2016
05.14

20世紀初めの建築振動論(ダヌッソのアプローチ その2)

Category: 建築構造史
ダヌッソ(Arturo Danusso)は、調和地動に対する 1 質点系の応答を議論するにあたって、地面の変位 x を以下のように仮定している。

sdof_eq1_2.jpg

この仮定の動機について、L. Sorrentino は以下のように推測している(拙訳と原文を併記)。

ダヌッソがこのような地動を選び、x(t) = r cosat としなかったのは、初期変位と初期速度のどちらもがゼロに等しくなるからであろう。

Probably Danusso selected this ground motion instead of x(t) = r cosat so that both ground displacement and velocity are initially equal to zero.

上記の x を前回の式に代入すると、以下の運動方程式が得られる。

sdof_eq2_2.jpg

任意外乱に対する応答を求める式は、デュアメル(J.-M. Duhamel)やストークス(G. G. Stokes)によって随分早く(19世紀半ば)に求められていて、デュアメル積分などと呼ばれる。ダヌッソも初めに一般式を与えているが、調和地動の場合は、前々回の記事で見たように、運動方程式(微分方程式)は容易に解かれる。

上記の式に初期条件(t = 0 で s = 0, ds/dt = 0)を適用すると、s は以下となる(文献 1 の式(7))。

sdof_eq3_2.jpg

ここで、ρ= ω/a である。これより、系の絶対加速度が以下のように求まる(文献 1 の式(8))。

sdof_eq4_2.jpg

これは、cos ωt = -1 かつ cos at = 1 の時最大となる。地動の最大加速度は r a2 であるから、地動の最大加速度に対する系の最大加速度の比を μ とすると、μ は以下となる(文献 1 の式(9))。

sdof_eq5_2.jpg

ダヌッソは、この μ を"rapporto sismico"(seismic ratio) と名付けている。直訳すれば地震比であるが、後年佐野利器が震度という概念を耐震設計に適用しようとしたことと状況が似ているので、ここでは震度に似せて「震比」という訳語をあてておこうかと思う。

ただ、両者は似て非なるものとも言っておかなければならない。震度が重力加速度を基準にしているのに対して、「震比」は上で見たような動的な考察に基づいて導入されており、基準としてるのは地動加速度なのである。

μ は ρ だけに依存するので、ダヌッソは ρ を characteristic(特性)と呼んでいる。 ρ は分子が系の振動数、分母が地動(外乱)の振動数である。大抵の振動論の本にある、系を分母、外乱を分子として定義したものとは逆になっていことに注意したい。

ダヌッソは、地動を sine とした場合も検討していて、その場合の各式を以下に示す。

地面の変位(文献 1 の式(10)):

sdof_eq6_2.jpg

系の絶対変位(文献 1 の式(11)):

sdof_eq7_2.jpg

「震比」(文献 1 の式(12)):

sdof_eq8_2.jpg

式(9)と式(12)をグラフにしたものを表計算ソフトを使って描いたものを以下に示す(文献 1 のFig.4(a))。

sdof_fig2.jpg

式(12)(地面の変位を正弦で置いた場合)では、応答値が ρ の増加に伴って上昇しており、ρ> 1 での両者の様子はかなり違ったものになっている。

このグラフのキャプションには、DIAGRAMMA DELL'EFFETTO PRODOTTO IN RELAZIONE ALLA FLESSIBILITA' と書かれている。L. Sorrentino によると、この英語訳は、diagram of the effect [of the ground shaking] in relation to the flexibility だそうなので、日本語なら、「たわみ性との関係における地盤振動の影響図」とでも訳せるものである。


参考文献

  1. Luigi Sorrentino : THE EARLY ENTRANCE OF DYNAMICS IN EARTHQUAKE ENGINEERING: ARTURO DANUSSO’S CONTRIBUTION, ISET Journal of Earthquake Technology, Paper No. 474, Vol. 44, No. 1, March 2007




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