2014
04.13

境界と不連続

Category: 構造解析
童話作家のあまんきみこ氏の作品に、タクシー運転手の松井さんが主人公の「車のいろは空のいろ」というシリーズがある。あまんきみこ氏の作品は、小学校の教科書にしばしば取り上げられるようなので、御存知の人も多いかと思う。筆者は、このシリーズを(いまだに)こよなく愛する者の一人である。

この本の中に収録されている「まよなかのお客さん」という話は、以下のような書き出しで始まる。車を運転しているのは、もちろん松井さんである。

「月夜の道です。車は、青くそまったイチョウ並木の下を、ぐんぐん走っていました。とけいを見ると、ちょうど十二時。まよなかです。(きのうときょうの、いや、きょうとあしたのあいだだな。)」

"ちょうど十二時"の松井さんはどちらの日に属すと考えるべきなのだろうか?

こんなことを思い出したのは、とある構造解析ソフトの計算にちょっとしたバグを見つけたからであった。

実際はもう少し複雑な話になるのだが、"マズい部分"の要点だけを抜き出すと、集中荷重を受けるはり断面の最大せん断力を求める問題に帰着する。

大学一年生くらいで勉強する材料力学の問題として、はりの断面に生じる最大せん断力を求めることを考える。集中荷重を受けるはりのせん断力分布は、荷重点で不連続となる。例えば、中央に集中荷重Pを受ける単純支持はりの荷重点におけるせん断力は、左を向けばP/2、右を向けば-P/2である。P/2は、両端の反力でもある。荷重が中央からずれた場合として、せん断力分布V(x)を以下のように書いてある本もある。

V(x) = R1 ( x < a )、-R2 ( a ≦ x )

はりの端部を原点として x 座標を取り、荷重点の位置を a、反力をR1、R2で表している。

上記のソフトは、プログラミングする際にこの式をそのまま用いているらしいのであった。しかし、この表現では、不連続点では片方の値しか見ていないので、R1 > R2 の場合は、大きい方のせん断力が見落とされてしまうのである。

はり全体での最大せん断力を求めるのであれば、別の断面でR1を拾うので問題ないのだが、問題のソフトでは組合せの最大せん断応力(度)を求めることをやっていて、そうすると、荷重点における最大せん断力を見落とす訳にはいかないのである。

このような見落としをしているソフトはそうそうあるとは思えないが、同じ理由によってポスト処理が不格好となっているソフトなら他にもお目にかかったことがある。つまり、上記の数式でせん断力分布を描画すると、不連続点でせん断力図が斜めに表示されて、手描きのような"垂直な絶壁"とならないのである。

であるから、プログラミングの際には、荷重点で両方の値を参照するようにちょっと手を加えないといけない。

ちなみに、数学で出てくる「ヘビサイド(Heaviside)関数」は、不連続点を定義域に含まないが、「ステップ関数」は、上記の式と同様、一方の値がどちらかの領域に属す。不連続点で二値を持つような関数は、一価関数ではないという理由からだと思うが、特に名前はないようである。

最後に再びあまんきみこ氏について。「車のいろは空のいろ」では、タクシーのお客として山猫や狐が乗ってきたり、通りを曲がると過去の世界に紛れ込んだりと、人間と動物の境界や時空の境界を越える装置として松井さんのタクシーが重要な役割を果たす。

あまんきみこ氏が"境界"というものに思いを巡らせて作品を構成していたのかどうかは、ご本人に聞いてみる以外に確かめようがないが、上記に取り上げたような部分を読むと、あるいはそういうこともあるのかもしれないと一ファンとしての妄想が膨らむのである。

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