2014
09.28

震度0.1にまつわる話(5)(末広恭二と棚橋諒による調査報告の引用)

Category: 地震工学史
今回は"震度0.1"というよりは、それに絡めたどうでもよい数値の話である。どうでもよすぎるくらいの内容だが、ひょっとしたら、初めて研究論文を書くことになった大学4年生位の人には参考になる内容かもしれない。

末広恭二のアメリカ講演(2番目の講演)の第II節のタイトルは、"Inetinsity of the Destructive 1923 Earthquake"である。この節で末広は関東地震の際の揺れの強さに関する独自の考察を示しているのだが、これは当時としては空前絶後の大災害についての報告であるから、アメリカ側としても興味惹かれる内容であったろう。

この中で今村明恒による「関東大地震調査報告」の「本郷地震学教室における観測」に示される地震計と地震記録が紹介されている。前回書いた"本郷の震度0.1"の部分を再掲すると、

「記象において見られる通り南北動は最も著しく、図においてaなる位相から始まり、bcdefを経てgに至り、遂に描針が外れてしまった。(中略)そうして最後の地動たるfgは全振幅8.86センチメートル、全周期1.35秒となるからこの部分を単弦運動と仮定するとき、振動の加速度は毎秒毎秒97センチメートルとなり重力の加速度の約十分の一となる勘定で、これが恐らく我が地震学教室における地震動の最大加速度に相当するものであろう。」

末広の主張は、このブログでも何度も書いているが、変位を記録するタイプの地震計は激しい地震の記録を採るのには不向きで、工学者に有意な情報が得られない、というものである。末広は、工学的に望ましい地震計の特性を具体的に14項目も列挙している。本郷地震学教室の地震計はその特性を満たさない。だからそんな地震計から計算した加速度値はあてにならない。そういう文脈の中で今村の調査結果が引用されている。

その部分を以下に示す。

"However, Professor Imamura, after a careful examination of this record, concluded that at the begining of the principal motions(marked fg in Fig.28), the full amplitude was about 9 cm. and the period about 1.3 sec., for which the computed acceleration proves to be about one-tenth of the acceleration due to gravity."

8.86cmが9cmに、1.35秒が1.3秒になっているのは、地震相手に"意味のある数字"はこれくらいと末広は見なしていたことが伺える。これは何となく筆者にも納得がいく。

前回も書いたように、同じ記述を棚橋諒も引用していて、それは1935年に建築雑誌に投稿された「地震の破壊力と建築物の耐震力に關する私見」という論文の中でである。その部分を以下に示そう。

「関東大地震における、本郷の最大加速度 970 mm/sec/sec 即ち震度0.1と算出したのは、全振幅 88.6mm 周期1.35秒なる振動を単弦振動と考えて得た数値である。」

今村の記述をそのまま引用しているように見えるが、加速度が何故かmm/sec/secにまで"広げ"られている。どうでもいいが、ちょっと気になる。棚橋はそこまで意味があると見なしていたのだろうか?あるいは単に変位がmmだからそれに合わせたのだろうか?

前回も書いたように、ちゃんと計算すると96cm/sec/secが得られる。仮にmmまで取るとしても、それは計算をして一桁目を決めないといけないが、計算をやってみたのなら970は出てこないはずだ。まさか 97cm と 970mmをイコールと考えたのだろうか?これも地震が相手だから、ある意味数値の扱いはぞんざいでもいいということなのかもしれない。。。

冒頭にも書いたように、これは"重箱の隅"以外の何物でもないことを注意しておきたい。この論文は柔剛論争に割って入った大変有名な論文で、エネルギーに立脚して耐震性を論じるという"視点の転換"をもたらした歴史に残る論文といってもいいものである。

だが、数値の扱いは粗雑でないに越したことはない。たまに学会の学生の発表などで、ものすごい桁数の数字をそのまま載せているものを目にすることがある。計算の検証という意味では、下位の桁に注意を払う必要もあるだろうが、特に解析から設計までも含めて考えるのなら、建築は精密機械ではないのだから、数値の意味合いにもちょっと気を配ることも大事ではないだろうか。

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