2014
07.23

耐震目的のリーニングカラム?(丸ビルの「耐震シャフト」)

Category: 耐震工学
関東大震災やその後起こった柔剛論争の資料に目を通していると、必ずといっていいほど「丸ビル」についての記述が登場する。東福寺正雄の論文もそうであるし、末広恭二のアメリカ講演の記事(3つめの講演)にも写真入りでこのビルのことが出ている。が、今回話題にするのは、この丸ビルではなくて、このビルを取り壊した場所に建てられた「新しい丸ビル」の方である。

特に興味も無かったこの新しい丸ビルについての"専門資料"を読むことになったのは、古い方の丸ビル(旧丸ビル)について調べていたのがきっかけである。旧丸ビルの解体時の調査結果が、稲田達夫、小川一郎両氏によって報告されているのだが、両氏は新しい丸ビルについての記事も幾つか書かれている(そもそもこちらの方がメインなのだろうが)。

新しい丸ビルが竣工したのは、もう10年以上も前の2002年である。当時、テレビのニュースでも取り上げられていたと記憶している。東京駅のすぐ近くにある地上高さが180mほどの超高層ビルで、筆者も数年前に実際に訪れたことがある。その時は、専門的な観点からこのビルを見た訳ではないので、特に目を引かれるものは無かった。低層部分が旧丸ビルの外観に似せて作られているということにも気付かなかったほどだ。

このビルの構造の特徴は、「耐震シャフト」と呼ばれるちょっと特殊な制震装置が4つ組込まれていることだ。エレベーターシャフトというと、エレベーターが通る筒状の空間のことだが、耐震シャフトも一階から最上階まで、各階の床を貫く細長い空間を有している。

耐震シャフトの平面的なサイズは約3m四方なので、一般的なエレベーターシャフトより若干大きい。4つしかないので一階あたりの床面積に占める割合は小さいと言える。そして、この細長い空間の中心にビル高さとほぼ同じ長さの柱が通っているのである。この柱と各階床はエネルギー吸収材(極低降伏点鋼材)で繋がっていて、柱の上端、下端は共にピンになっている。つまり、前回書いたリーニングカラムによく似ているのである。

この柱が通っているおかげで、地震時に特定の層だけに大きな力が掛かることが避けられる。面白いのは、本来耐震目的ではない(水平地震力を負担しない)リーニングカラムに似ていながら耐震上重要な役割を演じるところである(シャフトは柱の様な棒状のものを意味する時もあるが、耐震シャフトは柱を指しているのではなくて、柱も含めた細長い筒状の装置全体を指しているようである)。

但し、稲田、小川両氏の資料にはリーニングカラムの"リ"の字も出てこないので、特にリーニングカラムからこのような柱を思いついた訳ではないようだ。初めは、間柱形式の制震装置を各階別々に配置するつもりだったそうだが、スペース的にも将来必要になるかもしれない変更への対応上からも不十分だったので、これらの要求を満たす制震装置として耐震シャフトが考案されたそうだ。

先日、五重塔と霞が関ビルの様な超高層ビルを簡単には比較できないと書いたが、耐震シャフトは五重塔の心柱をヒントにして考案されたそうである。「心柱をヒントに」の点は、筆者にはしっくりこないのだが、なにせ設計者自身がそう仰っているので間違いない。谷村康行著「五重塔の科学」という本に小川一郎氏が丸ビルについて語った以下のような言葉が載っている。

「五重塔がなぜ地震に強いかについてはっきりしたことはわからないとはいえ、有力な説として閂説がありました。大きな揺れになろうとするところを心柱が干渉して力を分散させる作用です。私たちはこの効果をビルの中に取り込めないかと考えました」

よく知られているように、Eディフェンスで行われた五重塔の模型実験では、この心柱閂節に有利な結果は得られていない。心柱には地面から浮いているものやそうでないものもあり、塔本体との接続の仕方も一通りではないようだが、耐震シャフトの通し柱とビル本体の関係は、これらの"境界条件"を模擬しようとしているようには見えない。。。しっくりしない理由をあげるとこんなことになろうか。

Geschwindnerによると、リーニングカラムは鋼構造骨組の出始めの頃から既に使われていたそうで、その歴史は古い。耐震を意図したリーニングカラム(のようなもの)も調べてみると、かなり古くからアイデアはあったようである。それは構造物の他の部分よりも剛性を大幅に大きくした柱として提案されていて、配力柱(spreader columns)と呼ばれる(これについては、秋山宏、高橋誠両氏の文献を参照されたい)。このヒントになったのは、ピン支持と見なせる連層耐震壁のようである(勅使川原正臣、岡田恒男両氏の論文など)。

リーニングカラムは主に鋼構造で出てくる構造要素だが、こちらはRC造の層崩壊への対応という流れから出てきているようだ。また、耐震シャフトは高剛性というよりエネルギー吸収材に特徴があるので、配力柱とも着目点が少し異なると言えそうである。


参考文献

稲田達夫、小川一郎、金井宏之:性能型構造設計に関する考察(丸ビルの耐震設計方針)、日本建築学会技術報告集、第6号、1998年
稲田達夫、小川一郎:「新しい丸ビル」の耐震設計、JSSC会誌 No. 43、2002年
秋山宏、高橋誠:損傷分散型多層骨組のDs値、日本建築学会論文報告集、第341号、1984.
勅使川原正臣、岡田恒男:鉄筋コンクリート造建物における連層耐震壁の効果(その3. 2層建物モデル実験による連層耐震壁の地震時負担せん断力)、日本建築学会大会学術講演梗概集、1983.
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コメント
耐震目的のピン柱とはちょっと違いますが、その昔ロッキングカラムを用いた免震装置の研究にちょっとだけ関わりました。コストの問題でお蔵入りになりましたが・・・・。
本エントリの趣旨からすると、大林組のデュアル・フレーム・システムがちょっと似てますね。
whitefoxdot 2014.07.24 20:40 | 編集
似ていながら着目点がちょっと違うものが結構あるようで面白いですね。配力柱は、剛体でピン支持となっているところが力学的に分かりやすいかな、と思います。
神田霞dot 2014.07.25 22:58 | 編集
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