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建築構造学事始

断面の慣性楕円 (その1)

前回からの流れで、今回は部材断面の慣性楕円(ellipse of inertia)について。。

材料力学で学ぶ項目の中で慣性楕円はかなりマイナーな部類に属すものではないだろうか。昨今の大学の材料力学の講義などでも、慣性楕円については全くとりあげないか、とりあげるにしても少し触れる程度ではないかと想像する。

筆者自身もいわゆる"はりの非対称曲げ"のところで初めて慣性楕円を学んだ記憶があるが、その後特に慣性楕円が必要となるような機会はなかったように思う。慣性楕円のようなものが必須知識と見なされたのは、図式解法が華やかなりし頃だったのではないだろうか。

一方で、日常的に目にすることも多い形鋼の断面表にこの慣性楕円の図が特に説明もなく記載されている、ということについては以前からなんとなく気になっていた。

例えば、以下の図は「鋼構造設計規準 許容応力度設計法」の付録に示される等辺山形鋼のもので、点線で示されるのが慣性楕円であるが、それについての説明は書かれていない。


art286_fig1.jpg


こちら の JIS のサイトから JIS 規格を確認できるが(閲覧にはユーザ登録が必要)、こちらの断面表の前書きなどにも慣性楕円の説明は出ていない。

なお、上記の等辺山形鋼の断面表を見たい場合は、規格番号は「JIS G 3192」で検索する。規格名称は「熱間圧延形鋼の形状,寸法,質量及びその許容差」である。

前知識がなくても、図中に iu、iv といったものが示されているので、この楕円が断面二次半径に関係しそうなことは推測できるかもしれないが、こういう状況なので、見方や使用法はよく分からない、ということにならないだろうか。

推測するに、この楕円は詳細な検討用に用意されているというよりは、強軸と弱軸をぱっと見ただけで識別したり、 ix、iy が iu、iv と比べて大体どの位になるかを判断したりできるようにとの配慮で載せてあるのかも知れない。

ティモシェンコの材料力学の本(文献 1)の付録には若干説明が出ているが、あまり詳しいものではないし、断面図とともに使用するという観点から書かれているわけでもない。

このように、少なくとも筆者の知る範囲では、慣性楕円についてちゃんと説明してあるものは、余程古い本などを除いて無いようである(筆者が知らないだけでどこかにばっちり説明されているかも知れない。。もし知っている人がいたら教えて下さい)。

次回は図式解法や材料力学の古い本を引用しながらこの慣性楕円について書いてみたいと思う。


参考文献

  1. チモシェンコ著 鵜戸口英善、国尾 武訳:材料力学 上巻 東京図書 1957年4月



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