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2017
12.27

独立が叫ばれる時

Category: 材力、構力
以前、中国大陸をぐるりと列車で旅したことがある。寝台列車であったが、席は完全な個室ではなく、カーテンを開けて寝台に腰かければ、向かいの人と膝を突き合わせるややオープンなタイプのものであった。

筆者の向かいの席には2人の白人青年が座っていた。"膝を突き合わせる"空間内にいたので自然と話をすることになり、初めひとしきりお互いのことを紹介しあった。筆者が「どちらから?」と問うと(もちろん英語で)、2人同時に「スコラン!」との答え。一瞬「?」となったが、すぐに「ああ、スコットランドか」と了解した。

「末尾の t と d の音が殆ど聞こえないなぁ」ということも気になったが、「From the U.K. とか言わないのか」ということがもっと気になった。自分達はスコットランド人であるという意識が当然のようで、むしろ無意識な自覚であるように思われた。

といったことを思い出したのは、少し前にスコットランドで独立の是非を問う国民投票が行われたことがニュースになっていた頃である。イギリスは EU からの離脱を選んだが、スコットランドは EU に残りたいらしい。

その他経済的な観点からも独立にはある程度のメリットがあるようだ。しかし、そういったこと以上にもっと深いところで民族としてのアイデンティティが独立を希求する要因のようにも思われる。

純粋に民族として独立を望むことについて理屈は飲み込めても感覚的にはよく分からない。一民族としての意識といったものが筆者にはあまりないので、「独立とか帰属とかどっちでもいいんじゃないの?」と軽く考えてしまうのである。

他人を評価する時もナショナリティーは問題ではないし、海外で活躍する日本人の話を聞くと嬉しく思う半面、その人たちが日本人として評価されているわけではなくてあくまで個人として評価されているはずだと思うのである。

一方で、ここから急に力学の話になるが、力学上の"独立"かそうでないかについては筆者は人一倍気になる方である。前回の記事で採り上げたカスチリアーノの定理に話を戻そう。

ティモシェンコの本(文献 1 "61. Strain Energy and Castigliano's Theorem" )の脚注(p.290)は以下のように続く(拙訳と原文)。

カスチリアーノは、Pi は独立な力であると述べている。このことは、釣合い式を用いて計算される反力が、ひずみエネルギ V の計算において力 Pi の関数として与えられることを意味している。

Castigliano remarks that Pi are the independent forces. This means that reactive forces, which can be calculated by using equations of statics, are given as functions of the forces Pi in calculating the strain energy V.

荷重と反力は釣合う必要があるのでお互い独立な量ではない。それで、ひずみエネルギを求める時は釣合い式を使って反力を消去(荷重で表現)しておかないといけない。この独立云々について説明を省略している材料力学の本も結構見受けられる。一方で文献 2 は(材料力学の本ではないが)このことについてかなり突っ込んだ議論を展開している。

停留問題において従属関係にある量をあたかも独立であるかのように扱える方法と言えば、ラグランジュの未定乗数法がある。文献 2 にはこのラグランジュの未定乗数法を使ってカスチリアーノの定理を一般化する方法が示されている(付録 E カスティリヤーノの定理に関する一覚書)。

... この覚書では、"Su 部分で固定"という条件をゆるめ、"物体表面はすべて Sσ 部分よりなる場合"のカスティリヤーノの定理を考えてみたい。...

上記の Su とは幾何学的な境界のことである。単純ばりを例に言えば、ピンとローラーによって拘束される部分である。Sσ とは力学的な境界のことである。つまり、荷重の作用する部分である。

ピンとローラーの拘束の代わりに反力に当たる力を作用させたものを考えるのである。釣合い式にラグランジュの未定乗数を掛けてひずみエネルギに取り込めば、反力も独立であるかのように扱えるというわけである。

これと似た話が弾性論とか連続体力学力学とか呼ばれる分野にもある。それは、ひずみエネルギ関数(単位体積当たりのひずみエネルギをひずみ成分で表したもの)と応力との関係についてである。

ひずみエネルギ関数を A と書くことにすると、以下の式が成り立つ(文献 2 の p.26 を参照。面倒なのでここではテンソルで書いているが、文献 2 の式(2.61)はテンソルではない表記で書かれている)。

independency_fig1.jpg

一方、単なる数学的操作として以下の式も成り立つ。

independency_fig2.jpg

ではこれら二式から

independency_fig3.jpg

が成り立つとしてよいだろうか?

答えは否である。ひずみは 2 階テンソルで一般には 9 つ(3×3)の成分を持つ。9 つ全てが独立な場合は良いのであるが、通常は εij = εji の対称性を仮定して議論が進められる(余談だが、湯川秀樹はこの対称性の仮定が気に食わなかったようである)。即ち、ひずみの各成分は独立ではないので、上記のような展開は許されないのである。

もう一つ、有限要素法の分野にも筆者がずっと以前から気になっている"独立"絡みの話がある。それは、仮想仕事の原理を使って剛性方程式を導く過程で出てくるものである。

要素の剛性マトリックスを [k] 、節点変位ベクトルを {d} 、節点力ベクトルを {f} で表すとすると、仮想仕事の原理から一つの要素について、

independency_fig4_2.jpg

が成り立ち(上添え字の T は転置の意味)、{δd} は任意であるので

independency_fig5.jpg

という要素剛性方程式が導かれる、としている本が多いのだがこれでいいのだろうか?

そもそも仮想仕事の原理は構造全体に対して適用されるものであるし、上記の式は構造物内の一要素についての式であるので、自由端でもない限り節点は隣りの要素と共有しているか支持部の節点のはずである。仮想変位は、要素の境界での連続性の条件と支持部での拘束の条件を満足している必要があるので、 {δd} を任意には取りえないはずである。

{δd} が任意と言えるのは、上記の式を構造全体について寄せ集めて(その時に各要素の剛性マトリックスが重ね合わされる)然るべき境界条件を課した後ということにならないだろうか?上記のような展開を許すなら、各要素の剛性マトリックスの重ね合わせといったことも出てこないことになる。

以上、かなりマニアックな内容だが、ちょっと気になる力学の"独立"についての話を書いてみた。特に後半の内容は実務には全く無関係かも知れない。。。


参考文献

  1. S. P. Timoshenko : History of Strength of Materials, 1953

  2. 驚津久一郎 : エネルギ原理入門 有限要素法の基礎と応用シリーズ3 培風館 1980年





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