2014
02.27

ビオは末広の地震波分解器を知っていた?(末広恭二のこと(4))

Category: 地震工学史
地震工学における応答スペクトル法の起源は、1932年にビオ(Maurice Anthony Biot)がカリフォルニア工科大学に提出した学位論文の第2章であると言われている。以前、このブログでも「海外における柔剛論争」と題した記事で、フォン・カルマンと共に柔構造支持派の一人としてビオのことを紹介した。

カリフォルニア工科大学と言えば、前回も書いたように、1931年に末広恭二の講演の行われた場所の一つである。ビオは末広の地震波分解器を知っていたのであろうか?この辺りの状況について、Robert Reitherman は、「Earthquakes and Engineers : An International History」の中で以下のように述べている。

「応答スペクトルの理論は、ビオ(1905 - 1985)の研究により1930年代に目覚ましい発展を遂げた。彼のカリフォルニア工科大学での学位論文は歴史的なものであるが、その概念の本質のいくらかは、既に末広によって検討されていたのである。末広は、1931年にカリフォルニア工科大学で講演を行っている。ビオとその指導教官のフォン・カルマンは、講演やASCE刊行の記事を通して、末広の研究を知っていたと思われる。」

応答スペクトル(現在我々が言うところの)の説明として、大崎順彦氏の「地震と建築」、または同氏の「新・地震動のスペクトル解析入門」に出ている図がとても分かり易い。その図には、減衰が等しく、固有周期が異なる複数の倒立振子が同じ土台に固定された絵が載っている。その土台に地震波を入力して各振子の時刻歴応答を記録し、その最大値をグラフの縦軸の値に、振子の周期を横軸の値としてグラフを描画したものが応答スペクトルとなる。

末広の地震波分解器は、まさにこの図を装置化したものといえる。ただ、減衰はほぼゼロに限られるし、得られるのは変位応答である。また、振子のタイプも同じではない。また、末広の講演記事にスペクトルの図(Fig. 42)が出ているのだが、これは変位応答スペクトルではなく、横軸が周期で、縦軸が頻度(frequency of occurrence)の頻度分布曲線である。

話が前後するが、この地震波分解器とその成果を紹介している節のタイトルが、"The Period of the "Natural" Ground Motion"となっていることからも分かるように、この装置の目的は、地盤の卓越周期を調べることである。

"卓越周期"などと書いてしまったが、1931年の時点では地震動の何たるかが分かっていないのであるから、このような概念があったとしてもまだ確たるものではなかったであろう。実際、講演の中でも、"もしそういうものがあるとして(if any)"、と断って話を進めているし、natural period と言ったり、prevalent period と言ったり、 period of habitual motion peculiar to the ground と言ったりと様々な呼び方をしている。

この装置を地震研究所のある本郷に設置して地震時の振子の時刻歴応答を記録したところ、周期0.3秒の振子が最も激しく揺れる結果が得られ、本郷の natural period は0.3秒であることが示唆される、と末広は語っている。スペクトルの図(Fig. 42)は、その頻度分布を表すものであり、0.3秒の所にピークがある。

ハウスナーをして末広の装置が応答スペクトルの起源であると言わしめた所以は、当時の建物や構造物が含まれる周期帯に着目したこともあるかと思われる。「地震波分解器及其記録」という日本語の論文にも以下のような記述がある。

「一秒以上が粗く0.2秒飛びになっているに関らず、一秒以下が細く0.1秒飛びになっているのは、本来の目的が構造学上の研究にあって、地震学主体の研究は著者に取っては副であるからである。いうまでもなく建築構造に対しては、1秒以上の周期を有する地震動は余り顧慮する必要はない。」

横軸が周期で、縦軸が頻度と言えば、先に挙げた「新・地震動のスペクトル解析入門」の第2章は「周期-頻度スペクトル」というタイトルで、ゼロ・クロッシング法(いわゆる金井スペクトルを求める時に使用される)やピーク法についての説明がある。講演記事の Fig. 42 も周期-頻度スペクトルと言えるのであろうが、どのようにして求めたのかについては、記事内にも「地震波分解器及其記録」にも詳しい説明がないのではっきりしない。

金井スペクトルのついでに書いておくと、金井スペクトルに関して使われる周期頻度や卓越周期という言葉の定義が、小林啓美氏の「金井清の“On Microtremors VIII”について」という記事に出ているので以下に示しておく。

周期頻度 (Period Distribution Curve):
周期帯を等比間隔で区切ったとき0-Crossing で求めた周期の出現する頻度(頻度分布曲線)。

卓越周期 (Predominant Period):
周期頻度が最大となる周期。もともとこの卓越周期をもって、地震観測特に短周期地震計(加速度地震計)で得られた地震動の卓越周期が表現出来ることを目的として研究が始められたものである。

"周期帯を等比間隔とする"理由などについては、「新・地震動のスペクトル解析入門」の方に詳しく書かれているので参照されたい。

最後にもう一つ、末広の装置で特徴的なのは、据え付けられた地点の"生の地震動"が入力されることである。観測装置だから当たり前と言えば当たり前であるが、時刻歴解析や応答スペクトルの本来あるべき姿を表していると言えそうである。

エルセントロなどという縁もゆかりも無い場所で採れた地震波で応答解析をやる意味について留意する必要があるだろう。エルセントロ、タフト、八戸の"谷間を狙った設計"などを末広恭二が知ったらどう思うであろう。。。


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