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建築構造学事始

エレガントな別解

カスチリアーノの定理には二つあるが、今回の話題は変位を求める方のカスチリアーノの定理に端を発するものである。

この定理をかなり大雑把に説明すると、外力の関数として表現された構造物のひずみエネルギを着目する外力で偏微分するとその外力の作用点の変位が求まる、ということになる。

このことを、下図に示すような一本のフツーの棒を引張るという簡単な例で確認してみよう("フツー"とは均質で等断面 etc.といったこと)。この棒はフックの法則に従う材料で出来ているとすると、外力 P とたわみ y の関係も下右図に示すような線形である。

Engesser_fig1.jpg

比例定数を k とすれば、

Engesser_fig2.jpg

と書ける(軸剛性を EA、棒の長さを L とするなら k = EA/L)。たわみ y として表現すれば、

Engesser_fig3.jpg

である。外力がゼロから P まで増えた時にこの棒に蓄えられるひずみエネルギは、上右図の縦縞で示した部分の面積であるから、

Engesser_fig4.jpg

となる。これを P で微分すると、

Engesser_fig5.jpg

となり、たわみ y が求まることが確認できる。

例題として意図的に簡単なものを選んだが、実際上のもっと複雑な問題にカスチリアーノの定理を使う時には気を付けないといけないことが幾つかある。例えば、ティモシェンコの本(文献 1)の "61. Strain Energy and Castigliano's Theorem" の脚注(p.290)には以下のような記述がある。

カスチリアーノは、Pi は独立な力であると述べている。 ...

Castigliano remarks that Pi are the independent forces. ...

荷重が複数ある場合は、それらは独立であるという条件が付いているのである。

また、外力と変位の関係が線形でない場合にもカスチリアーノの定理は適用できないことにも注意しよう。これについて見るために、上記の一本棒の問題を少し拡張してみよう。どのように拡張するかというと、外力 P が以下のようにたわみ y の指数関数で表されるとするのである(これは、文献 2 の Chapter 5 "Energy methods" に示されているもの)。

Engesser_fig6.jpg

式中の k と n は定数である。先に見た例は、n = 1 として本ケースに含まれる。ひずみエネルギを P の関数として表す準備として先に dy を dP で表しておくと、

Engesser_fig7.jpg

である。これを用いてひずみエネルギは、

Engesser_fig8.jpg

となる。これを P で微分すると、

Engesser_fig9.jpg

が得られる。これは、指数 n が 1 の時は y と一致するが、n = 1 以外では y とは異なることが分かる。外力と変位の関係が非線形な場合にカスチリアーノの定理は使えないのである。

では、非線形な場合はどうすればよいのだろうか?それに答えたのが、前回引用したエンゲッサー(F. Engesser)である。そしてそのアプローチは意外なほどシンプルでエレガントである。

カスチリアーノの定理では、ひずみエネルギが使用される。これに対してエンゲッサーが着目したのはコンプリメンタリエネルギである。

下図の「縦の短冊」を積分したのがひずみエネルギだが、「横の短冊」を縦軸に沿って積分した量に当たるのがコンプリメンタリエネルギ(コンプリメンタリひずみエネルギ、補ひずみエネルギ、補足エネルギ、など呼び方は色々ある)である。

Engesser_fig10.jpg

一本棒の例におけるひずみエネルギ U とコンプリメンタリエネルギ V を式で表すと以下のようになる。

Engesser_fig11.jpg

物理的な意味を考えるとひずみエネルギに着目してしまう。だが、物理的な意味などに頓着しない数学星人に変位を求めて下さいと尋ねれば、以下のように迷わずコンプリメンタリエネルギを微分するだろう。

Engesser_fig12.jpg

実に簡単に変位が求まってしまった。ここに P と y が線形であるとかないとかの条件は何も入っていない。つまり非線形にも適用できるということになる。

「横の短冊」に着目するのは簡単なように思えるが、常人にはなかなか思いつくものではないのではないか。よく気が付いたなエンゲッサー、と感心してしまうが、この成果は発表当時(そしてその後ずっと)殆ど誰からも相手にされなかったようだ。

その理由はウエスタガード(H. M. Westergaard)によると、まだ線形問題が中心で非線形問題を扱うまでに至っていなかったからだそうである。文献 3 には以下のような記述がある(拙訳と原文)。

エンゲッサーの理論は、フックの法則を超える領域にも適用される。カスチリアーノの方法を含むだけでなく、特殊な応用として温度応力に関するミュラーブレズローの手法をも含んでいる。

1912 年に Gruening がこの分野のレビューでエンゲッサーの仕事を引用して論じているが、それ以外は殆ど注目されていない。

これについての尤もらしい説明は、これまでの構造解析の主たる関心は比例限以下の応力にあるのであり、座屈や振動への応用は認識されていなかったからである。

Engesser's theory applies beyond the range of Hooke's law; it includes not only Castigliano's method but also Mueller-Breslau's procedure for tempeature stresses as special applications.

In his review of the field in 1912 Gruening quoted and discussed Engesser's contribution, but otherwise it had received little attention.

A plausible explanation is that structural analysis has been concerned mainly with stresses below the propotional limit, and the applicability to buckling and vibrations had not been realized.

エンゲッサーが彼の理論を発表したのが 1889 年。ウエスタガードがその埋もれた功績に光を当てたのが 1942 年。実に 50 年以上の時間が流れている。ウエスタガードの論文にはエンゲッサー理論のちゃんとした説明(本記事のように大雑把なものではない)が出ているので、興味のある方は参照されたい。応用例としてトラスの問題と柱の座屈問題が示されている。ティモシェンコは文献 1 でウエスタガードを引用しているが、例題としては、下図のようなピンで結合された2本の棒の変位を求める問題を挙げている。


Engesser_fig13.jpg


参考文献

  1. S. P. Timoshenko : History of Strength of Materials, 1953

  2. T. H. G. Megson : Aircraft Structures for Engineering Students, 6th edition.

  3. H. M. Westergaard : On the method of complementary energy and its application to structures stressed beyond its proportional limit, to buckling and vibrations, and to suspension bridges, Proccedings of the American Society of Civil Engineers, Vol. 68, No. 2, Transaction No. 107, p. 765-793, 1942.





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