2014
09.07

震度0.1にまつわる話(2)(佐野利器の家屋耐震構造論)

Category: 地震工学史
前回からの続き。

いくつかの文献、資料に当たってみたところ、震度0.1の背景となった事柄と見なされているのは、大体以下の3つのようである。

1. 佐野利器の「家屋耐震構造論」で東京下町の"予期震度"として0.3が提案されていた
2. 関東地震時の東京下町の水平震度が0.3位と推定された
3. 関東地震を耐えた内藤多仲による設計の日本興業銀行が震度1/15で設計されていた

これらに関する年表(のようなものを)書くと以下のようになる。

1914年     家屋耐震構造論 上編
1923年9月   関東地震
1924年6月   市街地建築物法施行規則に震度0.1
1925年3月   震災予防調査報告 第百号 甲
1931年11,12月 末広恭二のアメリカ講演

佐野の家屋耐震構造論については、学位論文として提出された年と思われるものを書いている。1915年としてある文献もあるので、上編、下編と年を跨いで提出されたのであろうか?この点はちょっと調査不足ではっきりしない。はっきりしているのは、同じものが「震災予防調査報告 第八十三号 甲」として1916年に出版されていることである。筆者が目を通したのは、この震災予防調査報告である。

「市街地建築物法に震度0.1」も文献によって1923年12月としているものと1924年6月としているものとがある。ちょうど6ヶ月のずれなので、公布と施行の違いなのかもしれない。これもはっきりと書かれたものを確認していないので、あくまで推測である。ここでは後者を採用している。

関東地震の被害状況や東京下町の水平震度については、「震災予防調査報告 第百号 甲」に詳しく書かれている。執筆者は今村明恒である。これは後で取り上げるとして、まずは家屋耐震構造論について見てみよう。

震度については、上編の一番初め「第一章 緒論」の「第一節 震度」で定義されている。佐野は後年(1927年)「耐震構造上の諸説」という講演で、末広恭二や物部長穂の理論が地震を調和地動と仮定している点を批判して「地震動は不規則のままこれを扱うこと(が必要である)」と述べているのであるが、この時点ではまだ"伝統"に従って調和地動を採用している。以下はその部分(原文はカナ文であり、句点と読点の区別も現代の用法とは違っているので、その辺は適当に変更している)。

「地震動の一部は工学的考究に際してはこれを単一弦運動の一部と考うるを得ること先人の説く所なり。即ち地震動のある時刻の加速度はその点がその時刻に単一弦運動のものにありとして求められ得べし。」

震度という言葉は、大森房吉の「絶対震度階」を参考にして付けられたようである。以下はその部分。

「大森理学博士は水平方向の最大加速度(主として災害の直因をなすもの)300 mm/sec^2 より 4000 mm/sec^2 の間を七階に分かちていわゆる絶対震度階を作られたり。余の震度と名くるものは加速度(殊に最大加速度)の一つの変形なり。即ち地震動の最大加速度(a)と重力の加速度(g)との比(a/g)にして常に k 又は k1 を以てこれを表さんとす。」

上記の k は水平震度、k1 は鉛直震度(原文は垂直震度)に対応する。この命名によって、現在でも二つの震度(一方は震度階と呼ぶべきもの)という言葉が存在する紛らわしい状況が生まれてしまった。これについては、大崎順彦著「地震と建築」を読んだことがある人ならご存知だろう。

筆者は「地震と建築」の教えを忠実に守って、震度、震度階と異なる言葉を使うようにしている口だが、気象庁からして震度階とは言わずに"(計測)震度"などと言って発表しているくらいであるから、世の中では少数派のようである。同じ言葉を使っていても大抵は文脈から判断できるが、すぐにはどちらを指しているか分かりにくいような場合もままある。

上で予期震度という言葉をすでに使ってしまっているが、家屋耐震構造論でこの言葉は以下のように定義されている。

「ある地域に将来起こり得べしと予期せらるべき震度を名付けてその地の予期震度と呼ばんと欲す。」

そしてこの後に、上記の1にあたる内容が書かれている。

「予期震度はその土地の事情に応ずべく、これを定むることは主として地震学者と地質学者とを煩わすにあらざれば能わず。然れども少なくもその地もしくは付近の似よりたる地の既往における最大震度以上を予期すべきを至当となすべし。」

「即ち例えば東京の本所、深川等においては安政の地震に鑑みて少なくも0.3の水平震度を予期すべく、山の手硬質の地においても0.15以上を予期すべきが如し。」

関東地震の際には、山の手では震度0.1であったというのが一般的な見解である。末広恭二はこれに異議を唱えて、0.15という値を出している。偶然なのだろうが、家屋耐震構造論では0.15という値が予想されていたことになる。

ところで、この予期震度には、重要度係数といった意味も含まれていることがこの後に書かれている。

「家屋を造営するにあたり、その地の予期震度は家屋の大切さに応じて増減せられ得べし。」

現代的な感覚からすると、一つの係数に複数の意味を込めてしまうことに違和感を感じてしまうのは仕方のないことか。。。

家屋耐震構造論では、さらに地震による木造家屋の被害と震度との関係を、大森房吉らの調査結果を引用して論じている部分があるのだが、これについてはさらにずっと後で取り上げることにしたい。

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