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2014
04.21

弘法も筆の誤り?

Category: 構造解析
今回は、"バグ"で思い出した、ある本の内容について書いてみたい。前回は、前振りで時間境界について述べたのに、実際に問題としたのは力学的境界であったが、今回こそは時間境界(初期条件)が主題である。

"Dynamics of Structures"という本は、耐震構造解析の定番のテキストとして、アメリカだけでなく、恐らく世界中の学生、研究者、エンジニアの間で読まれているものだと思う。

"Dynamics of Structures"と言えば、CloughとPenzienのものが有名だが、今回取り上げるのは、この後継本とも言えそうな、カリフォルニア大学バークレー校のチョプラ(Anil K. Chopra)によるものである(副題は、Theory and Applications to Earthquake Engineering)。700ページもある大著で、例題が豊富なので、筆者もちょくちょく参考にさせてもらっている。

大分前のことである。この本を読んでいて「えっ?」と思われる内容に出くわしたのだが、それは時刻歴解析で使用する数値積分法の特性を確認する例題について読んでいる時であった。この例題自体は、非常にシンプルなもので、単に1質点ばねを自由振動させて、その変位の時刻歴を求めるだけのものである。

減衰はゼロなので、高校の物理の教科書で出てくる単振動と同じである。振動方程式は、以下のように書かれる。

ma + kd = 0

m:質量、k:ばね定数、a:加速度、v:速度、d:変位、である。vはdを時間に関して1回微分、aはdを時間に関して2回微分したものであることは言うまでもない。減衰はゼロなのでvの項は書いていない。

この質点を単位長さだけ引張ってから自由振動させるのだが、その場合の初期条件として以下のように書かれている。

d = 1、v = 0

この初期条件が???なのである。これを先の振動方程式の左辺に代入してもゼロにならないのは明らかだ。ゼロとするには、

a = -k/m

も初期条件に加えないといけないと思うのだが、この記述が見当たらないのである。

数値積分法には、初期条件として加速度を指定するものもあれば指定しないものもあるが、本の中に描画されている結果のグラフには加速度を指定するものが出ていたので、筆者が自作プログラムで試してみたところ、a = 0 とすると、そのグラフとぴったり一致したのである。なので、どうやら式を書き忘れただけではないようなのである。

それにしても、単振動のような高校レベルの問題を大先生が間違えるだろうか?この考えは今も拭えないので、筆者が何か勘違いをしているのかも知れない。興味のある人は、"5.5.2 Computational Error"を確認して頂きたい。

もし筆者の勘違いでないとしたら、以下のようなことであろうか?

大先生は、大先生であるが故に忙しいはずだ。その割には、この本は豊富な例題を備えていて、尚且つ実に丁寧に書かれている。記載されている例題を著者一人で全部解いたというよりは、何人かの協力者がいると思う方が自然だし、そういうことはよくあることだろう。

研究室にいる学生は優秀に違いなく、問題は高校レベルである。動的解析プログラムも研究室にあまたある。任せても問題はないだろう。。。かくして実作業は協力者へと委ねられたのではないだろうか。

一方、解析を任された学生(多分)は、これは自分の仕事じゃないよな、などと内心思いながら、記載された初期条件に特に注意を払うこともなく、ただ入力して出てきた結果をそのまま提出したのではないだろうか。

などなど、色々と空想を膨らませてみたが、この本にケチを付ける気は毛頭ないことを断っておきたい。ただ、高校の教科書で出てくる問題と大先生というコントラストがちょっと面白く思われたので書いてみたまでである。

この本は、既に書いたように、筆者も折に触れて開いてみては勉強させてもらっている。アメリカは、日本の建築、土木という分け方と違って、Civil Engineeringという括りになっているからだと思うが、日本の建築振動論の教科書では扱わないような例も取り上げられていて、そういった例題が重宝する時もある。

例えば、土木で扱う長大橋などの解析では、ある橋脚と別の橋脚では入力される地震波が異なるということが考えられるが、そういった場合の定式化や例題についても出ている。日本の建築系の教科書では、そのような例を扱っている本は殆どないのではなかろうか。

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コメント
工学系の専門書って意外と誤植多いですよね。私も研究室のボスの教科書の出版を手伝ったことがありますが、査読は研究室の院生でしたw
この手の文化は、間違いに気が付いてこそ一人前だという風に前向きに解釈しています。
whitefoxdot 2014.04.22 03:40 | 編集
ソフトウェアや本を、使ったり読んだりする時は、注意深さが必要ですね。

