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2018
05.31

斜め方向の強制変位を受ける片持ちはりのようなもの(その4)

Category: 構造解析
先日の「斜め方向の強制変位」の記事について補足。

強制変位の問題を採り上げたのは、強制変位問題も荷重を与える場合と本質的には何ら変わらないことを示したいがためであった。これは、剛性方程式 [D]{δ} = {P} は、左から [D] の逆行列をかければ、{δ} = [D]-1{P} = [C]{P} となり、2つの式の形は全く同じになることからも了解される。ここに、{P} は荷重ベクトル、{δ} は変位ベクトルであり、[D] は剛性マトリックス、[C] はたわみ性マトリックスと呼ばれる。

ただ、気を付けたいのは、ある自由度に関して何も規定しないことは、荷重をゼロに規定していることになるのに対して、変位をゼロに規定するには、その自由度を拘束しなくてはならないことである。

例えば、斜面に沿う方向に強制変位させるには、斜面直交方向を拘束する必要があるのである。斜面直交方向に何も規定しない(荷重をゼロに規定する)と、現実的にはありそうもない境界条件の問題を解いていることになる。

平面の片持ちはりとしたのは、自由度が3つ稼げるからであった。残る自由度は最大でも3であるから、手で解くこともできる。

剛性方程式を解く際は、変位や荷重のベクトルを既知成分と未知成分とに分けて、それに応じて全体剛性マトリックスを並べ替えるということが通常行われる。マトリックス演算では部分マトリックスをあたかも一つの成分と見なすことができるので、並べ替えた後の部分マトリックスや部分ベクトルを使ってスッキリと式の展開を行うことができる。

だが、自由度数の高が知れている時ははわざわざ並べ替えなくても必要な部分にだけに着目すればよい。先日の記事でも以下のように必要な行と列に帯をかけ、帯が重なった部分の成分(k44、k46、k64、k66)だけを抜き出した。

specified_disp_4_fig1.jpg

以前紹介したマーチン(H. C. Martin)のマトリックス法の教科書でもこのように帯をかける説明となっていたと記憶している。

記事の(その2)では、強制変位の並進2成分のうち一方のみを規定すると、規定しない成分の方の応答は構造物の剛性に応じて変わってくるため、変位ベクトルは一見"予想外"の方を向く結果となることを見たが、定式化によっては、並進2成分の両方(つまり変位ベクトル)を規定しても(かなり特殊な条件下では)変位ベクトルが規定した方向からずれることも起こり得る。

実は元々はこちらのケースを初めに考えていたので、今回はこの元々の話題を載せようと思っていたのだが、かなりマニアック度"大"な話なので掲載は見送ることにして、この定式化がいわゆる「ペナルティ法」と呼ばれるものであることだけを記しておこう(ここまで書けば、この方法を知っている人はボツ記事の内容がイメージできるかも知れない)。



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2018
05.28

RCの五重塔?

Category: 構造物探訪
五重塔と言えば、以前見かけたちょっと変わった建物のことを思い出したので以下に紹介しよう。

とある場所を車で移動中、思わず「何だありゃ?」とつぶやきそうになったのは、遠くに見える木々の間にその異様な建物が見えたからだった。相輪の載った屋根は間違いなくお寺の建物なのだが、屋根より下は鉄筋コンクリートでしかもガラス張りなのであった。

隣の入母屋のお堂よりも高く見えるので塔であろうか?古い塔の屋根だけ残して"本体"をリニューアルしたのだろうか?といったことが気になったので、その時はそのまま通り過ぎてしまったが後日改めて見に行ってみた。その時撮った写真が以下である(携帯で撮影)。

Mauso_2_2.jpg


遠くからはかなりの高層に見えたが、実際は小高い丘の上に建っているのでそのように見えただけであった。それでも五階建てなので決して低い建物ではない。低層部には御影石も使われており、まだ新しく立派な造りの建物であった。

近くまで行ってみると、側面にある窓が開いていて中をちょっとだけ覗き見ることができた。それでこの建物は納骨堂らしいと判明した。ここまで大きなものを作ったのは、今後の需要を見越してのことだろうか?RC としたのは、耐火や耐震を意識してのことかも知れない。

筆者が写真を撮っていると、車でやって来た外部の人が慣れた感じで建物の入口から中へと入っていった。意外にも入口には鍵も掛かっていないようであった。(セキュリティ意識は低いようだ。。。)

ガラス越しに見える階段をその人が5階まで登っていくのが認められた。エレベーターは無いのだろうか?中に入って確かめたかったが、建物が建物だけにそれはやめておいた。

この建物をお寺の門の辺りから見ると以下のような感じ。

Mauso_1_2.jpg

ガラスと RC という今風の造りに古式ゆかしい屋根を載せるという「古今折衷」のような建物は、筆者が知らないだけで結構あるものなのかな?



