1、p.9、Fig.1.7)、

eq14.jpg

であるから、レイリー法の結果はそれなりのものであることが分かる。尚、レイリー法で得られる振動数は正解よりも必ず大きくなることが示される。

1次のモード形を"横に重力を受けた時のせん断たわみ"と仮定して固有値を求めたが、文献1 に示される"正解"を書き写すと以下の通り。

mode1.jpg


冒頭にも書いたが、斯界のレイリー法の解釈に対して末広恭二は一言しておきたかったらしい(下記)。

ついでにちょっと申し述べておきたいことは、近頃この方法が実際上に応用され来ったため、ままこれに関する議論を耳にしますから、一二私の聴き込んだ説に対し批評を試みておくのも全く無用のことでもなかろうと思われます。

第一は「レレー」の法を応用するに当たって、変形に対し仮定をするよりも加速度の分布を仮定する方が正確であるという説であります。これは全然誤った説であります。


単振動の場合は、加速度の分布を仮定しても同じである。これを拡大解釈するような傾向が当時あったということであろうか。内容は異なるが、疑似加速度応答の適用について連想してしまった。

次なる批判は以下の通り。

第二には正確に計算し得る場合に対してある変形を仮定しそれから得た答えが理論的に得たものと極めてよく合致するから、一般にそのような仮定が正しいという断定でありまする。

これはちょうど近似積分をするときに、正確な積分値と「シンプソン」法による近似値が、ある一つの場合に極めて正確に例えば1%まで合って、「チェビチェフ」法によったらその場合2%違ったからいつでも「シンプソン」法に依るべしという様な議論で、元来の「レレー」法の主旨を没却した説であります。

この説の提唱者の根拠とする専門的な内容が不明なので詳細は分からないが、後半の「シンプソン」の例から推すと、目黒のさんまの殿様の主張のようなものに過ぎなかったのかも知れない。

さらに材料力学の本への言及もある。

尚今一言添えておきたいことは、ドイツの材料力学の本においてはまま(例えば H. Lorenz Technische Elastizitaetslehre の六六九ページ)Rayleigh が例題として示した場合のみを「レレー」近似法であるが如く書いてあるため、そう誤解している人がある様ですが、それは間違いで「レレー」は周期の値が stationary であることを一般的に説明したので、適当に変形を仮定して近似的に周期を算出するのはいずれも「レレー」法であります。ここらに「レレー」の偉大さが現れているのであります。

この「ドイツの材料力学の本」の記述が誤っていたのか、紛らわしい書き方がされていただけなのか筆者は確認していない。ただ、このような専門を共有する人の解釈違いというのはたまに目にすることである。「○○の本に書いてある。」「いや、○○はそんなことは言っていない。」といった専門誌上での討論がそれである。

以上、レイリー法で固有値を求めることについて長々と書いてしまった。レイリー自身の示している例題に話を繋げるつもりであったが力尽きてしまった。それはまたの機会に。。。



参考文献

  1. A. K. Gupta : Response Spectrum Method In Seismic Analysis and Design of Structures, CRC. Press, 1992




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2016
08.21

当たるも地震学当たらぬも地震学

Category: 地震工学史
こういうことを言うと地震学を専攻している人に怒られそうだ。だが、未来を予見するという観点からすると、地震学は誕生の時から殆ど進歩していないように思われる。東日本大震災然り、先日の熊本の地震然りである。

火山の噴火については地震よりも予知しやすいのかと漠然と思っていたのだが、一昨年の御嶽山の噴火でこの甘い考えも吹き飛ばされた。

2011年3月の東日本大震災が起きる少し前、筆者は NHK で放送されていた地震をテーマにした番組を見ていた。その番組には東北地方の某大学の先生が出演されていて、今後起こるとされる南海地震での高知市の被害について見解を述べられていた。