文化といえば(ちょっと別の話ですが)、誤りに対するアメリカ人の考え方は、日本とは若干違うように感じています。あっけらかんとしているとでも言いましょうか。。

情報をオープンにして、みんなで“デバッグ”した方が効率的と考えているのかもしれません。
神田霞dot 2014.04.23 23:14 | 編集
こんにちは。

>例えば、土木で扱う長大橋などの解析では、ある橋脚と別の橋脚では入力される地震波が異なるということが考えられるが、そういった場合の定式化や例題についても出ている。

位相差入力の検討ですよね。
建築分野でも長さが80m~100mを超えるとその影響を考慮すべきという認識はありますが、そういう長大な建物って限定されるし、超高層の時刻歴応答みたいに解析手法として法的に義務づけられていないから、実務レベルではほとんど無視しているのではないでしょうか。

行雲流水dot 2014.04.27 01:11 | 編集
こんにちは。最近ブログを更新されてないようでしたので、ちょっと心配していましたが、お元気ならなによりです。

建築の実務で問題になることは稀なのだろう、と私も思います。だいぶ前なので記憶が曖昧ですが、トリファナック(Mihailo D. Trifunac)の論文で、建物を対象とした解析でこの件を扱っていたように思います。後でこの論文を捜してみます。。。

チョプラの本では、このmultiple excitationsの例として、金門橋と配管構造物(どちらも建築ではない)を挙げています。定式化は、Clough, Penzien の本と同じですが、こちらの本では5層3スパンの建物の図が示されています。(説明の便宜上かもしれませんが。。)

アメリカでの実務についてよく知っているわけではないのであくまで想像ですが、日本よりも解析・設計は"繊細"かもしれません。それはこの件に限らず、私が抱いている印象です。

例えば、ダイアフラムの検討、骨組み解析の初期不整(形状不整、付加応力)の考慮、応答スペクトル(+モーダルアナリシス)の近接固有値への対応、はりのねじりの検討などなど、日本よりもアメリカの方が繊細度が高いように思います。
神田霞dot 2014.04.28 00:37 | 編集
横レス失礼します。
東京駅の保存・復原資料を読んでいると、ちゃんと位相差入力を考慮しているみたいですね。さすがに300mを超える長さで免震だとやっているみたいです。
whitefoxdot 2014.04.28 19:14 | 編集
whitefoxさん
そうなんですね。確かに東京駅は十分長いので、影響ありそうですね。情報ありがとうございます。

行雲流水さん
先に書いたトリファナックの論文を以下に示します。タイトルの通り応答スペクトルがメインで、時刻歴ではないですが、multiple excitationsを扱っています。

ただ、建築建物というのは私の記憶違いで、モデルは長い建物も含んではいますが、それだけではなくて、ロングスパンの橋、ダム、トンネルなども想定しているようです。

M.D. Trifunac, M.I.Todorovska: Response spectra for differential motion of columns, Earthquake Engineering and Structrual Dyanamics, vol. 26. 1997

M.D. Trifunac, V. Gicev : Response spectra for differential motion of columns paper II: Out-of-plane response, Soil Dynamics and Earthquake Engineering 26, 2006
神田霞dot 2014.04.29 00:52 | 編集
各種情報どうもありがとうございます。

>日本よりもアメリカの方が繊細度が高いように思います。

なるほど。。。
日本の建築について言うならば、法令告示などで設計手法がガチガチに縛られてしまっている分、仕様規定的なことさえ満足すればよいという思考に設計者がなってしまっているからですかね。


>東京駅の保存・復原資料を読んでいると、ちゃんと位相差入力を考慮しているみたいですね。

なるほど、駅舎の設計ですか。
JRなら鉄道総研もあるし、地震動入力の検討については詳しそうですね。
行雲流水dot 2014.04.29 12:43 | 編集
>日本よりもアメリカの方が繊細度が高いように思います。
日本の場合、設計用水平力が大きいからそこで断面が決まっちゃうからのような気がします。その他もろもろは余力の範囲内になるというのが実務設計でよくあることかと。
ヨーロッパの基準ではPΔ効果考慮すべしと書いてあった気がしますが、これも水平力が小さいことが理由として挙げられていますし。
whitefoxdot 2014.04.29 16:30 | 編集
G.W.でネットからしばらく離れた生活をしていました。。。

>仕様規定的なことさえ満足すればよいという思考に設計者がなってしまっているからですかね。

具体例を、追々このブログの記事でも取り上げてみたいと思います。日米で差異がある理由が何なのか私自身よく分かっていないものもあるので、記事にする過程で何か分かるかもしれません。

