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2015
07.07

第三の男

Category: 建築構造史
世の半数以上の人が文系人間なら、グリーンという名前を聞いてまず思い浮かべるのはグレアム・グリーン(Graham Greene)ということになるのかもしれない。言わずと知れたイギリスの人気作家である。作品の多くが映画化されているので、日本にもファンは多いのではないだろうか。

だが、半数に満たない理系人間にとってグリーンと言えば、グリーン関数やグリーンの定理に名を残すジョージ・グリーン(George Green)であるに違いない。建築構造に関する分野に限っても、彼の残した功績に触れる場面に出くわすことは少なくない。例えば、弾性論における平板理論の発展にジョージ・グリーンが多大な貢献を果たしていることは、知る人ぞ知る材料力学史上の一大トピックである。

ところが、もう一人、構造工学の分野で活躍した別のグリーン(Charles Ezra Greene)がいることを御存知の人はそう多くはないのではないだろうか?先日の記事に書いたはりのたわみを求める「グリーンの定理」は、彼の名前を取って付けられたものである。なので、数学の教科書でガウスの定理やストークスの定理と一緒に勉強するグリーンの定理とはもちろん違うものである。

この C. E. グリーンについての伝記的な資料は、かなり限られたものしかないようだ。日本語で書かれたものに関しては、恐らく皆無ではないだろうか。ここでは、筆者が目を通した数少ない資料から、C. E. グリーンについてざっと紹介しておこう。

C. E. グリーンは、1842年生まれのアメリカの土木エンジニア(civil engineer)である(1842年といえば、日本では江戸時代の天保13年にあたる。幕末に活躍した大山巌や沖田総司の生まれた年でもある)。理系、文系の垣根を超えた人だったようで、ハーバード大で文学士(Bachelor of Arts)、その後 MIT で理学士(Bachelor of Science)の称号を得ている。

C. E. グリーンがちょうど成人する頃に南北戦争が起きており、そういった時代背景もあってと思うが、大学を出てすぐにライフル銃の製造に関わったこともあったようだ。だが、30歳から61歳で亡くなるまでは、ミシガン大学で土木工学部の教授を務めており、同学部の初代学部長にも就任している。筆者が本記事を書くにあたって参考にした資料の一つも、C. E. グリーンがミシガン大学を退官(死去により)する際に、同僚か誰かがグリーンの功績を讃えて送った追悼文のようなものである。

C. E. グリーンがアメリカでよく知られた人であったのは、彼の著した工学書がエンジニアに広く読まれたためのようだ。グリーンの著書(の多く)は、ネット上で読むことができるので、興味のある人は探してみてほしい。紙面から受けるイメージは、意外にもそれほど古臭さを感じない。なんとなく、感じがティモシェンコの本の似ているようにも思える。

著書の一部をリストアップしておこう。

Graphical Method for the Analysis of Bridge Trusses (1875)
Trusses and Arches: Graphics for Engineers, Architects, and Builders (1876)
Trusses and arches analyzed and discussed by graphical methods (1879)
Graphical Analysis of Roof Trusses; for the Use of Engineers, Architects and Builders (1885)
Notes on Rankine's Civil Engineering (1891)
Structural Mechanics (1897)

上記の Notes on Rankine's Civil Engineering は、ランキンの本を C. E. グリーンが解説したものだが、これは手書きのもので、達筆であるからかなり読みにくい。だが、当時のアメリカの大学の講義の内容はこんな感じだったのかな、と想像しながら眺めるのには楽しい代物である。以下は序文の書き出し部分である。

C_E_Greene_Fig1.jpg

読むのに骨が折れそうなことがお分かり頂けたかと思う。書き写したものが以下。

Rankine's Civil Engineering, while very useful as a manual, is a book full of difficulties for the student, unless he is assisted by copious notes and explanations.

ちなみに、ランキンの本は当時のエンジニアに広く読まれたハンドブックであることが、ティモシェンコの History of Strength of Materials 等に書かれている。柱の設計式であるランキン-ゴルドン式も、この本を通して多くのエンジニアに知られるようになり、長きに渡って使われた有名な式である。

C. E. グリーンの本に「グリーンの定理」も出ているが、さすがにそれをグリーンの定理であるとは説明していない。後から誰か別の人がそう呼び始めて広まったのだと思われる。

上記のリストを見て分かるのは、図式解法(Graphical Method)を扱ったものが多いことだ(だが、図があまり載っていないのが不思議)。ミシガン大学の C. E. グリーンの紹介文にも、グリーンが図式解法に特に注力していたことが書かれている。

「グリーンの定理」を紹介している日本語の本としては、最近のには見当たらないが、内藤多仲の「建築構造学 第10版」(1971年)などには出ている。その部分(第3章 構造力学、第1節 梁、5. 梁の撓み)を以下に示しておこう。

梁の撓みと傾斜の計算

 梁の撓みや傾斜を求める方法には
 (a) 面積曲げモーメント法(Area Moment Method) Greene
 (b) 弾性重量法(Elastic Weight Method) Mohr
 (c) 弾性曲線法(Elastic Curve Method) Euler
 等がある。
 
 (a) 面積曲げモーメント法(Greeneの定理)
   第1定理
   梁の撓曲線上の2点 A, B に於ける2切線が互いに含む角φは2点間曲げモーメント図
   面積をEIにて除したものである。
   (後略)
   
   第2定理
   撓曲線上の1点Bに於ける切線が他の1点を通る鉛直線を切り取る部分の長さ(撓みδ)
   は、2点間曲げモーメント図面積の、A点に対する一次モーメントをEIにて除したもので
   ある。
   (後略)


最後に余談。

今回の記事に出てきた三人のグリーンは、同じグリーンでも Green と Greene というように綴りは異なる。また、生まれた年と亡くなった年を書くと、ちょうど入れ替わりのように登場していることが見て取れる。

George Green : 1793 - 1841
Charles Ezra Greene : 1842 - 1903
Graham Greene : 1904 - 1991

グレアム・グリーンについては、分野も違うし、半ば強引に登場させたのだけれど。。。


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