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建築構造学事始

阿部美樹志が設計した鉄道高架橋

阿部美樹志なんて遠い存在だと思われるかもしれないが、彼の設計による構造物が割とメジャーな場所に今も残っていたりする。

例えば、麻布十番駅(東京都港区)近くにある阿部美樹志の(元)自邸がそうだし、東京駅から万世橋駅(中央線の神田駅と御茶ノ水駅の間にかつて存在した駅)に至る鉄道高架橋もそうである。

今回の記事では、一般的な認知度がより低いと思われる鉄道高架橋の方を取り上げることにしよう。

万世橋駅は無くなってしまったが、この区間はもちろん今も現役である。この区間には当時としては最大径間を誇ったメラン式鉄筋コンクリートの橋梁があり、竣工は今からほぼ 100 年前の大正 7 年(1918 年)である。この橋は皇居の旧外濠に架けられているので「外濠橋」と呼ばれ、前回紹介した本では以下のように説明されている(文献 1 p.22 - 24)。

 鉄道に在職中最大の仕事は、東京改良事務所勤務の大正四年(一九一五)に設計し、同七年竣工した外濠橋を含む東京駅~万世橋駅間の高架鉄道橋であろう。

 この外濠橋は、本人がその著書の中で「東京万世橋間高架鉄道橋のうち、外濠拱橋設計概要(著者の設計)」として「鉄道省管内において鉄筋混凝土をもって築造せる橋梁に乏しからざるもその築造もっとも早くやや大なるものは旧外濠に架したるメラン式拱橋である。

本拱橋は純径間長一二五フィート橋幅八三フィート余(六線併列)これに要せる混凝土の総容積六○○余立坪にして外面は花崗石張りとなし橋頭四隅に橋柱を有している」と記述している。

 鉄道の線路を高架にする仕事であるが、途中で外濠を跨ぐことになる。この部分はスパンが大きくなるから構造設計も難しくなる。

 人が渡る橋と異なり鉄道橋だから、橋の欄干などはメンテナンスの人のためだけのものではあるが、高架であるだけに車窓からのみならず、遠くから目につく構造物になる。

 構造設計だけでなく、全体の設計を任されているものの立場として、単に技術的な安全性や経済性だけにとらわれず意匠にも心を配っているのは、この記述にもあるように四隅に高い塔を、用途としては必要がないにもかかわらず設けて、欄干などの仕上げに対してもデザインを施して、石張りを用いるなどしていることからも理解でき、鉄道橋といえばこの時代土木の技術だけであったのに意匠にも目が向いている。

なお、文中にある"拱橋"とはアーチ橋のことである。

阿部美樹志は、機能面だけでなく意匠にもかなり配慮してこの橋を設計したようである。橋の四隅に立つ塔は、純粋に装飾目的で付けられたそうだ。本に載っている図面からは実物の流麗な姿が想像される。

だが、100 年経った現在の姿はというと、何の変哲もないという形容がぴったりの "ただの橋" になり果ててしまっている。少なくとも筆者にはそう見えたので、一般の人が見ても同じような感想を持つのではないだろうか。

下の写真が現在の外濠橋である(2019年7月末に筆者が撮影したもの)。

fig_sotobori.jpg

この橋は、東京駅から歩いて 15 分くらいの、外濠通りと江戸通りとの交差点付近に人目から逃れるようにひっそりと存在する。事前に地図で場所を確認して出向いても、注意していないとうっかり見過ごしてしまうくらい存在感が希薄であった。

橋の上に覆いかぶさっているのは首都高速道路である。おそらくこの道路を作った時に橋の四隅にあった装飾の要ともいえる橋塔が取り払われたのだろう。その他ポイントとなる外観といえばアーチ部分だが、アーチが多心円だなんてことは一般人にはアピールしないだろう。

すぐ隣にある大手町プレイスもこの橋の存在感を消すのに一役買っていると言えそうだ。見上げると目もくらみそうな超高層ビルである。高いだけでなく、巨人のために作られたかのように各パーツのサイズが大きい。睥睨する大手町プレイスに委縮する外濠橋梁。そんな構図である。

小さくて見えにくいが、上の写真の右下に黒っぽい四角いものがあるのがお分かりだろうか?どうもこの橋梁の説明プレートのように思えたので内容を確認したかったが、フェンスで遮られて近づけなかった。大手町プレイスが出来た時に周辺も整備されてこのフェンスが追加されたのだろう。

かつては説明プレートにアクセスできたと思われる。この辺りを整備した業者はこの橋を見に来る人なんてそうそういないと思ったのだろうか。100 年間頑張っている橋を慕って会いに来る人が少数ながらも存在することに配慮して欲しかった。。。(涙)

以下は余談。

東京駅から神田駅方面に続くアーチ高架橋は、表面は煉瓦だが中身は鉄筋コンクリートである。100 年近く経っていることもあって、多くの部分に補強工事が施されている。鉄板が巻かれていたり、コンクリートアーチの下に鉄骨3ヒンジアーチが挿入されたりしているのである。

アーチ部分には色んな種類の店舗が入っていて見ていて飽きない。駐車スペースになっている所もあった。アーチの下にまるで隠すかのように収められた車たちの姿なんて他ではなかなか見られない珍しい光景ではないだろうか。

東京駅近くの高架橋横の歩道ではミストが散布されていて、うだるような暑さを和らげてくれた。気化熱は案外侮れないものだ。少々濡れても真夏日には却って気持ちがよい。聞くところによると、ミストは COP が高いそうなので、屋外の暑さ対策には有効な手段と言えそうである。


参考文献

  1. 江藤 静児:鉄筋混凝土にかけた生涯 - 阿部美樹志と阿部事務所 日刊建設通信新聞社 1993年5月




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