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2017
10.06

想定外の壊れ方をした建物たち(その4 続 ハウスナーの見解)

Category: 耐震工学
構造計画を行う時や、学生なら構造力学の問題を解く時などには、「力の流れ」をイメージすることが重要であるとよく言われるが、慎重居士のハウスナー先生からすると、そのような考えは楽観的過ぎるということになるのかも知れない。

先日の記事では、構造物には地震や風といった外力が作用しなくても、様々な要因の応力が閉じ込められていることに言及したハウスナーの論文を紹介した。以下はその続きである(拙訳と原文)。

先の議論は、建物内の実際の応力と設計コードの要求に従う計算応力の違いを浮き彫りにしている。計算応力は多くの仮定で単純化されている上にビルトイン応力や応力上昇の存在を無視している。

私の知る限り、建物内の真の応力を計算応力と比較する物差しは存在しない。斯様な情報は耐震設計には重要かも知れないにも拘わらず、である。

The preceding discussion highlights the difference between actual stresses in a building and the stresses calculated according to the code requirements. The calculated stresses involve a number of simplifying assumptions and, in addition, neglect the existence of built-in stresses and stress risers.

So far as I know there have been no measurements of the true stresses in a building as compared with the calculated stresses even though such information could be of value in seismic design. It seems that such stresses are not taken into account in the design.

"真の応力"を求めようとしないのにはそれ相応の理由がある。だがそのために大きな被害を招いてしまった、とハウスナーは言う。

設計計算でそのような応力に配慮しないのは知見不足が主な理由であり、ビルトイン応力は建物の挙動に影響しないであろうことが経験上明らかなので通常考慮しないようだが、ビルトイン応力と応力上昇が悪影響を及ぼしうることがノースリッジと神戸の地震によって明白となった。

It seems that such stresses are not taken into account in the design calculations primarily because of lack of knowledge, normally the built-in stresses are not considered because experience has shown that they do not seem to affect the performance of building, but, as the Northridge and Kobe earthquakes have shown, the built-in stresses and stress-risers can have adverse effects.

これに続けて、ノースリッジ地震と兵庫県南部地震での被害例を引きながら、より具体的で詳細な考察がなされているので、興味のある方は文献 1) を参照されたい。わずか 4 ページしかない論文なので、読了するのにさして時間はかからない。

上記のハウスナーの論文を読みながら筆者が思い出したのは朱鷺メッセ連絡橋の事故のことである。この連絡橋は完成後大分時間がたったある日、人が歩いていたわけでもないのに突然自滅するように崩落してしまった。地震や台風やその他主だった外荷重は無かったのにである。

この連絡橋はある橋脚の部分まで工事が終わった時に工期の区切りか何かのために工事が中断されたという経歴を持っていた。橋脚(支持点)の先もはりのある"連続はり"として設計されていたのに、一時的にその先のはりが無い状態に置かれることになったのである。やじろべえの片腕だけ完成してもう一方の腕がまだ出来ていないアンバランスな状態と同じである。

まだ出来ていない方の腕に相当するカウンターウェイトを置いてから須らく完成済みの腕(橋桁)の支保工を外さなくてはならなかったのに、何も処置をせずに支保工を外しにかかったところ橋桁がどんどん下がってきたので慌てて作業を中断したのである。

かなりうろ覚えだが、あらましは大体以上のようだったと記憶している。

この時の作業によって設計では考えていない"ビルトイン応力"がこの部分に閉じ込められてしまった可能性がある。ハウスナーが例に出していた南カリフォルニアエジソン社のビルよりも状況は遥かに悪そうだ(上弦の鉄骨はかなりの部分塑性化したのならビルトイン応力の範疇を超えている?)。

もう一つ筆者が想像の翼を羽ばたかせて連想したのは、芦屋浜高層アパートの柱のことである。ひょっとしてこの柱は平時から引張状態にあったなんてことはなかったろうかと妄想が沸いてきたのである。リダンダンシーが高かったということくらいしか推論の根拠はないのだけれど。。。

さて、先にハウスナーの見解はユニークだと書いたが、ビルトイン応力のような応力の扱いをどうするかについては 1950 年代くらいに議論がなされていたようである。それについて書かれている文献を後日また紹介したい。


参考文献

  1. George W. Housner : Opinion Paper, Unexpected Stress Failures during Earthquakes, Earthquake Spectra, Volume 13, No. 3, August 1997.



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