2018
01.18

斜め方向の強制変位を受ける片持ちはりのようなもの(その2)

Category: 構造解析
前回は「斜面上のローラー支持」を表現すべく節点 2 の並進変位二成分を規定した( u'2 = δ、v'2 = 0 )。通常、境界では荷重か変位のどちらかを規定するので、並進自由度に関して以下のような 4 つのパターンが考えられる。

変位 u'2 を規定、変位 v'2 を規定 ( ケース 1) 前回示したもの)
変位 u'2 を規定、 力 Y'2 を規定( ケース 2) )
 力 X'2 を規定、変位 v'2 を規定( ケース 3) )
 力 X'2 を規定、 力 Y'2 を規定( ケース 4) )

回転変位を拘束するか否かというバリエーションもあるが、話が面倒になるだけなのでここでは採り上げない。節点 2 では常に力 (モーメント) M'2 = 0 を規定することにして、まずはケース 2) について見てみよう。

3 自由度の規定を、u'2 = δ、Y'2 = 0、M'2 = 0 とすると、節点力べクトルと節点変位ベクトルは以下のように書かれる。

specified_disp_2_fig1.jpg

変位を求める上での未知量は 2 つだけなので、手で解くこともできる。{F'} = [T][K][T]T{d'} に代入して、未知量である u'2 と v'2 に関する第 5 行と第 6 行を書き下すと、

specified_disp_2_fig2.jpg

第 1 項を移行して、

specified_disp_2_fig3.jpg

これを以下のように書く。

specified_disp_2_fig4.jpg

これより、

specified_disp_2_fig5.jpg

のように {x} が求まる。

前回と同じ片持ちはり(のようなもの)を対象に Excel で解いた結果は以下の通り(ここでは逆マトリックスを使って解いているが、数値計算で連立一次方程式を解くのに通常は逆マトリックスを求めたりしないことに注意されたい)。

specified_disp_2_fig6.jpg

解として求まった {x} からローカル座標系における節点 2 の変位ベクトルが決まる。それに変換マトリックス [t]T を掛ければ、全体座標系での変位ベクトル(u2, v2, θ2)が求まる。

これを見ると、u2の値はゼロに近くて、v2 は 14(mm) ほどとなっている。つまり、変位ベクトルは下図のようにほぼ真上( y 方向)を向くことになる。この結果は予想外と思われるかもしれない。


specified_disp_2_fig7.jpg


はり端は実線の矢印の方向に変位を生じる。実線の矢印の x' 方向成分の大きさが δ である。前回の例が " x' 方向に 10(mm) の変位" を強制しているのに対して、今回のは " x' 方向の成分が 10(mm) の変位" を強制しているのである。言葉で書くと似ているようでも結果はかなり違ったものとなる。

このように、並進自由度の一方のみの変位を規定すると、もう一方の自由度の変位は剛性方程式の解として求まることになるので、変位ベクトルがどちらを向くかは式を解いてみるまでは分からない。

今回のような規定の仕方が実際上どのような状況に対応するのか筆者にはよく分からない。ただ、もし変位ベクトルが x' 方向を向くような強制変位を想定するのであれば、前回のような規定方法を採用しなければならない。

ちなみに、変位ベクトルの向きは軸剛性と曲げ剛性の関係で決まってくる。前回のケース 1) のように x' 軸方向に変位ベクトルが向くこともあり得る。v'2 = 0 としてそのような条件を求めると、

specified_disp_2_fig8.jpg

が得られる。a = 45°の場合、この比の値は 3 となる。手っ取り早くこの条件を満たす諸元としては、L = 50(mm) がある(断面のせいや幅よりも部材の長さの方が短い非現実的な部材なので、曲げ問題を解く上では不適切なものであるが)。

さて、ケース 2) のように結果のベクトルが"予想外"の方向を向くのは、変位を規定する場合に限った話ではなく、力を与える場合も同様である。それについてはまた後日。。。



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2018
01.14

斜め方向の強制変位を受ける片持ちはりのようなもの(その1)

Category: 構造解析
平面片持ちはりの先端に斜め方向に強制変位 δ を与える問題を考えてみよう。


specified_disp_fig1_2.jpg

本記事のタイトルに "のようなもの" と付けたのは、変位を規定する場合も片持ちはりと言ってよいか自信がないからである。例えば、変位をゼロに規定する場合を考えると、その向きに動かないように拘束していることになるので、もはや "片持ち" ではない。。。

