2017
04.25

想定外の壊れ方をした建物たち

Category: 耐震工学
1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震では、先日書いたような塑性解析や塑性設計で暗黙に仮定している挙動を示さなかったと思われる構造物の被害例が数多く報告されている。

一般に、はり降伏型の崩壊が理想的な崩壊形と言われる。この崩壊形を念頭に設計されていれば、過度な地震入力エネルギーは、はり端に形成される塑性ヒンジの回転によって吸収されると見なすのである。

だが、この目論見は見事に外れてしまった。ヒンジができて回転するなんてことはなく、はり端がぷっつり切れてしまった鋼構造物が多く見られたのである。これには当時一線の研究者も足元をすくわれたらしいことが、地震後の関連資料を見ると伺える。

芦屋浜高層住宅の極厚ボックス柱が地震で引きちぎられたことも鋼構造の専門家には相当な衝撃だったようだ。溶接部で切れるならまだしも、母材の所で破断しているのは、まるで人知を嘲笑うかのようである。文献 1 には、破断した柱の切れ目に 100 円玉がはめ込まれた写真が載っている。なんと、柱のくせに 1 cm 以上も隙間がある(浮いている)のである。

文献 2) には、この建物を審査した藤本盛久氏のインタビュー記事が出ている。まだ地震後の調査研究などが行われる前のコメントだが、生々しくて興味深いものなので以下にそれを示そう(文献 2 p.104-105、「藤本 盛久氏(ふじもと もりひさ=東京工業大学名誉教授)に聞く 予想もしなかった芦屋浜の鉄骨破断 S造の権威が語る"猛省"の弁」)。

芦屋浜高層住宅の柱の破断については、どんな感想を持たれましたか。

大変なショックですよ。この住宅事業については、私自身、日本建築センターの評定委員会の部会長を務めた経験があるんです。審査する側からこの事業にかかわったわけです。だから、今回のケースについては、私は被告のような立場ですよ。本当に申し訳ないという気持ちなんです。....

続いて、この建物の建設には当時の最新の技術が注ぎ込まれたことが語られている。

この住宅建設事業は、建設当時、国家的なプロジェクトとしての性格を帯びていましたよね。

その通りです。当初は、こんな大変なプロジェクトが実現できるのかと、私も半信半疑でした。しかし竹中工務店や新日鉄の技術者など、関係者がそれこそ心血を注いで実現させたわけです。

(中略)

我々審査する側も、総力を挙げて取り組みました。当時の建築センターの高層評定委員会の委員長は小堀鐸二さんでしたが、通常、2、3人のスタッフで構成する審査部会を、6、7人に増員しました。念には念を入れてチェックしたわけです。

それにもかかわらず、今度の地震で柱が破断したわけでしょう。幸い、建物が倒壊するとか、犠牲者が出るといったことは起きませんでした。しかし、技術的な観点で見ればやはりショックです。全く予想しなかった破断が起きたわけですからね。

続いて、載荷が準静的ではなかったことへの言及がある。

一般に、鉄骨材料自身に欠陥がなくても、大きな力が急激に加わると脆性的な破壊が起こりうると考えていいのでしょうか。

起こる可能性はあると思います。私は神奈川大学にいたころ、衝撃的、過荷重的な力を繰り返して試験体に加えることができる実験装置を各方面の援助を受けて設置しました。普通の実験装置は油圧でジワジワと力を上げていきますが、この装置は衝撃的な力を瞬時に加えることができるのです。これは、せいぜい 50 トンから 60 トン程度の力しか出ませんでしたが、それでもいろいろと有益な実験ができました。

よくRC造の柱が、地震によって×印型のせん断破壊を起こすことがありますね。従来の油圧で力をかけるタイプの装置ではこれを再現できず、チリヂリの形状で破壊していました。ところが、私どもの実験装置を用いて衝撃的な力で一気に押し切ると×印を再現できるのです。つまり、衝撃的な力を瞬時にかけた時の破壊形状は、ジワジワと力を加えた時の破壊形状とは全く違うのです。

