2017
03.23

ハンブリーのパラドックス(3)

Category: 構造設計
「ハンブリーのパラドックス」の続き。

引き続き文献 1 の内容を見ていくことにする。今度は(単純)塑性設計についてである。文献 1 の "10.3 Simple plastic design" の導入部では、以下のように塑性設計において重要だが忘れられがちなことについて触れられている(拙訳と原文)。

'塑性'および'靭性'という言葉で最も大切なのは、限定的な安定挙動を暗黙のうちに仮定していることである。

The essence of the words 'plastic' and 'ductile' is that a limiting stable behaviour is implied.

中間部に荷重を受ける鋼はりを例にとると、じわじわ増える荷重によって塑性ヒンジが形成され、このヒンジ部の回転によってはりは大きくたわむが、その過程は荷重が一定のまま準静的に推移するのである。

通常の構造物の変形の範囲では、鉄筋コンクリートもこれと同じような挙動を示す。アルミニウム合金や木といった実際の設計で使用される材料も同様である。これは、ガラスや鋳鉄などの脆性的な材料が過度なひずみに起因するクラックを生じて壊滅的な崩壊へと至るのとは対照的である。

そこで、スツールに塑性解析を用いるには、スツールが壊れる時に脚が最後まで粘り強さを保つことを確認しておかねばならない。これは、どの脚もがっしりしていて、不安定な挙動を起こすことなく、押し潰そうとする荷重に耐えられるということである。そのようなスツールであれば、中央に掛ける荷重をゆっくり増す時の載荷履歴を追いかけることができる。

各脚に掛かる力を P とすると、通常初めは2本脚だけで荷重を支え、荷重が 2P になった時に2本の脚が降伏し、安定的に縮むことになる。降伏した脚が縮むと、荷重の掛かっていない脚が床に着くため、荷重は 2P を超えて 4P まで増えることになる。この最終的な段階では、どの脚も最大の荷重を支持しており、スツールの座面は大きな変位を伴うことになる。

このように、体重 60 kgf の人を支えるスツールの塑性設計で要求される P として 15 kgf が求まる。この力に適当な係数を掛けたものを設計上各脚が負担するものと考えなくてはならない。

上記で示したものと異なる載荷履歴も考えられるが、単純塑性設計で構造物がどれだけの荷重を支え得るかを求める際に履歴は問題にならな。文献1には以下のように書かれている。

単純塑性設計は、終局荷重を計算するにおいて、載荷履歴、初期不整、熱ひずみおよび自己応力の初期状態とは無関係である。

Simple plastic design, directed to the calculation of ultimate loads, is independent of the loading path, of initial imperfections, of temperature strains and of initial states of self-stress.

さて、このような認識の下に十分な靭性を持たせて建物を設計したつもりが、実際はそのように挙動しなかったという例が多数ある。その辺りについて、ある大御所がなかなかユニークな考察を与えているので、後日それについて紹介したい。


参考文献

  1. Jacques Heyman : Structural Analysis: A Historical Approach, Cambridge University Press, Cambridge 1998.




スポンサーサイト

トラックバックURL
http://ksmknd16.blog.fc2.com/tb.php/151-ec778682
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top