"のようなもの" は、この一抹のためらいを表現しているのである。ニュースでよく聞く "バールのようなもの" を真似たわけではない。

一方、"斜め方向" や "強制変位" には実はあまり必然性はない。力学における境界の問題を単にそういう切り口で見てみようというだけのことである。

以下での議論のために、上図に示すように全体座標系 (x, y) とローカル座標系 (x', y') を設定する。プライムは微分ではなくてローカル座標におけるものを表していることに注意されたい。

下図に示す軸力と曲げを考慮した平面部材要素を用いてこの問題を解くことにしよう。E、A、I、L は、それぞれ、ヤング率、断面積、断面二次モーメント、部材長さである。左端を節点 1、右端を節点 2 とする。


specified_disp_fig2.jpg


要素両端の節点力 (X, Y, M) と節点変位 (u, v, θ) の関係は、大抵の有限要素法の本に出ている通り以下のような式で与えられる。

specified_disp_fig3.jpg

これを以下のように書く。

specified_disp_fig4.jpg

定式化の方法は幾つか考えられるが、節点 2 の節点変位と節点力をローカル座標系で表す方針で進めていこう。ローカル座標系での節点変位ベクトルを全体座標系での節点変位ベクトルで表すと以下となる。

specified_disp_fig5_2.jpg

節点 1 は変換の必要は無いので、節点 1、2 を纏めて書けば、

specified_disp_fig6.jpg

ここに、[I] は 3×3 の単位マトリックス、[0] は 3×3 のゼロマトリックスである。これを以下のように書く。

specified_disp_fig7.jpg

両辺に左から [T] の逆マトリックスをかければ、

specified_disp_fig8.jpg

ここで、[T] は直交マトリックスなので、逆マトリックスは転置マトリックスに等しいことを利用している。

節点力についても同様に、

specified_disp_fig9.jpg

これらを最初の式( {F} = [K]{d} )に代入すると、

specified_disp_fig10.jpg

両辺に左から [T] をかけて、

specified_disp_fig11.jpg

が得られる。

ここから Excel にでも頼って計算を進めると楽だが、もう少し辛抱して手計算を続けよう。[T][K][T]T をゴリゴリと求めると以下となる。

specified_disp_fig12.jpg

x' 軸方向に変位する場合の境界条件は、回転がフリーなら下図のような斜面上のローラー支持に対応する。このような傾斜支持の条件は実際問題として時に出くわすものだと思う。


specified_disp_fig13_2.jpg


斜面と直交する方向( y' 方向)は拘束(変位ゼロに規定)される。つまり、u'2 = δ、v'2 = 0 であり、全体座標系で書けば、u2 = δcos a、v2 = δsin a である。この場合をケース 1) としておく。

節点 2 における 3 自由度の規定は、u'2 = δ、v'2 = 0、M'2 = 0 となり、節点力ベクトルと節点変位ベクトルは以下のようになる。

specified_disp_fig14.jpg

これを、{F'}=[T][K][T]T {d'} に代入して解けばよい。変位を求めるだけなら、未知量は θ'2 の一つだけなので解くのは容易である。第 6 行目の式だけを書き下すと以下となる。

specified_disp_fig15.jpg

これを解いて以下を得る。

specified_disp_fig16.jpg

部材の断面を幅 b、せい D の矩形断面として適当な部材諸元を設定し、適当な値(δ = 10 mm、a = 45°)を代入して Excel で計算を行った結果を以下に示している。

specified_disp_fig17_2.jpg

以上が"斜面上のローラー支持"を想定して強制変位を与えた場合(ケース 1))の結果である。別の境界条件とした場合については後日。。。



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2018
01.06

「境界」には何かある?

Category: その他
"境界"には人の注意を引く何かがあるらしい。そのような二つの例を、かなりくだけた内容のものだが、以下に示そう。

一つ目は内藤多仲が"境界"で見せた行動についてである(文献 1 "樺太・シナ大陸ところどころ")。

昭和八年の夏ごろ、王子製紙会社は樺太敷香に人絹パルプ工場の建設をすることになり、私は同社の依頼を受け顧問役として建設に参画し、国境までも行く機会に恵まれた。 ...

