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建築構造学事始

ニューマークの論文を遅読する(その2 ネーミングについての補足)

"Newmark β法"という呼び名には実は二つの定義があるのをご存知だろうか?

一つ目の定義は、1959 年の論文(文献 1)で発表された手法を Newmark 法と呼び、そのうちの γ = 1/2 のケースに限って Newmark β法と呼ぶ(γ は、数値減衰に関係するパラメータ)。文献 2 では、この定義を採用している(下記)。

Newmark により提案された Newmark 法は、time = t における加速度、速度、変位が既知であるとき、微少時間(⊿t)後の速度と変位をパラメータ γ, β を用いた次式により近似する。...

... Newmark 法はパラメータ β と γ の設定によりさまざまな直接時間積分法になるが、その例を表3に示す。解の安定性や精度もこれらパラメータにより支配される。γ = 1/2 に設定するとパラメータは β だけになるが、これは、特に Newmark β 法と呼ばれている。

上記文中の「表3」を書き写したものを以下に示す。

newmark2_fig1_3.jpg

これに対して、もう一つの定義では、γ の値が何であれ、常に Newmark β法と呼ぶ。筆者は文献 2 を早くに読んでいたこともあって、第一の定義を当然のように思っていたが、世の中はそんなに統一されていないことをその後知るに至った。先日の雑誌もそうであるが、第二の定義を採用している文献も結構あるようである。

ところで、1959 年の論文に「本手法を β 法と呼ぶ」とか、ましてや「本手法をニューマーク法と呼ぶ」なんてことは書かれていない。通常、こういった人名を冠した手法の名前は、発表後に他人によって命名されるのが普通である。ニューマーク法もそうだろうと長らく思っていたのだが、どうもそうでもないようなのである。

実は、この論文が出る 7 年も前の 1952 年のイリノイ大学紀要には、既にこの手法について一連の論文(文献 3 など)が発表されていて、その中に「ニューマークの方法(Newmark's method)」や「ニューマークの β 法(Newmark's β method)」という記述が見られるのである。

文献 3 では、他の多くの既往の手法との比較を示すという目的から Newmark's method のように自分の名前を付けた呼称としたようであり、後年対外的にこの手法を発表した後でもその呼び方がそのまま流通したようである。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.

  2. 日本機械学会:計算力学ハンドブック(I 有限要素法 構造編) 丸善 1998年7月

  3. S. P Chan and N. M. Newmark : CONMPARISON OF NUMERICAL METHODS FOR ANALYSING THE DYNAMIC RESPONSE OF STRUCTURES, A Technical Report of A Cooperative Research Project Sponsored by THE OFFICE OF NAVAL RESEARCH DEPARTMENT OF THE NAVY and THE DEPARTMENT OF CIVIL ENGINEERING UNIVERSITY OF ILLINOIS, Octorber, 1952



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ニューマークの論文を遅読する(その1 ネーミングについて)

クヌース(Donald E. Knuth)先生は、自分が開発した TeX のバージョン番号に、3.141952... という無限に続く円周率の値を採用したことはよく知られている。これは、ソフトウェアというものはいつまでたっても完成することは無く、永遠に改良の余地があるといった意味が込められているのだそうだ。

また、ウィルソン(Edward L. Wilson)先生は、自分が開発した構造解析プログラムに SAP(マヌケ、あほ、オタンチン etc.)と名付けたことは、以前の記事に書いた通りである。

我が国であれば、自分の作ったプログラムにオタンチンなんて名前をつけたりしたら、当人こそ救い難いオタンチンと見なされるのがオチである。

この辺りのアメリカの文化は、真面目な(?)我が国とは大違いである。

こういう例を目の当たりにすると、ニューマーク-β法も同じような流れのネーミングではないだろうかとの類推が働く。前回も書いたように、a を差し置いて β と γ なのである。これは「いつまでたっても β 版です。最良の方法ではありません!」なんてことをアピールすることを意図していたのではないかと思えてくるのである。

あるいは、数値積分法ではないにしても、既に a 法と呼ばれる有名な手法があって、それとのバッティングを避けるために a の使用を控えたのかも知れない。

以前の記事に書いたように、たわみ角法を考案したベンディクセン(Axel Bendixen)は、たわみ角法を a 式法(Die Methode der Alpha-Gleichungen)と名付けていたのを思い出してみよう。

アメリカでのたわみ角法の考案者は、ウィルソン(Wilbur M. Wilson。上記のウィルソンとは別人)であり、彼はイリノイ大学の先生だった。ニューマークもイリノイ大学であるから、たわみ角法がベンディクセンの a 式法と同じであることをニューマークが知っていて意識した可能性もある(ちなみに、現在 a 法と言えば、Hilber、Hughes、Taylorの HHT-a 法を思い出す。だが、これはニューマーク法から派生した手法であるから、当然この名称が影響したということはない)。

このように、ニューマークの論文(文献 1)を読むまでに随分と想像を逞しくしていたのであるが、これらの妄想は全くの見当違いであると判明した。実際には、a もちゃんと使われているのである。

パラメータ a も重要な意味を持つのだが、使用上どちらが主役を演じるかといえば β の方なのである。ただそれだけなのであった。。。それについてはまた後日。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.



みんな知ってる数値積分法

先日、毎月届くとある雑誌(文献 1)を読んでいると、建築構造史の年表(1945年~)が出ていたのでつくづくと眺め入ってしまった。筆者も以前からコツコツと構造史の年表を自作しているので、他人の作成した年表には興味をそそられるのである。

筆者の自作年表は、何か調べた折などに備忘録代わりに書き込まれることが多いため、滅多やたらと多くの事柄が書き込まれている年もあれば、全く空白の年もある偏った代物となっている。

こちらの年表は、歴史上の出来事がバランスよく挙げられているものの、あまり密度は濃くない。もっと言えば、かなりスカスカである。記載の出来事は厳選されたものと言ってよさそうだ。

表は「建築関連の出来事」、「計算機・解析技術」、「自然災害」、「設計・工法」、「材料・施工」、「構造規基準等」という6つの内容に分類されている。

「建築関連の出来事」の一番目に1945年の"タコマ橋落橋"がエントリーしていて、「それって土木では?」とつっこみたくなるが、それはまあ置いておこう。

「規基準」や「自然災害」などのカテゴリは至極尤もなものが選ばれているようだ。特異な感じを受けるのは「計算機・解析技術」部門である。

FORTRAN に異論は無いものの、Python が選ばれているのは少し早すぎるようにも思えるし、Shopbot や Rhinoceros なんてものはメジャーなんだろうか?筆者は Shopbot が何なのか寡聞にして知らないのだが。。。

そういった中にあって "Newmark-β法"が選ばれているのは順当と言ってよいだろう。 "Newmark-β法"は、構造分野で最もメジャーな数値積分法であるし、構造系の人であればニューマークの名を知らない者はないだろうから。筆者自作の年表にももちろん1959年の欄に"Newmark法"が記入されている。

筆者はかなり前にこの有名な数値積分法についてちょっと調べたことがある。それは実務上の必要性からというよりは、「なんで a じゃなくて β なの?」というどうでもいい疑問に対する答えを見つけてスッキリしておきたかったというのがある。「β と γ が登場するのに a はどこへ行ったんだー」と悩んだのは筆者だけだろうか?

ニューマークの論文を読んだ時のメモが残っているので、かなり内容を忘れてしまっているが後日それについて書いてみよう。


参考文献

  1. 日本建築学会:建築雑誌・第133集・1712号 2018年6月


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Author:かすみ
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