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2018
05.04

内藤多仲が見た五重塔の耐震性と超高層ビル

Category: 地震工学史
前回の記事に書き忘れたのでちょっと補足。

前回、五重塔の耐震性が高いのは昔の大工が意図的に耐震的に作ったからではなくてたまたまそうなっただけ、という文献 1 の内容を紹介したが、内藤多仲もこれと同じことを言っている(文献 2 「五 地震と日本の建築、外国の建築」)。

... ここに唯一の耐震建築といわれる五重塔がある。どんな強い地震にあっても、例えば安政の大地震などにもビクともせず、頭部の九輪が鞭のようにふられて曲っても、なお倒れないという実例がある。これは昔の棟梁が意識的に耐震構造を考えて作ったものとは思われない。なぜなら、それだけの創意とか知恵があったならば、他の日本家屋も同じ強さに作られて然るべきであろう。

この後に、五重塔の耐震性が分析されている。

なぜ、五重塔だけが強いかの説明はたくさんあるが、まず考えられるのは、あの五重の層の組み方が非常に堅く作られていて、木造だから振動のエネルギーを吸収することである。

そして底面が六メートル四方ぐらいも大きいので地面が揺れて倒れかかっても、次の瞬間には反対方向に地面が動くから倒れることはしない。然し同じ比例でも、非常に小さいものは振動で容易に倒れる。

五重塔はたまたまかように地震に有利にできていると見るべきである。中央の心柱は吊ってあるのも地面についたのもあるが、これが耐震上からみて有利に働いているとは考えられない。

耐震構造の神様にしては随分とあっさりとした分析ではある。だが、心柱の耐震上の役割をきっぱり否定しているのは、E-ディフェンスでの模型実験の結果を言い当てているようにも見えて面白い(ちなみに筆者は、心柱は耐震性を向上させていると長らく思っていたので、E-ディフェンスでの実験結果に唖然とさせられたクチである)。

続いて、内藤の"超高層ビル観"について(文献 2 「六 私の建築観」 "ビルの高さの問題点")。

近ごろ、超高層ビルについてよく話題に出るが、いったい高いがよいか、低いがよいかは判定がむずかしい。... 同じ大きさでも、大地震と同調しない程度に高く、または柔らかくすることが望ましい。

... 高いがよいか、低いがよいかは判定がむずかしいといったが、超高層ビルは地震国日本には余程の注意が必要である。小さいものだと静力学的に簡単に設計できる。

超高層で柔のものはその度合いが非常に大切であるから、十分に工学的判断を誤らぬよう設計しなければならぬ。近ごろはまた電子計算機の出現で、なるほど神わざ的の計算はできるが、これは一種の補助手段に過ぎないからいたずらに過信することは禁物である。

文献 2 は、1965年の出版であるから、この内容は 1968 年の霞が関ビル竣工前の見解である。未経験の領域に足を踏み出す際は慎重の上にも慎重を重ねるくらいでないといけない、ということなのだろう。

超高層ビルが出てきた後で次第に明るみになってきた"マイナス要因"といって思い出すのは、一時期ブームになった(?)長周期地震動である。武村雅之著「地震と防災」には、超高層ビルと長周期地震動について以下のようなことが書かれている(文献 3 「第四章 地震災害を防ぐ」 "新知見による検証")。

 超高層ビルの実現は、地震国ではまったく被害経験のない種類の建物を実現したという意味で、また理論が経験に先んじたという意味で、耐震設計の歴史において画期的な出来事であったといえる。その分、その後に蓄積された観測事実によって、結果の良し悪しを慎重にフォローし続ける必要がある。

平成一五年九月に北海道で発生した十勝沖地震(М八・〇)は、平成七年の兵庫県南部地震後に整備された強震観測網のもとで起きた、はじめての海溝型巨大地震であった。この地震で観測された勇払平野の強震動は継続時間が長く長周期成分が優勢で、震源から二〇〇キロメートル以上も離れた苫小牧の出光興産北海道製油所で石油タンクに大きな被害を与えた。

 東大工学部建築学科の教授であった大崎順彦(一九二一~九九)の「地震と建築」(昭和五八年)には、

「固有周期の長い建築に、非常な大加速度で、強い影響を与える - つまり長周期の成分が優勢な地震動は、いまだかつて無いということができる。... 少々言い過ぎであることを許して貰えるならば、「入力の小さい超高層の方が、かえって設計は楽なのだ」といえないこともない」

と書かれている。しかしながら、図 19 のような長周期地震動の実態が少しずつわかってきた現在、このことがどの程度のものなのかということは、依然慎重な検討を要する課題である。...

長周期地震動の"パンドラの箱"を開けたと言われる NHK スペシャルに裏話を書き足した文献 4 には、霞が関ビルの設計者の一人である太田外氣晴氏のコメントが出ている。

霞ヶ関ビルをはじめ日本の超高層ビルの設計にかかわってきた太田外氣晴さんです。長周期の揺れの影響を設計にどう取り入れるか、悩んだといいます。

太田「なにしろ地震国日本での超高層ビルの建設ということですから、地震対策というのは非常に大事であります。それで様々な地震波を使っていろんな検証をしましたが、長周期地震動については当時使えるデータがなかった。ちゃんとした検証というのはできませんでした」

「それでやむをえずということで、強度に余裕を持たせて、それで設計が進んだというような次第です。この時から私どもにとっては、長周期地震動というのは長い隠れた宿題となって現在にいたるわけであります」

筆者はどちらかというと保守的なので、知見が進んで経済的な(言い換えれば、余裕のない)設計をされるより、「よく分からないので強度に余裕を持たせておきます」という設計の方が安心に思えてしまう。自分が利用するなら、大地震時に大揺れする新しいビルより、"最古"の霞が関ビルの方が好ましい。。。

幸い超高層ビルは今のところ倒壊するようなものは出ていない。慎重な姿勢が功を奏しているのかどうかは分からないが、うまくいっていると言っていいのではないだろうか。


参考文献

  1. 坂本功 : 木造建築を見直す 岩波新書 2000年

  2. 内藤多仲 : 日本の耐震建築とともに 雪華社 1965年

  3. 武村雅之 : 地震と防災 中公新書 2008年

  4. NHKスペシャル地震波プロジェクト : 大地震が起きた時、あなたは大丈夫か - 地震波が巨大構造物を襲う 近代映画社 平成16年





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