2015
02.14

たわみ角法の生みの親 アクセル・ベンディクセン

Category: 建築構造史
1914年にたわみ角法といえるものがドイツ語の本に発表されたことに触れた日本語の文献を筆者はなかなか見つけられないでいたのだが、前回の記事に対して、武藤清/二見秀雄著「趣味の構造力学」という本の中に言及箇所があるというコメントを頂いた(貴重な情報に感謝!)。

さっそく教えて頂いた書籍を入手してその部分を確認してみたので、以下にそれを示そう。武藤清と二見秀雄の対談記事で「撓角撓度法・ラーメン」というタイトルが付いている部分である。進行役は藤本盛久氏。

藤本 先生方が学生の頃の構造力学の先生は誰ですか。
武藤 佐野先生でした。
二見 佐野先生の講義は大家の講義だったし、「耐震構造の論文の内容は...」という話だったから、ラーメンの細かいことはあまり出てこなかったんだな。(略)
武藤 撓角法3)そのものも未消化のままでね。

上記の上添え字3)に対応するものとして問題の記述がある(下記)。

A.Bendixen (独)が Slope-deflection method を発表したのは大正3年。

このA.Bendixen(アクセル・ベンディクセン(Axel Bendixen))こそ、ウィルソンよりも先にたわみ角法を発案したその人である。但し、彼はドイツ人ではなくてデンマーク人である。Bendixenという綴りではなく、Bendixsenと書かれている文献もある。

この対談記事はたわみ角法が日本に入ってきたばかりの状況を伝えていて大変興味深いものである。たわみ角法に纏わる面白いエピソードも語られている。もっと紹介したいところだが、これは後回しにして今回はベンディクセンについて書くことにしよう。

日本でもベンディクセンの本が紹介されていないはずはないと思っていたのだが、その理由の一つは、前回も書いたように「ラーメン」という用語が今でも残っていることである。

いま一つは、ティモシェンコの有名な材料力学史の本 "History of strength of materials" にもこの本がたわみ角法について書かれた最初のものとして紹介されていることがある。このティモシェンコの本は日本語訳も出ているので、多くの人に読まれているはずだ。

同書の "CHAPTER XIV Theory of Structures during the Period 1900-1950" の初めの方に以下のような記述がある(拙訳)。

既に見たように、二次応力の解析では剛節点の回転角を未知量とする方が都合が良い。骨組構造物の解析に回転角を体系的に導入したのは、アクセル・ベンディクセンである。彼はいわゆるたわみ角法を展開してみせた。

We have already seen(page 322) that, when analyzing secondary stresses, it is to our advantage to take the angles of rotation of rigid joints as unkonwn quantities. A systematic use of angles of rotation in analysis of frame structures was introduced by Axel Bendixen, who developed the so-called slope-deflection method.

そして上記の "Axel Bendixen"に対応する脚注に彼の本を参照せよと書かれている(下記)。

See his book "Die Methode der Alpha-Gleichungen zur Berechnung von Rahmenkonstruktionen," Berlin, 1914.

この本のタイトルには、我々に馴染みのあるラーメンという言葉が含まれている。英語なら "The method of the alpha equations for the calculation of rigid frame structures"、日本語なら「剛節骨組構造計算のためのアルファ式法」というふうに訳せようか。

アルファとは何かというとたわみ角などの角度を表わす記号である。残念ながら(?)「アルファ式法」という言葉は日本では全く広まらなかったようだ。奇妙なことに、片やラーメン、片やスロープデフレクションメソッドなのである。

ティモシェンコの本には、ベンディクセンは出てくるがウィルソンについての言及はない。一方、ツィエンキーヴィッツ(とサムエルソン)の論文には、もう少し詳しい説明が載っていて、こちらにはウィルソンのことも出てくる。それは "2.3 節点が移動する骨組(Frames with side-sway)" と題した節にある。少し長いが以下にそれを示そう(拙訳)。

