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2017
04.06

単純塑性設計とは?

Category: 用語
前回の記事に出てきた「単純塑性設計」という言葉について、手近な資料に出ている説明を示しておこう。

文献 1 の Chapter 2 "The Plastic Hinge" のサマリー(2.11 Summary)に以下のような文がある(拙訳と原文)。

塑性ヒンジモデルは、骨組構造物の塑性解析を大幅に単純化し、準静的な過程としての崩壊荷重を決定する。それは単純塑性論の基礎をなす。

The plastic hinge idealization drastically simplifies the plastic analysis of framed structures and makes the full collapse load determination as a quasistatic process. It forms the basis of the simple plastic theory.

Chapter 2 ではそのような塑性ヒンジに基づいた手法を説明した、との後に以下のように書かれている。

しかし、重要度としては二次的な因子の中には、部材が全塑性モーメントに達することを妨げるものがある。軸力、せん断力、座屈および接合部の詳細といったものがそうである。これらの因子は、"単純"塑性論には含まれないが、実際の設計では考慮する必要がある。

本章では、以下の因子の影響と特性について議論し、適切な設計手順によって元の単純塑性設計と適合しているかを確認した。

・塑性モーメントを低減させる軸力とせん断力
・薄肉断面の局部座屈を生じ得る不安定性
・塑性モーメントを適切に伝達する部材の接合

However, several factors of secondary importance will prevent the member from reaching the full plastic moment. These factors include such things as axial load, shear, buckling, and connection details. These factors are not included in the "simple" plastic theory, but we must take them into account in practical design.

In this chapter, the effects and characteristics of the following factors were discussed and appropriate design procedures provided for checking the suitability of the original simple plastic design:

・ axial load and shear force that will reduce plastic moment.
・ instability that may cause local buckling of thin-walled sections.
・ connections that are properly proportioned to transmit plastic moment from one member to the other.

文献 2 の "4.2.1 鉄骨造骨組解析用の部材モデル" の (b) では以下のように「単純塑性ヒンジ」を説明している。

... 部材端部に回転の自由度だけを持つ長さがゼロのヒンジを設定し、部材軸部を弾性棒または剛棒にモデル化する。曲げに伴う塑性挙動はヒンジのモーメント-回転角関係で規定される。この関係を工夫すれば、局部座屈に伴う劣化などの複雑な挙動を、便法であるが少ない計算負荷で表現可能である。

こちらでは、軸力やせん断力を省いているという点で上記の"単純"と同様だが、局部座屈に伴う劣化までも含めている点では上記のものとニュアンスを異にするようだ。


参考文献

  1. W. F. Chen and I. Sohal : Plastic Design and Second-Order Analysis of Steel Frames, Springer-Verlag, 1995

  2. 日本建築学会 : 応用力学シリーズ 4 構造物の崩壊解析 基礎編 1997





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2017
03.23

ハンブリーのパラドックス(3)

Category: 構造設計
「ハンブリーのパラドックス」の続き。

引き続き文献 1 の内容を見ていくことにする。今度は(単純)塑性設計についてである。文献 1 の "10.3 Simple plastic design" の導入部では、以下のように塑性設計において重要だが忘れられがちなことについて触れられている(拙訳と原文)。

'塑性'および'靭性'という言葉で最も大切なのは、限定的な安定挙動を暗黙のうちに仮定していることである。

The essence of the words 'plastic' and 'ductile' is that a limiting stable behaviour is implied.

中間部に荷重を受ける鋼はりを例にとると、じわじわ増える荷重によって塑性ヒンジが形成され、このヒンジ部の回転によってはりは大きくたわむが、その過程は荷重が一定のまま準静的に推移するのである。

通常の構造物の変形の範囲では、鉄筋コンクリートもこれと同じような挙動を示す。アルミニウム合金や木といった実際の設計で使用される材料も同様である。これは、ガラスや鋳鉄などの脆性的な材料が過度なひずみに起因するクラックを生じて壊滅的な崩壊へと至るのとは対照的である。