>日本の場合、設計用水平力が大きいからそこで断面が決まっちゃうからのような気がします。

確かにそういった要因は大きいと思います。アメリカやヨーロッパは、耐震コードもあれば、そうでないものもありますからね。

でも、そのような範疇に入らない繊細さもあるように思っているので、上記同様このブログの記事で取り上げられれば、と思います。Pデルタも興味深いテーマですね。
神田霞dot 2014.05.03 23:57 | 編集
たまたま見ましたので、コメントします。Anilの教科書はあっています。微分方程式の代表的な例題です。2階の常微分方程式ですので、2つの未定定数を求めるのに必要なのは、2つの初期条件で十分です。ご指摘の箇所の2行あとに、微分方程式の解(5.5.1)が載っている通りです。初期加速度はこの変位解を2階微分すれば、ご指摘の値が得られます。これ例題の場合は、初期変位と初期加速度が初期条件として与えられ、初期加速度は、初期条件を与えて得られる解と理解できます。ただし、暗黙にそのような状況を初期条件として設定しているんだと考えることも重要ですね。
ぼっちゃんdot 2014.07.13 19:24 | 編集
コメントありがとうございます。

ぼっちゃんさんの書かれていることは、全くその通りだと思います。ただ、問題は(5.5.1)式の後に載っているFigure 5.5.1のグラフの方なのです。そして、問題となるのは力学(数学?)というより計算処理(広い意味でプログラミング)と言った方がいいかもしれません。

Figure 5.5.1の中の、例えば "Wilson" となっているものは、t=0で加速度も指定するタイプですが、a = -k/m とせずに a = 0 をプログラムに入力して計算すると、Figure 5.5.1とぴったり合います。a = -k/m とすると、目で見ても違いが分かるグラフになります。つまり、(5.5.1)式だけを見て、a が書かれてないのでゼロとして処理しているようなのです。

なお、この件は実際上問題になるようなことだとは思っていません。この節(5.5.2 Computational Error)の目的の一つは、Δtが大きく取ってあることからも分かるように、高次モードでの数値減衰の効果を見ることにあると思いますが、その意味で初期条件は結果に大きな影響を与えないからです。

少し別の話になりますが、常微分方程式の解法といえば、Runge-KuttaやRunge-Kutta-Gillなんかも、本に書いてある式をそのままプログラミングすれば済むといったものではないですよね(私は4次以外は作ったこと無いので、4次での話ですが)。

どちらもプログラミングの際にちょっと工夫が必要ですが、その辺は公式だけ見ていてもなかなか汲み取るのが難しいかと思われます。Runge-Kutta-Gillについては、伊理正夫氏の本だっだと思いますが、「手法の真意を損ねて間違ったことを書いている文献が多い」と注意を促すようなことが書かれていたと記憶しています。
神田霞dot 2014.07.13 23:59 | 編集
前のコメントの補足と訂正です。

前のコメントで "つまり、(5.5.1)式だけを見て" は、正しくは"つまり、初期条件の式だけを見て" でした。(5.5.1)式は変位解の式でした。

また、伊理正夫氏の本と書きましたが、本ではなくて雑誌内の記事(伊理正夫、松谷泰行:Runge-Kutta-Gill法について、「情報処理」 Vol.8 No. 2、1967年3月)でした。力学や数学の式を数値計算に適用する時には注意が必要となる例として書きましたが、いきなりRunge-Kuttaを持ちだすのは適当ではなかったかもしれません。

本件では、単振動の一般解の積分定数を決めるという観点からは、チョプラの本に示される初期条件の式で十分です。力学や数学では、この式から(5.5.1)の変位解などを求めれば問題は解決ということになります。しかし、この節のタイトルに "computational" と付いているように、数値計算(数値積分)で応答を求めることが前提としてあり、それぞれの積分法の誤差について確認することがこの節の主内容の一つになっています。(5.5.1)式を使えば、誤差の無い変位時刻歴応答のグラフが描けますが、もちろんそれは意味のないことです。

積分法によっては、t=0での加速度を指定する必要があるものがあります。Wilsonのθ法もそうです。t=0での加速度がいくらであるかは力学の問題ですが、これについて考える必要が出てくるのは数値計算で問題を解く(前回はプログラミングと書きましたが)ことが前提になっている訳です。

神田霞dot 2014.07.14 22:45 | 編集
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