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建築構造学事始

ノーベル賞を受賞した構造エンジニア?

先日の台風21号では猛烈な風が吹き荒れたため、かなりの数の構造物に被害が出たようである。大阪の梅田スカイビルではガラスが割れたと報道されていた。

ガラス窓が欠陥品でなければ、設計で想定した以上の風が吹いたことになるが、そうすると、ガラスが割れた事実から大体どれくらいの風が吹いたかを逆算することができる。

そういう時に便利な(いや、単に自己満足が得られるだけかも知れないが)のが、風によって構造物が受ける力を大雑把に求める簡便な式である。以下にそれを紹介しよう。

最大瞬間風速を V(m/sec.) とすると、1平米当たりに作用する力(kgf)は、V を 4 で割 って二乗した値に概ね等しくなる。風荷重(圧力)を W (kgf/m2) として式に書くと以下の通り。

Wind_eq1.jpg

例えば、最大瞬間風速が 40(m) なら、(40/4)^2 = 100(kgf/m2) となる。力の単位として kgf が使用されていることに注意されたい。

この式は「4で割って二乗する」だけなので覚えやすい。細かい要因は無視していて精度はよくないかも知れないが、大まかなイメージを掴むのには便利である。筆者がこの式を初めて目にしたのは構造の本ではなくて、建築計画学か建築環境学といった分野の本であったと記憶している(文献 4 の p.203 などを参照されたし。文献 4 では、単位は mmH2O が使用されているが、式は同じである)。


主に最大瞬間風速だけに基づいて建物に作用する風荷重を決めていたのはずっと昔のことで、現在の荷重指針(文献 1 の第 6 章)を見てみると、もっといろんな要因が考慮された式になっていることが分かる。

この式中にガスト影響係数なる係数があるが、この係数は以前にも書いたように、カナダのアラン・ダペンポート(Alan G. Davenport)が提唱したものである。

指針にも説明があるように、建物に及ぼす風荷重の効果は建物自身の振動特性や風の変動の影響を受ける。ダベンポートは確率や統計の理論を用いて、これらの影響を考慮する方法を示したのである。

ダベンポートの成果は日本だけでなく ASCE 7 を始めとする世界中の指針や規準で採用されている。研究成果を実用的な形に纏めたダベンポートの功績は大きいと言っていいだろう。

余談だが、研究としてはすばらしい(はず)のものが実用的でないという例は枚挙に暇が無い。式が複雑すぎたり、理屈が難しすぎて本人以外理解できなかったりすると工学の世界では使ってもらえないのである。

レヴィとサルバドリーの本「建物が壊れる理由」にも、ガラス被害で有名なジョン・ハンコック・タワーの話の所で、風といえばこの人ということでダベンポートが登場する(文献 2 p.165)。

ジョン・ハンコック・タワーは高さ 234(m) の超高層ビルであるが、このビルは 1973 年の強風でビル外壁面のガラス千枚以上が割れる甚大な被害を受けた。ダベンポートは、このビルの風に対する応答を風洞実験で確かめることを依頼され、予想外の見解を導き出している(下記)。

建物に与える風の影響は、その構造だけでなく、建物の形状、付近の建物の形状や地形の状態に依存する。そこで風洞実験が、構造上の風問題に関する世界的権威者であるカナダのウエスターン・オンタリオ大学のアラン・ダベンポート教授へ依頼された。

この実験から、風による横変位は、パネルの破損には関係なく、むしろ居住者にとって我慢できないほどの揺れの原因になることが確かめられた。

予測されたように、これらの運動はタワーの短辺方向に大きな変位を生ずるだけでなく、全く思いがけないことに、建物が短辺方向に狭く、また部分的に菱形の平面をしていることが原因で、ねじれ運動を生じるという特徴があった。まさに、このタワーの振動を減衰させなくてはならなくなったのである。


ダベンポートは風だけでなく地震についても、世界に先駆けて確率論に基づいた地震動マップ(カナダを対象としたもの)を作成するといった業績も残している。

さて、この素晴らしい実績を残したダベンポートがノーベル賞を受賞していると言ったら驚かないだろうか。筆者は、そのように書いてある資料を読んだ時にはえらく驚いてしまった。

そんなはずはない、何かの間違いだ、と思ってよく読むと、、、何かの間違いだった。ノーベル賞(Nobel Prize)ならぬノーブル賞(Noble Prize)だったのである。

ノーベル賞はスウェーデンのノーベル財団が授与する賞だが、ノーブル賞はアメリカ土木学会(ASCE)が授与する賞である。ノーベル賞はアルフレッド・ノーベル(Alfred Nobel)が創設した賞だが、ノーブル賞はアルフレッド・ノーブル(Alfred Noble)にちなむ賞である。

どちらもアルフレッドで紛らわしい。そのせいか Noble と書くべきところを Nobel としてしまっている資料も複数ある。例えば、文献 3 には以下のような記述がある。

Within two years of his appointment he distinguished himself (and Western) when he published "Some Aspects of Wind Loading", Proc. EI.C. 1963. This paper was awarded the American Engineering Societies' Alfred Nobel Prize and the Gzowski Medal in Canada.

今回の記事の元になるものは、数年前にダベンポートについて調べた頃に書いたものだが、我ながらオチがつまらなくてボツにしてしまった。また、ダベンポートが構造エンジニアかというとそれも怪しい。今回の台風被害でダベンポートのことを思い出したので、相変わらずつまらないと思いながらも掲載することにしよう。

ノーブル賞の日本人受賞者はまだいない。誰か受賞することがあればこの賞もちょっとは日本で認知されることになるのだろうか。。。



参考文献

  1. 日本建築学会:建築物荷重指針・同解説 2015年

  2. マッシス・レヴィ マリオ・サルバドリー:建物が壊れる理由 建築技術 1995年3月

  3. G. S. Peter Castle, George S. Emmerson : Expansion & Innovation, The Story of Western Engineering 1954-1999, 2014

  4. 金谷英一/石黒一郎/池田静治/成瀬哲生/桜井美政:建築環境学概論 明現社 1984年




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