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建築構造学事始

片持ちはりから分かること(はりが曲げ変形しやすいのは?)

今回も片持ちはりに絡めた話。。。

以前の記事でも触れたように、はりは軸変形やせん断変形に比べると曲げ変形を生じやすい。

曲げは上半分と下半分の引張と圧縮に置き換えられるし、せん断は互いに直交する引張と圧縮に等しいのだから、軸も曲げもせん断も同じようなものだと言ってもよさそうだ。なのに曲げ変形を生じやすいのである。

そのことを、はり理論に基づく片持ちはりを例に見てみよう。荷重は端部集中荷重の場合を考える。

まず準備として、ばねを引張る(または圧縮する)時の力と伸びの関係(フックの法則)の式: F = kδ を思い出すことにする。F が力、δ が伸び(または縮み)、k がばね定数である。軸、曲げ、せん断の各ケースでこの"ばね定数"に当たるものを求めてみる。

軸力と軸変形については、

Art185_eq1.jpg

なので、ばね定数は、

Art185_eq2.jpg

である。記号の意味は、ご想像の通りだろうから説明は省略する。

曲げによるたわみについては、前回の記事にも示したたわみの公式を荷重 F について解けば、

Art185_eq3.jpg

なので、ばね定数は、

Art185_eq4.jpg

である。

ベルヌーイ・オイラーのはりでは、せん断変形は出てこない。ティモシェンコはりでは、「断面は変形後も平面を保持するが、法線はもはや保持しない」といったせん断変形を考えるので、荷重 F とせん断変形との関係は、

Art185_eq5.jpg

となり、ばね定数は、

Art185_eq6.jpg

となる。AS はせん断断面積である。

以上より、軸とせん断のばね定数の分母には L があるのに対し、曲げの場合の分母には L3 があることから、はりの長さが長くなると、曲げのばね定数だけが大幅に小さくなることが見て取れる。

正方形断面の場合に、はりの長さを変えて各ばね定数の値がどのように変わるかを Excel で計算したものを以下に示す。


Art185_fig1_2.jpg

各ケースのばね定数の比を求めるのが目的なので、ヤング率 E や断面のせい( = 幅) D の値を 1 としている。

材料のポアソン比 n は、単にヤング率 E からせん断弾性係数 G を求めるために使用しているだけで、はりのたわみの計算に使用しているわけではない。n = 0.3 とでもする方が良いのかも知れないが、今はどうでもいいことなので、キリのいい数値となるようにゼロとしている。

せん断断面積 AS の値をどうするかは興味深い問題であるが、これも今はどうでもいいことなので、ここでは簡単に断面積そのものと同じとしている。

(断面のせい)/(はりの長さ): D/L を 0.1 とした場合の軸のばね定数は、曲げのばね定数の 400 倍もあるが、はりとは言い難い D/L = 1 の場合は、4 倍となって両者の値は接近してくる。さらに、D/L = 10 という非現実的なケースでは、軸のばね定数の方が曲げのばね定数の 1/25(= 0.04)になってしまうことが分かる("①/③"の行を参照)。

はりのせん断変形の影響を無視してよいかを確認したければ、せん断と曲げのばね定数を比較することになる。D/L が 0.1 の場合は、せん断のばね定数は曲げのばね定数の 200 倍もあるので、せん断変形については無視しても問題なさそうなことが分かる。D/L = 1 の場合の 2 倍という値は、はりの長さに対してせいが大きくなってくると、最早せん断変形を無視することは出来ないことを教えてくれる。


ニューマークの論文を遅読する(その2 ネーミングについての補足)

"Newmark β法"という呼び名には実は二つの定義があるのをご存知だろうか?

一つ目の定義は、1959 年の論文(文献 1)で発表された手法を Newmark 法と呼び、そのうちの γ = 1/2 のケースに限って Newmark β法と呼ぶ(γ は、数値減衰に関係するパラメータ)。文献 2 では、この定義を採用している(下記)。

Newmark により提案された Newmark 法は、time = t における加速度、速度、変位が既知であるとき、微少時間(⊿t)後の速度と変位をパラメータ γ, β を用いた次式により近似する。...

