--
--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2016
01.10

つくられた帝国ホテル神話?

Category: 地震工学史
「耐震建築と聞いて連想する人物は?」

この質問に対するアメリカ人の答えは、なんとフランク・ロイド・ライトだそうである。思わずずっこけそうになる回答だが、R. Reitherman は以下のように書いている(文献1)。

アメリカでは(他の国も同様だと思うが)、"世間一般の人"に、地震と関わりのある建物と建築家の名前を一つ挙げてもらうと、大抵の人が「フランク・ロイド・ライトと帝国ホテル」と答える。

何故であろうか?私が聴衆に向かってこの質問をした際に何度も耳にした答えは、「殆どの建物が倒壊した東京大地震にも耐えたのだから」といったもので、帝国ホテルは、言わば免震建築だったのだそうだ。

Ask the "person on the street" in the United States, and perhaps in other countries as well, to name one designer and one building that has something to do with earthquakes, and a very common answer is "Frank Lloyd Wright and the Imperial Hotel."

Why? The answer I have heard many times when I pose this question to audiences is "because it stood up in the great Tokyo earthquake while most of the rest of the buildings fell down," and people will also say, in layman's terms, that the building was seismically isolated.

筆者の感覚では、一般人の答えは「そんなの知りません。」だと思う。筆者自身、建築を学び始めた当初は、いわゆる有名建築家の名前を一人として知らなかったくらいなので。

だが、一般の人でも五重塔が地震に強いということを知っている人は多いかも知れない。少し専門的に建築(しかも構造)を勉強している人であれば、武藤清と霞が関ビルなどを挙げるかもしれない。

R. Reitherman が実際に調査してみた結果、この一般に流布している考えは全く誤ったもので、今でいうところの都市伝説の類の話なのだそうである(下記)。

私は1970年代に帝国ホテルの耐震設計に関して調査した際に、東京にあったもっと大きな建物は、平均的に帝国ホテルと同等かそれ以上に地震によく耐えたことを見出した

Back in the 1970s when I did research on the seismic design of the Imperial Hotel, I found that other, larger buildings in Tokyo on average did as well or better in the earthquake

また、帝国ホテルは免震建築ではなくて、短い杭を持つ一般的なコンクリートフーチングが全く普通に地面に埋められていた(very conventionally rooted in the ground with a typical concrete spread footing on short piles)とも書かれている。

だが、この伝説は度々繰返されるほど根強いものらしい。タイム誌から出ている Great Buildings of the World にも以下のような記述が見られるそうである。

東京にある帝国ホテル、その巧妙な構造支持システムは、周囲の殆どの建物を倒壊させた1923年の壊滅的な地震からホテルを無傷の状態に守った。

the Imperial Hotel in Tokyo, whose ingenious system of structural supports kept the hotel intact during a devastating 1923 earthquake that flattened almost all the buildings around it.

前回書いたトリファナック(Mihailo D. Trifunac)は、もちろんこういった「伝説」のことは周知の上で、地盤の柔らかい層が地震エネルギを吸収するといった考えは新しいものではないとして、以下のフランク・ロイド・ライトの言葉を引用している。

... 地面の波打つ動きによって、長い杭のような深い基礎は動揺し、構造物を揺り動かすだろう ... その泥層は、激しい衝撃を和らげるのに十分なクッションに思えた。建物をその上に浮かべればいいじゃないか ...

... because of the wave movements, deep foundations like long piles would oscillate and rock the structure...That mud seemed a merciful provision - a good cushion to relieve the terrible shock. Why not float the building it?...

上記の記述は、フランク・ロイド・ライト自伝の"Building Against Doomsday(Why the Great Earthquake Did Not Destroy The Imperial Hotel)"に書かれている。帝国ホテルの「伝説」はこの本に端を発するようである。

文中の "That mud(その泥層)"は、帝国ホテルの敷地下にあった柔らかい泥層のことである。ライトはこの泥層に"チーズ"という愛称(?)を付けていたほど思い入れがあったようで、上記文中ではこの層を "a merciful provision" だと言っている。

直訳すれば "慈悲深い提供物" であるが、天の思し召しか何かによって運良く与えられたものといったニュアンスであろうか?自伝のこの章には、日本の風土や信仰などへの言及があるので、神と関係する何かを指した言葉なのかもしれない(背景が分からないのでないので特に訳していない)。

地盤の専門家でもないライトがどうしてこのような考えを持つに至ったのであろうか?筆者には、末広恭二らの行っていた研究の影響も、直接的では無いにしろ、あるように思われるのである。後日、その辺りについて、R. Reitherman の調査報告などを追いながら見ていきたい。

参考文献

  1. Robert Reitherman : Earthquake Mythology adapted from the 2014 CUREE Calendar illustrated essays by Robert Reitherman

  2. Frank Lloyd Wright : An Autobiography



スポンサーサイト

トラックバックURL
http://ksmknd16.blog.fc2.com/tb.php/115-0bd2fb18
トラックバック
コメント
帝国ホテルの耐震に関する世の中の伝説には、竹山氏も『物語 日本建築構造百年史』の中で苦言を呈されていた気がします。
whitefoxdot 2016.01.11 10:20 | 編集
日本語の纏まったレポートと言えるものは見つからなかったので、記事では採りあげませんでした。『物語 日本建築構造百年史』を見てみようかと思います。情報ありがとうございます。

伝説と言えば、五重塔の心柱もその類なのかな?と思っています。上記のReithermanの資料にも出ていて、武藤清の見解が引用されています。
神田霞dot 2016.01.12 23:49 | 編集
インペリアルタワーが建つとき、ライト館は低層耐火だったから関東大震災に遭っても営業続行できた、みたいな話を、帝国ホテルに用の無い東京庶民の年寄りがしてました。
震災で横浜居留地の石造りが全滅したこと、戦中の建物疎開で江戸数寄の料理旅館みたいなのは壊して帝国ホテルは対象外、空襲で被災後も補修してGHQが使ったので、世間では高級ホテルへの憧れもあって、ライト館の不倒イメージが膨らんだのでしょう。

私はビルの制振というと、新都庁のビル酔い健康被害騒動を思い出します。
タワマンで流産が多い説は、その延長でしょう。
東京の一般人dot 2016.01.13 22:24 | 編集
コメントありがとうございます。

これは、おみそれしました。。。自分(過去の自分ですが)を基準にするのは間違いの元ということですね。"制振"も一般用語になりつつあるのかも知れませんね。
神田霞dot 2016.01.14 23:22 | 編集
管理者にだけ表示を許可する
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。