或る日、寸暇を得て北緯五〇度の国境まで行ってみた。双方の守備兵が駐屯していることに不思議はないが、何となく緊張感をおぼえる。国境線にはちょっとした溝があり、そこに国境標が立っている。

私はその溝をまたいでソ連側にも一歩足跡を印したかっこうで、意味ありげにゆっくりとオシッコをしたが、そんなことが妙に忘れられない。

大先生にも随分子供じみた一面があったようだ。なお、念のために書いておくと、樺太は現在は日本の領土ではない。

二つ目は、「ソフトウェアの法則」の木下 恂氏の例(文献 2 "7. ソフトウェアと時差 - 技術格差について")。

 ところで、時差というと忘れてはならない話がある。アメリカにはフォーコーナーズ(Four Corners)という場所があって、そこへ行くといやでも時差のことを意識せざるを得ない。それはユタ、コロラド、アリゾナ、ニューメキシコという四つの州の州境が互いに直角に交わっている場所である。

アメリカ広しといえどもこのような場所はほかにない。この場所は砂漠の真ん中にあり(当然のことながら)付近には何もないところである。あるとき、私は物好きにもそこへ行ってみようと思い立った。

しかし砂漠の中の道を車で行けども行けども目的地に着かない。自分は何という馬鹿げたことをしているのかと時折後悔をしながらも、途中でやめるわけにもいかずひたすら運転を続けたのを覚えている。目的地に到着したのは午後五時近くになっていた頃である。

 フォーコーナーズにはタイル張りの簡単な標識があるだけであった。ここに来たかった理由は、時差を実際に体験してみたかったからである。これら四州は同じ時間帯(Mountain Time Zone)に属しているのだが、その時はアリゾナとユタは夏時間になっていて一時間進んでいたのである。

一方、コロラドとニューメキシコは夏時間を採用していなかった。そこで右手をコロラド州に、左手をユタ州に、右足をニューメキシコ州に、そして左足をアリゾナ州に置いて四つん這いになるとどうなるか。これを実際にやって体験してみたかったわけである。

 実際にやってみると、期待に反して(?)別に身体には何の異変も起こらない(何を期待していたのやら)。何となく潜在意識として時間のずれによって身体がひきちぎられる図を想像していたのかもしれない(宇宙科学の本の読み過ぎであろう)。

宇宙科学でいうところの"時空"が対象とする時間と、人間が便宜上定めた時間とはまったく別物であることを、愚かにもこのとき初めて思い知ったのである。

 しかし、このように四つん這いになった状態で「今、何時か?」と聞かれたら、私は何と答えるべきなのであろうか。この疑問には、四半世紀経った今でも答えを見いだせないでいる。...

これらの例は"錯覚"と言ってもよいようなものだが、建築における境界は重要な意味や役割を持つ部分(あるいは概念)であるように思われる。隣地との敷地境界といったリアルな問題は別にしても、「内」と「外」との境界や「聖」と「俗」との境界を意識して構成された空間や建物は多く存在する。

よく言われるように、日本の古くからの建築では内と外との境界が"緩く"作られている。まず踏み石があり、次に縁側があり、障子があり、畳の部屋へと至る。石 → 木 → 紙 → 畳という風に、外(自然)から内(人間または人工的なもの)へと移行する緩やかで連続的な変化が境界に織り込まれているのである。

これが意図的に構成されたのか、あるいは結果的にそのようになっただけなのか筆者にはよく分からない。だが、「共生」の黒川紀章が、この日本建築に見られる境界領域の構成を自作に応用したと書いているのを、彼の著書だったか雑誌の記事だったかで読んだ記憶がある。

古代エジプトなどの神殿に見られる"多柱室"なる空間は、俗界から神聖な場所への移行を演出する役割があり、実際にこの空間を通過する人はかなりの心理的なインパクトを受けるそうである。日本の神社の"千本鳥居"も同様と思われ、何重にも置かれた鳥居は日常とは別世界へと入っていく心理を生む仕掛けとなっている。

長々と書いてしまったが、以上は前振りである。「力学でも境界の扱いは重要ですよ」という話につなげるつもりであったが、長くなってしまうので後日に回すことにしよう(こちらが本題なのに)。前回の記事の後半でも境界について若干触れたが、今回の話はもっと実用的なものである。


参考文献

  1. 内藤多仲:日本の耐震建築とともに 雪華社 1965年

  2. 木下 恂:ソフトウェアの法則 - コンピュータの利用技術とは 中公新書 1995年





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