2014
11.02

P-ΔとP-δ

Category: 鋼構造
建築学用語辞典には、Pデルタ効果について以下のような説明が与えられている。

P-Δ効果(ピ-デルタこうか、P-Δ effect) : 構造物あるいは柱部材の水平変形が大きくなるに伴い、鉛直荷重が構造物あるいは柱を転倒させようとする効果。

これに対し、アメリカの鋼構造協会から出ている AISC 360 では、以下のように二つのPデルタが定義されている(AISC 360-10のGlossaryを参照)。

P-δ 効果 : ジョイントまたは節点の間の部材のたわみ形状に影響を与える荷重効果

P-Δ 効果 : 構造物内のジョイントまたは節点の位置の移動に影響を与える荷重効果。層状の建築構造物では、床と屋根の位置の水平移動に伴う荷重効果である。

これらは主に安定設計(Design for Stability)の議論で出てくる概念である。建物全体の転倒というよりは、特定層に着目した柱の相関式で考慮されている。

原文は以下。

P-δ effect : Effect of loads acting on the deflected shape of a member between joints or nodes.

P-Δ effect : Effect of loads acting on the displaced location of joints or nodes in a structure. In tiered building structures, this is the effect of loads acting on the laterally displaced location of floors and roofs.

文中の act on であるが、Oxford Learner's Dictionaries で act on something を調べてみると、"to have an effect on something" と "to take action as a result of advice, information, etc" の二つの意味が示されている。

後者の説明文の状況にはそぐわないかも知れないが、こちらのニュアンスに従えば、"たわみ形状に起因する荷重効果" と訳してもよいように思える。

一つの柱部材を例にとれば、P-δ は部材両端を結んだ軸線からのたわみに伴う付加曲げであり、P-Δ は柱の部材角に対応する水平変位に伴う付加曲げであると言い換えてもいいかもしれない。

呼び方はそれぞれ、P small delta、P large delta である。Small P delta、Large P delta と呼ぶ人もいる。また、P little delta、P big delta と書かれている文献もある。学校の英語の授業でなら、small と little を混同して使えばお叱りを受けそうだが、ネイティブ特有の崩し方であろうか?

この二つの定義はあくまで AISC 360 のものである。これと同様の定義を与えている設計コードもあれば、そうでないコードもある。日本では、普通Pデルタと言えば、P large delta の方を指すだろう。記号のΔとδの違いも意識されない場合が多い。

但し、日本の鋼構造座屈設計指針では、AISC 360 と同様に P-Δ と P-δ の両方を考慮して議論がされている(5.1 柱材の弾塑性挙動、8.4 骨組の安定性に対する設計)。そこでは、座屈たわみ角法などを用いてこれらの効果が検討されている。

同じ AISC でも耐震コードである AISC 341 では、P-δ の方は出てこない。P-Δ の方も commentary(Part I, C3 GENERAL SEISMIC DESIGN REQUIREMENTS)で触れられている程度であるから、あまり重要なものとして扱っていない印象を受ける。耐震設計だと柱は stocky なものとなるから、そもそもそんなに変形は出ないとの考えであろうか?

IBC(International Building Code)コードでも、P-Δ のみで P-δ の方は出てこない。2000年版だと、"1617.4.6 Drift determination and P-delta effects." で議論されている。IBC での定義を原文だけ示すと以下の通り。

P-DELTA EFFECT : The second order effect on shears, axial forces and moments of frame members induced by axial loads on a laterally displaced building frame.

アメリカでは、ASCE から出ている荷重指針である ASCE 7 の規定を AISC 360 と組合わせて耐震設計を行うことも多いようだ。この ASCE 7 でもPデルタの検討が出てくる(12.8.7 P-Delta Effects)のだが、両者は異なる規定を与えたりしていて混乱させられる。

これについては、エンジニアや研究者から質問が多かったのか、指針となるドキュメントを AISC 委員が執筆しているので、後日それを取上げてみたい。

参考文献

1. ANSI/AISC 360-10 Specification for Structural Steel Buildings
2. ANSI/AISC 341-05 Seismic Provisions for Structural Steel Buildings, Including Supplement No. 1
3. International Building Code, 2000.
4. ASCE/SEI 7-10 Minimum Design Loads for Buildings and Other Structures
5. 日本建築学会 : 鋼構造座屈設計指針、1996

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コメント
京大の井上一朗先生の「建築鋼構造の理論と設計」ではPΔとPδを明快に分けて説明されていました。
が、層ごとの影響係数とかの解説はちゃんとしていなくて、あくまで個別の部材ベースの話に終始していたのが設計に使えない所以かと。
毎度適合性判定で保有耐力を1/75で決めると、判で押したようにPΔ効果云々を聞かれるのが面倒なので、エライ先生が影響係数を含めて層におけるPΔ付加応力についてちゃんと論文で発表して欲しい今日この頃です。
whitefoxdot 2014.11.02 21:50 | 編集
「建築鋼構造の理論と設計」は私も持っているのですが、かなり前に読んで以来、最近は目を通していませんでした。確かに出ていましたね。ただ、用語説明部分の引用文献は鋼構造座屈設計指針になってますね。

ブログの本文にも書きましたが、アメリカなどでは設計コードによって内容は異なりますが、日本と違ってP-Δ考慮の規定がはっきりと書かれています。

例えば、ASCE 7だとstability coefficientという係数がこれこれ以下なら当該層のP-Δは考慮不要といったふうに規定されます。Eurocode 8では同じ係数をinterstorey drift sensitivity coefficientと呼んでいます。日本では、これに似たものとして山崎真司氏が「安定比」というものを定義してP-Δ効果を議論した文献がありますね。
神田霞dot 2014.11.04 23:17 | 編集
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