同じ実験をS造の筋かいで実施してみました。通常、材端接合部は弱いので、実験では材端を補強してやりました。そうすると、中央に近い部分でスパッとやられたのです。

筋かいでは実験をおやりになったけれども、芦屋浜のような極厚のボックス柱に同様の実験を実施するのは無理ですね。

そりゃそうですよ。芦屋浜の場合、柱の断面が 50 cm 角で厚さ 5 cm ですからね。柱 1 本当たりの引っ張り強度は、数千トンのオーダーになります。これを衝撃的な力で破断する実験装置などありはしませんよ。

ただし、引っ張り強度が数千トンだと言っても、それは通常の油圧による試験機で、一様な力を徐々に大きくしていった時の話です。今申し上げたように、衝撃的、過荷重的な力が加わり、そのうえどこかに欠陥でもあれば、終局強度に達しなくても欠陥部分を起点にして、脆性破壊を起こす恐れがあるわけです。

この後に、鋼材には脆性破壊は本来起きにくいはずであるとのコメントがある。

とすると、今回の柱の破断は理論的には、十分ありえることだと……。

いや、やはり想像を越えたものですよ。建築用の鋼材には、衝撃力に対する安全性を確認するために、シャルピー衝撃試験というものを実施するのです。これは試験体に V 字形の切り込みを入れ、そこにハンマーを振り下ろして断ち切るものです。これは JIS で定められたもので、機械的性質を調べる重要な試験の一つとして位置付けられています。もちろん、建築用の鋼材もこの試験をパスしてきているわけです。

従って、脆性破壊というものは、鋼材の性質として、本来起こりにくいはずなんです。芦屋浜では異常な大きな力が、異常な速さで加わり、それこそ有無を言わさず柱を断ち切った。今のところはそのようにしか考えられません。

文献 1) には、破断部に当て板のようなものを溶接して応急処置を行った写真も載っている。これは居住者の不安を少しでも和らげようというとりあえずの措置であったのかも知れない。

というのも、居住者には地震後にそのうち倒壊するのではないかと疑われていたようなのである。同書には、「今は昼間 1 時間ほど荷物を取りに帰ってくる。怖くてとても建物内にいることはできない。」とか「住民は自主的に避難している人が多い。」といった住民の声が掲載されている。

文献 1 には、破断した柱(1階の1本、4階の5本)がなくても震度5程度の余震に耐えられることがコンピュータ解析で確認されたと書かれている(p.17)が、もはや住民への説得力はなかったのではないだろうか。


参考文献

  1. 日経アーキテクチュア編 阪神大震災の教訓 「都市と建物」を守るため、いま何をなすべきか 1995/3/30

  2. 日経アーキテクチュア 516号 1995/3/13



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2017
04.06

単純塑性設計とは?

Category: 用語
前回の記事に出てきた「単純塑性設計」という言葉について、手近な資料に出ている説明を示しておこう。

文献 1 の Chapter 2 "The Plastic Hinge" のサマリー(2.11 Summary)に以下のような文がある(拙訳と原文)。

塑性ヒンジモデルは、骨組構造物の塑性解析を大幅に単純化し、準静的な過程としての崩壊荷重を決定する。それは単純塑性論の基礎をなす。

The plastic hinge idealization drastically simplifies the plastic analysis of framed structures and makes the full collapse load determination as a quasistatic process. It forms the basis of the simple plastic theory.

Chapter 2 ではそのような塑性ヒンジに基づいた手法を説明した、との後に以下のように書かれている。

しかし、重要度としては二次的な因子の中には、部材が全塑性モーメントに達することを妨げるものがある。軸力、せん断力、座屈および接合部の詳細といったものがそうである。これらの因子は、"単純"塑性論には含まれないが、実際の設計では考慮する必要がある。

本章では、以下の因子の影響と特性について議論し、適切な設計手順によって元の単純塑性設計と適合しているかを確認した。

・塑性モーメントを低減させる軸力とせん断力
・薄肉断面の局部座屈を生じ得る不安定性
・塑性モーメントを適切に伝達する部材の接合

However, several factors of secondary importance will prevent the member from reaching the full plastic moment. These factors include such things as axial load, shear, buckling, and connection details. These factors are not included in the "simple" plastic theory, but we must take them into account in practical design.