主に建築構造物に見られる剛節骨組では、二次モーメントの方法はもちろん受け入れられない。20世紀初頭には様々なタイプの橋梁や高層建築において、鉄筋コンクリートが一層活用されるようになった。

そのような構造物では、曲げの効果が支配的であり、軸力だけによる節点の変位は取るに足らないものとなる。こういった問題への対処法が1915年にウィルソンとマネーによってアラバマ州にあるイリノイ大学の紀要内で提起された。ウィルソンらはその方法を 'slope deflection' method と呼んだ。これについてはマセソンの本に詳しく書かれている。

同様の方法が1914年にデンマーク人エンジニアのアクセル・ベンディクセンによってドイツ語で書かれた本の中で発表されているが、ウィルソンとマネーはこれについては知らなかったようである。

ベンディクセン、ウィルソンとマネーのいずれも、節点が移動する場合の平面骨組について検討している。ベンディクセンは、連立方程式を小さな組に分割することで計算労力を大幅に低減する方法について述べている。それでも、ベンディクセンの提案通りに方程式の全ての組を分割するなら、方程式の全ての組の解を得るには依然として多くの労力が残される。

ベンディクセンの本はあまり読まれていないようだが、1926年に Ostenfield によって採り上げられて大きな進歩を遂げた。最終的な方程式を解く実用的な手計算については殆ど配慮されないという問題は残されたままであった。


原文は以下の通り。

For rigid joined frames which occur primarily in building structures the secondary moment approach is, of course, untenable. The beginning of the 20th century saw increased use of reinforced concrete for various types of bridges and tall buildings.

In such structures bending effects dominate, with purely axial forces causing insignificant nodal displacements. A method for dealing with such problems was presented in 1915 by Wilson and Maney in a Bulletin from the University of Illinois in Urbana. They called it the 'slope deflection' method. This is fully described in the book by Matheson.

A similar method was published in 1914 in a book written in German by the Danish engineer Axel Bendixsen, of which Wilson and Maney were apparently unaware.

Both Bendixsen and Wilson and Maney considered 2D frames with side-sway. Bendixsen described a method for splitting the system of equations into small sets and thus substantially reducing the effort of computation. Nevertheless, with the splitting of the full set of equations as proposed by Bendixsen, a lot of work remained before the solution to the full set of equations could be obtained.

Bendixsen's book does not seem to have been much read, but his ideas were taken up and developed considerably by Ostenfeld in 1926. The problem still remained that very little attention had been paid to the practical hand-solution of the final set of equations.


ウィルソンらがベンディクセンの本を知っていたのかどうか、というのは気になるところである。科学の歴史を振り返ると、同じような発明や発見が同時期に全く独立になされるというのはよくあることだ。ツィエンキーヴィッツらも「知らなかったようである(apparently unaware)」と書いている。筆者も今のところ同意見だが、ひょっとすると今後類似点が見つかるかもしれない。そうなると面白いのだが。。。


参考文献

  1. Stephen P. Timoshenko : History of strength of materials

  2. A. Samuelsson and O. C. Zienkiewicz : REVIEW History of the stiffness method, INTERNATIONAL JOURNAL FOR NUMERICAL METHODS IN ENGINEERING Int. J. Numer. Meth. Engng 2006



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コメント
ウィルソンの方法については、真島健三郎が自著の中で軽くdisっているのが面白いです。これは紹介した佐野利器への感情的な何かが残っているような気がしますが。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1224882/41

『趣味の構造力学』は前半の先生方の対談もさることながら、極めてオタクな問題の数々に吹き出しましたw
whitefoxdot 2015.02.17 23:19 | 編集
真島健三郎の「地震と建築」ですね。関東地震時の旧丸ビルの被害の解釈についても、両者一歩も譲らずといった感じで結構笑えます。佐野利器「浦賀水道の後補強して剛構造となっていたおかげで関東地震を耐えることができた。」真島健三郎:「補強のブレースが切れて柔構造になったおかげで耐えることができた。」水掛け論ですね。

