2014
09.26

震度0.1にまつわる話(4)(今村明恒の「関東大地震調査報告」)

Category: 地震工学史
先日は「震度談」を取り上げて、今村明恒が(図らずも?)震度0.1の規定にゴーサインを出したことについて書いた。今村による「関東大地震調査報告」が載っている「震災予防調査会報告 第百号 甲」が出版されたのは、震度0.1の会議よりも後の1925年3月31日である。

震度0.1の会議の頃の今村は、ちょうど関東地震の調査を行ったり調査結果を纏めたりしていた最中であったろう。その調査内容を佐野利器が既に知っていのかどうかははっきりしないが、少なくとも会議での今村の下した決定には影響したと思われる。

そういう意味でも「関東大地震調査報告」は重要である。以下ではこの報告書を辿りながら、関東地震時の水平震度がどのように推定されたかを見てみることにする。

以下はその目次である。原文は旧漢字でカナ文なので、読み易いように適当に変更してある。例えば、原文は"津浪"、"震原"となっているのを、現代風に"津波"、"震源"と書いている、など。

緒言
第一章 地震動観測
      第一款 本郷地震学教室における観測
      第二款 各観測所における観測
第二章 海陸における影響
      第一款 被害統計と震度分布
      第二款 地変
      第三款 津波
第三章 震源、震源地、地震帯
第四章 副原因と徴候
第五章 余震

報告書は、インデントやフォントなどが工夫されていない上、縦書きで書かれているので読み易いものではない。だが読んでみると、(被害報告を面白いというのは不謹慎と怒られそうだが)これが結構面白い。それは今村明恒の主観を交えた意見が随所に織り込まれているからだと思う。

今回は東京の山の手(本郷)の震度に関する部分に絞って取り上げてみたい。というのも東京の下町などの他の場所の震度は、本郷の震度を基準に議論されているからである。山の手の震度についての記述があるのは、第一章、第一款「本郷地震学教室における観測」である。

これを読み進めていくと、ぱっと見分かりにくいが、さらに細かい節に分かれている。それを目次風に書くと以下のようになる。

第一款 本郷地震学教室における観測
      体験
      器械観測
      二倍地震計
      地震記象(第一図参照)
        (イ)発震時刻
        (ロ)初動
        (ハ)初期微動
        (ニ)主要部
        (ホ)終期部

「体験」は以下のような書き出しで始まる。

「自分は大震の起こった当時、帝国大学地震学教室内に著席しておった。最初はやや緩慢な微動をもって始まったので自分はそう大きな地震とも思わず、例の通り暗算によっての初期微動継続時間を勘定し始め、兼ねて大震動の方向に注意しつつ経過していくと、震動が次第に増大し、三四秒の後にはそのかなりに強い地震であることに気がついた。」

今村が地震の際には常に初期微動継続時間を計る習慣があったというのはどこかで読んだ記憶がある。

本郷の震度はこの地震学教室の地震計の記録を元に決められた。その部分は、「地震記象」の「(ニ)主要部」(p.27の後半)に書かれている。

「記象において見られる通り南北動は最も著しく、図においてaなる位相から始まり、bcdefを経てgに至り、遂に描針が外れてしまった。(中略)そうして最後の地動たるfgは全振幅8.86センチメートル、全周期1.35秒となるからこの部分を単弦運動と仮定するとき、振動の加速度は毎秒毎秒97センチメートルとなり重力の加速度の約十分の一となる勘定で、これが恐らく我が地震学教室における地震動の最大加速度に相当するものであろう。」

a, b, c などの記号は、地震計に記録された曲線の山や谷の部分に判別用に後から手で書き加えられたものである。この記録は有名なので、一度は目にしたことのある人も多いのではなかろうか。たとえば、今筆者の手許にある山中浩明編著「地震の揺れを科学する」という本の表紙にもこの記録図が描かれている。

この文からも分かるように、単振動を仮定して変位記録から加速度を求めているのである。ちょっと式に書いてみよう。変位を y として、

y = A sin(ωt)
dy/dt = Aω cos(ωt)
d(dy/dt)/dt = -Aω^2 sin(ωt)

ここに、tは時間、Aは変位の片振幅、ω = 2π/T、Tは周期である。これより、加速度の片振幅はAω^2となる。

上記の値をそのまま代入して、結果をそのまま書くと、

Aω^2 = (8.86/2)*(2π/1.35)^2 = 95.96125...

となり、96 cm/sec/secが求まる。僅かだが、"毎秒毎秒97センチメートル"とは異なる。

この加速度値の計算の下りは、末広恭二のアメリカでの講演で引用されているし、棚橋諒の論文でも引用されている。だが、両者の引用の仕方にはちょっとした違いがあって面白い。これ(および96と97cm/sec/secの差異)については後日。

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