そこで、スツールに塑性解析を用いるには、スツールが壊れる時に脚が最後まで粘り強さを保つことを確認しておかねばならない。これは、どの脚もがっしりしていて、不安定な挙動を起こすことなく、押し潰そうとする荷重に耐えられるということである。そのようなスツールであれば、中央に掛ける荷重をゆっくり増す時の載荷履歴を追いかけることができる。

各脚に掛かる力を P とすると、通常初めは2本脚だけで荷重を支え、荷重が 2P になった時に2本の脚が降伏し、安定的に縮むことになる。降伏した脚が縮むと、荷重の掛かっていない脚が床に着くため、荷重は 2P を超えて 4P まで増えることになる。この最終的な段階では、どの脚も最大の荷重を支持しており、スツールの座面は大きな変位を伴うことになる。

このように、体重 60 kgf の人を支えるスツールの塑性設計で要求される P として 15 kgf が求まる。この力に適当な係数を掛けたものを設計上各脚が負担するものと考えなくてはならない。

上記で示したものと異なる載荷履歴も考えられるが、単純塑性設計で構造物がどれだけの荷重を支え得るかを求める際に履歴は問題にならな。文献1には以下のように書かれている。

単純塑性設計は、終局荷重を計算するにおいて、載荷履歴、初期不整、熱ひずみおよび自己応力の初期状態とは無関係である。

Simple plastic design, directed to the calculation of ultimate loads, is independent of the loading path, of initial imperfections, of temperature strains and of initial states of self-stress.

さて、このような認識の下に十分な靭性を持たせて建物を設計したつもりが、実際はそのように挙動しなかったという例が多数ある。その辺りについて、ある大御所がなかなかユニークな考察を与えているので、後日それについて紹介したい。


参考文献

  1. Jacques Heyman : Structural Analysis: A Historical Approach, Cambridge University Press, Cambridge 1998.





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2017
03.19

山形鋼の断面二次モーメントを求める式

Category: 材力、構力
前回からの続き。前回に引き続きとても些細な内容であることを再度断っておく。

実は、前回示した"公式"は、以下に示すような山形鋼(アングル断面)の断面二次モーメントを求める際に使うと便利なのである。

art150_fig1.jpg

図の X 軸、Y 軸は、アングルのそれぞれの脚に平行で、図心を通るような軸である(これらが主軸ではないのは周知の通り)。この X 軸、Y 軸についての断面二次モーメントを前回の式を使って計算してみよう。それには下図のように考えればよい。


art150_fig2.jpg


この図の言わんとするところは、アングル断面(一番左)は真ん中の二つの図の斜線部を足したものから一番右の図の斜線部を引いたものに等しいということである。なので、前回の式 bD'3/3 を使えば、X 軸についての断面二次モーメントの式は以下のように書かれる。

art150_fig3.jpg

同様に、Y 軸についての断面二次モーメントは下式となる。

art150_fig4.jpg

これらの式は、AISC の Green Book(文献1)の 6 節(6-23 ページ)に出ているものである。6 節はいわば公式集なので解説は書かれていない。上記の説明はこの式を見て筆者が導出過程を推測したものである。

アングル断面の断面二次モーメントの計算なんて特に問題になるようなものではないが、筆者はこの式を初めて見た時に「誰が考えたのか知らないが、よくこんなこと思いついたなぁ」とえらく感心してしまった。平行軸の定理から得られるものに比べるとかなりスッキリした式になっている。前回も書いたように、この式について説明してある材料力学の本などにこれまで出会ったことが無い。

某大学のサイトで公開されていた講義資料(?)にアングル断面の断面二次モーメントの導出過程が示されていたが、その内容には逆の意味で「うーん」と唸らされてしまった。

その説明では、矩形断面の公式を使わずに断面二次モーメントの定義式(積分の式)から出発していたため、途中で計算が大変になったのか、厚み t に関する高次の項は無視できるというあらぬ仮定を導入して計算が省略されていた。

苦労した割りに得られる結果は不正確とあってはあまり褒められたものではない。取るに足らないような内容であってもちょっと工夫してみるのも大事なのではないだろうか。


参考文献

  1. AISC Manual of Steel Construction, Allowable Stress Design, Ninth Edition, 1989





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