2014
03.11

地震工学におけるレジェンド、フリーマンのこと

Category: 地震工学史
末広のアメリカ講演について触れている文献の多くは、大崎順彦著の「地震と建築」でもそうであるが、アメリカ講演のくだりについて大体以下のような書き方となっている。

「末広の講演を聞いたアメリカの研究者たちは、この内容に興味を持ち、さっそく強震計を開発して、早くも1933年のロング・ビーチ地震で強震動の記録に成功した。」

この説明は間違ってはいないが、誤解を招くものだと筆者は思っている。というか、少なくとも筆者は誤解していた。

どのように誤解していたかというと、アメリカの研究者たちが末広の講演を聞いて、にわかに強震観測の研究をスタートさせ、驚異的なスピードで強震計を開発し、ロング・ビーチ地震で強震動の観測に成功したかのように思っていたのである。

このように誤解してしまったのは、アメリカ側の状況の説明が、意図的ではないにしろ省略されているからだと思われる。アメリカの研究者の書いた記事を読んでみると、この辺りの印象は大分違ったものとなる。

アメリカ側から見ても末広恭二が重要な役割を果たしたことには変わりはない。むしろ日本でよりも評価が高いのは既に述べたとおりである。

だが、末広の他にもう一人、アメリカ側にも明確なビジョンを持って、並々ならぬ行動力を発揮したフリーマン(John Ripley Freeman)という稀有な人物がいなければ、1933年に強震動の記録に成功するという早業は到底為し得なかっただろう。

末広恭二の時と同じく、フリーマンについてもハウスナーの意見を見てみよう。再度、EERI(アメリカ地震工学会)から出ている Oral History というインタビュー記事から部分的に引用する。(何故ハウスナーが末広やフリーマンのことによく通じているかというと、ハウスナーは彼の師匠であるマーテルの死後にその書簡を引き取って所有していたことによる。マーテルは、末広ともフリーマンとも手紙をやり取りしていたのである。)

「ロング・ビーチ地震が起きるまでは、構造エンジニアの中に地震に興味を持つ者は希であった。とはいえ、少数の人は何かを為そうとしていた。そのような例外の中でも特筆すべきなのが、カリフォルニア工科大学のマーテルと彼の素晴らしい友人であるフリーマンである。」

「はっきり言えるのは、フリーマンとは、色々な意味で非常に稀有な人物であったということだ。例えば、私の知る限りアメリカ土木学会(ASCE)会長と機械学会(ASME)会長の両方を務めた唯一の人間であり、もう一つの並はずれた業績は、地震工学における、遅咲きだが非常に精力的で生産的な活動であった。フリーマンが地震に興味を持つようになったのは、彼が70歳になった時であった。」

1925年のサンタ・バーバラ地震と、その同じ年にカナダのケベック州で発生した地震をきっかけに、フリーマンは地震に興味を持つようになったそうだ。フリーマンはボストンに住んでいたので、ケベック州の地震の際には、実際に地震の揺れを経験したらしい。齢70にして新たな研究分野に足を踏み入れる(そして後世に残る成果を出す)など、筆者は他に例を知らない。

そして、翌年の1926年には、関東大地震に関しての情報を求めて、東京で開催された汎太平洋学術会議にマーテルと共に参加している。この会議の際に発刊された"Scientific Japan, past and present"の Chapter VII を見ると、今村明恒による関東大地震に関する報告がされているのが分かる。1929年の万国工業会議の際にも、再度マーテルと共に東京に来ているのだが、この時に初めてフリーマンは末広恭二に会ったようだ。

"会った"程度の話ではなくて、末広との邂逅は、フリーマンに一大興奮を生じさせたようである。末広の地震波分解器と石本巳四雄(地震研究所の二代目所長)の傾斜計を実際に見て、傾斜計を購入までしているのである。これは筆者の勝手な想像だが、フリーマンは「自分の求めているものに近いものがここにある!」と驚嘆したのではないだろうか。

フリーマンは、単なる象牙の塔の研究者とは対極にあるような人物で、すぐに末広をアメリカに呼ぶべくASCEに働きかけており、また自腹で末広の講演記事をASCEから出版するなどしているのである。

また、ロビー活動も抜け目なく行っている。当時の大統領フーバー(Herbert Hoover)に会う機会を得て、地震研究の重要性を説いているのである。このあたりは、明確なビジョンを持った有能な政治家と言ったほうがいいのかもしれない。

こういった精力的な活動を1925年頃からやっている訳であるから、1929年に末広に会った時から1931年の末広の講演にいたるまでも、事態はかなり進展していたと想像されるのである。決して「末広の講演を聞いて、にわかに強震観測の研究をスタートさせた」などということはないのである。

ちなみに、本稿のタイトルにある"レジェンド"は、ソチ五輪で活躍していた"若くはない"スキージャンパーの呼称に倣ったものである。


スポンサーサイト

トラックバックURL
http://ksmknd16.blog.fc2.com/tb.php/35-04555115
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top