「趣味の構造力学」は、学生の時、構造力学を勉強していた頃に本屋でパラパラとめくってみたことがあるのですが、レベルが高すぎると感じて購入を見送り、それ以来この本からは遠ざかっていました。たしかにオタクですね。忙しいはずの大先生が(笑)。当時は構造史に興味はなかったので、対談が収録されていることすら覚えていませんでした。。。
神田霞dot 2015.02.18 23:50 | 編集
阿部美樹志の評伝を読んでいたら、Axel Bendixenのことに触れられていました。参考文献は下記。
草創期のRC研究 城 攻
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003793006
彼はウィルソンのいるイリノイ大学に同じような時期に留学していたので、この手の応用力学について案外よく知っていたかもしれません。(自身の教科書では最小仕事法で解いてますが)
ちなみに、阿部美樹志は真島健三郎の同窓生だったりで、構造工学分野の草創期はかなりつながってますね。
whitefoxdot 2015.02.19 20:48 | 編集
それに出ていましたか!!講演記録ですよね。以前読んだことあるのですが、その時はたわみ角法という観点で読んでいなかったので素通りしてしまったのだと思います。明日また読み直してみます。またまた貴重な情報をありがとうございます。

ご存知かもしれませんが、阿部美樹志はウィルソンの論文にも登場します。Wilson & Maney の論文は鉄骨造ですが、それよりも後にRCの論文(ANALYSIS OF STATICALLY INDETERMINATE STRUCTURES BY THE SLOPE DEFLECTION MIETHOD, 1918)が出ていて、そちらに阿部美樹志が出てきます。これらの論文については、鷹部屋福平の「架構新論」で知りました。彼も北海道帝国大学教授(この本での肩書き)ということで、不思議と北大関係者なんですよね。
神田霞dot 2015.02.20 00:22 | 編集
鷹部屋福平!ちょうど「構造工学の歴史」をちら読みしようとしていたところでした。アインシュタイン来日時に彼とと梁の応力を一緒に出してたとか、ほほえみエピソード程度しか知りませんでした・・・・。
ちょっとこのブログに触発されて私も一人研究始めました。意外と日本における近代構造工学の通史的なものが目につかないのです。構造屋がひたすら忙しいのが理由かと思いますけどw
whitefoxdot 2015.02.24 23:00 | 編集
鷹部屋福平のTakabeya methodは、海外での方がよく知られているようですね。以前調べた感じでは、ラーメンの解法として、ベンディクセン、ウィルソン → クロス(Hardy Cross)→ カニ(Kani)、鷹部屋というように発展していったようです。

鷹部屋福平のドイツ語の本に、なんと200層13スパンのラーメンを解いたものが出ているらしいのですが、その本はまだ入手できていません。

「架構新論」は、運よく古本屋で1700円(!)で入手できました。ゼロが一つ多くてもよいかと思う値段ですが、あまり欲しがる人がいないんですかね?私は感激しながら購入したんですが。。。

ただ、この本は土木学会の「戦前土木名著100書」に選ばれていて(阿部美樹志の本などもあります)、デジタルアーカイブから第三編までPDFで公開されています。

第二編に撓角撓度法が出ているんですが、ウィルソン一辺倒の内容です。ベンディクセンというかドイツ経由の香りがしないのは何故なんだろう、と少し解せないでいます。。。

Whitefoxさんは私よりも蔵書が多そうですし、また何か分かったら教えて貰えると幸いです。

神田霞dot 2015.02.26 00:06 | 編集
ちょっと修正です。

前回のコメントで土木学会のデジタルアーカイブから「架構新論」の一部が公開されているように書きましたが、全部公開されています。私が勘違いしてました(さっきアクセスして確認しました)。本が安く売られていたのはそのせいかも知れません。。。(唖然)
神田霞dot 2015.02.26 23:21 | 編集
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