... Newmark 法はパラメータ β と γ の設定によりさまざまな直接時間積分法になるが、その例を表3に示す。解の安定性や精度もこれらパラメータにより支配される。γ = 1/2 に設定するとパラメータは β だけになるが、これは、特に Newmark β 法と呼ばれている。

上記文中の「表3」を書き写したものを以下に示す。

newmark2_fig1_3.jpg

これに対して、もう一つの定義では、γ の値が何であれ、常に Newmark β法と呼ぶ。筆者は文献 2 を早くに読んでいたこともあって、第一の定義を当然のように思っていたが、世の中はそんなに統一されていないことをその後知るに至った。先日の雑誌もそうであるが、第二の定義を採用している文献も結構あるようである。

ところで、1959 年の論文に「本手法を β 法と呼ぶ」とか、ましてや「本手法をニューマーク法と呼ぶ」なんてことは書かれていない。通常、こういった人名を冠した手法の名前は、発表後に他人によって命名されるのが普通である。ニューマーク法もそうだろうと長らく思っていたのだが、どうもそうでもないようなのである。

実は、この論文が出る 7 年も前の 1952 年のイリノイ大学紀要には、既にこの手法について一連の論文(文献 3 など)が発表されていて、その中に「ニューマークの方法(Newmark's method)」や「ニューマークの β 法(Newmark's β method)」という記述が見られるのである。

文献 3 では、他の多くの既往の手法との比較を示すという目的から Newmark's method のように自分の名前を付けた呼称としたようであり、後年対外的にこの手法を発表した後でもその呼び方がそのまま流通したようである。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.

  2. 日本機械学会:計算力学ハンドブック(I 有限要素法 構造編) 丸善 1998年7月

  3. S. P Chan and N. M. Newmark : CONMPARISON OF NUMERICAL METHODS FOR ANALYSING THE DYNAMIC RESPONSE OF STRUCTURES, A Technical Report of A Cooperative Research Project Sponsored by THE OFFICE OF NAVAL RESEARCH DEPARTMENT OF THE NAVY and THE DEPARTMENT OF CIVIL ENGINEERING UNIVERSITY OF ILLINOIS, Octorber, 1952



ニューマークの論文を遅読する(その1 ネーミングについて)

クヌース(Donald E. Knuth)先生は、自分が開発した TeX のバージョン番号に、3.141952... という無限に続く円周率の値を採用したことはよく知られている。これは、ソフトウェアというものはいつまでたっても完成することは無く、永遠に改良の余地があるといった意味が込められているのだそうだ。

また、ウィルソン(Edward L. Wilson)先生は、自分が開発した構造解析プログラムに SAP(マヌケ、あほ、オタンチン etc.)と名付けたことは、以前の記事に書いた通りである。

我が国であれば、自分の作ったプログラムにオタンチンなんて名前をつけたりしたら、当人こそ救い難いオタンチンと見なされるのがオチである。

この辺りのアメリカの文化は、真面目な(?)我が国とは大違いである。

こういう例を目の当たりにすると、ニューマーク-β法も同じような流れのネーミングではないだろうかとの類推が働く。前回も書いたように、a を差し置いて β と γ なのである。これは「いつまでたっても β 版です。最良の方法ではありません!」なんてことをアピールすることを意図していたのではないかと思えてくるのである。

あるいは、数値積分法ではないにしても、既に a 法と呼ばれる有名な手法があって、それとのバッティングを避けるために a の使用を控えたのかも知れない。

以前の記事に書いたように、たわみ角法を考案したベンディクセン(Axel Bendixen)は、たわみ角法を a 式法(Die Methode der Alpha-Gleichungen)と名付けていたのを思い出してみよう。

アメリカでのたわみ角法の考案者は、ウィルソン(Wilbur M. Wilson。上記のウィルソンとは別人)であり、彼はイリノイ大学の先生だった。ニューマークもイリノイ大学であるから、たわみ角法がベンディクセンの a 式法と同じであることをニューマークが知っていて意識した可能性もある(ちなみに、現在 a 法と言えば、Hilber、Hughes、Taylorの HHT-a 法を思い出す。だが、これはニューマーク法から派生した手法であるから、当然この名称が影響したということはない)。

このように、ニューマークの論文(文献 1)を読むまでに随分と想像を逞しくしていたのであるが、これらの妄想は全くの見当違いであると判明した。実際には、a もちゃんと使われているのである。

パラメータ a も重要な意味を持つのだが、使用上どちらが主役を演じるかといえば β の方なのである。ただそれだけなのであった。。。それについてはまた後日。


参考文献

  1. N. M. Newmark : A method of computation for structural dynamics. Journal of the Engineering Mechanics Division, ASCE, p.67-94, 1959.



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