この先生は地震学が専門ではないのかも知れないが、「高知のことより自分の大学のある東北の方が懸念されます」といったコメントはなかったと記憶している。

熊本と同じく福岡も比較的地震の少ないところである。だが、2003年3月に最大震度6弱の福岡県西方沖地震が発生した。福岡市の揺れは大きかったが、被害は比較的小さかったのは不幸中の幸いであった。

福岡市を横切る断層として有名なのが警固断層である。この警固断層について松田時彦著「活断層」(岩波新書、1995年)には以下のような記述がある(5 地域を診断する/7 九州の活断層と地震/福岡県の活断層群)。

はっきりしたことはまだわかっていませんが、警固断層は水縄断層( B 級)にくらべて、はるかに活動的でないようなので、B 級よりも下で、C 級ではないかと考えられています。だから、活動するのはたぶん数千年よりもさらにまれなことかもしれません。

福岡県西方沖地震は、警固断層そのものが動いたのではないという解釈もあるので、この記述はセーフなのかもしれないが、すぐそばの断層が数千年どころか 8 年後に動くのだったら、それについてもコメントして欲しいと素人としては思ってしまうのである。

地震学草創期の頃は、地震予知、予測への期待は今よりずっと大きかったと想像される。今村明恒が関東地震を「予知」したのは有名だが、大森房吉はそのような行為を批判する側にあった。大森が地震は到底予知出来ないという認識に立っていたからではなく、社会に与える負の影響を懸念してのことであったようである。

大森の地震予知とも言えることについて書いてある文献もある。以下は内藤多仲の「日本の耐震建築とともに」の「アメリカ式建築は不安」と題した節の記述。

大正十一年四月、東京地方にかなりの地震があった。奇しくも大地震の前年であるが、私は地震の直後、地震の神様といわれた大森博士を訪ねて"この先き大地震災は起こるでしょうか"とおうかがいしたことがある。すると先生は、これだけのものがきたのだから当分大丈夫だろう、といわれた。

つまり、地震というのは地核の運動によって起こるものだが、地核が押し合い引っぱり合う力が蓄積して、一度にこわれれば大地震が起きるが小刻みにこわれれば大地震は起こらぬというのである。神様といわれた大森博士ですら、翌十二年の大地震を予知できなかったのである。

これは予言が外れた例だが、当たったものもある。和達清夫の「地震」の「四 我が国に於ける地震の分布 付、地震帯」と題した章には以下のような記述がある。

以前は地震学者によって地震帯というものが随分重要視されたものである。その地震帯すなわち地震がよく起る帯状の地域の中で、一度大きい地震があると、その場所はその後しばらくは平穏に打ち過ぎ、その地震帯中の他の場所に於いて大地震が予期されるというので、これには大森房吉先生の有名なイタリアの地震に対する予言というのがある。

すなわち第七図のようにイタリアには 1、2、3、... というように大地震が起って来たので、その次には今までになかった 12 の所に大地震が来るであろうと考えられておられたらば果してその後そこに大地震があった。なおその後ローマの東に15番目の大地震があって、この地震帯の間隙を埋めたのである。


第七図に示される 1、2、3、12、15番目の地震の起きた州は以下の通り。

1 1638年 カラブリア州
2 1659年 カラブリア州
3 1688年 カンパニア州
12 1857年 バジリカータ州
15 1915年 アブルッツォ州

第七図を見ながら、1、2、3、12、15の地域に筆者が手動で丸印を付けたものを以下に示す。

Italy_EarthquakeHistory.jpg

丸印は手動で作成したものなので、不正確なものであることを断っておく。興味のある方は、和達清夫の「地震」を参照されたい。

現代でも地震の発生確率といったものが公表されるが、そのような数値には主観が入っているのでは?と思うこともあるので、筆者は話半分程度に聞くようにしている。発生確率の発表もないよりはあった方がいいとは思うけれど。。。



