2014
01.22

シータの由来は?(ウィルソンのθ法について)

Category: 建築構造史
建築構造の分野でウィルソンと言えば二人の人物を思い浮かべる。

一人はイリノイ大学の Wilbur M. Wilson である。この名を知らなくても、構造系の人ならたわみ角法を必ず勉強しているはずだ。こちらのウィルソンは、たわみ角法の発案者である。

1881年の生まれだから、今から100年以上も前の人である。彼の生きた時代は、日本では佐野利器、内藤多仲などが活躍していた頃で、佐野利器の文献などに見られる "ウィルソン法" というのは、たわみ角法のことである。

もう一人は SAP の稿でも取り上げた、カリフォルニア大学バークレー校の Edward L. Wilson である。W. M. ウィルソンのちょうど50年後の1931年の生まれである。数値積分法の一つである "ウィルソンのθ法" が有名なので、ウィルソンと言えばまずこちらを思い浮かべる人も多いかと思う。

先日 SAP とう構造解析プログラムについて書いたが、内容については何も触れていなかったことに気が付いた。これでは、SAP を知らない人には何の事だかさっぱり分からないと思われる。なので、本稿では二人目のウィルソンについて書くことでこれを補いたい。たわみ角法やW. M. ウィルソンについても興味深いものがあるので、これは後日書いてみたい。

去年(2013年)の年末くらいだったと思うが、計算工学会から出ている雑誌「計算工学 Vol.18 No.4」に載っていた石井惠三氏の「国産 CAE ソフトウェアの開発に携わって40年」という記事を興味深く読んだ。

SAP の後継バージョンである SAP IV のことや当時の日本の CAE 業界の状況が書かれていて、筆者は世代的にも SAP について語る資格は無いのだが、ちょっと書いてみたくなったのはこの記事がきっかけである。

その記事には、SAP に盛り込まれた当時最新の技術として、ウィルソンのθ法(以下θ法)、サブスペース法(固有値計算法の一手法)、非適合要素のことなどが挙げられていた。

昨今の論文などでθ法を使って解析を行ったというものはまず見かけない。その意味では、既に淘汰されてしまった手法と言えるのだと思う。だが、市販ソフトなどでは、この手法をオプションとして備えているものは少なく無いようで、実務解析では今でも使われることがあるようである。

θ法の元ともいえるものは、Newmark 法の安定性を改良した方法として1968年に提案されている。θ法の骨子は、係数θを1以上の値として、積分の時間間隔をθ分だけ広げることにある。つまり、加速度が線形変化する区間を Δt から θΔt までに広げておいて、t+θΔt での釣合いを考えるのだが、応答を評価するのは、あくまで t+Δt においてである。

こうすると安定性が増すという着想はどこから来たのか?これについて、ウィルソンは以下のようにタネ明かしをしている。

「不安定な解が真の解の回りに振動する傾向を示すことから、係数θを導入してみようという考えが浮かぶ。そのようにして、時間増分の途中で解を評価してやれば、不要な振動は最小限に抑えられることになる。」

筆者の拙い日本語訳よりも以下の原文を見られたい。

"The introduction of the θ factor is motivated by the observation that an unstable solution tends to oscillate about the true solution. Therefore, if the numerical solution is evaluated within the time increment, the spurious oscillations are minimized."

線形問題では、θを1.37以上となるまで広げると無条件安定となることが示される。あまり広げすぎると精度が悪くなるので、ウィルソンは、1.4 という値を推奨している。

モードの固有周期に対して積分の時間刻みが大きいと誤差が大きくなる。この誤差は、応答の周期の伸び、振幅の低下という形で出てくる。振幅が低下するので数値減衰などと呼ばれる。高次モードは固有周期が短いので、この数値減衰の効果を大きく受け、条件によっては応答がすぐに消えてしまうことになる。

高次モードが不要な場合は、この効果は好ましい。このような積分法が要求される背景として、自由度数の大きな構造物の非線形解析がある(SAP 自体は線形解析プログラムであるが、1973年には非線形解析が主題の論文が出ている)。自由度数は非常に大きいが、知りたいモード数はそれほど大きくない、でも低次モードの精度は確保したい、というのは実際問題としてよくあることだろう。

ちなみに、数学でθといえば角度を表す記号であるが、もう一つθが使われる場面がある。それは、高校の数学で習う平均値の定理である。θ法の式の形を見ると、平均値の定理で定義域内の値を表す式とよく似ていることが分かる。だからウィルソンはθという記号を使ったのだと思うが、このことは何かで読んだわけではなく、あくまで筆者の推測である。ただ、平均値の定理では、θは0と1の間にある(内挿式)が、θ法では外挿式なので、θは1以上の値をとる点が違っている。

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