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2015
02.06

たわみ角法誕生100(+1)周年

Category: 建築構造史
たわみ角法は、構造力学で学習する内容の中でも一、二を争うメジャーなトピックではないだろうか。少なくとも構造力学とタイトルの付いた本でたわみ角法について扱っていない本は無いと思われる。

このたわみ角法、あまり意識されることは無いかも知れないが、計算道具が今のように恵まれていない時代に骨組の計算法として利用されるだけでなく、耐震設計法のあり方にも大きな影響を与えているのである。

例えば、1926年に佐野利器が行った講演「耐震構造上の諸説」については以前本ブログでも採りあげたが、この記録の中の"II 内藤博士の功績"と題した節には、たわみ角法(slope-deflection method)について述べた以下のような部分がある。

内藤博士は所謂従来説の基礎の上に立ち、矩形架構を処理する上に、米国の Wilson 教授が提唱せられたる Slope-Deflection Method を適用し、横力に対する幾多の計算を行い略算法の研究をも加え、これを普及せしめられた。建築界に対する功績というものは蓋し偉大なるものであって、余輩深くこれを感謝するものであります。

更にその基をなしたところの Wilson 教授は実に我が建築界の恩人というべきもので、私は過般、同教授に書を送り、米国において、貴方によってまかれた種は日本において、却って美しい花が咲く旨をしたため、内藤君初め数人の論文をそえて礼状を出しましたら、誠に喜んでおる旨の返事を受けました。

と、たわみ角法の提唱者 Wilson 教授を大いに賞賛している。Wilson 教授とは、以前本ブログでもちょっと採り上げたことのある Wilber M. Wilson のことである(ちなみに筆者は、θ法のウィルソンをエド・ウィルソン、たわみ角法のウィルソンをウィル・ウィルソンと勝手に呼んで区別している)。

内藤多仲が架構の横力を計算する際に用いた方法は、横力分布係数(Distribution Coefficient)の頭文字を取って「内藤のD値法」と呼ばれる。これは内藤が1922年に著した一連の論文「架構建築耐震構造論」((一)から(六)まである)で議論されていて、横力分布係数は、この中の(三)の「第二章 剛度の異なる矩形架構間に於ける横力分布の状態」で(恐らく初めて)示されたものである。

D値法と言えば、霞が関ビルの設計にも使われた「武藤のD値法」の方が馴染みがあるかも知れない。筆者も鉄筋コンクリートの本でこちらを最初に知ったのだが、何故わざわざ「武藤の」と付いているのかというと「内藤の」ものが先にあった訳である。D値法について紹介した武藤清自身による論文(英文)には、「内藤のD値法」が先にあったことがちゃんと書かれている。

余談だが、本ブログでも度々引用している Robert Reitherman が「内藤のD値法と武藤のD値法について文献を当たってみたが、違いがよく分からなかった」とぼやいていたので、「架構建築耐震構造論」は全文が英語に翻訳されていないのかもしれない。

それはさておき、たわみ角法である。

ウィルソンがたわみ角法を最初に発表したものとして多くの文献に示されているのが、イリノイ大学の紀要内に掲載された "Wind stresses in the steel frames of office buildings" というタイトルの論文である。1915年に出版されているから、今からちょうど100年前である。

たわみ角法は、現在では欠くことのできない計算手法である有限要素法の誕生にも影響を与えたとも言えそうである(有限要素法といっても定式化は一つではないが、ここで言っているのは最も一般的な方法である、変位を未知量として扱う変位法(剛性法とも言う)のことである)。

というのも、ツィエンキーヴィッツ(O. C. Zienkiewicz)によって書かれた変位法の歴史をテーマにした小論文の中には、ちゃんとたわみ角法について触れられた部分があるのである(説明するまでもなく、ツィエンキーヴィッツといえば、世界中で読まれている有限要素法の教科書の執筆者である)。

ところで、今回の記事のタイトルを"100(+1)周年"としたのは、ウィルソンに先んじて1914年にたわみ角法と同じと言ってよい計算法がドイツ語で書かれた本に発表されているからである。

だが、不思議なことにこれについて書いてある日本語の文献がなかなか見付からない。「ラーメン」という言葉が今も残っていることからも、当時のドイツ圏の影響が少なからずあったことが伺えるのだが、なぜこちらが取り上げられていないのだろうか?次回はこの辺りについて書いてみたい。


参考文献:

  1. 佐野利器 : 耐震構造上の諸説(第八回建築学会講習会講演)、1927年

  2. 内藤多仲 : 架構建築耐震構造論、1922年

  3. W M Wilson, G A Maney : Wind stresses in the steel frames of office buildings, University of Illinois Engineering Experiment Station, Bulletin 80, June, 1915


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コメント
武藤清/二見秀雄「趣味の構造力学」内の対談の注記で、A.Bendixen(独)がSlope-deflection methodを発表したのが大正3年と記載されていますね。
whitefoxdot 2015.02.07 22:34 | 編集
武藤清の本にありましたか!!
必ずあるとは思っていましたが。。。
情報ありがとうございます。

あ、次回の記事ちょっと修正しないと。。(笑)
神田霞dot 2015.02.09 23:30 | 編集
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