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2016
08.16

レイリー法からレイリー・リッツ法へ

Category: 構造解析
レイリー(Lord Rayleigh)が The Theory of Sound に示した一次固有振動数(fundamental frequency)の式は、振動論の教科書で紹介されたり、設計基準に示されたりしているとはいえ、現代では実用上無くてはならないものとまでは言えないだろう。

今やコンピュータープログラムで固有値、固有ベクトルは簡単に求められるし、建物固有周期であれば経験式の方がずっと簡単だからである。レイリーの式は、その中間のどっちつかずの方法と言えそうである。

だが、レイリーの方法は19世紀後半から20世紀前半においてはかなり重宝されたようで、末広恭二も例題付きでこの手法の解説を与えたりしている(これについては後日)。

また、彼の示したアイデアは、その後リッツ(Walter Ritz)によって拡張されて非常に広範な分野に応用される一大手法へと成長した。それでこの手法は、レイリー・リッツ法という名前で人口に膾炙している。

ティモシェンコ(S. P. Timoshenko)はこの手法の有用性をかなりはっきりと認識していたようである。彼の著書 History of Strength of Materials での言及箇所(p.338 - 339)を読むとそのことが伺える。以下がその部分である(拙訳と原文を併記)。

レイリーは複雑な系の振動数を求めるにおいて、適当な振動形を仮定して単純な振動子の問題へと変換することで近似値を得ている。彼は近似の精度を上げるための手順について述べている。

微分方程式を解かずにエネルギー的な考察から直接振動数を計算するアイデアは、その後リッツによって詳細に検討された。現在レイリー・リッツ法は、振動学の分野だけでなく、弾性論、構造理論、非線形力学および物理の他分野において広く利用されている。

In finding frequencies of vibration of complicated systems, he obtains an approximate value by assuming a suitable form for the type of motion and so transforming the problem to that of the vibration of a simple oscillator. He describes the steps which can be taken toward improving the approximation.

This idea of calculating frequencies directly from an energy consideration, without solving differential equations, was later elaborated by Walter Ritz and Rayleigh-Ritz method is now widely used not only in studying vibration but in solving problems in elasticity, theory of structures, nonlinear mechanics, and other branches of physics.

そしてこの後に以下の文が続く。

材料力学と弾性論の多くの研究にこれほどつながりを持つ数学的手法はおそらく他にないであろう。

Perhaps no other single mathematical tool has led to as much research in the strength of materials and theory of elasticity.

と最大級の賛辞を与えているのである。実はティモシェンコは早くからこの手法に着目していたようで、自身もレイリー・リッツ法に関する論文を出したりしている。

人が「レイリー・リッツ法」と言う時、そのウェイトはリッツの方にあるようである。これはティモシェンコについても言える。上記の箇所からそれは伺えないが、彼の著書 Vibration Problems in Engineering のリッツ法の説明箇所(筆者が持っている Second Edition では、p.370 の "62. Ritz Method")を見ると分かる。

そこには、リッツ法によれば一次の振動数の精度が改良されるだけでなく、高次の振動数も得られるとあり、その脚注に以下のような補足が書かれている(p.371)。

レイリーは複雑な系の一次モードの振動数の近似計算だけにこの方法を用いたのであり、この方法を高次振動モードの検討に適用することについては懐疑的であった。

Lord Rayleigh used the method only for an approximate calculation of frequency of the gravest mode of vibration of complicated systems, and was doubtful regarding its application to the investigation of higher modes of vibration.

「レイリー・リッツ法」という名称が広まったため、二人の名前はセットで記憶される場合が多いようだ。だが、このネーミングに賛同しない人も結構いるようである。レイリーのアイデアはレイリー法でよろしい。だがリッツのアイデアはリッツ法であり、レイリーの名を付けて呼ぶのは不適切であるというのだ。

確かにリッツはレイリーの業績を直接参考にしたわけではないようである。だが、レイリー本人はというと、リッツのアプローチについて先取権を主張したりして、リッツ単独法という立場は容認できないようである。この辺りについてはまた後日。。。



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