2014
07.07

高層ビルは現代の五重塔か?(柔構造の問題)

Category: 構造設計
飛行機に乗っていて気流の悪いところを通ると、飛行機がかなり激しく揺れることがある。この時決まって流されるアナウンスが「揺れても飛行には支障ありませんのでご安心ください」というものだ。その通りだろうとは思うのだが、あまり気持ちの良いものではない。できれば揺れることなく目的地に到着して欲しいものだ。

末広恭二はアメリカ講演の中で、アメリカの摩天楼が地盤との関係から見て必要以上に柔構造となっていることに疑問を投げかけているが、柔構造建築では、たとえ安全性に問題は無いとしても、「人がそれを使用する」という理由から大きな問題が生じることがある。ちょうど上の飛行機のような話が建築にもあるのである。

ちょうどよい例が、EERI Oral History Series の Michel V. Pregnoff へのインタビュー記事内の "Limiting Deflection and Drift to Reduce Damage" という節に出ていたので以下にそれを示したい(拙訳)。Prgnoff は、ACI(米国コンクリート学会)委員会の委員長も務めた実務経験豊富なエンジニアである。

「これまでの経験から、私もボブ・マシュー(Bob Mathew)も建築基準(building code)の要求は必要最低限のものに過ぎないと確信している。あらゆる条件を基準で汲み取ることはできないのだし、地震時に揺れる建物について検討する際には、全ての隔壁にひび割れが起きるほどの層間変形を出したくない。1930年から1935年の頃は、層間変形の計算すらしないのがその当時のエンジニアの大勢であった。」

「要するに、我々が建物を設計する時には、層間変形を制限するように設計したのだ。それが何を意味するかというと、部材中の応力が、強度だけを考える設計基準で許される応力よりも極めて小さくなるということだ。それは我々が設計する構造物が建築基準に比べて多少過剰に設計されることを意味する。というのも、設計を支配するのは基準の強度規定ではなく、むしろ変形規定だからだ。」

「基準の水平力で建物を設計すれば、あるサイズの柱、あるサイズのはりが得られるが、そのようにしてビルを建てると、あまりに大きくたわむので、ビル内の業務に悪影響を及ぼす。これは固定費(structural costs)よりも高くつく。固定費は全コストの20から25パーセントに過ぎないが、ビルを改修する費用は、元のコストの50パーセントに及ぶかもしれない。さらに、転出を余儀なくされたテナントを失うことになる。」

Pregnoff によると、1960年頃(このインタビュー時から25年前)の設計コードには変形の規定が無かったそうである。基規準に従うだけの設計が安上がりではなく、逆に高くついてしまうこともあるのである。

高層ビルの耐震性について語る時、五重塔が引き合いに出されることがよくある。これは一面的には正しいのだろうが、Pregnoff の話からも分かるように、実際のビルはそんなに簡単にいくわけではない。五重塔には人は住まないが、高層ビルや高層マンションでは、そこで働く人、そこに住む人の快適性も考えなくてはならないのだ。

この"五重塔の誤解"は、建築史家の藤森照信氏の講演で聞いた話である。藤森氏は武藤清から実際に何度か話を伺ったことがあるそうだが、武藤清は霞が関ビルの設計にあたって五重塔を参考にしたなどとは決して言っていないそうである。そもそも、五重塔が何故地震に強いかについては今でもはっきりしてない。

武藤清は霞が関ビルが倒壊するようなことを心配していたのではなく、風などによる小さな揺れによって、ビル内で仕事をしている人に"船酔い"が起きないか(藤森氏の表現によると「女子事務員がゲーゲーしないか」)を大変気にしていたそうである(当時そのようなデータが十分になかった)。

藤森氏は、真島健三郎の柔構造にはこの居住性の観点が欠けていたのではないかとして、真島健三郎が設計にかかわったのではないかと言われる針尾無線塔などを挙げておられた。つまり、真島は塔とビルの根本的な違いを理解していたのか疑問であるというのだ。藤森氏のことであるから多くの資料に目を通されてのご意見だと思うが、筆者はそこまで真島健三郎について調べているわけではないので、まだそのような見解を持つには至っていない。

ちなみに、この針尾無線塔は、佐世保のみかん畑の中にある高さが135mくらいもある鉄筋コンクリート造の塔である。筆者は残念ながら実物を見たことは無い。(近くまで行ったことはあるのだが、その時はこの塔のことを知らなかったのでみすみす通り過ぎてしまった。かえすがえす残念。。)

写真を見ると、オベリスクを髣髴とさせるような、なかなかの景観を作り出している。驚かされるのはその施工状態の良さである。1920年頃に作られたにも拘わらず、何ら不具合が見られないそうである(写真で見ても表面はとてもきれいに見える)。千葉県の内房線にある山生(やもめ)橋梁もそうであるが、鉄筋コンクリートというのはまじめに作ると相当にいいものが出来るようである。

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コメント
佐世保の送信塔は見に行きました。今だと重要文化財になってしまったので、海保敷地内は案内してくれるみたいですね。
柔構造の件は居住性というよりも、当時超高層建築をだれも考えてこなかっただけかと思っています。当時の建築構造設計の分野で100m強の高さは研究範囲外であり、仕方のないことですけど。
whitefoxdot 2014.07.08 15:25 | 編集
実物を見たことがあるとはうらやましい限りです!コンクリートはやはりキレイなのでしょうか?実際に見て何か気付かれたことなどがあったら教えてください。

今度佐世保近辺に行くことがあれば、必ず見に行きたいと思っています。
神田霞dot 2014.07.08 23:16 | 編集
実質的な強度などは知りませんが、ひび割れやかぶりコンクリートの剥落なども見られず良い状態に見えました。ちゃんと作ってあると思います。
佐世保近辺で行くと、弓張岳展望台のRCシェルも良かったです。小ぶりなのですが、国内でRCシェルを見る機会はほとんどないので。
whitefoxdot 2014.07.11 07:27 | 編集
情報ありがとうございます。

弓張岳展望台のRCシェルは知りませんでした。後で調べてみます。

最初の書き込みに"超高層"と書かれているので気付いたのですが、この記事のタイトルは、高層ビルとするよりは超高層ビルとするほうが適当かもしれないですね。
神田霞dot 2014.07.11 23:54 | 編集
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