In this chapter, the effects and characteristics of the following factors were discussed and appropriate design procedures provided for checking the suitability of the original simple plastic design:

・ axial load and shear force that will reduce plastic moment.
・ instability that may cause local buckling of thin-walled sections.
・ connections that are properly proportioned to transmit plastic moment from one member to the other.

文献 2 の "4.2.1 鉄骨造骨組解析用の部材モデル" の (b) では以下のように「単純塑性ヒンジ」を説明している。

... 部材端部に回転の自由度だけを持つ長さがゼロのヒンジを設定し、部材軸部を弾性棒または剛棒にモデル化する。曲げに伴う塑性挙動はヒンジのモーメント-回転角関係で規定される。この関係を工夫すれば、局部座屈に伴う劣化などの複雑な挙動を、便法であるが少ない計算負荷で表現可能である。

こちらでは、軸力やせん断力を省いているという点で上記の"単純"と同様だが、局部座屈に伴う劣化までも含めている点では上記のものとニュアンスを異にするようだ。


参考文献

  1. W. F. Chen and I. Sohal : Plastic Design and Second-Order Analysis of Steel Frames, Springer-Verlag, 1995

  2. 日本建築学会 : 応用力学シリーズ 4 構造物の崩壊解析 基礎編 1997





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2017
03.23

ハンブリーのパラドックス(3)

Category: 構造設計
「ハンブリーのパラドックス」の続き。

引き続き文献 1 の内容を見ていくことにする。今度は(単純)塑性設計についてである。文献 1 の "10.3 Simple plastic design" の導入部では、以下のように塑性設計において重要だが忘れられがちなことについて触れられている(拙訳と原文)。

'塑性'および'靭性'という言葉で最も大切なのは、限定的な安定挙動を暗黙のうちに仮定していることである。

The essence of the words 'plastic' and 'ductile' is that a limiting stable behaviour is implied.

中間部に荷重を受ける鋼はりを例にとると、じわじわ増える荷重によって塑性ヒンジが形成され、このヒンジ部の回転によってはりは大きくたわむが、その過程は荷重が一定のまま準静的に推移するのである。

通常の構造物の変形の範囲では、鉄筋コンクリートもこれと同じような挙動を示す。アルミニウム合金や木といった実際の設計で使用される材料も同様である。これは、ガラスや鋳鉄などの脆性的な材料が過度なひずみに起因するクラックを生じて壊滅的な崩壊へと至るのとは対照的である。

そこで、スツールに塑性解析を用いるには、スツールが壊れる時に脚が最後まで粘り強さを保つことを確認しておかねばならない。これは、どの脚もがっしりしていて、不安定な挙動を起こすことなく、押し潰そうとする荷重に耐えられるということである。そのようなスツールであれば、中央に掛ける荷重をゆっくり増す時の載荷履歴を追いかけることができる。

各脚に掛かる力を P とすると、通常初めは2本脚だけで荷重を支え、荷重が 2P になった時に2本の脚が降伏し、安定的に縮むことになる。降伏した脚が縮むと、荷重の掛かっていない脚が床に着くため、荷重は 2P を超えて 4P まで増えることになる。この最終的な段階では、どの脚も最大の荷重を支持しており、スツールの座面は大きな変位を伴うことになる。

このように、体重 60 kgf の人を支えるスツールの塑性設計で要求される P として 15 kgf が求まる。この力に適当な係数を掛けたものを設計上各脚が負担するものと考えなくてはならない。

上記で示したものと異なる載荷履歴も考えられるが、単純塑性設計で構造物がどれだけの荷重を支え得るかを求める際に履歴は問題にならな。文献1には以下のように書かれている。

単純塑性設計は、終局荷重を計算するにおいて、載荷履歴、初期不整、熱ひずみおよび自己応力の初期状態とは無関係である。

Simple plastic design, directed to the calculation of ultimate loads, is independent of the loading path, of initial imperfections, of temperature strains and of initial states of self-stress.

さて、このような認識の下に十分な靭性を持たせて建物を設計したつもりが、実際はそのように挙動しなかったという例が多数ある。その辺りについて、ある大御所がなかなかユニークな考察を与えているので、後日それについて紹介したい。


参考文献

  1. Jacques Heyman : Structural Analysis: A Historical Approach, Cambridge University Press, Cambridge 1998.





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