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2013
12.12

海外における柔剛論争

Category: 建築構造史
建物は柔剛どちらが良いかの議論は、日本だけで展開されたわけではない。1932年6月のニューヨーク・ヘラルド・トリビューン紙には、“科学者が追い求める衝撃に強い建物 硬材質と軟材質の理論上の違い”と題した、アメリカでの柔剛論争ともいえる内容の記事が掲載されている。

「カリフォルニア工科大学のフォン・カルマン博士とビオ博士が目指しているのは、地震に強い建物の実現である。フォン・カルマンは、つい先日エールで開かれたアメリカ機会学会(ASME)会議にて、様々なタイプの建物が日本、南アメリカ、カリフォルニアの地震で経験した衝撃量の研究に関する報告を行った。彼らの研究は、グッゲンハイム航空研究所で行われており、主命題は剛構造と柔構造のどちらが優れているかを決定することである。剛構造が優れていると主張する科学者もいれば、高層建物の1階を柔らかくすべきだと主張する科学者もいる。フォン・カルマン自身は、鉄筋コンクリートの方が鋼よりも衝撃吸収において優れていることを指摘して、建物を“地面の動きとリズムを取って”揺れるように建てるべきだと考えている。」

また、別の新聞は、同じ会議について、“地震時応力についての議論 ニューヘブンの学会は剛派と柔派に二分されたとフォン・カルマンが報告”と題して以下のような記事を載せている。

「フォン・カルマンの今朝の非公式なコメントによると、カリフォルニア工科大学のビオ博士が現在最も興味を持って取り組んでいる研究テーマは、地震時に建物に生じる応力の計算とのことである。フォン・カルマンは、グッゲンハイム航空研究所の所長であるが、ビオは彼の下で研究を行っている。」

「揺れに強い建物の研究:カリフォルニア、日本、中央アメリカの太平洋沿岸で過去に起きた地震の研究により、建物の問題に興味を持つ技術者達は、これら特定地域の地震動のリズム、つまり地震の特性を計算できると確信を持つまでの実績を積み上げてきた。技術者達は、これらのデータに基づいて“地震に強い”建物を実現しようとしているのだ。フォン・カルマン博士によると、この研究の結果、二つの思想の流派が形成されるに至っている。一方は、地震の起きる地域には非常に剛な構造物だけを建てるべきだと強く主張しており、他方は、こちらがフォン・カルマンが支持する側であるが、地震と共に揺れることのできる柔らかいタイプの建物の方が良いと言って譲らない。」

これらの記事で書かれている柔構造は、主に soft first story という1層部分を柔らかくして免震効果を持たせる構造のことを指している。1階部分には、開口部を多く設けたり駐車場にしたりといった需要があるので、剛性が低くなる傾向がある。ル・コルビジェ(Le Corbusier)が好んだというピロティ建築も同様だ。

Soft first story と言えば、オリーブ・ビュー病院のことを思い出す人も多いかと思う。この病院は、soft first story が祟って、1971年のサンフェルナンド地震で1階部分が崩壊するという“失敗”に終わっている。その後、剛構造として再建されたが、1994年のノースリッジ地震に襲われ、建物は持ちこたえたものの、送電設備やダクトがやられて病院として機能しなくなるという二度目の“失敗”を招いている。

Soft/flexible first story の元になるアイデアは、1927年の L. H. Nishkian の論文が嚆矢のようである。彼は flexible first story の考えに基づいて、実際に何棟かの建物を設計している。

日本で柔剛論争がスタートしたのは、真島健三郎が土木学会誌に論文を発表した1924年と一般的に言われているので、真島は Nishkian よりも数年早いことになる。日本の論争がアメリカに伝わったのか、それともアメリカでも独立に論争(といっても意見が割れたということだが)が始まったのかは確認できていない。

アメリカ以外では、先にも書いたが、イタリア人エンジニアのダヌッソが、“構造物に入力される地震エネルギーを可能な限り遮断するには、建物を振動挙動に強固に抵抗させるのではなく、素直に追従させるべきである”という柔構造を良しとする見解を1909年に述べている。これは日本の柔剛論争開始よりも15年ほど前にあたる。

いずれにせよ、日本では真島健三郎が柔派として孤軍奮闘していた印象が強いが、世界的には、フォン・カルマンなどの大学者も柔派であったのである。日本、アメリカ、イタリアとも、振動論に精通していたと思われる学者やエンジニアが柔派にまわっているのが興味深い。


参考文献
Mihailo D. Trifunac : Early history of the response spectrum method, Soil Dynamics and Earthquake Engineering 28 (2008)
EERI : CONNECTIONS, The EERI Oral History Series, John A. Blume, 1994

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